デキメン列伝 第2回 上口耕平

“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!

【第2回】 上口耕平  KOHEI UEGUCHI

“展開”を楽しんで、ポジティブな方向に持っていくのは得意です


Writer’s view

弾けるような表情でキレッキレに、心から楽しそうに踊るこの人がいると、大人数の群舞のシーンでも目を奪われずにいられません。2人目のデキメンとしてご登場いただいたのは“視線泥棒”上口耕平さん。ミュージカルファンには元気な若手としておなじみですが、昨年末の「聖☆明治座 るの祭典」への出演で、若手男優ファンにも“デキるお兄さん”として認識されたはず。エンターティナーとしてのこれまでの道のりと、知りたかったその笑顔と元気の秘密もたっぷり伺いました。

取材・文/武田吏都

 

――最近の出演作は昨年末の「聖☆明治座 るの祭典」(’14)。る・ひまわり製作のこのシリーズには初参加でしたが、出演してみていかがでしたか?

上口 史実とはまた異なる明智光秀役だったんですが、いつもはポジティブな楽しい役を演じさせていただくことが多いので、悪役と言いますか、ああいう捻じ曲がった性格の人間を演じるのは初めてですごく新鮮でした。正直悪くないな、やってて気持ちはいいなと思いました(笑)。役者としてひとつのイメージだけでなく、振れ幅大きく生きていきたいと思っているので、ある意味待っていたというか、そういう機会が与えられてありがたかったです。

「聖☆明治座 るの祭典」(’14) 撮影/宮川舞子

 

――第二部のショーでは打って変わり、架空のアイドルユニット「バルト☆5」としてフリフリの衣裳で、キラキラのオーラを振りまいて(笑)。

上口 「CLUB SEVEN」(’12、’13)でああいう格好はしていたので、抵抗はなかったです(笑)。どっちかというと周りのメンバーの方が「こんな衣裳着たことないよー」みたいな感じだったんですけど、僕は意外となんの抵抗もなく、スルリと(笑)。

「聖☆明治座 るの祭典」(’14) 撮影/宮川舞子

 

――この作品のキャストが発表されたとき、上口さんの参加に少し驚きました。常連メンバーの若手男優が多い印象のこのシリーズで、ほぼ唯一のミュージカル畑からの参戦という形でしたよね。ご本人としては、ちょっと違う畑の仕事というような感覚はなかったですか?

上口 やっぱり、新しい場所という感覚はありましたね。周りは皆さん顔見知りで何度も共演されてるという中で、ちょっと言い方悪いですけどアウェイというか。そして年齢的にも上の部類だったので、周りの年下の子たちからしても「このお兄さんはいったい何者なんだろう?」というスタートだったと思います。でも稽古を重ねるうちにみんな仲良くなって、最終的にはすごく仲間になりました。現場でも、普段ミュージカルの舞台に立たせてもらっている経験というかニオイを少しでも出せたら周りのみんなの刺激になるんじゃないかと思ったり、歌も歌い方によってはこんなに面白くなるんだよ、みたいなことを少しは伝えられたかと。

 

――稽古場では、ダンスや歌のリーダー的ポジションを?

上口 何かあったら任されるという感じではあったんですけど。ダンスはもともと一生懸命やっている方が多かったのでそれほどではなかったですけどね。

 

――上口さんが年長格というのも珍しいですよね。これまでの現場ではむしろ、後輩キャラのイメージでした。

上口 そうなんですよ! それもすごく新鮮で。自分たちが同じ年代だった頃のことを思い出すと、今の子たち(笑)はアドリブ力とか機転が利くし、芝居に対してすごく真剣なところが刺激にもなりました。あと、すごく慕ってくれたんですよ。「コーヘイさん、コーヘイさん!」って来られて「お、おぅ……」っていうか(笑)、少しお兄ちゃんになった気持ちで、ちょっとかわいいなと思ってしまいました(笑)。

 

――結果、上口さんにとって新しいファンをたくさん獲得した作品になりました。

上口 ありがたいですね。やっぱりずっと続いてきたる・ひまわりさんの作品なので、その空気感を壊さずに、違う空気だけど作品のいいエッセンスになっているという立場でいたかったので。場違いという感じにはならずに受け入れていただいたのが、すごくうれしかったです。

 

――その「るの祭典」や「CLUB SEVEN」でも感じたことですが、特に群舞でのアピール力がものすごいですよね。つい目が行ってしまう、まさに“視線泥棒”で、テクニックだけではない何かがあるというか。

上口 ありがとうございます(笑)。僕はもともとダンスからスタートしている人間なんですけど、初めて舞台の上で踊った小学生のとき、今まで感じたことのないなんとも言えない快感があって。そのときに初めて「観て!」と思ったのを覚えています。なんか、理由なく。

 

――もともと目立ちたがり屋の子供だった?

