「こんなエンターテイメント見たことないと言ってもらえる劇団になりたい」劇団4ドル50セント 糸原美波インタビュー

秋元康プロデュースによる劇団4ドル50セント。厳しいオーディションを勝ち抜き選ばれた原石たちが、今、その輝きを放とうとしている。6月30日(土)からは週末定期公演を開催。甲組、乙組、丙組の3チームに分かれ、より多くの人たちへ劇団4ドル50セントの魅力を拡散していく。そこで、今回は甲組を代表して、糸原美波にインタビュー。旗揚げ公演『新しき国』でも主演を務めたエース候補の素顔に密着する。

 

糸原「初主演が決まったときは、嬉し涙で何も覚えていません(笑)」

――糸原さんは小さい頃ってどんな女の子でしたか?

糸原「すごく活発な女の子でした。姉がバレエをやっていたるのを見て、私もやりたいと思ってダンスを始めたのが幼稚園の頃。その頃からずっとステージに立つ仕事に憧れていて。最初は踊ることに興味があったんですね。お芝居の面白さに惹かれはじめたのは、エイベックスに入ってから。当時、レッスンでお世話になっていた先生に「あなたはお芝居の方が向いているよ」って言われて。その言葉に背中を押されるような感じで、少しずつお芝居の世界にのめり込んでいくようになりました」

 

――じゃあ、劇団4ドル50セントのオーディションに応募したのも、お芝居がやりたかったから?

糸原「そうです!もうその頃にはずっとお芝居をやっていきたいっていう気持ちが固まっていたので、「ここだ!」って(笑)」

 

――2月に上演された旗揚げ公演『新しき国』では主演を務めました。これは劇団内のオーディションで勝ち取ったんですよね?主演が決まったときの気持ちって覚えていますか?

糸原「とりあえずめちゃくちゃ嬉しくて泣きました。でも、感動しすぎて細かいところは正直あんまり覚えていないかも……(笑)。結果発表の様子はYouTubeの公式チャンネルで今も見られるんですけど、恥ずかしくて自分では見られません(笑)。

 

――気持ちとしては嬉しさ?それともプレッシャー?

糸原「最初は嬉しさで、後からどんどんプレッシャーが大きくなっていった感じです。いままでいくつかの舞台に出演させていただいていたいんですけど、主演はこれが初めて。しかも、劇場はずっと憧れていた紀伊國屋ホール。いつか立ちたいと夢見ていた場所だけに、今の自分で本当に通用するのか不安との戦いでもありました」

 

――演じたのは夢破れたミュージカル女優。やさぐれた雰囲気で、感情をむき出しにする場面も多く、なかなかの難役だったと思います。

糸原「そうですね。私自身、心に闇を抱えたお芝居って得意ではなくて。彼女の抱えている心の暗い部分に近づくのはすごく難しかったです」

 

――役づくりではどんなことを?

糸原「とにかく闇を抱える女性の出る映画をいっぱい観て、少しでも参考にできるところはないか研究しました。あの頃は私自身も役に影響されてすごく落ち込んでいて。稽古が終わった後も、なかなか上手く自分の気持ちを切り替えられなくて、みんなと溶け込むというよりは、どこかひとりで孤立しているような感じになっていましたね。『新しき国』と闘った日々は、私の人生の財産です」

――稽古を通じてぶつかった壁はありますか?

糸原「演出の丸尾(丸一郎)さんから「限界を決めるな」というのはよく言われました」

 

――限界?

糸原「途中に、一人で泣きながら踊って台詞を言うシーンがあるんですけど、最初のうちはなかなかそこで自分の感情を爆発しきれなくて。それを丸尾さんに指摘していただいたんです」

 

――演じているとは言え、どこかストッパーがかかってしまう部分はありますよね。

糸原「自分の演技について客観視しているところが、私にもあったんだと思います。でも、ある日、初めて自分が何を言っているのかもわからないくらい入りこめたときがあって。自分でももう記憶がないくらい、役としてその場に立っていられたんです。そしたら丸尾さんが「それだよ」と褒めてくださって。あのときがたぶん私が限界を超えた瞬間。でも、そのシーンが終わった途端、もう全身が脱力状態。抜け殻みたいになっちゃって(笑)。これを本番で毎回やるんだと思うと、お芝居って本当に大変だな、と(笑)。でもだからこそお芝居って面白いんだって改めて再確認できた瞬間でもありました」

 

――そこでひとつ壁を乗り越えられた。

糸原「でもその先には新しい壁がまた待っていて。公演が始まってからなんですけど、丸尾さんから「美波の芝居は合っているんだけど、どこかひとつズレたところがほしい」って言われたんです」

 

――ズレているところ?

