財木琢磨、那須凜、マキノノゾミ インタビュー|「モンローによろしく」

脚本家・演出家のマキノノゾミによる企画公演Makino Playの第二弾「モンローによろしく」が2月3日より上演される。「モンローによろしく」は、マキノ主宰の劇団M.O.P.にて上演し、東筑紫学園戯曲賞を受賞しており、1940年代のハリウッド映画界を舞台に、時代に翻弄される映画に携わる者たちの人生が描かれていく。本作に挑んでいくのは、財木琢磨、那須凜ら若手を中心としたキャストたち。彼らはどのように作品に臨んでいるのだろうか。

 

――今回の「モンローによろしく」は、過去の作品を自らの手で再上演していくMakino Playの第二弾となります。1993年に上演した作品ですが、こちらを選んだ理由は?

マキノ 私も還暦を過ぎまして、これまでを振り返ってみたというか、自分の今までの作品とかを整理していこうとか、リメイクしていこうとか、そういうことを躊躇なくやっていこうという気持ちになってきたんです。「モンローによろしく」は、割と僕の原点と言ってもいい作品。しかも29年前にやって、それ以来1度もやっていないから、若い俳優と一緒にやったら楽しいんじゃないかと思ったんです。原点回帰じゃないですけど、原点を確認する感じですね。今でもいけるのか、とか、試してみたかった。

 

――書いた当時、どのようなことを考えていらっしゃいましたか?

マキノ なんか、ちょっと変わったことをやりたかったんですよ。それまでとは全然違うことをやりたくて、できるだけ遠いところに行ってみたい感じだった。それで、どうしてだかは覚えていないけど、思いついちゃったのが翻訳劇っぽいけどオリジナル作品というもの。そんなのあんまり誰もやっていないよな、と。で、やってみて“おお、なんでもアリだな”と思った(笑)。

 

――ご自身の演劇の可能性を広げられた作品ということでしょうか。

マキノ まあ自分流の演劇論なんですけど、演劇って100%嘘なんだけど、全力で嘘をつくと、そこに真実が宿る。嘘が本当になるというのが、芝居の醍醐味だろう、というのが基本的な考え方なんです。全力で観客を騙しにいく、ってことをやっていると、お客様も最終的にはほだされてくれてね(笑)。うん、もうわかったから、そういうつもりで観るわ、ってなってくれますよ。そして、そうなってからが楽しいんです。そういう意味では、「モンローによろしく」ってこんな分かりやすい嘘はないじゃないですか(笑)。それをとにかく逃げずに全力でやる、っていうスタイル。そういうのが好きなんですよね。

 

――財木さんと那須さんは、ご出演が決まった時どんなお気持ちでしたか?

財木 セリフを最初に読ませていただいた時に、今まで自分が挑戦してきた役や作品とは違うな、と思いました。こういうセリフの言い回しもやったことなかったし、小劇場でのお芝居も今までになかったことなので、僕にとっては挑戦的というか、ワンランク上のステージに行ける作品になるんじゃないかと思いましたね。稽古の初日からワクワクしていましたし、今の毎日の稽古も楽しいです。

那須 私はマキノさんの演出をとっても受けたいと思っていたので、すごく嬉しかったです。それと同時に、これは私にできるのかな、ヤバいな、というのも、正直な気持ちでした。でも、作品が本当にもう面白くて!笑いながら読みました。稽古が始まってみると、歳が近い子が多くて、若者たちのパワーで、みんなで頑張っていこう、っていう雰囲気があったので、最初の不安は無くなってきました。仲間と一緒に作れている感覚があって、頑張ろう、頑張れるぞ、という気持ちになっています。

 

――稽古場の雰囲気はいかがですか?

