Photo by Leslie Kee
8年ぶりの上演となるミュージカル『レイディ・ベス』。
エリザベス1世の半生を描く歴史ロマン大作ミュージカルで、主役のレイディ・ベス(以下べス)を演じるのは、乃木坂46のメンバーで次々とグランドミュージカルのヒロインを演じている奥田いろはと、ミュージカルを中心に数々の作品でその実力を発揮してきた小南満佑子。
共に初主演で、新たなカンパニーの中心に立つ。『エリザベート』『モーツァルト!』などの名作を生んだ巨匠ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイと、日本ミュージカル界のヒットメーカー小池修一郎がタッグを組み、2014年に帝国劇場で世界初演を迎え、2017年に再演した。奥田と小南に今の思いを聞いた。
初主演は今までに感じたことのないプレッシャー
ーー今作の主演が決まった時のお気持ちをお聞かせください。
奥田:嬉しさよりも、今までに感じたことのないプレッシャーと不安が大きかったです。でも、オーディションを受けたくて受けましたので、この作品を頑張らなければという気持ちがすごく大きかったです。
ーー受けたくて受けたという思いはどんなところからあったのですか。
奥田:作品を観させていただいた時に、まずベスの人柄に魅力を感じました。そして、楽曲が素敵で、歌いたい気持ちが強かったんです。私は専門的な音楽の知識がないのであまり分からないのですが、歌を練習していく中で、どんどん好きになって、この素敵な楽曲たちを皆様に届けたい思いが大きかったと思います。
ーー小南さんはいかがでしょうか?
小南:『レ・ミゼラブル』のアンサンブルとしてデビューして10年目になるのですが、まさか自分が主演として日生劇場の0番に立たせていただくことができるとは思ってもみませんでした。
ーー目指すお気持ちはなかったのですか?
小南:もちろん憧れはありましたが、簡単なことではないことはこの10年間、素晴らしい先輩方の座長、主演姿を拝見していて感じていましたので、そんなお役目をいただけることを光栄に思いました。今まで支えてくださったスタッフさん、お仕事で関わった方や俳優の先輩方のお力なしには、この場にいられないと思うので、まず皆さんへの感謝の気持ちが募りました。
いろはちゃんも言っていたように、選んでいただいたことに対しての喜びももちろんですが、やはり責任を強く感じました。嬉しい!ありがとうございます!というよりは、これは大変なお役目を頂いたなと思いました。
任せて頂いたからには、それを自信に変えて、精一杯務めるしかないと根性が座りました。
ーー今、お互いに思いを共有する感覚でしょうか?
奥田:すごくそう思いました! えっと……緊張していて……!
小南:本当にいろはちゃん、可愛い!
奥田:すみません。今おっしゃったことにすごく共感したんです。
小南:今日初めてお会いするんです。
奥田:そうなんです……先ほど初対面でご挨拶させていただいて。
小南:歌番組などでずっと拝見していました。
奥田:私もです……!
小南:数日前もFNS歌謡祭を見ながら、めちゃくちゃ可愛い!と思って。
奥田:今日初対面だったので、昨日鏡に向かって挨拶をする練習をしてたんです。だけど、先ほど楽屋で挨拶をしてくださった時に、ふいだったので、ちくわをもぐもぐしながら出てしまって、大後悔していて……。
小南:本当に?
奥田:本当です……。
小南:エピソードが可愛いすぎ!!(笑)
奥田:だから悔しくて。
小南:そんなそんなとんでもないです。
奥田:“ちくわな子”じゃなくて、“ちゃんとした子”だって思われたかったんです。
小南:ちくわな子ってどんな子……(笑)。ちくわな子、可愛いです。
奥田:とんでもないです。普段は関西弁なんですか?
小南:関西出身なのでつい出てしまいます。
奥田:初めて聞いて嬉しかったです。
小南:嬉しい。こんな可愛らしい方と一緒に出来るなんて恐縮です。
奥田:お姉さまで嬉しいです。
小南:私もちくわを食べようかな。
奥田:(笑)。
ベスが“レイディ”から“クイーン”になるまでに親近感
ーーベスの人柄について、ご自身に近いなとか、学びがあると思うことなどはありますか?
奥田:私は好奇心が旺盛なので、そういうところは近いのかなと思っています。そして、いろいろな葛藤がある中で、どんどんたくましく強く生き抜いて成長していく姿に心を打たれました。皆さんが感情移入しやすい人物だと思うので、感情をぶつけられたらいいなと思っております。
ーーすでに応援したい気持ちになっています。
奥田:本当ですか!? 本当に頑張ります!
