日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』合同取材会レポート│堤幸彦&片岡愛之助

2023.08.30

日本テレビ開局70年を記念して上演される舞台「西遊記」が、2023年11月から2024年1月にかけて、大阪・福岡・名古屋・東京にて上演される。「真田十勇士」「魔界転生」などを手掛けた堤幸彦が演出を担い、主演の孫悟空役には片岡愛之助が務める。共演には小池徹平、戸次重幸、加藤和樹、村井良大、藤岡真威人、中山美穂、松平健らが名を連ねた。この往年の名作に挑む、堤幸彦と片岡愛之助の2人に話を聞いた。

――どのような経緯でこの「西遊記」を堤さんが手掛けることになったのでしょうか?

 「西遊記」をやりたいというのは、数年前から言っていたことなんです。「真田十勇士」「魔界転生」と、大きな舞台で演出をさせていただくチャンスをいただいてきて、エンタメの最高峰のものを作りたいと考えたときに、「西遊記」をやらせていただきたいとずっと言っていたんです。キャラクターがたくさん登場しますし、単に面白いだけでなく人のおかしみ…まぁ、妖怪だったりするわけですけども、人間の産物ではあるので…まぁ、面白み、悲しみ、切なさみたいなものを出せる題材だと思ったんです。あともう1つの理由としては、舞台のテクノロジーがどんどん上がってきているということですね。LED技術をはじめ、不可能と思われたことが可能になる時代になってきていると思います。そういったことに大胆に挑戦したいという想いがあって、自分の中では非常にやりがいのある舞台になるんじゃないかと思っていますね。

――愛之助さんは、「西遊記」で悟空を演じることになり、どのようなお気持ちになりましたか?

愛之助 「西遊記」をやる、そして僕が悟空と聞きまして、本当にびっくりしました。僕の中では西遊記の悟空は堺正章さんのイメージがありまして、それを舞台でやることの難しさをまず考えました。ですが、堤さんが演出をなさると聞いて、それならばできるに決まってると思いなおしまして、そこからは期待しかないですね。この世界観を崩すことなく、それ以上のものを作りあげることができるのは、堤さんしかいないと思うんです。出演させていただけることに、非常に幸せを感じています。

 歌舞伎については本当に勉強不足で、本数もそんなに見ているわけではないですけど、江戸時代から人を喜ばせるエンターテインメントの究極が歌舞伎なわけですから。先ほど、テクノロジーなんて言いましたけど、かつての歌舞伎のいろんな仕込みやネタの見せ方には及ばないところもたくさんある。愛之助さんの力を借りて、この西遊記という作品をアナログやデジタルを超えたお芝居を、お客さんに楽しんでいただきたいと思っています。

――悟空という役どころに、どのような印象をお持ちでしょうか?

愛之助 切り込み隊長ですね。大暴れして、そして頭を締め付けられるという(笑)。だから大暴れしたいと思っています。それに、今回の悟空の役どころ自体が、非常に”傾いて(かぶいて)”いるんです。最先端で、一番新しい、面白い、そういう変わったことをしている人達のことを傾奇者、つまりそれこそが歌舞伎ですから、孫悟空、西遊記こそ歌舞伎ではないか、くらいの想いは持っていますね。

――堤さんが本作で挑戦したいことはどのようなことでしょうか?

 例えば、背景もプロジェクションマッピングから進化してLED背景になっていったわけですが、そういう要素も体の一部というか、きっちりと道具として使い切りたい気持ちはあります。テクノロジーのレベルがあがっているからこそ、そこをしっかりと作りたいですね。2007年くらいにフランスで西遊記のオペラ版をBlurってバンドのフロントマン、D・アルバーンがやっていて、動画サイトでその時の映像をちょっとだけ見たんだけど、アクロバットの要素とかがふんだんに盛り込まれていて、集団芸の美しさがあったんだよね。やっぱりデジタルに勝つための人間の集団芸みたいなところは盛り込んでいきたい。そこは実は今まであんまり盛り込んでこなかったジャンルの中の1つ。最新鋭のテクノロジーと肉体をかけた集団芸に愛之助さんは立ち向かわなきゃならないので、期待していますよ。

