能 狂言との親和性が高いからこそ
深い部分が表現できる
原作ファン、伝統芸能ファンから圧倒的な支持を受けた能 狂言『鬼滅の刃』の再演が決定。竈門炭治郎、竈門禰豆子の2役に再び挑む大槻裕一は前回公演での反響の大きさが再演に繋がったと喜ぶ。
「“初めて能 狂言を観ました”という方が本当に多かったんです。アンケートの戻りも通常よりもとても多かったですし、公演を観たことで能に興味を持ち、他の公演にも来てくださる方も増えたそうです。皆さんの声が再演に繋がったと思います」
多くの再演希望に応える形でおこなわれる今回の公演。会場となるのは新しく大阪に誕生したSkyシアターMBS。能舞台から飛び出し、ホール会場での公演となる。
「演出は野村萬斎さんが引き続き務められます。萬斎さんは世田谷パブリックシアターの芸術監督や、石川県立音楽堂邦楽監督をされているのでホールを使った見せ方に慣れていらっしゃる。今回もいろいろ考えられているようです。能楽堂で見るのとはまた違った作品になると思います」
能 狂言『鬼滅の刃』は、我々が知っている原作の世界観でありながら、新作能としても楽しめるのが特徴であり、醍醐味だ。
「能と狂言が交互に構成されていて、炭治郎がお父さんから“ヒノカミ神楽”を受け継ぐところから始まり、ストーリーとしては下弦の伍・累との戦いまでが描かれます。能らしい緊張感もありますし、狂言の面白さ、おかしさもあります。また今回の舞台ならではの演出もあり、それは伝統芸能をお好きな方はびっくりされると思います。会場に来られてのお楽しみですね」
これまでのアニメや舞台とはまた違う炭治郎が見れるのも興味深いところ。どんな演技プランを用意して臨んでいるのか。
「そもそも能は面をつけるので、炭治郎が怒ったり、泣いている直接的な感情は見せられません。変なことをせずに素直さを意識するだけで炭治郎に繋がるのかなと思っています。狂言のパートでも、善逸や伊之助は面白おかしく会話しているなかに、炭治郎は能の喋り方で入っていくので彼の真面目さがより目立ってそれがいいなと思っています」
もともと能で演じられる演目と、『鬼滅の刃』の根底に流れるテーマは、親和性が高く、共通部分があると思われていたという。
「能では、戦で負けた側の人や、子どもを亡くした母親といった弱い立場にいる側にスポットが当たる演目が多くあります。『鬼滅の刃』では、鬼は敵ではあるけども、“なぜ鬼になったのか?”という辛い部分が描かれていて、弱者の内面を掘り下げるという部分では共通しているところがあるなと思っていました」
能楽堂からホールへ。新たな作品へと生まれ変わる能 狂言『鬼滅の刃』。出演者やスタッフの熱意も相当なもの。
「前回公演のときは、本番中も毎日稽古をしていました。千秋楽の昼間まで稽古をしていましたからね。少しでも気になったことがあれば、萬斎さんだけじゃなく、僕や(善逸役の)野村裕基くんも交えて意見交換したりして、千秋楽までいいものを作っていこうという意思を感じていました。なので、今度の大阪も萬斎さんがどんな演出をされるのか、みんなで舞台を作り上げていくのを楽しみにしています」
インタビュー&文/高畠正人
撮影/植田真紗美
※構成/月刊ローチケ編集部 7月15日号より転載
※写真は誌面と異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
大槻裕一
■オオツキ ユウイチ
能楽師。’00年「老松」で初舞台、同年6月に「花筐」子方で初能。「石橋」「乱」「道成寺」を披く23年「咲くやこの花賞」「大阪文化祭奨励賞」を受賞。ラジオ・テレビなど活動の幅を広げている。師父は人間国宝・大槻文藏。