舞台「てにあまる」インタビュー連載企画・第4弾!柄本明インタビュー


舞台俳優としてだけではなく、映画、テレビなどでも異彩を放ち続けている俳優・柄本明。自身が座長を務める劇団東京乾電池では下北沢の劇場を中心に演出を担ってきたが、今回は下北沢を飛び出し、池袋の劇場で自らも出演しつつ演出の手腕を発揮することになった。舞台「てにあまる」は、2011年に岸田戯曲賞を受賞した松井周による書き下ろし脚本で、藤原竜也、高杉真宙、佐久間由衣、柄本明という4人の俳優による濃密な会話劇。魂をぶつけ合うような応酬に、柄本はどのように挑んでいくのだろうか。


――今回は、出演と演出を手掛けられるとお聞きしました。

いやぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろうな、って気持ちです(笑)。池袋っていう劇場も、まだよくわからないんですよ。うちの劇団なんかでやっているような場所は、いつも小さいところばかりですから。でっかいところでの演出は初めてなので、さて、どうなるのかな…と。役者として、そういう広い場所に出たことは何度かあるんですけど、演出は初めて。本もオリジナルだし、どんなことが見えてくるのか、と考えています。


――脚本の松井周さんとも今回が初めてだそうですね。本作に取り組むにあたり、お話をいろいろされたそうですが、どのようなお話でしたか?

まぁ一般的なお話ですよ。あとは、お芝居を観に来てくれたり、稽古場に来てもらったりね。割とけっこう、お会いしました。そこで、松井さんの人柄というか雰囲気は理解…というか、理解なんかできないけど、お芝居の上での交換のようなことはできたんじゃないかな。


――脚本の印象はいかがですか。

わからないですね。分からないなんていう言い方は良くないかもしれないけど、基本的に、人が書いたものって僕はわからないんですよ。それを言っちゃおしまいなんだけどね。とはいえ書かれていること、「私は○○しました」と書かれていれば、○○したんだ、くらいのことは分かるんですけどね。自分は役者なもんだから、役者さんを通じて見えてくるもの…役者さんがセリフを言うことで、2次元の世界が3次元に立ち上がるわけです。その時に見えてくるものが、見えてきているっていう感じなのかな。役者がイキイキしているのがいいことだな、と。


――共演のみなさんについてはどういうイメージですか

今回は藤原竜也さんが真ん中にいて、この方が本当に素晴らしい方。僕なんかはセリフ覚えもいつも悪いもんだからさ(笑)。若いお2人にも引っ張ってもらって、素敵になればいいかな。


――藤原さんとは以前にもご共演されていますが、今回ご一緒してみて改めて感じたことなどはありますか

いや、本当に素晴らしい方。スゴイ。それで、進化しているんですよ。この前ご一緒だったのが5年くらい前で、その時もスゴイって思ったけど、その時よりも進化しているんだから。なんというか、何の助走もなく役に入るって言うかね。役に入る、っていう言葉はあんまり好きじゃないんだけど、そういう感じがしますね。舞台裏から歩いてきて、舞台に上がっても、変わらない。常にニュートラルな状態でいるから、いつでもギアを入れられる。そんな感じがします。


――高杉真宙さん、佐久間由衣さんという若い2人の印象はいかがでしょうか。特に佐久間さんは今回が初舞台なので、柄本さんの演出が初めての舞台稽古となりますが、どのように稽古をされていますか?

稽古していて、さっきもイキイキなんて言葉を言ったけども、2人もどんどんイキイキとしてきている感じです。若いっていうのは素晴らしいことですよね、僕らからすれば。演出をする、とは言っても、僕は自分のことを演出家だと思ってはいないから…“見てあげる”ことができればと思いますね。その中で、手助けできればと。映画の溝口健二さんが昔、俳優さんに「反射してますか?」って言ってたんだけど、見ていてあげることで、その反射が生まれる。そうやってキラキラしていくことがいいんじゃないかな。


――演出についてはどのようなお考えをお持ちですか

変な言い方かもしれないけど、演出をするということは、演出ってできないな、っていうことに気付くだけなんですよ(笑)。芝居をするってことも、芝居ってできないなぁ、なんてことに気付くことなんです。そうやって、うまくいかないなって時に、何かしら考えることになるんじゃないかと思うんですよね。きっと物を書かれる方も一緒じゃないですか? 何でもそうだと思うんですけど、何かをやるということは、何かとは難しい、ということに気付かせてくれること。そのことが大事なことだというふうに感じるんですよね。でも、うまくいかないってことはイヤなもんだよね。落ち込むし。そんな毎日を送っております(笑)


――今回の作品では、家族や親子の関係が描かれます。何かご自身と照らし合わせるようなことはありますか

自分の家族のことで言えば、仲が良ければいいんじゃないか、と思います。仲が良いための秘訣があればいいんだけど、よくわからないな。自然と育まれていくようなことなんでしょうけど…たぶん、コミュニケーションをしっかりとるとか、そういうことなんでしょうね。


――駅張りのポスターや看板では「演技対決」なんて言葉も踊っていますが、若い世代に胸を貸すような気持ちでしょうか。

いやいや、そんな気持ちは全然ないです(笑)。同じ目線かどうかは分からないけど、とにかく一緒にやることになっちゃったんだから、やるか、という気持ちです。後ろ向きな意味でもなんでもなく、そういうことなんだな、と受け止めているだけですね。稽古場でも意外と、みんなそんなにしゃべらないんですよ。それぞれに集中していて。ディスカッションも今のところ、そんなにないかな。そういうことが出たりすることもあるんだろうけどね。


――それぞれがストイックに取り組まれているのかもしれないですね。公演を楽しみにしています。

通常のお芝居とは違う感じが、自分の中ではしています。みなさんがどんなふうに観てくれるかが楽しみですね。自分の劇団でやっていることが果たして通常の芝居か、何をもって“通常のお芝居”か、なんてわからないですけど。でも今回はちょっと、入り組んだところがあるお芝居なので、そこを楽しんでいただければと思います。

 

インタビュー・文/宮崎新之