
「コントと演劇のボーダーを考える」公演、テアトロコント。演劇1組、コント2組の計3組が30分の持ち時間を自由に使うという唯一無二の形態で、定期的に上演されている。2015年から10年続くこの公演に初の冠がついた。「破壊ありがとうのテアトロコント」として、30分×3枠を全て破壊ありがとう(田中机、木下もくめ、森もり)が担当。プロ2年目のトリオは、この公演で何を成し遂げようとしているのか。主催のユーロライブ・小西朝子さんにも加わってもらい、4人に話を聞いた。
1分コント×30本か、ピンネタ×6本か。30分×3枠が破壊ありがとうの手に
──テアトロコントといえば、ユーロライブの看板公演のひとつです。普段3組が各30分の持ち時間を使うところ、7月は「破壊ありがとうのテアトロコント」として3枠全て破壊ありがとうが担当するという初めての試みですね。これは小西さんが提案されたんですか?
小西 最初は、破壊ありがとうさんと他の方との長めのコントを観てみたいというところから始まり、やりやすい形を探っていった結果こうなりました。
田中 僕らはテアトロコントで初めてプロの方とご一緒させていただいたので、感慨深いよな。
森もり うん、テアトロコントが僕らのものになるなんて。
一同 (笑)
田中 2024年3月に小西さんに主催していただいてユーロライブで単独ライブ「洒落臭い」をやらせていただいたんです。その後7月にASH&Dに所属し、12月に再び今度はASH&D主催で単独ライブ「祭日前」をやったときに、小西さんが「あれがまさか最後に関われる単独ライブだったとは」と小さな声でおっしゃって、それが寂しくて。一方で、9月に東京03さんのラジオ(NHKラジオ第1『東京03の好きにさせるかッ!』)に出演して、僕らが書いたコントを6人でやらせていただいたんです。14分くらいある長めのコントをご一緒して「3人じゃできない長尺のコントもももっとやりたいね」という話が盛り上がり、そこに「小西さんとまたご一緒したい」が合わさって、この形になりました。
小西 他の人と一緒にやるにあたって、せっかくユーロライブでやるならという話し合いを重ねる中で「テアトロコントのフォーマットがすごく便利に使えるんじゃないか」と。30分の枠を出演者がそれぞれ構成するという形であれば何をやるかもわかりやすいし、3人だけのコントも、いろんな方とのユニットコントもできるし。
田中 大発明ですね。話し合いの中で、「破壊ありがとうのテアトロコントはどうですか?」とマネージャーさんが直球で答えを出してくれて。
木下 その案が出た時、盛り上がったよね。
──私も長年テアトロコントを観てきましたが、こんなやり方があるのか! と思いました。
小西 私も思いました。

──30分×3枠という形をそれぞれどう構成するかはもう決まっているんですか?
田中 最初に僕ら破壊ありがとう3人だけのブロックが30分間あり、最後は6人で30分尺のコントをやるというのは決めています。真ん中のブロックで何をやるかは、今考え中です。6人いるから、「1分のコントを30本」もできなくはないし。
木下 フラッシュコントみたいな(笑)。
森もり 5分のピンネタ×6本も全然あるよね。
木下 ゲストの負担がすごい(笑)。
かもめんたる槙尾は「演技の師匠」
──ゲストについて聞かせてください。今回は3人に加え、かもめんたる・槙尾ユウスケさん、家族チャーハン・江頭さん、もめんと・竹田百花さんが参加されます。
小西 みなさんと相談して、試行錯誤しつつ結果的に魅力的な方々をお呼びできました。
田中 シンプルに「この人とやってみたい」という3人にお願いしました。
木下 家族チャーハンさんとはライブでよくご一緒させていただいているんですけど、江頭さんはもともと文学座で俳優をやられていたんですよ。それを踏まえて漫才を見ると、リアクションがあまりにも自然すぎて「この人がコントをしたらどうなっちゃうんだろう」と。純粋に、私たちも見たことのない江頭さんの姿がすごく楽しみで呼ばせていただきました。
田中 来年になるともうご一緒できないくらいの方だと思うので、最初で最後のチャンスだと。
木下 竹田さんも、もともとご一緒させていただく機会がよくあって。日大芸術学部の演劇学科ご出身で、今も演劇によく出てらっしゃる方なんですけど……。
田中 面白すぎるよね。
森もり めちゃくちゃ面白い。
田中 演技に華が、かわいらしさがあるんですよ。
木下 ジブリ作品の女の子みたい。困っている姿とか意地悪されている姿とかがかわいらしく面白く見えるのは、竹田さんの素敵なところだなと思います。
森もり 竹田さんがリアクションしている場がお花畑みたいに見える。安心して楽しく見られる感じがあります。

