青木豪による書き下ろし最新作を、河原雅彦が演出する新作舞台『黒白珠(こくびゃくじゅ)』が6月から7月にかけて上演される。
1990年代の長崎を舞台に、同じ刻(とき)に生を受けた双子の兄弟が、家族を愛しながらも愛に飢え、逃れられない運命をもがきながら、さながら聖書のカインとアベルのように、葛藤とすれ違いの中に紡がれてゆく人間ドラマが描かれる作品になるという。
本作を書いた青木豪と、兄を演じる松下優也、弟を演じる平間壮一に話を聞いた。
――まずは、なぜこの作品ができたのかから教えてください。
青木「まずプロデューサーから『エデンの東』(ジョン・スタインベックの小説)をモチーフに、舞台を日本にしたドラマをやらないかという話がありました。僕は前に一度『エデンの東』の脚本も書いているんですけど(’05年/松本潤主演『エデンの東』)、今回、改めて小説を読み直しまして。実は、みんながよく知ってる映画『エデンの東』(1955年/ジェームズ・ディーン主演)って、小説全4巻の4巻のみの話なんですよ。1~3巻にはそのお父さんとお母さんの話が割とメインで、だけど3巻までのことを4巻までの登場人物は割と知らないんです。今回書くうえでそこが一番面白いところだなと思って」
――親の物語を知らない、という部分ということでしょうか。
青木「僕はもう両親が亡くなっているのですが、亡くなると周りの人から『あのとき、ああだったのよ』みたいな話を聞くようになりました。すると見方が変わってくるんですよね。もともとは、やっぱり親に影響されてものを見ているから。そうじゃない話を聞くと『あのとき俺は親と同じように見ていたけど、違ったんだな』って体験をして。ある程度大人になった人間が、両親が実はどうやって生きていたんだろうとか、自分が生まれる前はなんだったんだろうとかいうことをだんだん知っていく話になれば、自分の中で腑に落ちるなと思いました。それで物語を新たに組み直した感じです」
――舞台を長崎にした理由は?
青木「僕は神奈川県で生まれ育ったのですが、以前、長崎に行ったときに『なんか横浜に似てるな』っていう印象があって。だったら佐世保という町は横須賀に似ているだろうなって思ったんですよ。地理的条件もそうだし、米軍基地もあるし。それで実際に行ってみたら、駅前なんて『横須賀じゃねーか』っていう感じで(笑)。だから、自分の話を書くわけではないけれど、思い入れとしてね。自分の町のような感覚で長崎や佐世保を捉えられるなって感じがしたので。それでそこを舞台にしてみました」
――松下さんと平間さんはこの話がきたとき、どう思われましたか?
松下「僕は素直に嬉しかったです。お話をいただいたときに、脚本が青木豪さん、演出が河原さんだというのを聞いて、いろいろ関係なく『やりたいな』と思いました。お声がかかることが嬉しかった。青木豪さんと仕事させてもらうのも、河原さんとお仕事させてもらうのも久しぶりなので。壮ちゃんとの共演もめっちゃ嬉しくて。だから……いけると思います!」
平間「(笑)。僕も楽しみでしかなかったです。なにがこの作品のなかで起こるんだろうって。優也だし、河原さんだし。豪さんとも、2012年に舞台『ロミオ&ジュリエット』(上演台本)でやらせてもらって以来なので、成長ぶりを見せなきゃとも思いますし」
――おふたりはあらすじを読まれた段階だそうですね。
平間「だから探ってるところだよね(笑)」
松下「うん(笑)。でもそもそも生い立ちというか、役と自分は決して遠くはないなと思いました」
――松下さんが演じるのは18歳の双子の兄・勇(いさむ)で、高校を中退して父親の会社で働いているという役ですね。親は離婚していて、兄弟共にお父さんに育てられている。
松下「僕も小学校6年生のときに、こういう世界に入りたいと思って歌とダンスをやり始めたので。学校にあまり行ってなかったんですよ。それに勇はお母さんのことをほとんど知りませんが、僕も母子家庭で父の顔を見たことがない。そういう共通点みたいなものはあるなと思っているので、よりやり甲斐を感じていますし、入っていきやすいのかなと思っています。ただ長崎という部分が難しいかなと思いますけど」
――長崎弁なんですか?
