つかこうへい戦後80年に問う ミュージカル「新・幕末純情伝」|百名ヒロキ インタビュー

「沖田総司は女だった」という大胆な発想でつかこうへいが描いた『新・幕末純情伝』。1989年の初演以来、繰り返し上演されて話題を呼んできた作品がミュージカル化される。主演を務めるのは、AKB48を卒業したばかりで今回が舞台単独初主演となる村山彩希。さらに、百名ヒロキ、柳下大、細貝圭、青木瞭、嘉島陸、佐久本宝、久保田創、小川智之、杉山圭一といった実力派が顔をそろえ、演出は多くのつか作品を手掛けてきた岡村俊一、振付は梅棒・多和田任益が務める。沖田総司に恋をし、彼女の運命を揺るがす坂本龍馬役の百名ヒロキに、ビジュアル撮影のタイミングでインタビューを行った。

――出演が決まった時はどんな気持ちでしたか?

つかさんの作品に出演できることが嬉しかったです。定期的に上演されていることもあって、SNSで情報を見かけたり紀伊國屋ホールで知り合いが出ている作品を見たりしていたので、出演できるのが嬉しかったです。

――お知り合いが出演している作品を見られていたということですが、つか作品の印象はいかがでしょう

やっぱり熱さ、勢いです。最初は驚くけど、いつの間にかセリフを聞き取れるようになっている。いろいろな言い回しにつかさんの思いが詰め込まれているんだろうなと感じました。初めて生で見た時は「よくわからないけどすごかった!」という印象で、だからこそつか作品にはまっていく人が多いんだろうなと。今の演劇界の先駆けだったのかなと感じます。

――『新・幕末純情伝』は拝見されましたか?

この作品はなくて、出演が決まってから映像で拝見しました。人が生きている熱さが伝わってきますし、何回も再演されてきた作品ですが、今だからこそ刺さるところがあるだろうなと。つかさんが書いたときも日本や世界に対する思いを詰め込んだと思いますが、現代にも通じるところがある。それが良いか悪いかはわかりませんが、政治や権力に思うことがある人が増えているぶん、この作品を理解できる人が増えてきたんじゃないかと思います。

――ご自身が演じる坂本龍馬について、歴史上やこの作品における印象を教えてください

皆さんが思い描いているザ・坂本龍馬ではないけど、芯にある革命家としてのイメージに当てはめて書いているんだろうなと感じるセリフがたくさんあります。それぞれが正義と純粋さを持っている中、龍馬だけが違う方向を見ている。裏表のなさが素敵だと思いますし、ある意味子供のまま大人になって、世間に殺されるみたいな悲しい人。最初はあけすけなセリフに驚きましたが、無垢さや欲望にもまっすぐな性格を表現しているのかもしれないと思いました。周りから見たら恥ずかしいことも、気にしないということのかなと。(つか作品は)過激なセリフや演出が取り沙汰されることも多いけど、中身がちゃんとあるし下品ではない。それが今回の革命ミュージカルでさらに見やすくなると思うと楽しみです。

――あまり経験のない役柄だと思いますが、今回演じるうえで意識したいことはなんでしょうか

まだ台本を読み込めていませんが、第一印象としては、純粋さを大事に、泥臭くてもまっすぐに、筋の通った人になりたいなと思いました。どのキャラクターもそうですが、物語を動かすポジションなので、それに相応しいエネルギーを出していきたい。稽古がすごく楽しみです。

――現時点で、ご自身が演じる龍馬の魅力・強みにしたいと考えているポイントありますか?

可能性がありすぎる台本なので、自由度が高いぶん難しいです。稽古の中で、魅力的な龍馬を探していこうと思っています。出てきた時に「待ってました!」と思ってもらえるようなキャラクターを作りたいです。カリスマ性と軽さのバランスを見ながら、楽しみながら挑戦していきたいなと思っています。

――特に好きなシーンやセリフはありますか?