財木 悪くないですよ。全然ギスギスとかしていないし…。

マキノ それ言うと、ギスギスしたことがあったみたいじゃん(笑)。

財木 いやいや、ほかの現場ではモノが飛んできたりもしたので(笑)。でも本当に、ありがたいことに僕らがやったことに対してマキノさんが「こうやってみたらどうだ?」って言ってくださって、その言葉でまた次の稽古の雰囲気が変わって、いろいろと増していくような感覚が面白いんです。それに、みなさん話しやすい。

那須 マキノさんがちゃんと、何回も何回もうまくいっていないところを繰り返して進めてくださるので、その積み重ねていく感じがすごくいいんです。キャストの年齢が近いので、割とみんなで「どうする?」みたいな話ができるんですよ。友達というか…部活みたいな気分。あー疲れたけど、みんな頑張ろう!みたいな。

マキノ じゃ俺は顧問の先生か(笑)。まだ作っている途中だけど、楽しいですよ。日々、おおそこを掴んだか、っていうところがあって、どんどん芝居が濃くなりつつある。この芝居って、もともと僕たちの日常からは遠い。とてもかけ離れているから、思い切って踏み込んでいくというか、小手先でどうのこうのやっても多分とてもじゃないけど追いつかないんですよ。等身大の僕たち、みたいな芝居じゃないから、もう細胞レベルで創造して血を入れ替えるようなイメージで挑まないと。ちなみに僕、フェイクが好きなんですよ。ちょっとしたフェチというか(笑)。大理石の立派な置物よりも、実は発泡スチロールで出来ているんだけどちゃんと大理石に見えるぞ、みたいなのが燃えるの。そういう意味で、ものすごく目標と志の高いまがい物を一生懸命作っている感じなんだよな。

 

――掴んだ瞬間が見えてくるとのことでしたが、具体的にはどういう部分でしたか?

マキノ 例えば、セリフはもちろん全部日本語なんだけど、英語っぽく聞こえたり、とかね。

那須 そう、それが難しい…。

マキノ いわゆるエセ外国人のカタコトの日本語っていうわけじゃなくて、英語を話す人間の身体運用で日本語を話すとしたらどうなる、っていうことです。すごくハイブリッドなことを求めていて、僕自身も正解を持っているわけじゃない。自分たちの能力ではちょっと追いつかないようなところを求めているし、新しい表現ですから。そこを、それぞれに何か掴んだ瞬間があったな、ということですね。

財木 毎日稽古を重ねていくうちに、あっ今うまくハマったな、っていう感覚があるんです。うまくできた、とも違うし、自己満足かも知れないんですけど。全然違うダメ出しをもらうこともありますしね。でも、そういうものを自分の中に感じることはありますね。ここ最近でセットも組んだ状態での稽古が始まっていて、また感覚も変わってきました。これが本番でまたどんなふうに感覚が変わるかも楽しみ。

マキノ 打撃フォームみたいなもので、素振りをいっぱいやらないとね。いろんなフォームに挑戦しつつ、無駄な力が抜けて、ググっとインパクトのある瞬間を求めるような稽古はしていると思います。あとは、息子のボビーがいかに見えてくるか、だね。ここのところ超速で進歩していると思うよ。だからこそ、欲が出てくるよね。

財木 本読みの期間もしっかり長くとっていただいていていたんですが、ボビーのことについては、本当にわからなかったんですよね。

那須 無対象でやるんです。本読みの時は、裏に隠れてやるのかな、とか思っていたんですが、すべて無対象でやるので、それはびっくりしましたね。本読みの途中で、これは本当に、ボビーがここにいるものとしてやる、ということ…?ってなりました。

マキノ 本当にボビーがここにいるものとしてやる、それって絶対お客さんからみたらおかしくて滑稽なんだよね。でもね、そこが後から効いてくるんだよ。だから、何とかしてボビーが見えたね、っていうふうになりたいね。まあ、頑張ってますよ、みんな。

那須 私はまだ、何か掴めたような実感はないんですけど、普段の稽古とは違いますね。普通だったら手とかのボディランゲージとかはするな、って言われるんですけど、今回は、体の動きはものすごくやる。最初は恥ずかしかったんですけど、だんだん慣れてきました。

財木 昨日、別の仕事の現場でバラエティだったんだけど、体の動きが大きくなっちゃってて(笑)。あ、違う違う!って思ったんだけど、この稽古の期間中は仕方ないかな。コンビニのレジでセンキュー、電話を取ってアーハン?みたいな(笑)。

 

――物語の舞台は1940年代のハリウッドから時間が進んでいきます。この時代のハリウッドにどんなイメージをお持ちですか?

