写真左から)唐木俊輔、立石俊樹、近藤頌利、財木琢磨
元禄時代、実際に起きた仇討ちの「赤穂事件」を題材に描かれた『忠臣蔵』。歌舞伎や人形浄瑠璃の定番として繰り返し上演され、ドラマや映画、舞台も作られてきた。2025年12月から、演出・堤 幸彦/脚本・鈴木哲也、主演・大石内蔵助役/上川隆也、大石の妻・りく役/藤原紀香、吉良上野介役/高橋克典といった豪華な布陣で新たな『忠臣蔵』が描かれる。
浅野内匠頭・小林平八郎役の立石俊樹、清水一学役の近藤頌利、矢頭右衛門七役の唐木俊輔、寺坂吉右衛門役の財木琢磨にインタビューを行った。
――まずは『忠臣蔵』という物語の印象、どんなところに魅力を感じるかを教えてください。
財木 僕は正直『忠臣蔵』という作品を知らなくて、出演が決まってからいろいろと勉強しました。忠義や武士道精神を濃く感じたのと、その中にある人間ドラマに現代では考えられないようなことが描かれていて衝撃を受けました。
立石 僕も、『忠臣蔵』は知っていましたが、出演が決まってから歌舞伎の公演を観に行きました。歌舞伎ならではの『忠臣蔵』がすごく面白くて、僕たちが普段取り組んでいる作品の作り方とはまったく違う、何百年も続いてきた文化としてのエンターテインメントなんだと感じました。その中で、財木さんがおっしゃっていた忠義、信頼関係で結ばれた人たちの正義、裏切りや水面下で動いている陰湿なものなどが描かれている。それも長く愛されている理由なのかなと感じます。本当に面白い作品に出会えてありがたく思っています。
近藤 物語自体は難しくなくて、「あらすじを話して」と言われたら誰でも分かりやすく伝えられるのかなと思います。そういう意味では、単純に楽しめる作品だと思いました。その上で、たくさんの登場人物が出てきますし、細かいところを突き詰めていくと深掘りできて、解釈しがいのある物語だと思います。僕も『忠臣蔵』は知っていたけど映画でしか見たことがなくて、(藤原)紀香さんに歌舞伎座の(『忠臣蔵』の)お誘いをいただいたタイミングでこのお話をいただいたので、ちょっと運命的だと感じてこの作品に対して乗り気でした。(藤原は)知ってたのかな? お話ししたら「え、そうなの?」って反応だったけど。姉のような感じで慕っている先輩なので、共演できるのも嬉しいですね。
唐木 僕も出演が決まってから初めて作品を拝見しました。単なる武士階級のお話じゃなくて、忠義や信頼の物語だと思いました。また、現代の僕と同世代の方がこの『忠臣蔵』を観た時に学ぶことも多いんじゃないかと感じています。
――ご自身が演じる人物にどんな印象をもっているか、どんな人物だと解釈されているか教えてください。
近藤 清水一学は強いので、単純にそれが第一印象です。役を聞いた時も「すごい立ち回りをしてもらおうと思ってます。強い武士なのでお願いしますね」と言われました。今までは特殊な武器を使うことの方が多くて、日本刀を扱った経験があまりないので、どう転ぶか自分でも楽しみですね。あと、舞台上でガッツリ時代劇をやる上で、所作や言葉遣いなど、基礎的なことをちゃんと表現したいと思います。
財木 寺坂右衛門は四十七士の生き残りで、大石内蔵助から密命を受ける役です。唯一の足軽でありながら、密命を受けるということは、ある程度の信頼を得ている人物だと思います。色々な説があって、逃げたんじゃないかとも言われているけど、僕はそうじゃないと思う。そう考えられるところも時代劇の面白さだと感じます。
立石 僕は浅野内匠頭と小林平八郎の二役を演じます。浅野内匠頭はお殿様で、大石内蔵助との絆がある。刃傷をきっかけに赤穂事件が起きるわけですが、彼は人望があり、周囲の人々からすごく慕われて、みんながサポートしてあげたくなるような人徳のあるお殿様だったんだろうと思いました。何の理由もなく刃傷を起こしたのではなく、自分の中の誇りなどを大切にして、時代にそぐわない生き方をした末に切腹することになる。僕はとても好きな人物だと感じています。一方、小林平八郎は吉良家の中でも冷徹で、浅野内匠頭とは真逆の人物だと思います。戦も強いということなので、殺陣でしっかりその強さを表現できたらと思っています。
近藤 もしかしたら稽古中に三役になるかもよ。
立石 え!?
財木 堤さんはそういうことやられる!(笑)。
一同 (笑)。
立石 三役は無理ですよ。でも、堤さんから提案があれば、僕は挑戦したいタイプです(笑)。
唐木 僕が演じる矢頭右衛門七は、赤穂浪士の中でも数少ない10代です。藤林(泰也)さん演じる大石主税も10代なんですが、若い世代の人物が命をかけて討ち入りに参加することが、四十七士の団結力や決意の強さをさらに際立たせていると思います。
――本格的な時代劇で楽しみなこと、時代劇出演経験が豊富な財木さんから皆さんへのアドバイスなどはありますか?
