ミュージカル『ボニー&クライド』|柿澤勇人&矢崎広インタビュー

実在したギャングカップルを題材にしたミュージカル『ボニー&クライド』が2025年3月から5月 にかけて上演される。

本作は、1930年代の世界恐慌下のアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返し、映画『Bonnie and Clyde』(邦題「俺たちに明日はない」)でその無軌道な生きざまが描かれた実在の人物クライド・バロウとボニー・パーカーをモチーフに、『ジキル&ハイド』『笑う男The Eternal Love -永遠の愛-』『デスノートTHE MUSICAL』などの作曲家フランク・ワイルドホーンが手掛けたミュージカル作品。日本でもこれまでに上演されてきた作品だが、今回は新演出版として上演される。上演台本・演出を務めるのは瀬戸山美咲。クライド・バロウ を柿澤勇人と矢崎広(Wキャスト)、ボニー・パーカーを桜井玲香と海乃美月(Wキャスト)が演じるほか、小西遼生、有沙瞳、吉田広大・太田将熙(Wキャスト)、霧矢大夢、鶴見辰吾らが出演する。

クライド・バロウを演じる柿澤勇人と矢崎広に話を聞いた。

「僕は柿澤勇人さんと肩を並べるとは思っていなかったので。並んでると思ってないですけど」(矢崎)
「並んでるよ!」(柿澤)

――ミュージカル『ボニー&クライド』に出演が決まっての率直な感想をお聞かせください。
矢崎 僕はシアタークリエで主演をする、というのが初めてなので、チャレンジャーな気持ちでもありつつ、でも「ついにここまで来たな」という気持ちもあるので、気持ちに負けずに『ボニー&クライド』という作品を楽しんでいけたらいいなというのが最初の印象です。がんばりたいと思っています。
柿澤 フランク・ワイルドホーンの楽曲ってめっちゃ大変なんです(笑)。キーも高いし、叫ぶし、一曲一曲がハイカロリー。だけどやっぱりキャッチーでパワフルな楽曲が多いから、がんばりたいですね。個人的には、シアタークリエは8年前に公演中に怪我をした苦い思い出のある劇場。その記憶を塗り替えたい思いもあります。

――矢崎さんの「ついにここまで来たな」というのはどういう思いですか?
矢崎 僕が初めてシアタークリエに立ったのは『ドッグファイト』(’15年)で、その次がミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(’16年/’18年)、『音楽劇 ライムライト』(’19年)、ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(’23年)なのですが、’16年の『ジャージー・ボーイズ』の時に、アッキー(中川晃教)が主演で、僕のチーム(編集註:「ザ・フォー・シーズンズ」のメンバーは、中川氏以外は2チーム制だった)は吉原光夫さんと藤岡正明くんと僕(と中川)で四重奏を奏でなければいけなかった。ただその頃の僕はまだちゃんと歌と向き合ったことがなかったんです。つまりある種の大抜擢だったんですけど、そうであるが故の洗礼も受けました。あの“歌おばけ”たちに囲まれながらやったことは本当にすごくいい経験であり、同時にトラウマというか、やりたいのにそのレベルにいきなりいけないという経験もして。だけど再演の時に歌をさらにがんばって、共演者のみなさんとかお客さんからすごく「がんばったね」「レベルが上がった」と褒めてもらえたりもしました。だからシアタークリエは夢もたくさん詰まっているし、挫折もたくさん詰まっている劇場です。毎回試練があるんですよ。去年の『ダーウィン・ヤング 悪の起源』でいえば、楽曲がすごくパワフルだったのでそれをやり通すタフさも要求されましたし、それまでシアタークリエに立つ時はずっと「先輩方を見てついていく」というスタンスだったけど、この時は僕より若い子がいる座組で立つということもひとつありました。シアタークリエに立つ時にはいつもなにかしらの試練がついてくる、という感じ。毎回「今回の試練はこれか」と思うような、そういう劇場なんです。だからさっき言った「ここまで来た」という気持ちと、「次はこの試練を乗り越えていかなければいけないんだ」という気持ちがあります。