上口 自分では全然覚えてないんですけど親戚の話によると、親戚が集まると勉強机にあるライトをスポットライトのように設置して自分に当てて、何か曲をかけろとアピールしてたと(笑)。で、歌ったり踊ったり、なんかパフォーマンスをするらしいんですが、親戚が見てないと泣いたという(笑)。それが3歳ぐらいの話ですね。

 

――そういう性格が高じて、現在の上口さんがあると(笑)。

上口 もう少しして、5、6歳から田舎のダンススタジオに通い始めて、それが本格的なスタートですね。ただ、目立ちたい、発信したいというのは昔から変わらずで、小学校も中学校も生徒会長で、校則を変えたりとかしていました(笑)。目立ちたいというよりは、発信したい、ですかね。例えば誰に頼まれたわけじゃないけど自分で新聞を発行してクラスのみんなに配ったり。内容は「宇宙船が校庭に!」みたいな嘘のニュースで、要は「これって面白くない?」って思ったら伝えたくてしょうがない。本気で漫画家を目指していた時期もありましたし、じーっとこもって何かをやることが好きな、ちょっとオタク気質でもあったりして。

 

――ただ、数ある“発信”のための表現の中で、一番しっくり来たのがダンスだったと。

上口 ダンスとか、舞台の上で演じること。これも家族から聞いた話ですけど、リズム感みたいなものは小さい頃からわりとあったみたいです。何か曲をかけると普通の子供はそれに合わせてゆっくり体を揺らすような感じなんですけど、僕の場合はなんか小刻みにこう、震えていたらしくて(笑)。母親は最初、「この子、なんかヘンなのかな?」と思ったらしいんですけど(笑)、父親が「これはリズムを刻んでいるんじゃないか?」と言って、洋楽のファンキーな曲やロックを流したりしていたそうです。

 

――そういえば、「るの祭典」でもモノマネを披露していましたが、上口さんの人生に多大な影響を及ぼしているのがマイケル・ジャクソンですよね。

上口 そうですね、大きいです。出会いは、小学校1、2年くらいにダンススタジオの先生にたまたま見せてもらった「リメンバー・ザ・タイム」というPV。あれを観たときほんとに稲妻のような衝撃が走って、全てが変わりました。僕、和歌山のほんとに田舎育ちで、家の裏が山だったから木に登って遊んだりしてたんです。そんな環境だから、そういうアーティストみたいなことは誰もやっていないし誰も興味がないし、周りがサッカーとか野球をやっている中で、ダンスをやってる自分はちょっとヘンなヤツって感じだったんですね。だからいずれ辞めるものだと思っていたんですけど、そのPVを見て全てが変わって「これだ!」と。そう思いながらも“これ”って何なのかはよくわからなかったんですけど、世界観を発信する人、みたいなところに衝撃を受けたんだと思います。ダンスだけではなくて、あのPVには歌やお芝居の世界も入っていますから、全部含めてトータル的にダーン!ってきました。そこから毎日、学校から帰ってランドセル下ろしたらPVをスローで見て角度から何から全部マネして、一人で延々と「ダッ! ェアッ!」ってやってました(笑)。そこが原点でもはや日常だったので、「るの祭典」でやったネタなんかは僕にとってはモノマネでもなんでもないんですよ(笑)。そのマイケル・ジャクソンはもちろんですが、もう一人、サミー・デイヴィスJr.も最高に憧れるエンターティナーですね。

 

――そこからずっとダンスは継続しつつ、芸能界デビューは、2002年のドラマ「ごくせん」。大ヒットドラマの第一シリーズで、今振り返ると錚々たる顔ぶれが同級生役で出演していた作品でした。どんな思い出がありますか?

上口 男ばっかりでほとんどが10代だったので、「静かにしろ!」「テメーら、いい加減にしろよ!」って監督にしょっちゅう怒鳴られたり、ほんと男子校みたいでした。すごく楽しかったです。その中で、僕は一人だけ本当の高校生だったんですよ。一番年が近かったのが松山ケンイチくんで、(小栗)旬くんとかとも一緒にJRに乗って現場に通ったりしていた頃ですね。懐かしいです。

 

――歌ったり踊ったりせず演技のみ、かつ映像というのは、今の上口さんからすると意外なスタートだったような印象があります。でも今メインの活動の場である舞台も、初舞台は「絶対王様」という小劇場の劇団の作品なんですよね。

上口 今も昔も変わらないんですけど、絶対これしかやりません、みたいなことを決めてるわけではないんです。特に初めの頃は、いろいろやってみたいっていうので突っ走っていましたね。でも今もジャンル分けとか関係なく、ただ単にパフォーマンスし続けたいだけ、です。

