歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼|松本幸四郎&尾上松也 インタビュー

写真左から)尾上松也、松本幸四郎

今回の特に楽しみな点は「キャストの顔ぶれが凄いこと」

松竹と劇団☆新感線がタッグを組み、市川染五郎(現・松本幸四郎)が主人公のライを演じた舞台『朧の森に棲む鬼』が上演されたのは2007年のこと。徹底したダークサイドの持ち主でもあるライを中心に展開するこの壮大な物語は、シェイクスピアの『リチャード三世』や『マクベス』を下敷きに新感線の座付き作家・中島かずきが書いた骨太にしてドラマティックな脚本、舞台上には本物の水が落ちる巨大な滝が出現し、役者たちは全速力で花道を駆け抜け、派手なアクションや殺陣も満載で見どころだらけのいのうえひでのり演出も大好評だった。その伝説の舞台が歌舞伎化され、17年ぶりに蘇る。

歌舞伎NEXT第2弾となる今回は、嘘と欲望に支配されあらゆる手段を用いて王の座を狙う男・ライを初演に引き続き松本幸四郎と、いのうえ演出作品には『メタルマクベス』disc2(2018年)以来となる尾上松也とのWキャストで上演することになった。しかもライを演じない回は敵対する立場であるサダミツ役で登場するため、二役の演じ分けも楽しませてくれるという粋な趣向まで用意されている。出演は他に中村時蔵、坂東新悟、尾上右近、市川染五郎、澤村宗之助、大谷廣太郎、市川猿弥、片岡亀蔵、坂東彌十郎らが顔を揃える予定だ。

準備は着々と進行中だが、稽古にはまだ間がある7月半ばに幸四郎と松也を独占取材!作品や役柄への想いを語ってもらった。

歌舞伎NEXTの幕開け第1弾は2015年に上演した『阿弖流為』だったが、その上演中に既に幸四郎は、いのうえと「次回のNEXTは『朧~』だ!」と語り合っていたのだとか。

幸四郎 その時点で、あれなら絶対にできる!と思えたものですから。時間は経ってしまいましたが、あのときの想いがそのまま動き出し、今回実現するに至ったという感覚です。

その第1弾に出演が叶わなかった松也は「次のNEXTにはぜひ参加したい!」と願っていたんだそう。

松也 今回お声をかけていただき、とても光栄でした。その上、幸四郎さんとのWキャストでライ役を務めさせていただけるなんて、予想外で驚いています。『阿弖流為』を拝見させていただいたとき、いのうえさんに『次は僕も出たいです!』とお話しさせていただいた際に『ていうか、この間出ていたミュージカル観たよ、すごく良かったよ!』と言ってくださって。そのあとに『メタルマクベス』のお話しをいただき、それを経ての今回ですのでとても感慨深いです。

『朧の森に棲む鬼』初演時のことを幸四郎に振り返ってもらうと

幸四郎 とにかくライは前半ほぼずっと喋りまくりで、人を自分側に引きずり込み、目的のためには平気で人を犠牲にする。物語が進むにつれてその悪の面がどんどんエスカレートしていくわけです。その悪に自分自身がどれだけ乗っていけるか、そしてその自分に酔えるか。公演中は、もうずっとそのこととの戦いだった気がします。

松也も『朧~』の初演舞台は観ていて、その感想としては

松也 芝居としてとても魅力的で引き込まれまして、純粋にカッチョイイ!と思いました(笑)。いのうえさんの演出される舞台からはどれも歌舞伎愛が感じられて、これを歌舞伎俳優が演じたらきっとカッコイイだろうなと思っていたところ、幸四郎さんがお出になられて「どうだ、これだろう?」と言ってくださっているようで。僕も「まさに、これだ!」と思いながら、その姿にとても爽快さを感じていました。

改めて今回の特に楽しみな点について、二人が口を揃えていたのが「キャストの顔ぶれが凄いこと」。

幸四郎 加えて、いのうえさんの演出を受けるのが初めての方も多いんです。こうやって歌舞伎NEXTに出会ってくださる方が一人増え、また一人増えとなっていくと、僕もより嬉しく思います。

松也 それから、劇団☆新感線の舞台のときとはまた違う、歌舞伎NEXTでのいのうえさんの演出をどう捉えてやっていくかというのも個人的にはとても楽しみ。初いのうえ演出の方々とのコラボがどうなるか、稽古場で早く見てみたいです。Wキャストのいいところは、稽古を客観的に見られる機会があることでもあって。もちろん今回はサダミツ役としても出るので休むわけにはいきませんけれど。

新たな歌舞伎の可能性の扉がまた開くこととなりそう、どうかお見逃しなく。

インタビュー・文/田中里津子
Photo/植田真紗美

※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載

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【プロフィール】

松本幸四郎
■マツモト コウシロウ
2018年に十代目・松本幸四郎を襲名。豊かな演劇力で歌舞伎のみならず、多くの映画やドラマにも出演する。

尾上松也
■オノエ マツヤ
5歳でニ代目尾上松也として初舞台。歌舞伎役者、俳優としては数多くの話題作に出演する。