台本を読んで衝撃的だったのは、「国を興した人に国は治められない」という言葉です。歴史を見ても、頑張って革命をした人が国を治めているわけじゃない。理想を掲げて革命を進めるのと、国をまとめるのとでは必要な能力が違うということもあると思いますが、やるせなさを感じますし、真理だなと思いました。お客様にもそう感じていただけるような坂本龍馬を演じたいですね。

――初のミュージカル化における楽しみなポイント、ミュージカルになることでどんな魅力が生まれそうかなど、予想でいいので教えてください

歌うということは、つかさんのセリフのスピードと熱量がそのまま入るわけはない。文字数は少なくなると思いますが、そのぶんお客様は受け取りやすくなる部分もあるのかなと思います。
今まではバックミュージックだった部分が歌になると思うと楽しみですね。また、つかさんがこの作品を作った時、世の中的にもつかさん個人もカラオケブームだったと聞きました。流行っていた曲にセリフを乗せて作ったのが『幕末純情伝』で、4時間あったのを削って『新・幕末純情伝』になったと。歌を上手く歌うっていうより、そこに思いがどれだけ乗っているかが大事だとおっしゃっていたそうです。今回はそこに立ち返って歌唱を入れるということなので、公演が4時間になったりいつの間にか曲が増えていたりする可能性もある(笑)。皆さんが想像する「ミュージカル」とはちょっと違う、熱量や生き様を届けるものになるのかなと思います。

――ミュージカルを見慣れている百名さんのファンの方にとっても新鮮な作品になりそうですね

革命です(笑)。「なんでその曲で泣きながら歌っているんだ?」となるかもしれません。上手く歌うことより感情の揺れを見せることを意識して、「なんだこれは?」というものにしていきたいです。

――ミュージカル作品への出演も多いイメージですが、ミュージカルに対してはどんな思いを抱いてらっしゃいますか?

急に歌い出すのはリアルじゃないですよね。時間や場所の跳躍を表現できるのは舞台の醍醐味ですが、そこにさらに歌が入り、ダンスも入る。リアルじゃないからこそ可能性が広がると感じます。

――ミュージカル化で初めてつか作品に触れる方、元々この作品が好きな方、それぞれに向けた推しポイントは

僕は初めてつかさん作品を最初見た時に、ザ・演劇だと思ったし、初心者がとっつきやすい作品だと思いました。今回は歌が加わってさらに見やすくなると思うので、身構えずに来てほしいです。今までの『新・幕末純情伝』を知っている方も、新たな試み・進化を感じ取っていただけると思います。僕も新しい取り組みは素敵だと思いますし、参加できるのは嬉しいですね。

――アクションやダンスについての意気込みも教えてください

体を動かすのは好きなので楽しみです。汗だくになると思いますが、体を動かすからこそ生まれるエネルギーもあるでしょうし、普通の劇場では感じ取れないエネルギーがある作品に仕上がるのではないかと感じました。

――つか作品への出演経験者も多い座組への期待はいかがでしょう

つかさんの作品に出演されている方が多いのは心強いです。皆さんの経験を聞きながら、そこに新たな風を吹かせたいです。あと、沖縄出身者が僕を含めて3人いて、珍しいことだなと。うちなんちゅトークも楽しみです(笑)。(演出・岡村、振付・多和田も)ずっとつかさんの作品に携わっていた方なので、いろいろなことを教えてもらい、ディスカッションしながら、今年ならではの作品を作っていきたいです。

――お稽古で楽しみなことはありますか?

どうやって稽古を進めていくか想像がつかないので、先輩がいるのは心強いです。先輩の姿を見つつ、自分が出ていない時も稽古場を覗きたいなと。(台本は)70ページ程度で2時間強。一人ひとりがすごい勢いで喋るので、しっかり読み込んで覚えていかないとアドリブに対応できない気がします。でも、楽しみですね。今までに経験がない作品なので、ファンの皆さんからも「この作品に出るんだ」と言われるでしょうし、新たな風を吹かせられたらいいなと思います。

――百名さんが考える生の舞台の面白さを教えてください

配信などでもたくさんのコンテンツがある今の時代、生の舞台を見るのって、時間もお金もかかるし結構めんどくさいことだと思います。だからこそ、僕らが頑張って感動を与えないと。信じてもらうしかないし、どうしたらもっとたくさんの人に届けることができるか、僕も演劇業界の皆さんも考えています。僕としては、僕が出ていることで見に行ってみたいと思う人が増えるように頑張るしかない。でも、演劇はすごく素敵なことが起こる瞬間がある場所ですし、その奇跡を目の当たりにした時に「また見たい」と思える。ハードルは高いと思いますがぜひ来てほしいですね。

――最後に、楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします

紀伊國屋ホールは東京の真ん中という来やすい場所にあります。ふらっと来るのは難しい方もいらっしゃるとは思いますが、時間があったら気に留めてもらえると嬉しいです。来てくださったら、それに相応しい作品をお見せしますのでぜひお越しください。

取材・文・撮影/吉田沙奈

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