愛之助 今、かなりの期待をされましたから、役者人生をかけてやり遂げたいと思います。

――堤組ともいうべきキャストの方々もかなり出演されますね

 そうですね、小池(鉄平)くんにも出てもらうし。戸次(重幸)さんは、先日、上村聡史さん演出の「A・NUMBER」で主演もしていたし、(加藤)和樹くんは「真田十勇士」以来のお付き合い。松平(健)さんはやっぱり巨大な壁のように存在してもらいたくて…そこには単なる恐怖じゃなくて、人の悲しみとかの部分も表現してもらわなきゃならないから。なかなか、仕込みに時間がかかる舞台になると思います。

――愛之助さんは、戸次さんとは「奇人たちの晩餐会」でガッツリと共演されていますね

愛之助 本当に信頼できる俳優さんなので、今回もご一緒できて非常に安心しています。旅の仲間として、最高ですね。

――中山美穂さんとの共演も楽しみです

 いや、本当に彼女は侮れないですよ。ひと言でいうと…ヤバい!

愛之助 そうですよね。僕もちょっと、どんな風にいらっしゃるのか想像のつかないところです。先日のスチール撮影の際にご挨拶させていただいたのが初めましてでしたが、お話する時間はそんなになかったので。期待しています。

――「西遊記」をどのような物語として描いていきたいですか?

 西遊記はものすごい膨大な原作で、全部に目を通すのは大変です。最初のエピソードの部分などは、みなさんがご存じの部分をなぞっていますが、それ以外は自由に発想できるようなところもあります。原典のテイストは踏襲しながらも、まったく新しい創作のストーリーにしていきたいと思っています。それが、コロナ禍を受けて、だいぶ鬱屈とした時間を過ごした我々の突破口になるはず。明るい劇場空間を楽しんでいただける要素になるはずと信じておりますので、原作を捉えなおしているところです。もちろん、テレビドラマでやっていた堺正章さんのあの強い印象も、抜き差しならない出発点なので、そこも含めて新しいオリジナルのものを創っていきたいですね。活劇であり、人間ドラマであり、みなさんが笑って泣いて…という作品にしていきたいです。

愛之助 僕は堺正章さんの西遊記でそだちましたから。僕の実家は厳しくて、家でテレビを見てはいけなかったので、当時のアイドルですとかドラマなどはほとんど知らないんですよね。でも、唯一見ても良しとされたのが、西遊記。家族揃って、見ていましたからお話を頂いたときは本当にびっくりしましたね。懐かしい気持ちになりましたけど、最近の若い方はご存じないかもしれないですね。でも、ご覧になったことのない方にも楽しんでいただける、どんな方にも通じる作品になると思いますので、いろいろな方にご覧いただきたいです。

――愛之助さんから見た堤さんの印象、堤さんから見た愛之助さんの印象をお聞かせください

 歌舞伎の舞台上で拝見させていただいた愛之助さんと、ドラマなどで見る愛之助さん、そして一緒にお食事なんかをさせていただいたときの愛之助さん、その3つの方向性が全部違うんですよね。今回は、キュートで華があるという意味で、中心に立っていただくべき方だと思っています。千穐楽が終わった後に、良かったね、と言い合えるような同志になっていただけるとありがたいですね。

愛之助 嬉しい言葉をいただきまして恐縮です。作品を拝見させていただいていて、どういうふうに考えればこんな舞台が作れるんだろうか、と本当に毎回思うんですよ。作品の中に引き込まれますし、あそこまで最新の技術も使いこなされている方って、堤さんくらいしかいらっしゃらないんじゃないかと思います。それに、今日も思ったことなんですけど、お話がものすごく面白いんですよ。本当に、アンテナがどれだけあるのかと、思い知らされました。アンテナが常に張り巡らされている中で、お芝居のこと、お仕事のことを考えていらっしゃって、見習わなきゃいけないなと思うことがたくさんありました。