 

――非常に印象的だったのでお伝えしたいのが「シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~」(‘14)のことで。ギャングの一味パブロとして役を演じているときも良かったのですが、本編終了後にキャストと観客全員が一緒に踊るというコーナーがありましたよね。あのとき、舞台上で身振りを観客に教えるインストラクターのような立場だった上口さんがとにかくすごくて。表情や体全体から「一緒に踊ろう!」っていう気持ちがビッシビシ伝わってきて、あそこにいた観客一人ひとりが「私だけに教えてくれている!」みたいな感覚になったはずなんですよ。上手く表現できませんけど(笑)。

上口 ありがとうございます(笑)。「一緒に楽しもうよ!」っていう気持ちが前面に出ていたのは確かなので、それを感じていただけたなら幸いです。

「シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~」(’14)
写真提供/東宝演劇部

――最初のアピール力の話にも戻りますが、やっぱり常に全力なんですよね。とにかくそれが上口さんのパフォーマンスがこちらに伝わってくる一番の要因じゃないかと。

上口 全力、ですね。僕、劇場入りすると必ず、その劇場で一番遠い席に行くんですよ。「シスター・アクト」の帝国劇場だったら2階の一番端、「るの祭典」の明治座だったら3階の一番端に自分の足で行って、そこに座って舞台を眺めるというのをルールにしているんです。この端の席までエネルギーが飛ばない限りは舞台に立っちゃいけないなと思うので。とはいえ、それってすごく難しいことではあるんですけど、常にその目標を具体的に感じて、意識してはいるんです。

 

――そういえば「るの祭典」のお客さんの感想で、「上口さんが3階まで目線をくれた気がしてうれしかった」というのを見かけました。

上口 ハイ、3階まで見てます!(笑)

 

――そうだったんですね。そういう意味でも、やはり上口さんには“陽”で笑顔なイメージが強いです。性格的にもポジティブですか?

上口 どうなんですかね……ポジティブというか、ポジティブにするのが得意というか。もともと明るいわけじゃなくて、どっちかというとネクラだと思うんですよね。家でじっとして面白いこと考えたりとか映像見て研究したりとか、そういう時間が落ち着くし好きなので。でもなぜかよくわからないですけど、子供の頃から次に何が起こるかっていう“展開”を楽しんで生きていきたいと思っていました。生きている上で辛いことがあろうが、それもひとつのストーリー。じゃあそれをどうクリアしてどうすればもっと楽しめるかなとか、その展開を1個1個噛み締めて楽しんでいく。辛いことを楽しむって言い方はヘンなんですけど、その次はきっと楽しいことがあるとか、そういうポジティブな方向に持っていくのは得意だし、そういうクセはあります。だから楽観的ともちょっと違うし、自分のことをそんなに明るい人間だとは思わないですけど、そういう風に楽しんで生きていきたいというのはあります。

 

――ご自身のヒストリーをたくさん語っていただきました。ありがとうございます! そして控えている最新舞台は、3月開幕のミュージカル「タイタニック」。役どころを教えてください。

上口 マルコーニ国際海上無線電信会社の無線係(笑)という長い前書きのある、無線通信士ハロルド・ブライドという役です。とても内気で人見知りでシャイな、これまた今まであまり演じたことがなくて、チャレンジしてみたかったような役なんですよ。それこそオタク気質と言いますか、無線通信にしか興味がない、みたいな。でも「無線通信をしているオレはめちゃくちゃカッコいい。その姿は誰よりも誇らしい!」っていう気持ちの強い人間なので、台本を読んでいても面白いんです。まだ稽古が始まっていないので大きなことは言えないんですが、いかようにも演じられる人間であるなというのが第一印象でした。ほんとにオタク気質でおとなしい空気が前面に出てしまう人なのか、ちょっと明るい要素がある程度匂っているんだけど実は……っていう人なのか、いろんな態度が想像できるがゆえに、演出のトム(・サザーランド)さんと話しながら作っていきたいですね。無線室の中と外でも人物の印象が少し違うんですよ。「本当のブライドはどっちだい?」っていう(笑)。もちろんどちらもブライドなんですけど、その幅が面白いなと思います。

――ブライドの見せ場をひとつ挙げていただくとするならば?

