
2011年、シカゴ・シェイクスピア・シアターでの世界初演が評判となりロングラン公演を行った、演劇集団42nd ストリート・ムーンによるサスペンスコメディ『MURDER for Two』。2人の役者が13人のキャラクターを演じ、ピアノの弾き語りも行う傑作コメディは全米で高い評価を受け、日本でも2016年に坂本昌行・松尾貴史、2022年に坂本昌行・海宝直人のコンビで上演された。
3年半ぶりとなる2025年公演は、坂本・海宝コンビが続投。初日を前に、坂本昌行、海宝直人、演出のスコット・シュワルツとジェレミー・スコット・ラップによる囲み取材とゲネプロが行われた。
囲み取材レポート
――初日を前にした心境をお願いします
坂本 またこの作品に触れられる喜びと大変さを感じながら今日を迎えました。見てくださった方々が、「私見たんだよ」と思える作品に仕上げてきたと思っています。日本のみなさんに素晴らしい作品をお届けしたいです。
海宝 僕は2度目の参加ですが、改めて類を見ない作品だなと思います。コメディで、でも繊細で緻密な積み重ねがあり、演劇的で、演者がピアノも弾くというチャレンジもあって。素晴らしいクリエイターの皆さんと積み重ねきて、お客様が入って完成するのが楽しみです。
スコット 私は今回の共同演出であり、オリジナルの演出家です。この作品に再び関われることを嬉しく思っています。この作品は私自身も好きな作品。とても面白く、演劇的で、私の演劇的な側面をよりよく出してくれる作品です。一緒に作ってきたジェレミー、素晴らしい俳優のお二人と共に、日本の観客の皆さんにお見せできるのが楽しみです。
ジェレミー NYでの初演から、スコットさんと一緒にこの作品を作ってきました。日本で三回目の公演ができることを嬉しく思っていますし、素敵な俳優さんたちと共にこの日を迎えられるのが嬉しいです。今回初めてご覧になるという新しいお客様にもお届けできたら嬉しいですね。
――3年半ぶりのタッグですが、お稽古の手応えなどはいかがでしたか?

坂本 僕は色々な容疑者を演じる中で、多々セリフを忘れるところがあるんですが、海宝くんが僕のセリフもしっかり覚えてくれている。非常に力強いパートナーなので安心です。
海宝 一緒に稽古期間を過ごし、昌さんの献身的な姿勢に刺激を受けています。稽古後に自分たちで稽古する時間があるんですが、「気づいたらこんな時間!」ということもありました(笑)。ある日、昌さんが「今日は早く帰ろう!」というので僕も帰り支度をしていたんですが、ノートをもらった昌さんがピアノに向かっていって、本当にストイックだなと感じました。最高の形で作品をお届けできるように戦ってきたので、ここからは僕らも楽しみながら挑みたいです。
――お二人の印象はいかがでしょうか
スコット 皆さん、この二人がどんなに素晴らしい俳優かはご存知だと思います。お二人とご一緒できるのが大変光栄です。この作品はコメディ要素も多いですし、この二人がやることに意味があります。ただ楽しいことをやっているように見えますが、俳優として要求されることも多い。たくさんのセリフ、さまざまな役、ピアノに歌、踊り。この作品のコメディ要素と喜びをみなさんにお届けするため、二人の俳優さんがエネルギーを全力で出さなければいけません。また、この作品のもう一つのテーマは「パートナーシップ」。素晴らしい俳優が組んで、コメディの要素を最大限に表現し、お客様に楽しんでいただけることを確信しています。
ジェレミー このように素晴らしい俳優さんお二人とご一緒できるのは、我々にとって大きな幸せです。昌さんは日本初演から、直人さんは2022年から演じられています。今回またご一緒できるのは恵まれた環境だと思います。アメリカでは歌と踊りと芝居の技術を持っている一流の俳優を「トリプルスレッド」と言いますが、本作に関して、この二人はピアノ演奏を加えた4つのスキルが一流です。稽古場では素晴らしい時間を過ごすことができ、2022年公演よりさらに深いものにできました。お客様にお届けできるのが楽しみです。

ゲネプロレポート
冒頭で坂本と海宝が登場すると、客席にお辞儀をし、競い合うようにピアノへ向かう。海宝が奏でるピアノに合わせて坂本が被害者の妻・ダーリア、隣人夫婦のマレーとバーブ、精神科医のグリフ、被害者の姪・ステフ、有名なバレリーナ・バレットを見事に演じ分け、事件のあらましを語る。


次は坂本の演奏に乗せて海宝演じる巡査・マーカスが刑事昇格を目指して捜査を始め、そこから次々に事件関係者が登場。坂本が1人で11役演じたり、パントマイムやタップダンスをしたりと八面六臂の活躍を見せる中、海宝は個性的すぎる容疑者たちに振り回される巡査をチャーミングに演じる。
声色や姿勢、表情によって一瞬でキャラクターを変える坂本に対応し、海宝も即座に向き合い方を変え、舞台上にいるのはたった二人でありながら、たくさんの人物がいきいきと動いている様子を見せてくれた。



ゲネプロでも、客席から多くの笑い声が上がっていた本作。観客と共に作り上げる側面もある作品が、公演期間を通してさらに進化していくのが楽しみだ。
本作は9月6日(土)・9月7日(日)のパルテノン多摩 大ホール公演を経て、9月11日(木)~22日(月)まで東京・EX THEATER ROPPONGIで上演、その後は宮城、福岡、愛知と各地へ巡演を予定している。