ーー小南さんはいかがでしょうか?
小南:エリザベス女王は世界的に有名ですが、どこかファンタジーのイメージがあります。この作品では、彼女が女王になるまでが描かれていて、生まれながらに背負った運命はありますが、ごくごく普通の女性であって、思ったこと、やってみたいこと、見てみたいものが、普通の人と同じようにあるところが、自然に表現されているのが作品の大きな魅力だと思っています。
彼女が“レイディ”から“クイーン”になるまでの道のりにどこか親近感があって、共感する部分も多いように感じるので、そこを丁寧に積み上げていけたらと思っています。
ーーご自身と内面的に似ているなと思うところはありますか?
小南:割と責任感が強いところが似ているかなと思っています。
とは言え、心の中ではワタワタしているんですけどね。
任されたら、頑張ります!と、肝が座っているところがあります。
ーー今まで演じられたお役とは、ちょっと違うタイプのお役かなと思います。
小南:小池先生が私をベスにと思ってくださったのは、きっと今まで演じてきたお役の何かの側面を受け取ってくださったからだと思うので、これまで私を成長させてくださった作品やお役にも敬意を持って、エリザベス女王を生きるような感覚で、しっかりと毎公演毎公演を大事に立っていきたいです。
「秘めた想い」その曲の中で成長していけたらいい
ーーオーディションの楽曲について、どんな思いで、どんな準備をしてのぞまれたのか、小池先生からのお話で今後の役作りのヒントになりそうなことなど教えてください。
奥田:「秘めた想い」を歌わせていただきました。2回ありまして、1回目は歌唱指導のようにお話をいただきました。自分の解釈で結構深く声を作っていったんですが、曲の最初はまだそこまでではなくて、その曲の中で成長していけたらいいと伺って、なるほどと理解して、少し歌い方を変えて2回目に挑ませていただいたりしました。
ーーご自身のなかでは手応えがありましたか?
奥田:オーディションを受けに行くと思うと、とても緊張してしまうタイプなので、ここにいられるだけでというか、この指導を受けさせていただけるだけで、もう私は得をしたと思って、そこに結果がついてきたらとてもありがたいですが、そこで学ばせていただくことが、まずひとつありがたいなと思っていました。ですので、合格のお話をいただいた時は、本当に私ですか?と思いました。
ーー小南さんはオーディションについていかがでしたか?
小南:オーディションのお話をいただいた時に、私が受けられるの!?といった気持ちでした。今までもたくさんのオーディションを受けてきましたが、自分の実力はもちろん、運とタイミングがあるので、何が正解か本当にいまだにわからないんです。正解などないかもしれませんが、、、。
ただ、実在した女性の人生を生きることを大事にしなければいけない。歌のスキルや表現方法ももちろん、根底から彼女を理解して、彼女の魂と対話する気持ちで挑まなければと。それ程にベスは生まれる前から壮絶な人生や物語がある人だと感じています。
だからこそ、生半可な想いで臨んではいけないと思い、片っ端から本を読んだり映画を見て、彼女を知り、勉強することを始めました。
「秘めた思い」を歌うにあたりすごく手助けになりました。
実際に選んでいただいたときも、国も時代も違うけれども、日本で『レイディ・ベス』という作品を通して、エリザベス女王の生きた証を、私が伝えるお役目をいただいたのかなと。そうであれば、敬意を持って、全身全霊で挑まなければと、彼女にも応援してもらえるようにと思っています。
ーーお二人とも責任感を感じていらっしゃるんですね。周りの反応はいかがでしたか? 小南さんは、SNSでお兄さまもお喜びになっていましたね。
小南:私は小池先生と初めてご一緒させていただきますが、兄は『エリザベート』や『ロミオ&ジュリエット』などの作品でご一緒させていただいていたので、最初はすごく緊張していたんですが、兄のおかげで、皆さんが私をアットホームに迎えてくださったのが救いでした。
兄も、家族も、マネージャーさんも、みんな主演や座長の重みを分かっていますし、私は責任を持って、そして感謝の気持ちで、精一杯演じることしかできないなと思っています。リードすることはまだまだできないので、みんなで一緒に手と手を取り合って走っていけたらと思います。
ーー奥田さんは抜擢が続いていますが、主演になると周りの反響も違ったんじゃないですか?