近藤 (財木に)教えてもらいましょう。
唐木 殺陣の稽古場でも先生に一番褒められてましたもんね!
立石 (笑)。
財木 いやいや、最初から学ぶつもりでやりたいと思っています! みんなからも教わるつもりで頑張ります。
唐木 僕は時代劇もそうですが舞台自体も初めてで。
近藤 初めて!? 贅沢だ。
唐木 殺陣も本格的にやったことがなかったんですが、小学校からずっとサッカーをやっていたので殺陣もある程度できるんじゃないかと思っていました。でも、全くそんなことはなくて、日本刀の振り方などの基礎から練習しています。なんとか皆さんに追いつけるように頑張りたいです。
近藤 でも、サッカー経験は活きてきそうだよね。実は立ち回りって足の方が大事だから。
唐木 そうですね。僕はゴールキーパーをやっていて、腰を低く構えるのは似ているのでそこは活かせているかもしれません。
立石 僕はミュージカル『太平洋序曲』でジョン万次郎を演じたことがあり、その時に作法などを学びました。他の作品でも剣などは扱っていて殺陣もすごく好きです。安全第一にしつつ、リアルも追求しながら“魅せる殺陣”をやっていきたいです。小林平八郎は二刀流らしくて、歌舞伎でも二刀流で戦っていたので今回どうなるのか……。
近藤 そうなんだ。僕が演じる清水一学も二刀流。
立石 二刀流に挑戦するとしたら初めてなので、すごく楽しみにしています。
近藤 僕も時代劇がすごく楽しみ。20代・30代って若造だと思うんです。そんな若造が現代劇のような芝居をすると、時代劇ではペラペラな人間に見える気がする。だからこそ口調や所作、動きなどを稽古中から染み込ませないと、その時代の人間として生きられないと思っています。ベテランの方々は演技経験も人生経験も僕らとは段違いなので重みが出る。僕らはそれを出せるほどの技量や経験はないので、時代劇にしっかり向き合わないといけないと思っています。もちろん当時も若者はいたと思うけど、いつ死ぬかわからないという緊張感をみんな持っている気がします。今回は命懸けの戦いだということを重々承知の上でやっているので、その緊張感や背景が見える表現をしたいです。
財木 僕もまだまだアドバイスをいただきたいといいますか、映像だと画角によってそれらしく見える瞬間があるんですが、舞台は全部見られるので、所作がちょっと違うだけでもわかってしまう。もちろん映像作品に出る時も勉強したつもりではありますが、さらに深く勉強し、指先まで全神経を集中させてお芝居したいと思っています。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
財木 『忠臣蔵』を見たことがない世代の方もどんどん増えていると思うので、これをきっかけに時代劇の面白さを知ってもらえたら嬉しいなと思っています。正直、出てくるセリフは聞き馴染みのないものが多くて近寄りがたいかもしれません。でも、ストーリー自体はとても分かりやすいので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
近藤 同じような内容になりますが、時代劇って登場人物の名前から難しいです。台本を読んでいると「これ日本語かな?」と思う部分もあって、僕もまだ完璧に理解できていません。でも、ストーリーが本当に面白いので、皆さんにも楽しんでいただけると思います。台本を読んだ時に「ガッツリ時代劇をやるんだな」と感じましたし、すごくエンタメ性があって舞台映えする内容です。それに、僕が歌舞伎座で『忠臣蔵』を観た時、外国の方もすごく多かったんです。外国の方が楽しめる内容ですから、日本人も楽しめるだろうと思います。また、東京は明治座で時代劇を見慣れているお客様もたくさんいらっしゃると思うので、一切気を抜かず、楽しんでその時代を生きたいと思います。
立石 僕も出演が決まったのをきっかけに歌舞伎座で初めて『忠臣蔵』を観て、「こういう世界があるんだ」と感動しましたし、それをきっかけに今後も歌舞伎を観たいなと思うくらい好きになりました。この舞台が皆さんにとっても新しい門を潜るきっかけになったら嬉しいですし、僕は今回二役を演じるので、それぞれの人物の生き様をぜひ見届けていただきたいです。全国各地を巡るのも楽しみですし、皆さんもぜひ旅行や劇場周辺を楽しみながら劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
唐木 先ほどもお話ししたように、舞台も時代劇も初めてなので、今から所作やお芝居、立ち居振る舞いで錚々たる皆さんに勝るのは難しいです。だからこそ、初めてらしい若さや溢れ出すエネルギーを皆さんに感じていただけるように、先輩たちをたくさん頼って頑張りたいと思います。
近藤 ここ(財木)頼ったらいいよ、時代劇の先輩だから。
財木 おい(笑)!
唐木 殺陣稽古の時、先生から「とりあえず財ちゃんを見ておけばいいよ」と言われました。皆さん本当にすごい方なので、負けじと食らいついていきたいです!
取材・文・撮影/吉田沙奈
立石俊樹
スタイリスト/MASAYA (PLY)
近藤頌利
スタイリスト/上田リサ
唐木俊輔
スタイリスト/新地 真弥(Tatanca)
財木琢磨
ヘアメイク/田中誠太朗
スタイリスト/MASAYA (PLY)
