テアトロコントspecial THE ROB CARLTON’S「LOW-KEYED PLAY」村角太洋(ボブ・マーサム) インタビュー

撮影:今西徹(村角太洋/ボブ・マーサム:写真一番左)

高級ホテルや大富豪の邸宅などの、セレブ感あふれる空間を舞台に、奇妙なこだわりを持つ人々が、なんともファニーな会話を繰り広げる。そんな喜劇を京都から送り続ける「THE ROB CARLTON(以下ROB)」が、過去のコントを1本の長編に再構成した『LOW-KEYED PLAY』を、一晩限定で渋谷の「ユーロライブ」で上演する。いわゆる大阪っぽい笑いとは一線を画した喜劇で、東京でもファンを増やしてきたROBのキャプテン、村角太洋(役者の時はボブ・マーサム名義)に、改めて「ROBとは何ぞや?」ということと、作品の見どころを聞いた。

――まずROBについて聞いておきたいのは、演劇の集団でありながら「ラグビー」と「ホテル」の精神を大切にしているという、その異色のコンセプトについてです

ROBはもともと、高校のラグビー部の同級生たちと、ラグビーをするつもりで立ち上げた団体(洛西オールドボーイズ)が前身です。そのうちに「演劇もやろう」みたいなことになって、ラグビーはほとんどしないまま、今に至っています(笑)。でも、いろんなルールや状況に縛られた中で、トライを目指して前に進むには、どうしたらいいか? というラグビーの考え方は、芝居にも生かされてます。ホテルの方は、私がホテルのサービスマンとして従事していた時の「お客様を非日常の空間に連れて行って、おもてなしをしたい」という思いが、やはり私の考える演劇に通じるものがあるな、と。つまりほぼ、私個人の半生をコンセプトにしたという感じです。

――最初に自分たちで芝居を作りはじめた時から、喜劇を目指していたのですか?

ROBのメンバーには弟(村角ダイチ)もいるんですけど、私たちの人生のベースが『トムとジェリー』なので、おのずとそれっぽい芝居になったんです。だから「喜劇」というのは後付けですね。自分のやっていたことが「そうか、これを喜劇と言うんだ!」みたいな。あとは、後藤ひろひと大王の存在も大きいです。大王作品によく出ている(俳優の)川下大洋さんが、うちの父と同級生で、私の「太洋」という名前も、川下さんからいただいてまして。父と一緒に大王の舞台をしばしば観に行ってたから、前説とか露骨に影響されましたね。私のヒゲも、大王より上がってはいけないという独自のルールを設けて、(角度を)下げています(笑)。

――ROBには、先ほど名前が出てきたダイチさんと、同級生の満腹満さんが所属しています。実は2人とも、役者をするとは思わずに参加したそうですね

私がホテルを辞めて、本格的にROBで演劇をやろうと思ったのが、26歳と結構いい歳だったんです。でも周りはほとんど就職していたから、あまり無理に引きずり込めなくて、最初は一人芝居をするつもりでした。そこで声をかけやすかったこの2人に「ちょっと手伝って」とお願いしたんですが、それが結局は三人芝居になって(笑)。でもやっていくうちに、ダイチも満腹も役者に目覚めちゃいましたね。

――ROBが成長する上で、この2人がいてよかったと思うことはありますか?

なんせ弟と同級生ですから、最初からホームみたいな関係があって、すごくわがままが言いやすかったことです。「はじめまして」の人にはお願いしにくいような思い切ったアイディアも、無理にお願いすることができる。自分のやりたいことを、純度の高い形でいろいろテストできたのは、この2人がメンバーだったからこそです。

――今回上演する『LOW-KEYED PLAY』は、謎の組織に監禁された無法者たちが、おかしな指令に翻弄される姿を描いた密室劇です。ROBのもう一つの路線である、ハードボイルド風の世界観を堪能できる作品ですね

この作品はもともと、大阪で毎年GWに行われる「中之島春の文化祭」という、いろんな劇団の短編を上演するイベントで発表してきたものです。やっててしっくり来る題材だったので、4本ぐらいたまったら、1本の長編にしようと思ってました。それで去年4本目ができたんですが、大阪ではすでに上演したものばかりだし、どこで発表しよう? と思った時に「ユーロライブがあるじゃないか、今だ!」と。

――あえて東京で上演することに

一昨年ユーロライブで、ダイチと二人芝居(『Due deux zwei 2』)をさせてもらって、こういったことを定期的にできたらなあ、と考えていたんですよ。地元ではなく東京で、しかも一夜だけ上演というのは面白いなあと思って、ユーロライブさんにちょっと無理をお願いしました。

――この設定に毎年挑戦しようと思った、面白さのポイントは何だったんですか?

アウトローな男たちが、上の組織が出してくる破茶滅茶な条件に「なんで俺らがこんなことをしなくちゃならないんだ!」と憤りながらも、素直に受け入れていろいろやるという、そのわけのわかんなさですね。もともとは海外の会話劇のように、バカバカしいことを渋く重厚に、ローテンションでやりたいと思って作った作品だったんです。だから今回は、ハードボイルドを維持するために、あまり抜けすぎないようにしようと。我々ももう40歳になるので、しょうもないことは止めようと思って作ってますが、他所から観たら、多分まだいっぱいしょうもないことが残っているはずです(笑)。

――準劇団員のようになっている「男肉 du Soleil」の高阪勝之さんが、昨年からこのアウトロー集団に加わりましたが

ヒップホップ風の男が「俺も奴らに捕まった」「おう、お前もか」という感じで入りました(笑)。K(高阪)は高校演劇からお芝居を始めていて、僕らにはない演劇のアプローチを持っているので、助けてもらえることが多いんです。彼が「もう嫌だ」というまでは、声をかけようと思っています。

――ROBの笑いは、関西人から見ても「なんか大阪の笑いとは違うなあ」と感じさせるものがあるのですが、何が理由だと思いますか?

大阪のボケとツッコミではなくて、アメリカのコメディ……おかしなことも全部みんなが受け入れて、どんどん前に進んでいくというスタイルでやっているからじゃないでしょうか。ツッコミを入れるにしても、それは前に進むためのツッコミで、「なんでやねん!」といって流れを断ち切るためのものではない。

――そういわれるとROBの世界は、誰も今の状況に「なんでやねん」と言わないから、さらにおかしなことになっていくという流れが多いです

意図はしてなかったけど、そういうスタイルになりました。それは私たちがもともと九州の出身で、大阪の「なんでやねん」の文化を知らずにいたからかな? と思います。ただ30年以上関西にいると「なんでやねん」の文化の面白さもわかりますし、トレンドも変わっていきますから。そこでアップデートしていくのか、逆にクラシカルの方を掘っていくのか。それはまだ、わからないです。

――『LOW-KEYED PLAY』は、その「なんでやねん」のない面白さの典型といえる作品ですね。長編にしたことで、どんな見どころが生まれているのかを教えてください

4本の話を、暗転をはさまずに1本にしたことで、4人の関係性とか、置かれている状況がより強化されました。(上演)場所も中劇場から、ユーロライブの密な空間に変わったことで、ROBの魅力である「会話」の面白さを、いっそう楽しめると思います。東京は今年の秋にも本公演を予定していて、今後もしっかりやっていきたいので、その前哨戦……というわけじゃなく、よき挨拶になればと思っています。

 

取材・文:吉永美和子