──そして大先輩、かもめんたるの槙尾さん。
森もり 1年半くらい前、同期のトリオ・伝書鳩の山田(陸斗)から急に「今度槙尾さんと演技のワークショップやるけど来る?」とLINEが入ったんです。どういうこと? と思いつつ「もちろん行きます」と返事して、僕ら槙尾さんから演技を教わったんです。
田中 槙尾さんがいつも大事にしている演技論を教えていただいて、それが本当にすっごく役に立ちました。いわば師弟関係。
森もり 名前を付けるとしたら「演技のポジション論」。
田中 お笑いをやっていると、基礎練みたいなことってあまりないじゃないですか。だから槙尾さんのそのレッスンが忘れられなくて。
木下 衝撃的でした。
──ちょっとだけ中身を教えていただいてもいいですか?
木下 まず心の状態として、ファースト、セカンド、サードの3つのポジションがあるらしくて。ファーストポジションが内にこもっている状態。
田中 お客さんに伝えよう、舞台上で見やすくしようとできていない。
木下 サードポジションは逆に伝えようとしすぎてかかってしまっている状態。セカンドポジションはその間。
森もり ちょうど真ん中の、一番ちょうどいいポジション。
木下 落ち着いて周りを見られているし、相手に伝えようとする気持ちもある。そのセカンドポジションになる方法を教えてもらいました。
田中 僕ら、事務所に所属する前で、本当に何者でもなかったんです。そんな僕らに、レジェンドとも言える槙尾さんが、笑いの演技を言語化して惜しみなく教えてくれた。だからいつかご一緒したいと思っていました。
──ちなみにその会は、その後も開催されたんですか?
森もり いえ、その一度きり。だから今は本当にあったのかも……。
田中 幻のような。
森もり 写真館のような場所でやったんですけど、夢みたいな場所だったんですよ
木下 白くて鏡張りで狭いんです。私たち以外いなくて、密室に椅子だけがあって。
田中 恐る恐る行ったら槙尾さんがそこに立ってらっしゃって「よく来たね」って。
森もり 商業施設の5階にあって。終わって外に出たら真っ暗で、誰もいないんですよ。
田中 もう一回行っても、たぶんもうあの建物ないと思う。
木下 演技が上達したから出られたものの……。
森もり もしかしたら一生あの中にいたのかもしれない(笑)。

大竹まことに「腹が減ったら事務所に来い」と言われて
──お三方は昨年ASH&Dに所属し、プロとして歩み始めていろんなことを経験されたと思いますが、それまでと何が一番変わりましたか?
木下 事務所に入るまでは全てを自分たちで用意する必要がありました。でも、所属後初の単独ライブ『祭日前』で、洗濯機を使うコントがあったんです。その時「洗濯機がほしいんですけど……、難しいですかね?」と相談したら「作ります」と即答してくれて、洗濯機がすぐに4台できて。
森もり 翌日に。しかもドアが開くやつ!
木下 自分がやりたいと言ったことに全力を尽くしてもらえる環境にいることが嬉しくもあったし、同時に責任もあるなと。ちゃんと考えた上で言わないと、大変な迷惑になることもあるから……。
田中 ASH&Dは毎月事務所ライブがあるわけでもないから、自分たちでしっかり考えなくてはいけない。だからプロになってからは、何がしたくてどこに行きたいかを3人でかなり話し合いました。
森もり 前以上に話すようになったよね。
田中 森もりは何が一番変わった?
森もり 仲間っすかね。十九人さん、シンボルタワーさん、阿佐ヶ谷姉妹さん、ラブレターズさん、ザ・ギースさんという芸人仲間もできましたし、事務所に行けば会社のスタッフさんという仲間もいますし。大竹まことさんも言ってました、「お腹が減ったら事務所に来い、いつでも飯は食わせてやる」と。
木下 「そばくらいしかねえけどさ」って。私まだ事務所でそば見たことないけど。
田中 「何にもしないけど、そばは食わせてやる」ってね。
木下 そもそもシティボーイズさんとお会いできるなんて、考えもしなかったことですし。
田中 去年僕の中で大きかった出来事二つが、東京03さんにお会いできたことと、シティボーイズさんにお会いできたことで。

