言式「或いは、ほら」│梅津瑞樹&橋本祥平 インタビュー

写真左から)橋本祥平、梅津瑞樹

梅津瑞樹がプロデュース・脚本・演出を手がける、橋本祥平との共同企画の演劇ユニット「言式(げんしき)」。衝撃の旗揚げ公演から約1年、待望の第2弾公演「或いは、ほら」が12月19日(木)に初日を迎える。2人にとって言式は“試せる場所”。旗揚げ公演で2人はどんな“解”を得て、第2弾では何を試すのだろうか。絶賛稽古中の2人に話を聞いた。

――まずは旗揚げ公演についてお聞かせください。1作目で“試した”ことと、それに対してお二人が得た“解”とは?

梅津 「やれるじゃねえか」と。そこに尽きますね。

橋本 そうね。言式の作品性とかはまだこれからいろんな形を試したいなと思うので、解は出てないです。けど、1つだけ、確かな解として「組んでよかった」と。

梅津 こちらこそですよ。

橋本 言式は本当に演劇が好きな人と一緒に作品を作ることができる。そこは大きいなと思いました。

梅津 そうだね。前作も今作も、本当に演劇を好きな人たちが集まってくれていて。「ちゃんと演劇の稽古場にいるね」という話をよくしているんです。だから、毎日が密度のあるものとして過ごせていますね。

――橋本さんの「組んでよかった」の言葉を受けて、橋本さんにラブコールをしていた梅津さんとしてはいかがですか?

梅津 それはもう!今回の台本が示すところを観ていただくと分かると思うのですが、「僕はずっと君を見てた」んですから。

橋本 いやぁ、嬉しいです。でも、こうしてまた新しく始まると、「いつか見限られる日が来るんじゃないか」っていう恐怖感もずっと隣にいますよ。

梅津 前も言ってたね。

橋本 そうなのよ。だから、頑張らないとなと。

(男女の別れ話の小芝居を挟んで)

梅津 そうなったら、どっちが“言”で、どっちが“式”を取ろうか。

橋本 そうくるか〜(笑)。そうなったら、瑞樹くんからスタートしたユニットなので権利は瑞樹くんに……。

梅津 それは違う。権利は等しくあるから。

橋本 そうなの?じゃあ、“式”の上のチョンだけもらおうかな。

梅津 (笑)。で、何の話してたっけ?そう、解を得ましたかって話だ。もちろん面白いものを作ることができたという手応えはありました。何もないところに石を置いたわけですよ。これがどこまで積み上がっていくのか、はたまた崩れる日が来るのか。それは分からないですけど、ここを足がかりに、言式という演劇ユニットは“演劇でできることの面白さ”みたいなものを今後も追求していけるだろう。そういう実感は得ました。

――1作目という比較対象ができた中で、第2弾に挑むことになります。前回手応えを感じたからこそ、第2弾へのプレッシャーや怖さといったものはあるのでしょうか?

橋本 僕ら的にも旗揚げ公演でいい感触を掴めてしまったので……。プレッシャーは感じています。なんというか、期待値が独り歩きしているなというのも感じています。でも、今後作れば作るほど比較はされると思うので、それはそういうものとして、僕は作ったものを信じて、彼と一緒に歩んでいくだけでございます。

梅津 前作のテーマにも通じますが、変わらないものなんて結局ないんじゃないのかと。作品性の答えが出ていないってことは、同時に作品の質感みたいなものだって作品ごとに毎回変わるので、そこは比較されてももちろんいいし、比較しようがないものとして、全作品ゼロから作ろうという気持ちでいます。実は前作の再配信も行っているので、前作を観ていないという人も、今作をきっかけに前作を観て、比較していただいて構いません!

――お二人で案を出し合ったものを、梅津さんが脚本化しているとのこと。脚本として膨らませる際、どんなことを意識しているのでしょうか?

