「お囃子プロジェクトvol.19」体験企画レポート、望月秀幸&望月左太寿郎インタビュー

写真左より 望月秀幸(囃子方)・ 望月左太寿郎(囃子方)

歌舞伎をはじめとする、日本の伝統芸能の舞台で演奏されているお囃子の魅力をお届けするコンサート「お囃子プロジェクト」のVol.19が、9月29日に東京・文京シビックホールにて上演される。そのコンサートに先駆けて、「歌舞伎のお囃子体験企画」が都内某所にて開催された。実際に歌舞伎の舞台で使用される楽器の数々に、子どもたちや歌舞伎ファンは興味津々。実際に触れてみてわかる難しさなどを実感していた。そんな体験企画の模様と、プロジェクトを手掛ける囃子方の望月秀幸さん、望月左太寿郎さんのお2人へのインタビューをお届けする。


###大太鼓の担う重要な役割とは?

「歌舞伎のお囃子体験企画」には、歌舞伎ファンの大人たちのほかにも、こども歌舞伎に参加したことのある男の子たち、歌舞伎が大好きな女の子などの子どもたちが参加。まず一同は、囃子方の望月秀幸さん、望月左太寿郎さんのお2人から、お囃子について詳しく教えてもらった。

お囃子には、歌舞伎において演出に使われる効果音楽「下座音楽」として演奏されるものがあり、これは黒御簾と呼ばれる客席から見えない場所で演奏されているため、目にする機会はほぼない。基本となるのは「四拍子」と呼ばれる笛、太鼓、大鼓、小鼓。ちなみに、大鼓の叩く面は、皮を焙じて乾燥させたものが張られている。この皮のお値段は8万円ほどだが、消耗品で歌舞伎の公演では6公演ほどしか持たない。1カ月の公演中、何度も張り替えて舞台に臨んでいるという。

四拍子以外にも、さまざまな楽器がお囃子には使われており、中には鈴やトライアングルといった洋楽器も活用されているが、基本的には、お鈴や銅鑼などの仏具を転用しているものが多い。中にはうちわに小豆などをひもで括り付けて、ザザザッと音を出すものなど、工夫を凝らした楽器もあった。

お囃子に関するさまざまな知識を得たところで、実際に楽器に触れて演奏してみることに。虫の声やカエルの鳴き声、波の音など、参加者たちは、さまざまな楽器を使って歌舞伎の演出で使われる音を自分で演奏していった。

お囃子の中でも、重要な役割を担っているのが大太鼓。大太鼓は、登場人物の心情描写や時間の経過、周囲の状況を知らせる環境音など、舞台上のさまざまな状況を表現する楽器なのだという。

川の音や波の音、雨音や風で戸板が揺れる音、雪の降る音や屋根から雪が雪崩れる音など、すべて大太鼓の打ち方で表現される。その表現は、芝居の雰囲気に合った音を出していくことが重要。そのため歌舞伎役者の中でも、その他のお囃子楽器には注文を付けないが、大太鼓にだけは強くこだわり、演奏者や奏法についていろいろな注文が来ることが多いのだとか。

また、大太鼓の叩き方も視線が下に向いてしまう拝み打ちではなく、舞台上を常に見ることができるように横打ちで叩いていく。この横打ちが意外に難しく、始めは利き手で無い方の手は安定して叩くことができないという。そのため、歌舞伎体験などで大太鼓を担当した人は、ほとんどの時間を利き手と逆の手の練習に費やすことになってしまうと話していた。

体験を終えた子どもたちは、名残惜しそうに太鼓やその他の楽器に何度も触れ、時間ギリギリまで演奏を楽しんでいた。

 

続いて、体験会を終えた望月秀幸さん、望月左太寿郎さんの2人に話を聞いた。


――まずは、この「お囃子プロジェクト」とはどのようなものなんでしょうか。

秀幸 発起人は僕なんですが、当時は27~28歳で仕事として自分たちが主催してやるようなことが無かったんです。だから、何か主催してやりたいという軽い気持ちで始めました。その時、初めてゲストで来てくださったニトロン虎の巻(現NITORON)は、やっぱりバンドということもあってお客さんを楽しませてナンボの世界だったんですよ。僕らのは、伝統芸能の中でお客さんというよりも舞台と向き合ってきていて、その違いをすごく感じました。そこから、お客さん喜ばせる音を出していくことを学ばせてもらったんです。自分たちの音で、お客さんを喜ばせるという壁にぶち当たったので、それを目指して今もやってきた感じですね。

左太寿郎 やっぱり僕らは演奏の対象が違ったんですよ。客席にいるお客さんじゃなくて、舞台に立っている役者がお客さんだったので、向かっている方向が別だったんですよね。僕らが前に出て何かをするようなことは無いですから、前に出ていって何かをやるということ自体が面白かったんです。いろいろな皆さんと一緒にやることで、改めて古典の魅力を感じることもできました。