上口 機関士のバレット(藤岡正明)が恋人に贈るプロポーズの言葉をブライドが打つシーンがあるんですが、そこが2人の生き様が一番強く出るシーンというか。バレットが心の内を「プロポーズ」というナンバーで歌い上げて、ブライドもその愛の言葉を打てる喜びとこれを伝えるよということを「夜空を飛ぶ」というナンバーで同時に歌う。日々、伝令を延々と打ち続けるのも誇りある仕事なんですが、そのバレットの頼みは無線通信士の生きがいとも言える、幸せな瞬間だと思うんですよね。あそこは台本を読んでいても印象的で、その先待っている悲劇を全く感じさせない、幸せなシーンになっていると思います。

 

――タイタニック号に乗っていた人たちのように、死が濃厚であるけれども、それまでに多少の猶予がある場合、上口さんならどのようにその時間を過ごすと想像しますか?

上口 どうでしょうねえ……。うーん、想像でしかないので難しいですけど、やっぱりその場にいる子供をどうにか助けたいとは思うはず。何も知らずに怯えている子供たちがいて、そういう命をどうにか優先的に守れないかと。たぶん比較的冷静というか、あまり取り乱さないと思います。

 

――ただ絶望せず、何か先につなごうと。

上口 もちろん実際のところはわからないですけど、なんか、いろんな手段を考えると思います。さっき言ったように田舎育ちなので行動派と言いますか(笑)、「こっちから行けばそこに行けるんじゃない?」っていうようなことを試すんじゃないかなという想像はしちゃうんですけど。

 

――さて、今年で30歳となりますが、何か心境の変化はありますか?

上口 皆さんが言ってくださるほど自分の中では何も変わらないです。ただちょっと面白いのは、「タイタニック」の大阪での大千秋楽が4月5日で、その翌日の6日が誕生日なんですよ。だから20代の最後の最後まで舞台に立てるなんて、こんな幸せなことはないです。そこにも勝手に縁を感じさせていただいていますね。……タイタニック号とともに20代は終わり、30代の役者・上口耕平が次の日からまた出航していく! 完全に今、思いついたんですけど(笑)。

 

  デキメン‘s view

Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
日本語日本文学科という日本語を研究する学科卒の観点で言うならば、どんどん意味が広がってイメージが薄れているなと。もともとは顔がカッコいい男前が“イケメン”だったんですけど、今は行動もイケメンって言ったりとか。例えば子供がお母さんのためにドアを開けてたまたまエスコートした形になっても「イケメンだね!」ってなりますよね。便利な言葉ですけど、本来の“イケメン”のイメージは薄れている気がします。

Q.「デキメン」が思う「デキメン」
先輩では橋本じゅんさん。舞台からビシビシッと来るエネルギーが憧れ。僕は関西人なので面白いっていうのは大前提でカッコいいと思うんですが、かつ色気があるっていう。
同世代では森山未來さん。いろんなことを幅広く柔軟にされている中で、表現者としての、周囲を納得させるこだわりを貫いている姿勢が素晴らしいし、素敵だなと思います。

Q.「いい俳優」とは?
生き様を想像させてくれる役者。何も説明していないんだけど、そこに存在する居方だったりちょっとした台詞だったりで、演じている役柄の生き様――こう生きてきたんだろうなとか、この先こう変わっていくんだろうなっていうのを想像させるっていうのが、いい俳優じゃないかと。

 

  マネージャーから見た「上口耕平」

見かけによらず、実はまっすぐな日本男児。明るく、誰に対しても優しいのですが、優しいことで自分の首を絞めていることが(笑)。
今はとにかく多くの出逢い、経験をさせたいと思っています。そのひとつひとつを大事に全力投球し、上口が感じたこと、得たことを話し合いながら、役者としても人としても成長していってほしい。そして得意のダンスを生かしながらも、芝居をしっかり勉強して、守備範囲の広い俳優になってほしいと思います。

(有限会社ジャンクション 鈴木マネージャー)

 


Profile
上口耕平 うえぐち・こうへい
1985年4月6日生まれ、和歌山県出身。A型。幼少期にダンスを始め、高校在学中に結成した2人組ダンスユニット「DEVAKINGS」でダンスアタック準優勝など、全国規模のコンテストに入賞。2002年、ドラマ「ごくせん」でデビュー。03年の初舞台以降は、主にミュージカルの舞台で活躍中。ミュージカル映画「蝶~ラスト・レッスン」に出演(6月~、映画配信サービス「LOAD SHOW」で配信開始)
【主な出演作】舞台/「聖☆明治座 るの祭典」(’14)、「Burst cake」(’14)、「道化の瞳」(’14)、「シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~」(’14) 、「CLUB SEVEN 9th stage!」(’13)、「屋根の上のバイオリン弾き」(’13)、「シルバースプーンに映る月」(’13)、「ALTAR BOYZ」 (’12) ほか
【HP】http://www.junction99.com/
【ブログ】「上口耕平電波塔」 http://stylejunction.blog.shinobi.jp/
【Twitter】@kohei_ueguchi