──トリオの頂点のような二組ですね。
田中 シティボーイズさんは単独ライブを見にきてくださって。
──大竹さんがラジオですごく褒めていましたね。
田中 めちゃくちゃ嬉しかったです。
森もり あと、まことさんは……。
田中 まことさんって呼んでるの(笑)?
森もり まことさんは田中を気に入って、ゴールデンラジオの裏で田中を呼んで、お菓子を渡したりしてくれていました。
田中 今、事務所で少しずつシティボーイズさんのライブ映像を観ているんです。6人でやっているコントも多くて、「こんな自由なんだ」と驚くことばかりで。
──お三方はASH&Dに所属して、ますます注目を集めるようになりましたね。先日は『星野源のオールナイトニッポン』でテレビプロデューサーの佐久間宣行さんが星野さんにお三方のコントを勧めていましたし。
木下 午前3時くらいにエゴサーチをしてたら見つけて、びっくりしました。
──そんな夜中に?
森もり しかも木下はそのエゴサーチをした時、地元のベンチで友達と2人で座ってたんですよ。最高の夜すぎますよね。
──確かに。
木下 小学生からの友達と、日々の悩みとか、これからどうしようかなみたいなことをしゃべりながらエゴサーチを……。
田中 深夜3時まで一緒にいてくれる人の前でエゴサーチするなよ。僕は朝7時に父親から「お前星野源のオールナイトニッポンで紹介されてるぞ」とLINEが来て。紹介された嬉しさより、なぜ父親がこの情報を? という戸惑いが勝ちました。放送数時間後にすでに知っているということは、父親はXのアカウントを持っているんだと。しかも、僕ら”破壊ありがとう”とダブルクォーテーションで括らないと検索に引っかからないんです。それをすでにクリアしていて、しかも朝起きてまず検索しているんだ、きっと僕らを調べるのが日課なんだ、という一連の衝撃がすごくて。
木下 いい俳句みたい。簡潔な言葉で全部が伝わる。
田中 そう、いろんなバックストーリーが一瞬で(笑)。

70代になっても男女トリオでコントをし続けるために
──先ほど「何がしたいか」を話し合ったとのことですが、どんな結論に?
田中 シティボーイズさんとお会いした時、70代でトリオで、メディアでコントをやられている方ってほぼシティボーイズさんしかいらっしゃらないなと思って。僕らも70代でコントをするにはどうしたらいいかをすごく考えました。
森もり 「SAYONARAシティボーイズ」(文化放送)を見学させていただいた時、コントをやって、トークも楽しそうにしゃべって、その会話が終わらないままCMに入ってブースから出てくる姿を見て、かっこいいなと思って。
田中 その時、大竹社長が「シティボーイズには、もうしゃべっているだけで面白い時間があるんですよ。皆さんにはその時間を見ていただきたくて」と伝えてくれて。
木下 それこそ自分たちのプラットフォームを持てるくらい実力と人気があったから今こうやってラジオでコントをやっていらっしゃるわけで、自分たちもそこに至るまでの下地を作っていきたいと強く思いましたね。
田中 今回の「破壊ありがとうのテアトロコント」も、ラジオで東京03さんのコントを目の前で見た時、「こういう演じ方があるんだ!」とワクワクしたのが忘れられなかったから生まれたようなもので。3人でのコントももちろんやりながら、いろんな方と長尺のコントをしていきたいと思っています。
木下 いつか「いるだけで面白い」になれることを目指して。
森もり おじいちゃんになった時、面白いおじいちゃんコントができるように。
木下 「男・男・女」のおじいちゃんおばあちゃんコントグループはまだいないかもしれないので!
──小西さんから期待することは?
小西 もう、ただひたすら楽しみです。キャスティングも上演形態もあれこれ言いながら一から悩み、本当にいろんなことをみんなで一生懸命考えて、最終的にこれしかないという形に決まったので、あとはもう上演を心待ちにして準備するだけです。

インタビュー・文/釣木文恵