青木「そうですね」
――平間さんは、父親から偏愛を受ける双子の弟・光(ひかり)役です。
平間「優也と仲がいいので兄弟感もあるし、すごくいいんじゃないかと思っています。ちなみに僕もダンスは小さいときに始めたので、学校もあまり行かずスタジオに籠ったりしていましたけどね。今回、すごく思い入れのある作品になりそうな予感はします」
――そんなおふたりの勇と光という双子はどういうキャラクターとして生まれつつありますか?
青木「光は学校のお勉強が得意で、勇はそっちが苦手でっていう感じかな。でも勇のほうには彼女がいます。自分が18歳くらいのとき、モテないってことに対してものすごくコンプレックスが強かったんです。それで、勉強が得意なほうが、彼女がいて実社会に出ている人間に対してのコンプレックスはあるだろうなとか、そういうふうに考えてつくっているところです。どっちにも黒い部分も白い部分もある感じ。どっちかっていう人はあまりいないから」
――松下さんは『花より男子 The Musical』、平間さんは『ロミオ&ジュリエット』で青木さんが脚本を書かれた作品に出ていらっしゃいますが。
青木「でも今回、初めて当て書きという感じになるので。僕は役者さんが決まらないと書けないんですよ。ふたりの動画もだいぶ観ました。観ているうちに、ストレートプレイだけど歌ったらどうかなとか思って。だけどどうやっても入らなくて(笑)」
松下「入らなくて大丈夫ですよ(笑)」
青木「お客さんも観たいだろうなと思うと、つい(笑)。でもそぐわない、この作品には」
――今回の演出は河原さんですが、おふたりは『THE ALUCARD SHOW』(’13/’14再演)で河原さんの演出は受けていらっしゃいますが、ストレートプレイでは初めてですよね。
松下「そうですね。僕は純粋に好きです。演出も好きだし。思いっきり乗っかれる感じ。わからないことをわからないと言えるし、安心してできるなって。ピリつく瞬間もありますが、緊張感があるほうがいいものができることもあるんじゃないかなとも思うし」
平間「河原さんって、“仕事モード”の松下優也と平間壮一じゃなくて、“素の状態”のまま稽古場でぶつかりあえる方なんですよ。河原さんも本気で来てくれるから、こっちも本気で向き合える。そういう現場をつくってくれるのが河原さんだなと思っていて。『THE ALUCARD SHOW』でも、ダンスを踊るけどそれを“ダンス”として捉えていないというか。表現をしないといけないから、カッコつけて踊っているだけじゃダメだぞっていう方で。うまくやればいいとか、丁寧に台詞を言えばいいとか、そういうところじゃなくて、中身からぶつかっていかないと通用しない人っていう面ですごく大好きな演出家さんです」
――青木さんは河原さんとはM&Oplaysプロデュース『八犬伝』(’13)でも組まれていますが、今回はどういうところに期待されていますか?
青木「“ちょっと狭い”っていうので書いてみたらどういうふうにやってくれるなって期待してます。今回みたいに劇場が広いとどうしても歌わなきゃ踊らなきゃってなるけど、河原くんがシス・カンパニーでやった『父帰る/屋上の狂人』(’06)のような、本来だったらものすごく狭い空間でしかできないようなものをちゃんと広いところでも見せている感じがあるので。だから狭いところを安心して書こうって」
――ご自身が演出しない作品を書くときは、なにか違いはありますか?
青木「『そんなのできないだろ』ってことを書きます(笑)。それが楽しみなんですよ。昔はすべての絵が頭の中にあって脚本を書いていたのですが、そうすると他の演出の方にまかせたときにそのギャップでイライラしちゃう。でもそれって誰に対しても失礼だなと思って。それで、蜷川幸雄さんとやったときに、蜷川さんだったら意味不明なこと書いてもやってくれるだろうと思って無茶書いたんですけど(笑)、舞台になったのを観て『やっぱすごいな』と思いました。それ以来、ところどころ絶対に自分にはできないってことを書き込んでみる。そうするとお互いに化学反応があるかなと思ってます」
インタビュー・文/中川實穂