ミュージカル『マリー・キュリー』|昆夏美・星風まどかインタビュー

Fact(歴史的事実)×Fiction(虚構)を織り交ぜ、「ありえたかもしれない」物語を描くファクション・ミュージカル『マリー・キュリー』。科学者マリー・キュリーと周囲の人々の愛情や友情、苦悩、信念を描いた韓国ミュージカルで、2023年の日本版初演も大きな反響を呼んだ。再演においてマリーを演じる昆夏美と星風まどかに、意気込みや作品の魅力を伺った。

――出演が決まった時の率直な思いを教えてください。

 正直に言うと、お話をいただいた時は「なんで私なんだろう」と思いました。『マリー・キュリー』だと多分皆さんアンヌのほうでイメージされるのかなと。嬉しかったですが、意外性がありました。

星風 日本初演の評判も聞いていましたし、(宝塚歌劇団)上級生の愛希さんが演じられていたお役ですから、プレッシャーと責任を感じました。さらにもう一人のマリーがミュージカル界を引っ張っていらっしゃるお一人である昆さん。宝塚時代は中々外部のお芝居を観劇する時間が取れなかったんですが、動画サイトで昆さんの映像ばかり見ていた時期があって。本当に光栄で、頑張りたいと言う気持ちでいっぱいでした。

――初演を拝見されて、どんな印象を受けられましたか?

 「女性が科学の研究をするなんて」という考えがあった時代に、逆境に立ち向かっていく姿に心を揺さぶられました。ただ夢を追う物語じゃなく、そこには犠牲や別れといった要素もある。だからこそマリーの美しさに惹かれるんだろうなと感じました。

星風 昆さんがおっしゃるように、美化した歴史ではなく、人間らしさに心を打たれました。そのドラマを素敵な歌に乗せて表現しているのが素敵だと感じました。

――ジェンダーや国籍といった壁を乗り越えて挑戦を続ける女性の物語ですが、特に共感した部分はありますか?

 「女性だからこうしてはいけない」という言葉をかけられるという経験は、私自身はしてきませんでした。でも、それはそういった声と戦ってきた方々がいるから。今私たちがいる環境につながる歴史、女性の強さや尊さを改めて実感し、奮闘してきた皆様に敬意を払うような作品だと感じます。

星風 確かに、当時の環境下で自分の存在を残すんだという気持ちは、共感というか尊敬や計り知れない苦労があったであろう、と心に響きます。強い気持ちのもとで実験を重ねてようやくラジウムを発見したのに、人々を救えるかもしれないと思ったものが大切な人の命を奪ってしまう。私だったら立ち直れないんじゃないかと思うほど壮絶な人生を、リスペクトを持って演じて行きたいと思います。

――実在した人物を演じることについてはいかがでしょう。

星風 マリー・キュリーは小学生でも名前を知っている、偉業を成し遂げた科学者。でもこの作品では史実とは違う部分もあるし、存在したかもしれないもう一つの物語が描かれています。ただ歴史を勉強すれば良いわけではなく、作品の世界観で生きるというのは新鮮で、新たな扉が開く感じがします。

 私は舞台上で歴史上の人物を演じたことがほとんどないので、まどかちゃんがどんなアプローチで役に挑むのか気になります。もちろん伝記などでマリーのことを知る必要はあるけど、今回のお芝居の中で生まれるマリーが一番大事だと思うので、カンパニーの皆さんと作っていきたいと思います。

――史実と虚構を織り交ぜた作品です。本作におけるマリーの印象を教えてください。

 まだ史実と作中のマリーの違いをしっかり把握できていませんが、この作品のマリーは研究や自分の存在に対する信念を持って突き進んでいたけれど、自分のエゴに走りすぎない人。研究に没頭するあまり周りが見えなくなった人ではない印象です。

星風 この作品のマリーはすごく多面性がある気がします。研究に対する冷静さ、家族や友人への愛情、困難に立ち向かっていく姿や色々な葛藤や苦悩。人間らしくて面白いですし、早く皆さんとセッションして作っていきたいと思える魅力が詰まったお役だと感じます。

――楽しみにしているシーンや楽曲はありますか?

 楽曲としての難しさに加え、色々なことが降りかかってくる人生。感情を乗せて歌うのが良い作用を起こせるように稽古したいと思っています。感情に引きずられすぎると歌を届けられないこともあるし、ただ歌えばいいわけではない。自分との戦い・挑戦になると思いますが、皆さんと一緒に作っていくのが楽しみです。

星風 昆さんでも難しいと感じることにちょっと安心しています(笑)。お稽古はどこまでご一緒できるかわかりませんが、自分が頑張るのと並行して昆さんのお歌を聴くのが楽しみです。前のインタビューで松下(優也)さんもおっしゃっていましたが、お稽古で皆さんの歌を聴けるのは本当にありがたい機会。ましてやミュージカル界を牽引する方ですから、単純に楽しみです。

――改めて、楽曲の印象を教えてください。

 語弊のある言い方になるかもしれませんが、1曲で成り立つ大ナンバーというよりもお芝居の延長で楽曲が作られている印象です。マリーの感情の揺れ動き一つひとつが音階になっていて音が取りづらいけど、お芝居を通して感情を理解すると歌いやすい。あと、リプライズもすごく効いていて、憎い演出が散りばめられていると感じました。