梅津 前作同様、オムニバスとして根底に流れているテーマみたいなものは1つ作るようにしていて。前回はそれが収束していくという感じはそれほどなかったのですが、今回はちゃんと各ストーリーが最後の大晦日で何かを迎える、となるように意識的に書きました。でも、共通してベースにあるのは“祥平がやっているところを観たい”っていうところで。

橋本 ふふ。

梅津 なので、彼が脚本を読んでいるところを想像しながら書いています。

――そうして出来上がった脚本を最初に読んだ際、いかがでしたか?

橋本 ホクホクしましたよ。第一稿として手元にやってきた、朝方のLINEは忘れられませんね。朝送ってくるっていうことは、絶対夜通し書いてるじゃないですか。だから、そこに瑞樹くんの魂を感じました。

梅津 ふふ。石川県から送りました。前回は実は第一稿からあまり変えてなかったんです。でも今回は、稽古をしては「悪いんだけど、この部分全部変えていい?」というのを繰り返していて。毎回、漫画喫茶の狭い部屋を真っ暗にして書いていくんです。数日前にも修正した最新稿を朝方送りました(笑)。

――前作のインタビューで、橋本さんは演出家としての梅津さんには敬語で返事をするとおっしゃっていましたが、今回もそれは継続されているんですか?

橋本 アハハ、たしかに言ってました(笑)。今回どうかな。敬語使ってないかも。

梅津 敬語になってしまうのは、僕がちょっとしたことで灰皿を投げがちでして……。

橋本 そう、あざを作りたくないんですよ。

梅津・橋本 (爆笑)

橋本 でも今ちょっと反省しました。今回ラフになっている自分がいるなと。

梅津 いいんだよそれで(笑)。演出家の言うことだから従う、となってしまうと、逆にこの2人でやっていることの意味が薄まってしまうと思っていて。だから、フラットにお互いやれた方が絶対いいなと思っています。だから、明日の朝、急に祥平が「もうダメだ!これつまんねぇよ」と言い出したら、またゼロから書くこともやぶさかではないです。

橋本 アハハハハッ!今回、僕が稽古前半でなかなか参加できず……。1人きりにさせてしまって申し訳なかったなと。しかも今回、セットが特殊なんですよ。正直、劇場入りしないと全貌が見えない中、こうして想像しながらチャレンジできているのは、前回の経験があってこそなのかなと感じています。

――この第2弾で試そうと思っていることは何でしょうか?

梅津 前回は屋台崩しをしたので、今回は舞台装置に頼らない見せ方をしたいねと当初は話していて。でも、気づいたらこうなっていました(笑)。どうなっているかは観てのお楽しみですが、これはこれで別に全然いい。

橋本 そうだね。2人でご飯食べながら話し合いをした時に、「今回のセットはこんな感じにしようかなって思うんだ」と、お店のメニューで表現してくれました(笑)。

梅津 そうそう、メニューをこう動かしながらね。

橋本 その時、「すごいな、この人は」と思いましたね。自分が作品をプロデュースして演出したとしても、そのルートは行かないだろうなというところを行ける人なんだなと。そんな人と一緒に舞台を作れて、すごく刺激的です。そういえば、最初の頃の話し合いで、「でっかい日めくりカレンダーを舞台に置いて、そのシーンが終わる度にちぎって、その紙で次の小道具作ろうぜ!」って言ってたよね(笑)。

梅津 あったね!今考えると「何それ?」だね。

橋本 でもそんな時間も、きっと無駄じゃないと思いますよ。

梅津 ふふ。

――脚本や演出を手掛ける梅津さんの姿を隣で見ていて、橋本さんも同じように作品を作ってみたいなという気持ちは……

橋本 今のところ、こみ上げて……おりません(笑)!隣でこうして脚本も演出もこなしている同年代の姿を見て、「自分って凡人だな」と思うばかりです。

梅津 いやいや。

橋本 いや本当に。これは自分には無理だろうなと思っていますが、いつかやりたいと思う日が来るかもしれませんし、そういうことができるのがこの言式だと思います。

――今回もオムニバスという形ですね。その意図とは?

