「十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業」 東京公演レポート

歌舞伎俳優の市川團十郎が、10月14日に東京・北区の「北とぴあ さくらホール」にて、十三代目市川團十郎白猿襲名披露巡業の東京公演を行った。

 

コロナ禍の影響により、市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿への襲名を延期していたが、2022年11月~12月に歌舞伎座にて「十三代目市川團十郎襲名披露 八代目市川新之助初舞台」公演を終えた團十郎。そして2023年10月13日からは、千葉・成田市を皮切りに「十三代目市川團十郎白猿襲名披露巡業」をスタートさせた。

 

最初の演目は、華やかな舞踊「君が代 松竹梅」。冬の厳しい寒さを耐え忍ぶ強さがあることから、松竹梅は「歳寒三友」とも呼ばれ、松竹梅それぞれの目出度さを舞で表現するご祝儀舞踊となっている。

 

色彩が乏しい冬の中にも緑鮮やかな松、清く真っすぐに伸びる竹、寒さが残る中で真っ先に花を咲かせる紅白の梅が背景に描かれ、その美しい景色を背景に松の姫(中村児太郎)、竹の君(大谷廣松)、梅の君(中村莟玉)が、色とりどりの衣装を身に纏い、たおやかな舞を披露。平安の絵巻のような美しさには、祝い事らしい華やかさにあふれていた。

 

続く「口上」では、十三代目を襲名した團十郎と、先代團十郎と同級生の中村梅玉が登場。さらに、梅玉の娘と十三代目團十郎が同級生ということで、幼いころから知っているが「すっかり風格を持たれて、團十郎の名がぴったり身に付いた大きな役者ぶりになられた。伝統を守りながらも新しい時代、令和の團十郎像を作りあげて、これからの歌舞伎を華やかに彩ってほしい」と期待を込めた。

 

続く團十郎の口上では「北区は…ほぼ初めて参りました」とややおどけながら話を切り出し、会場は笑いに包まれる。そして北区にある王子神社は”毛の神さま”が祀られており、歌舞伎で使われているカツラの職人さんも参拝しているといったエピソードなどが語られ、会場を喜ばせた。また、カツラの形も後頭部の結方には成田屋独特の形があると話し「(カツラの後ろ側は)お客さまにはほとんど見えないところではあるが、見えないところにもこだわるのが日本の伝統。伝統を守りながら、日々精進していきたい」と名跡を背負う覚悟と意気込みを口にした。

 

口上を終え、休憩をはさんで上演されたのは歌舞伎十八番の内「毛抜(けぬき)」。得意なものを”十八番”と言うことがあるが、その言葉の由来となったのがこの「歌舞伎十八番」。1832年に七代目團十郎が定めたもので、演目には荒事が得意な團十郎の系譜に合った物語が揃っている。そんな歌舞伎十八番の中でも「毛抜」は、もともと「雷神不動北山櫻」の中のひと幕。豪快な荒事に加えて、知的さと愛嬌も併せ持ったおおらかさも感じられる演目で、小野小町の子孫・春道のお家騒動を主人公が鮮やかに解決し、まるで名探偵コミックのようなユーモアにあふれた物語となっている。

 

小野小町の子孫・春道の屋敷では、家宝・小町の短冊が盗み出されうえ、姫君は原因不明の奇病にかかり、許婚との婚姻を先送りにしており、不穏な空気が漂っていた。

 

そんな小野家に姫の様子をうかがいに現れたのは、姫の許婚・文屋豊秀の家臣、粂寺弾正(市川團十郎)。姫はなぜか髪の毛が激しく逆立つ病に伏しており、このままでは婚姻もままならないと嘆く。解決のため、小野家に滞在することにした弾正は、屋敷の中で奇妙な現象に遭遇する――。

 

團十郎の衣装は、寿の文字が海老になっている柄の羽織や亀甲模様の着物など、襲名公演に相応しい晴れがましい姿。登場する際の堂々とした表情、姫の逆毛を見て驚く表情など、團十郎の表情の豊かさに目を奪われた。途中、弾正の部屋に煙草盆を持って現れた少年を口説くもスルリと逃げられたり、お茶を持ってきた腰元に言い寄るもフラれたりと、滑稽な姿も見せる。そし小野家に降りかかったたくさんの謎を鮮やかに解決し、黒幕に立ち回る姿は実に爽快。場面によってクルクルと表情や振る舞いを團十郎はとても魅力的に魅せていた。

 

歌舞伎は、歴史ある伝統芸能のひとつ。この日の團十郎の姿からは、伝統芸の迫力はありつつも、新鮮にも思える新しさも感じられる。十三代目團十郎として作りあげていく、新時代の歌舞伎に期待せずにはいられない鮮烈な公演だった。

 

「十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業」は、11月12日まで全国各地を巡っていく予定。

 

取材・文/宮崎新之