――今回の試練は現段階でどういうものだと予想されていますか?
矢崎 僕は柿澤勇人さんと肩を並べるとは思っていなかったので。並んでると思ってないですけど。
柿澤 並んでるよ!
矢崎 でもだからそれは一個がんばらなきゃいけないですし、カッキー(柿澤)から得られるものをばんばんもらっていこうと思っています。あとはこの『ボニー&クライド』という作品自体がタフなので。歴史的背景やボニーとの関係性もそうですし、ワイルドホーンさんの楽曲がパワフルで「1曲超えれば」とかじゃなくて「1曲超えるとまだ5曲残ってる」みたいな山なんですよ。そういう作品だし公演期間も長いので、これを乗り越えたら自信がつくと思います。だからそこにあるいろんな期待に応えたいです。

――柿澤さんはこれまでに「ついにここまで来たな」と思われたことはありますか?
柿澤 う~んないかなあ。ずーっとただひたすら一生懸命やってきているだけ、という感じ。でも彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1で演じた『ハムレット』は、この十数年「こういうふうになりたい」とか「ああいうのをやってみたい」と言い続けてきたことがひとつ叶ったなという気持ちになりましたね。ひとつ「やり切ったな」という気持ち。

――では今作でチャレンジになりそうなのはどういうところですか?
柿澤 やっぱりフランクの楽曲、ちゃんとできるかなっていう(笑)。
矢崎 カッキーができなかったら俺できないよ! カッキーができなかったら俺できない!!

――柿澤さんはフランク・ワイルドホーンさんの作品は最近では『ジキル&ハイド』(’23年)もやられていますが。
柿澤 『ジキル&ハイド』の楽曲はすごくレンジがあって、引っ張りながら歌うという感じでなんとか乗り切ったんですけど、実はキーは高くなかったんです。なんといっても今回はキーが高い (苦笑) 。 AとかB♭っていう男性は超がんばらないと出ないようなキーが普通に入っているんです。ロックでシャウトしてノイズも入れてかつキーが高いという、本気でがんばらなきゃやばい!!っていうのがあります。

――「カッキーができなかったらできないよ」とおっしゃっていましたが、矢崎さんにとって 柿澤さんはそう思うような存在ですか。
矢崎 先に先にいっている感じがします。同い年だと思ってなかったですし。ひとつ上の世代だと思ってた。
柿澤 だけど毎作品追い込まれているし泣いているし。僕がネガティブ人間だというのもあるんですけど、「楽しかったな~」みたいなことはないですからね。今回は「楽しかった」で終わってみたいですけど、多分そこにはやっぱりいけないんだと思う。なんかいつもギリギリで怖い怖いと言いながらやっている感じですね。

――ちなみに矢崎さんはポジティブとネガティブ、どちらですか?
矢崎 ネガティブなほうだと思います。でもネガティブに考えないような訓練を最近しています。落ち込むけど「じゃあなにする?」という感じ。落ち込むことはすごく大事なことだと思うから大事にしながら、「ネガティブを活かしている」という感じです(笑)。

――矢崎さんは、柿澤さんからどんなふうに見えていますか?
柿澤 すごく器用な方だなと思います。そして努力もめちゃくちゃするし向上心もすごくある。姿勢がすごくかっこいいですよね。役者としてのマインドとかベクトルの向き方とかも共感する部分がいっぱいあるから、僕も稽古場でたくさんいろいろ聞いて勉強したいです。

――では最後に、フランク・ワイルドホーン作品にはお二人とも出演経験があるので、作曲家としての印象をお聞かせください。
矢崎 僕は『ドラキュラ』(’11年/’13年)や『スカーレット・ピンパーネル』(’16年)でご一緒したのですが、すごく気さくな、役者にも寄り添ってくださる作曲家さんです。声もかけてくれるし、話に行けば温かく対応してくれる、僕はあまり出会ったことのないおおらかなオーラの方だなと思っています。『ドラキュラ』の楽曲とかは今でも家で口ずさんでいます。大好きな作曲家さんです。
柿澤 『アリス・イン・ワンダーランド』(’12年)、『デスノート The Musical』(’15年、’17年)、『ジキル&ハイド』(’23年)かな。フランクの楽曲は本当に疲れる(笑)。冗談まじりにそれをフランク本人に言ったりするんです。そしたら「それが正解だ」って。「それくらい俳優に課している部分が多いから、それが正解だ」とおっしゃっていました。あと、楽譜通りに歌うことが全てじゃないって。俳優の心が動いてもっと上にいけるんだったらフェイクしちゃっていいからねっていう。歌唱指導の先生にも「楽譜通りやんなくていいから」とおっしゃっていたのを覚えています。役の心が動くのに従ってくれという作曲家さんです。

取材・文:中川實穗