梅津 オムニバスなら見やすいだろうなというのが1個あります。僕らが組んだら“奇妙奇天烈で小難しいもの”を作りそうだなと思われるだろうと。ままある、不可解なものを見せられているうちに2時間経っていたという観劇体験。そういうものではないですよ、と開示する意味もありますし、やりたいことが1本にまとめるには多すぎたというのもあります。なので、オムニバスというのは、要は“撒き餌”です。

橋本 (笑)。

梅津 「オムニバスだよ〜サクッと観れるよ〜怖くないよ~」と。

――お気軽にどうぞという意図があるんですね。では、いずれ長編への挑戦も視野に入れてらっしゃるのでしょうか。言式の今後の展望についてはどう考えていますか?

梅津 次は知り合いの役者を40人呼んで、プラス架空の無対象(※そこにないものをあるように演じること)の6人で、“言式48”になるんじゃないですかね。ふふ。

橋本 ……という形に今、決まりましたね。

梅津 アハハハハ。……真面目な話をすると、そこはもう視野に入れているので、今年で終わりっていうことはないということだけはお伝えしておこうかな。

――この先、5年、10年と続けていきたい?

梅津 もちろん、僕はそう思っています。

橋本 そこは今後の目標ですよね。継続していくこと。でも、将来的に大きな劇団になって、劇団見習いみたいな子が「勉強させてください!」って来るかもよ。

梅津 「言式観ましたぁっ!すっげぇ良かったっす!」ってね(笑)。

橋本 ありますよ。レッスンしている子たちのところに遅れて入っていって「うっす」って挨拶したら、「橋本さんっ、おはようございますっ!」って(笑)。

梅津 そうしたら僕が灰皿飛ばします。

梅津・橋本 (爆笑)

梅津 そんな可能性もあるかもしれない。“或いは”(ニヤリ)。

――この12月にお二人とも誕生日を迎えるということで、次の一年の目標を教えてください

梅津 「梅津が出ている舞台は多分面白いな」と、より実感してもらえるように頑張りたいですね。梅津が出ているなら面白いかもと、担保になれる役者として頑張っていきたい。あとは、いろんなものを作ることですかね。

橋本 来年も?

梅津 うん。さっき祥平は自分を凡人だと言っていたけど、それは僕もものすごく思うことで。自分が作ったものが1番面白いと思いたいけど、世の中にはもっと面白いものがいっぱいあって。だからこそ、書き続けるしかないなと思っています。

橋本 僕は来年も生き抜くことですかね。年を重ねていくごとに、昔なかったプライドというものが大きくなってきていて。そんなの捨てちまえって思うんですけど。

梅津 いやいや、持ってなんぼですよ。

橋本 いや、それはそうなんだよね。でも、仕事を選ぶような立場でも立ち位置でもないので、変わらずやっていきたいなと。今回の稽古で、現場1つ1つを大事にしたいなと実感しました。目の前の作品に、命を捧げられるような向き合い方をしていきたいなと思います。

――では最後に本作への意気込みとともに、ファンへのメッセージをお願いします

橋本 第2弾ということでプレッシャーや皆さまの期待といったものもありますが、稽古中に思ったのは「言式が作る舞台は間違いないぞ」と。自信を持ってお届けいたしますので、安心して劇場に来てほしいなと思います。この作品が今年最後の観劇になる人も多いと思うので、今年最後の作品が「或いは、ほら」でよかった、いい1年の締めくくりができたと思ってもらえるような時間を提供できるように頑張りたいと思います。

梅津 そっか、今年最後の作品になるかもなのか。責任重大だね。これで後味悪かったら、皆さんモヤっとしたまま年を越すことになりかねないわけだ。それはそれで面白いなと思いつつ(笑)。今回は、いろんな人に対する救いになればいいなという思いがすごくあって。誰かの行いが正しいとか間違っているとかは実はなくて。自分を許したり、他人を許せる可能性の芽みたいなものが、この作品を観た誰かの心に伝わればいいなと思います。あと、やっぱり橋本祥平の演技力(ぢから)を!これでもかと!詰め込めるように、引き続き稽古を頑張るので楽しみにしていただければと思います。

橋本 (笑)。

インタビュー・文/双海しお
撮影/篠塚ようこ