奥田:そうですね。ファンの方々もすごく驚いていました。いつかと私も夢見ていましたし、ファンの方も同じように思ってくださっていたみたいですが、その「いつか」がこんなにも早く叶うなんてときっと驚かれたでしょうし、私も驚きました。
そして、ミュージカル界の中では本当に新参者なので、今自分に自信がないんですが、選んでくださった方が私の見えないところにたくさんいらっしゃって、信じて選んでくださったのだと思うので、その方々に誠実になれたらいいのかなと思っております。
ベスが戴冠するときの姿、王冠の重み
ーービジュアル撮影の話を伺わせてください。この扮装をすることはどんな時間だったでしょうか?
奥田:これまで着させていただいた衣裳の中でもとても豪華で、物理的な重さもやっぱりすごいです。物語の中でベスがこのドレスを着る瞬間がやってくるんですが、そこまでに私自身もベスとしても、このドレスにふさわしい人にならなければいけない、成長していかなければいけないなと、その重みを強く感じました。
ーー王冠を被るというのは、ベスならではだと思います。
奥田:本当に一番ラストに王冠がやってくるので……(ため息)。この王冠だけじゃなくて、いろいろなものを乗せられる感覚というか。責任もそうですし、国を背負う、そういういろんな重みを感じながら、そのシーンを迎えられたらいいのかなと思います。
ーー小南さんはビジュアル撮影はいかがでしたか?
小南:衣裳の生澤(美子)さんがすごくこだわって、本当にミリ単位で、いろんな調整をしてくださるんです。生澤さんのチームの皆さんの愛がこもったお衣裳を着ることができて嬉しかったです。すごく重厚感のあるドレスで、背筋が伸びるというか、伸びていなければいけない衣裳でした。
彼女が戴冠するときはこの姿だったわけですが、歌詞にもある、これまで育てて導いてくださった方々がいて、そこからはひとりで歩いていくという象徴的なものだと考えています。
今、日本でも女性が総理大臣になりましたが、この時代に女性が一人で国を支え、引っ張っていくことが、どれだけすごかったんだろうと考えると、やはり男社会の中で彼女が貫いてきた精神は、はかりしれないと思います。
シンクロしている部分もあるからこそ、この作品を通じて、女性が前を向いて、自信を持って歩いていけるようなメッセージを描くことができたら嬉しいなと思っています。
ーー王冠の重みの感覚は、やはりそこにつながりましたか?
小南:すごく重たかったですね。
当時の写真と見比べても、違うところを探さないといけないくらいに、精密に再現されているんです。王冠を被っているのは舞台上で一瞬ではありますが、いろはちゃんも言っていたように、何かを託された感じですね。
いかにして彼女がクイーンになって選ばれて歩んでいったか。その後40年イングランドを守り続けて世界にどういう影響を及ぼしたのか、この衣装ひとつでもメッセージとストーリーが聞こえてくる気がしました。
レスリー(・キー)さんが撮影してくださったんですが、この物語にしっかりと沿うように作ってくださって、夢のような撮影時間でした。
ーー奥田さんは、レスリーさんの撮影はいかがでしたか?
奥田:以前一度ロミジュリでもレスリーさんに撮っていただいたことがあるんです。とても素敵に撮ってくださいます。この写真はまっすぐ立っているんですが、斜めになって風を吹いて撮っていただいたカットがあって、ドレスの重みもあってプルプルしながら撮っていたんですけど、写真の仕上がりを見たらとてもかっこよくて、これはレスリーさんにしか出せない写真なんだろうなと思いました。
小南:私も斜めになって撮りました!
レスリーさんって、こっち向いて、あっち向いて、正面向いて、カメラみてと、本当に細かい指示をしてくださるんです。私たちはその通りに動いているだけなんですが、仕上がりを見たらすごいんです。本当に綺麗!って思っちゃった!(笑)
奥田:わかります!
小南:本当にベスにしてくださっているんですよ。さすがレスリーさんだと思いましたし、本当に美しさを引き出す、私が申し上げるのはおこがましいですがプロフェッショナルだなと身をもって感じました。
奥に秘めたものである方が、より強く見える
ーーお二人の高音の歌声が印象的なのですが、ベスは歌い上げる楽曲も多いかと思います。この楽曲を歌うにあたって、歌い方について意識していたり、考えていることはありますか?
奥田:あります。私は普通に歌うと結構幼さを感じてしまったりするのですが、ベスは責任感を感じる役でもありますから、声から皆さんにちゃんと届けたいと思っています。先程も少しお話したんですが、ちょっと深めに作ってみたり、「嫌だ!」という気持ちを叫びたいときは、裏声より地声の方が、きっと観ている方にも気持ちがいいですし、私も感情を乗せられると思うんです。ただ、ソプラノよりは苦手意識があるので、今はボイトレでたくさん練習しています。
ーー地声のゾーンで歌うのはお好きですか?