 


――今日もたくさんの楽器を体験させていただきましたが、どれくらいの時間をかけて扱いを覚えていくんでしょうか。

左太寿郎 たくさんの楽器があるんですけど、もう出るとなったら急に「これをやんなさい」って言われるんですよ。現場でしか楽器を触らせてもらえることが無いので、事前に教えてもらえるということも無いんです。やれと言われ、怒られて、またやって…の繰り返しですね。

秀幸 楽器自体ができるようになっても、結局は役者さんに合わせられないといけない。例えば花道から本舞台に役者さん戻ってくるときに、本来なら決められた演奏の間に移動するべきところがトラブルで間に合わなかったりもする。そうすると引き延ばさなきゃいけないし、見得を切る場所の一番いいところで一番いい音を出してあげないといけないから。そういう判断ができるようになるのは、最低でも10年はかかると思いますね。


――お囃子と洋楽やポップスなどとのコラボもプロジェクトの魅力のひとつですが、馴染みやすいジャンルや逆に難しいジャンルなどはあるのでしょうか。

秀幸 まずは、昭和歌謡によく合うんです。歌謡曲は感情の描写があるので馴染みやすいんですよ。歌舞伎系の音楽自体がメジャー音階じゃなくてマイナー音階、いわゆるヨナ抜き音階で、4拍子なんですね。だからとても相性がいいんです。逆にジャズのスイングは未だにできません(笑)。いろいろなジャンルの曲をやっていますが、ゲストに来てくださる方々も意図をくみ取ってくださるので、歩み寄ったうえでやっています。

左太寿郎 3拍子の曲なんかには、無理やり当てはめてみたり、フリーで打てるものもあるので拍子に構わず打てるものを入れてみたりして、いろいろと試行錯誤をしています。それが正解かどうかはわからないんですけど(笑)。

秀幸 最初は古典とコラボが半々くらいだったんですが、新しい方にどんどん来ていただくために、今はコラボ9曲に古典1曲になりました。この1曲の古典が光るというか、逆にみなさんの印象にも残るんですよね。

 


――今回の聴きどころを教えてください。

秀幸 美空ひばりさんの曲など、いろいろな聴きどころがあるんですが、今回は、過去最高のオリジナル曲をお届けします。バラード調でして、バラードはお客様もすごく喜んでくださるんですよ。落ち着いて聴きたいお客様が多いので、ゆったりした曲調になっています。お囃子の中でも大太鼓は情景描写を担うんですが、ちょっと柔らかい「さざ波」の表現とかを良く入れています。湖のほとりのような癒しの雰囲気を意識しています。

左太寿郎 お囃子の打楽器にはルールがあって、この音が鳴る時にはこのシーンっていう決まりごとがあるんですよ。お化けが出てくるときには大太鼓のこの音、とかね。歌舞伎や、落語とかもそうなんですけど、そういう知識とお客さんのイメージが共有していただくとより楽しめるので、一度お囃子プロジェクトにお越しいただくともっと楽しめるようになると思うんです。風の音が鳴っているということは次の場面は家の中じゃないんだ、とか、暗転で舞台が変わっていても音で気付けるんですよ。公演の中でも、そういう知識のお話を交えて、どんどんお伝えしていきたいですね。

 


――今後、プロジェクトを通してどんなことに挑戦していきたいですか。

秀幸 楽曲づくりの面では、常にチャレンジなんですよ。先ほどマイナー調と相性がいいというお話をしましたが、今回のチャレンジで言うと、明るい曲にチャレンジしようと思っています。LUNA SEAさんの楽曲と、お囃子で「着倒」という歌舞伎の開幕30分前くらいに役者さんの到着を知らせる儀式的音楽があるんですが、それをミックスしたものに初挑戦します。

左太寿郎 あとは、東京以外の場所でも公演できるようになったら嬉しいですね。夢です。あと、洋装で演奏したことも無いなぁ。

秀幸 僕ら、和装じゃないと何している人か分からないもんね(笑)。


――洋装での演奏も新鮮に感じられるかもしれないですね。「お囃子プロジェクト」での新しい挑戦を今後も楽しみにしています! 本日はありがとうございました。

 

 

取材・文/宮崎新之

 

◆出演番組情報◆

NHK Eテレ「芸能きわみ堂」

(16)大久保佳代子、囃子の世界へ
再放送日:2023年9月8日(金) 午前5:30~午前6:00
※9月1日(金)に放送された番組の再放送です
(17)大久保佳代子、囃子にハマる
初回放送日:2023年9月8日(金) 午後9:00~午後9:30

★ゲスト・コーナー講師として望月秀幸さんが出演されます。是非ご覧ください!

詳細は番組HP