星風 作品に寄り添う楽曲で紡がれていると思います。昆さんがおっしゃる通り難しい楽曲揃いです。でも、譜面としっかり向き合って歌うことができたら自然と役が乗ってメロディーを運んでくれると思うので、芝居心と正確さのバランスを考えながら挑みたいです。

――お互いの印象はいかがでしょう。

 娘役時代のまどかちゃんも知っていて、なんて可愛らしい人だろうと思っていました。でも、こうやってお会いしてみると、可愛らしいだけでなく気品や優雅さがあると感じました。それでいて親しみやすくて、マリーを演じるうえでも個性になっていくと思います。歌声も、柔らかいけど通る声だと感じました。私にないものをたくさん持っている方だと思っています。

星風 私は人見知りなんですが、実際にお会いしたらキュルンとした目で見つめてくださって、心を委ねてもいいという安心感を醸し出してくださっています。ずっと映像で拝見していただけだったので、新たな一面というか、本来のお姿を拝見できてすごく心が満たされています。

――鈴木裕美さんの演出に期待していることはありますか?

星風 裕美さんの演出を受けられた先輩方のお話を伺って、愛とパワーがすごいんだろうなと感じました。私も実際にお会いしてお役のヒントをいただいた時にすごく熱い方なのが伝わってきて。皆さんが「また裕美さんとご一緒できるのが嬉しい」と口を揃えておっしゃっていたので、役者にもお客様にも愛される方とご一緒できるのは緊張するけど楽しみですし、頑張ります。

 実は10年以上前に裕美さんのワークショップに参加させていただいたことがあります。作品でご一緒したことはなかったんですが、裕美さんの演出を受けられた方は皆さん「真意を貫いてくる演出家さん」と言っていたので気を引き締めなければと思っていました。でもピエール役のお二人の話を聞いて、すごく愛のある演出をされるんだと感じました。裕美さんが与えてくださるエネルギーは、マリーが研究に対して燃やすエネルギーとちょっと似ているのかもしれない。ビシバシ教えていただきたいなと心から思っています。

――カンパニーの皆さんの印象はいかがでしょう。

 初めましての方がこんなにたくさんいらっしゃるカンパニーは久しぶりです。でも、同じチームの鈴木(瑛美子)さんとも松下さんともお会いして、いい人そうというか波長が合う方で良かったと思いました。これから皆さんと手を取り合い、時には支えてもらいつつ、時には自分が引っ張っていくという大変さがあると思うんですが、あまりそう考えすぎると苦しくなってしまう。皆さんとなら稽古中に朗らかな空気が作れそうだと思いました。まどかちゃんも可愛くて癒しの存在なので、一緒に作っていきたいです。

星風 私も前の取材でピエール役の葛山(信吾)さんとアンヌ役の石田(ニコル)さんにお会いしましたが、昆さんと同じく皆さん優しくて安心しました(笑)。すごくしっかりした大人のお二人だったので、身を委ねて全力でぶつかっていきたいと思います。繰り返しになりますが、少しでも長く昆さんとお稽古をご一緒したいというのはここで言っておきます!

 でもきっと引き裂かれるよ。オフの日にご飯とか行けたらいいよね。(笑顔で喜ぶ星風を見て)え、こんな反応してくれる人いない。照れます(笑)。

星風 光栄です!

――ビジュアル撮影のエピソード、お互いのマリーを見た感想もお伺いしたいです。

星風 黒を着ると気持ちが引き締まるというか、スイッチが入る感じがありましたね。一緒にお写真を撮らせていただいて嬉しかったです。

 私も嬉しかったです。もしかしたら稽古もバラバラかもしれないので貴重なショットになったかもしれません。まどかちゃんが先に撮影しているのを見て、「うわ、マリーだ!」と。女性らしさもありつつ知的さも表情から見て取れて、「この後に撮るのか……」と思ってしまうくらい似合っていました。

星風 (昆さんは)キービジュアルにもなっている壁に寄りかかっている姿が好きです。背負っているもの、幸せだけじゃなく葛藤などを経験してきたマリーさんの深みを感じられて勉強になりました。

――最後に、楽しみにしている皆様へのメッセージをお願いします。

 初演がとても好評で、公演が進むに連れて評判が広がっていった作品だということは重々承知しています。だからこそ、再演でこれだけメインキャストが変わるのはお客様にとっても意外だったと思います。今回はWキャストということで、作品がさらに愛されるものになるチャンスをいただけたと思いますし、お客様にも楽しみにしていただきたいです。一生懸命頑張りますので、どうぞ楽しみにしていてください。

星風 お話をいただいた時から大きな挑戦だと思っているので、常に挑戦し続ける気持ちを忘れずにいたいです。本当に素敵なキャストの皆様に恵まれているので、このチャンスを逃さず、稽古が別になるまでの期間で昆さんからもたくさん吸収したいですし、自分でもたくさん血を流して行きたいです。共演する皆さんとの日々の化学反応を楽しみながら努めて参りたいと思います。

取材・文:吉田沙奈