 さっき、いろいろな使い方ができる万能装置みたいなものをオーダーしているっていう話をしていたんだけど、その装置は映像をいろいろ出せるから、お城になったり道になったり、なんなら海の中になったり空になったりできるようなものなんです。そして、その装置のデザインの基は…山手線の大崎駅なんです。

愛之助 大崎駅!…ほら、もうわけがわからないでしょ(笑)。

 大崎駅は東側と西側の両端に分かれていて、ちょっと離れたところにも雨に濡れずに行くことができるよう設計されていて、それを見て「これだ!」って思ったんです。

愛之助 もう、大崎駅に行って確認したくなりましたよね?僕は絶対に確認しに、大崎駅に行こうと思います(笑)。

――ローソンチケット本社は大崎駅にありますので、アイデアの基をぜひ体感しておこうと思います(笑)。役衣裳でのビジュアル撮影では、物語の入口に立ったようなお気持ちになられたかと思いますが、撮影時のエピソードなどをお聞かせいただけますか?

愛之助 当日までは衣裳案のイラストを拝見していただけだったので楽しみにしていましたが、衣裳もメイクも想像以上にカッコ良くしていただいて。頭もカッコいいものを乗せてもらって、すごく嬉しくなってウキウキでいろんなポーズを取らせていただきました(笑)。

 やっぱりビジュアルが上がってくると創作意欲もめちゃくちゃ湧いてくるよね。やはり、みなさんが期待している如意棒とか筋斗雲とか、いろいろな技の数々をどうやって表現するのかをしっかりとクリアさせたい。そして、その最新テクノロジーを上回るような、とんでもない役者のみなさまの面白味が次々と出てくると思っています。板の上に立つと、とんでもない暴走が始まるんじゃないかと期待していますよ。

――地方公演などいろいろな場所に行かれることも多いと思いますが、自分のリズムを整えるためにしていることなどはありますか?

 実はさっきもちょっとそういう話をしていて驚いたんですけど、愛之助さんも僕も、散歩なんですよ。各地いろいろなところに行くんですけど、九州博多にいたら、ふらっと糸島半島にいきたいなとか、サザエさん発祥の地はどんなふうになっているのかなとか、そういうところが気になるとすぐに行ってみたくなる。いわゆる”ブラタモリ”的なことも含めてね。日常でも、近所のだいたい5kmを1時間で回るコースが自分の中にありまして、それも右回りばっかりじゃなくて、左回りにしたりして。とにかく散歩が好きですね。

愛之助 僕も散歩なんです。自宅に居ようがホテルに居ようが、まずは散歩から朝は始まります。7時台とか、早ければ6時台には目が覚めてしまいまして、ちょっと涼しい朝の空気を感じながらしっかり歩きます。それで、喫茶店に2時間とか3時間ぐらい居て、そこから楽屋に向かいますね。

 そんなに都合よく喫茶店ってある?

愛之助 見つけるんです。あんまり1か所に長居すると悪いかなと思うので、喫茶店は3件くらい回ったりしますね。

――最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!

 演出というものがアナログからデジタルにどんどん変化していったわけですけども、その中で獲得してきたものをすべてお出ししたい。その上で、技術や技に頼るのみではなく、愛之助さんをはじめ人間が演じる面白味があることが、演劇の原則です。歌舞伎で延々と培われてきたものもありますし、舞台というものはエンターテインメントの中心だと思いながら、僕の中でのエンターテインメントの最高峰を作りあげていきたいと思います。どうか、ご期待いただければと思います!

愛之助 今回、「西遊記」の孫悟空を務めさせていただきます。本当に夢のようなお話で、ご一緒させていただくみなさまはそれぞれ座頭を張れる方々が揃っていて、超豪華キャストです。そこに堤さんが演出されるということで、僕自身も切符を買って見に行きたい、客席で楽しみたいと思うくらいで。舞台で育った人間なので、歌舞伎で学んだことも、歌舞伎以外で学んだことも、すべて全力で出し切って物語を作りあげていきたいと思います。2回3回と楽しんでいただける作品になると思いますので、ぜひお誘いあわせのうえでお越しください。劇場でお待ちしています!

取材・文/宮崎新之