糸原「そのとき、丸尾さんがおっしゃっていたのは「例えば飼っていた犬が死んだとして、単に犬が死んだことだけを悲しんでいるうちはまだまだ。その犬の耳の裏の匂いを二度と嗅げないことが悲しい、みたいなちょっとズレた部分がないと芝居に深みが出ないよ」っていうことなんですけど。私にはなかなかそれをどう自分のお芝居に消化していけばいいのかわからなくて。正解が見えないまま、直前まで泣きながら本番に臨んだ回もありました」

 

――きっとそうやってお芝居を完成させないこと、現状に満足せず、より豊かな表現を追求し続けることを、丸尾さんは糸原さんに求めたんでしょうね。

糸原「私自身、公演中、ずっと闘っていたような気がします。でもおかげであの作品と過ごした日々は、私の人生の財産になりました。すごく辛かったけど、あれを乗り越えられたなら、これから何があっても大丈夫というか(笑)。私にとって、ひとつの自信になった作品でした。今は普通に遊んでいるより自分磨きしている方が楽しいです」

 

――では劇団4ドル50セントのことも聞かせてください。糸原さんから見る劇団4ドル50セントの強みとは?

糸原「やっぱり一番は熱量だと思います。みんながすごく一生懸命なところが、劇団4ドル50セントの武器。でも、最近はそれだけじゃないなとも思いはじめてきて。私たちも経験を積んでいく中で少しずつ役者らしくなってきたというか。稽古でもいろんな人からアイデアが飛び交うようになってきたし、それぞれの演技を見て学ぶこともすごく多い。たぶん今がいちばんみんな仲が良いと思います。そうやって少しずつ成長していく姿を見てもらえるところも、劇団4ドル50セントの魅力のひとつじゃないかなって」

――ぜひ今回一緒にインタビューに登場する福島雪菜さん、前田悠雅さんのことも糸原さんの言葉で教えてください。まずは福島さんから。

糸原「ゆっきーはすごくストイック。お芝居は迫力があるんですけど、それ以外のところでは、荷物を持ってくれたり、みんなが出したゴミを集めてくれたり、細かいところにまで気遣いができるすごくいい子です。でも可愛い顔して実はオタク女子なところもあって。漫画やアニメが好きで、趣味は御朱印集め(笑)。そういう意外性も魅力だなって思います」

 

――前田さんはどんな女の子ですか?

糸原「悠雅ちゃんは歌もダンスも上手くて、お芝居も今一生懸命練習していて、何でもできるオールマイティな女の子っていう感じです。あとはすごくオシャレ!私もオシャレは好きなので、よく悠雅ちゃんとファッションの話で盛り上がっています」

 

--オシャレが好きという話ですが、糸原さん自身がハマっていることはありますか?

糸原「今は身体づくりにハマっています!時間があればジムに通って、5キロくらい走った後、いろんなマシンを使って身体を鍛えているんですけど。今は普通に遊んでいるよりも自分磨きをしている方が断然楽しい!動ける身体をつくっておくことは、役者としても大事なことなので、バキバキに鍛えたいと思います(笑)。「あの人が出ているなら見たい」と言ってもらえる女優になりたい」

 

――今後の活動が気になるところですが、6月30日(土)から週末定期公演が始まるんですよね。

糸原「はい!内容は見てのお楽しみにさせていただきたいんですけど、今回は3チームあるので、3チームそれぞれ個性の違うところが見どころのひとつになるかなと思います。あとは本公演と比べてももっと身近に劇団のことを感じてもらったり、気軽にお芝居の面白さを楽しんでいただけるのも週末定期公演の魅力。お芝居というと少し身構えてしまう方も安心して遊びに来てほしいなと思います」

 

――糸原さんは甲組ですが、甲組の魅力は?

糸原「甲組は私含めて抜けている子が多くて、ほにゃ~っとした空気のチームです(笑)。みんなで楽しくやろうっていう気持ちで稽古をしているので、そういう私たちの柔らかい空気感がみなさんにも伝わればいいなって。3チームの中でもいちばんの和み系チーム。私たちと一緒に和みたいという方はぜひ甲組の公演にお越しください(笑)」

 

――では最後に劇団4ドル50セントの目標を聞かせてもらえれば。

糸原「劇団4ドル50セントとしては、11月に本公演があるので、そこで動員1万人を達成することが今の一番の目標です。素晴らしい劇団がたくさんある中で、私たちの舞台に来てもらうためには、やっぱり一人ひとりがお客さんから面白いなと言ってもらえるようにならないとダメだし、こんなエンターテイメント見たことないと言ってもらえる劇団にならなきゃいけない。これから始まる週末定期公演もすべてそのためのステップ。今はとにかく一人でも多くの人に面白いと言っていただけるように、自分のすべてを懸けたいと思っています」

 

 

――ちなみに、糸原さん自身の夢は?

糸原「私自身はこれからも役者の道を極めていきたいです。個人的な話になるんですけど、安藤サクラさんのことが大好きで。安藤さんのお芝居ってすごく人間臭さがあって、何回見ても感動しちゃうんですよね。私もあんなふうに人間臭いお芝居ができるようになりたいです。舞台でも、映像でも、マルチで活躍できる役者になって、「あの人が出ているなら見たい」って言ってもらえるような、そういう女優になることが私の一番の夢です」

 

取材・文/横川良明
写真/村上宗一郎

 

【プロフィール】
糸原 美波(いとはら・みなみ)
1996年8月4日生まれ。奈良県出身。劇団4ドル50セントの劇団員として活動する他、『めざましテレビ』のイマドキガールとしてもお茶の間に親しまれる存在に。ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』『デイジー・ラック』『正義のセ』などに出演。