那須 ハリウッド映画と言っても、私が生まれるちょっと前くらいの作品は観たことがあっても、白黒映画までは私は観たことがなくて。この時代にどんな映画がつくられていたのか、というところから観たんですが、思っていたのと全然違いました。意外と展開が早いのに、謎の長いショットとかあるんですよね。あと、最初に全部説明しちゃうとか。今は何年でどこそこで何々がありました――みたいな。ここ最近で昔のハリウッドを題材にした映画とかもあって、そういうのも観ましたね。

マキノ 当時のプログラムピクチャーって割と1本1本が短かったりするから、見やすいと言えば見やすいんだよね。90分とか100分くらいだから。

那須 そうなんですよね。あっという間に終わるんですけど、急に進んだ!?ってなったり(笑)。でも、面白かったです。

財木 僕は逆に全然わからなかった(笑)。それでも、チャップリンは面白かったな。早送りしているのか分からないけど、そういう無声映画の動きは面白かったです。

 

――作中では頑張っている人々が、大きな力によって制約を受けてしまう様子が描かれます。役を演じる中で、何か感じるものはありましたか。

財木 シンプルに、カッコいいと思いました。抑制があった時代に、映画というものに向かって若い役者や監督、いろんな人が集まって、壁にぶち当たりながらも立ち向かっていく。自分自身も、出合っていく作品に対してそういう気持ちでいたいと思わされました。

那須 最初の方では、戦争なんか関係なく、怖いもの知らずで突き進んでいく、みたいなセリフもあるんです。けれど、やっぱり人間の弱い部分が出てきてしまって、友達のことを密告してしまったりする場面もあるんですね。時代の流れに負けてしまう人間の弱さを、マキノさんはしっかりと描いているんだと思います。そんな中で、私が演じるシェリーは、巻き込まれずに何とか立ち続けなければいけない。この間の稽古で、マキノさんが「泣きたいんだけど、泣いたら大きな邪悪なものに負けてしまうから、声を抑えて泣いてくれ」っておっしゃっていて、すごく胸に響きました。ちょっと今の世界にも近い感覚があったんです。何か目には見えないけれど怖いものがあって、それに負けないように立つ。表現者として、すごく大切なことだと思いました。

財木 そのとき、すごく鳥肌が立ったの覚えてる。

那須 役者としてのプライドだよね。多分、負けてしまったらもはや自分じゃなくなってしまう、というプライドだと思います。

 

――今、この作品をやる意味がそういう部分にもあるような気がしてきました。

マキノ 特に狙ったわけでは無いんだけどね。そういう目的で書いたものでもないし。作品を書いた頃は、ああこんな辛く悲しい時代があったんだ、という思いだったけど、ふと気が付いてみると、いつのまにかヒタヒタと悪い予感が忍び寄っているような感覚はあります。遠い過去のつもりで書いたものが、今やそう遠くない未来なのかもしれない、というか。社会の空気が強張っているという部分では、近いものがあると思いますね。

 

――最後に、公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします。

財木 マキノさんの言葉をお借りすると、まずはこちらが全力で嘘をついていく。その嘘を楽しんでいただきたいですね。そして、僕の最初の登場シーンでは…みなさんをアッと驚かせたい。お客さんに座席に座ってもらってから、グッとこの作品に引き込んでいくためにも、最初が重要なシーンになってくるので。

マキノ 開始3分でもう巻き込んでしまいたいよね。

財木 というお話をすごくしていただいているので、すべてのシーンが大切ですが、まずは冒頭でしっかりとみなさんを引き込んでいきたいと思います!

那須 赤狩りなどのテーマもありますが、やっぱりマキノさんの描く物語はエンターテインメントだなとすごく思っていて、本当に今、カッコつけて稽古をしています。イカした男とイカした女が、イカした時代を生きてるぜ!っていう感じなので、それを“カッケーな!”と思っていただけたら嬉しいです。楽しみにしていてください。

マキノ 基本、娯楽作品ですので、構えずに来ていただければ老若男女、どんな方でも楽しんでいただけます。プラス、思いがけない感動もお約束します。きっと、ご想像とは違う形の何かを感じ取っていただけると思っていますので、ぜひたくさんいらしていただきたいです。

 

ライター:宮崎新之