奥田:あまり普段は歌わないですね。
ーーかわいらしいお声の印象がすごくあって。
奥田:本当ですか。
小南:私もです。
ーーソプラノもすごくハリがあって、強い声を出されるなと思いました。
奥田:嬉しいです。
ーー特訓をして今ベスの声を作っていらっしゃるんですね。
奥田:そうですね。いろいろ役とか曲に合わせて作ってみています。
ーー小南さんは歌声についてどんなことを考えていますか?
小南:小池先生が、彼女はすごく強いけれど、それが体の奥というか、すごく深いところにある人なので、その強さというものを前面に出しすぎるよりは、もっと奥に秘めたものである方が、より強く見えるとおっしゃっていたのが印象的です。
強いけれども、気品があって、品性があって、その部分を忘れてはいけない。
言葉の選び方や紡ぎ方に、ベスの人柄が出るような気がしているので大切に作っていきたいと思っています。
ーー今日、今までのお互いのお話を通して、新しい印象が沸きましたか?
小南:かわいい。ひたすらかわいいです。
奥田:私はすでに尊敬の眼差しというか。言語化するのがとても苦手なので、むずがゆいところに全て手を差し伸べてくださって。私もこういう大人になりたいと思ってずっと聞いていました。
小南:いやいやいや(照笑)。
ーーいろいろな交換ができそうですね。
小南:そうですね。
二十歳の初々しさや輝きというものが、今すでに伝わってくるので、そういったいろはちゃんにしか出せないベス像があると思うので、お互いに支え合っていけたらと思います。
奥田:よろしくお願いします。もう本当に、私はいいところを吸収させていただこうという気持ちでいっぱいなので、たくさん学ばせていただく期間になるだろうなと思っております。
小南:恐れ多いです。
頂いた機会を楽しんで、ベスを生きていきたい
ーーこれまでのさまざまな出会いを通して、新しい考え方や影響をうけたこと、大事にしている言葉など、出会いを通して受け取ったことはありますか?
奥田:私がご一緒した方の中で素敵だなと思うのが、常に謙虚で、努力を惜しまない姿で、強く心を打たれますし、そうでなければいけないと感じていました。本当に、私は今伸び代しかないと思うので、たくさんの素敵な方々に囲まれているこの座組ですし、皆さんからいただくいろいろな知恵やアドバイスを柔軟に素直に受け取って、素敵なベスに、素敵な人になれたらいいなと思います。
小南:小池先生に選んでいただいたときに、
「もうあなたはプリンセスなんだから、あまり気負わずに柔軟に楽しんでやってください」と言われたんです。そんな風に言っていただけることはがすごくありがたいのですが私としてはいろんな責任を自分の中で背負いすぎて、今、二宮金次郎状態なんです(笑)。
奥田:背負いすぎて…!
小南:でもそうなると自分らしい表現がきっとできなくなっていくんですよね。
あまり考えすぎず、のびのびと楽しんでくださいと言っていただいたので、小池先生の大船に乗った気持ちでいます。いろいろともがきながら作っていくだろうと思いますが、それも楽しみながら、この頂いた機会を存分に楽しんで、ベスを生きていきたいと思っています。
ーー楽しむことも大事ですよね。
小南:そうですね。
ーー奥田さんは楽しみにしていることはありますか?
奥田:楽しもうという気持ちは無理だなと思っていたのですが、それもすごく大事な部分だなと、お話を伺っていて思ったので、楽しめるぐらい、いろんなところに余裕もちゃんと残しつつ、頑張りたいなと思います。
ーー最後に、作品への意気込みをお聞かせください。
奥田:私が『レイディ・ベス』を初めて観たときに、ベスの生き方や人としての魅力、楽曲や世界観、全てに強く心を打たれました。ベスが若いながらに、いろんな壁にぶち当たりながら、くじけながらも、強くたくましく信念を持って生きていく姿を、観てくださる皆様にも、届けられたらと思っています。ぜひ劇場に来て、全身で世界観を浴びてくださったら嬉しいです。
小南:初演で平野綾さんが演じていらっしゃったベスですが、私の初舞台の時にご一緒させていただき、とても可愛がっていただきました。
「この役を満佑子ちゃんに引き継いでもらえることがすごく嬉しい」と温かいメッセージをいただいたので、花總まりさんと綾さんがお作りになられた作品を、新しいキャストでいかにして作り上げていくか、私も楽しみでならないです。
ベスが何を思って何を希望として歩んできたのか、ぜひ劇場に来て体感していただきたいと思います。
(取材・文 岩村美佳)
