舞台『かげろう』 EXILE MATSU&佐藤永典&森岡朋奈&宮田悟志 インタビュー

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EXILE MATSU演出 舞台『かげろう』
インタビューと稽古場風景をお届け!

 

今年2月に、自らが“組長”を務める劇団EXILE 松組の旗揚げ公演「刀舞鬼 -KABUKI-」を行った松本利夫。自らが得意とするダンスとW主演の早乙女太一らの殺陣を組み合わせ、和洋折衷のエンターテイメントを魅せた同作は一作目にして好評を博した。その松本が松組公演とはまったく異なる、小劇場でのストレートプレイに挑戦する。研修医の神谷を演じる佐藤永典、神谷の初恋の人でがん患者の夏生を演じる森岡朋奈、キャストの一人として出演しつつ主題歌も手がける宮田悟志、そして今作では演出に徹する松本の4人に話を聞いた。

松本 今度はストレートプレイの作品をやるんですが、この作品では松組の枠組みに頼らずに、自分の力で勝負したいなと思っていて。「刀舞鬼 -KABUKI-」はショー的なエンタメ感を前面に押し出していたんですが、今回の「かげろう」ではある意味ごまかしがきかないような、直球の芝居をできたらと思っています。ストレートプレイなら役者の細かな表情の動きなんかもお客さんにダイレクトに伝わるようなコンパクトな劇場がいいんじゃないかと思って、恵比寿エコー劇場(キャパ130)を選びました。大掛かりなセットや効果を極力使わないシンプルな舞台なので、キャストのみんなも身を削るような思いで臨んでくれると思うんですけど、自分も同じように身を削って頑張りたいですね。

 

神谷(佐藤)はあるできごとがきっかけで初恋の相手・夏生(森岡)へ告白できないまま、疎遠な間柄になっていた。医学部を出て研修医となった神谷は勤務先で、かつての親友である真鍋(吉川純広)、その婚約者となった夏生と再会する。夏生は不治の病であるがんを患っていた。診断の告知をためらう神谷だったが夏生の病状が進行するなか、3人それぞれが抱えている「秘密」が明らかになる――。

取材日は稽古初日。これが初舞台となる宮田が「稽古自体が初体験だったんですけど、キャストのみなさんとお茶する時間もあったので少しずつ緊張感がほぐれたところがありました」と語るなど、少人数のキャストが徐々に打ちとけていっている様子だ。20代キャストが3人と年齢層も若く、一見病気をテーマにした作品とは思えないような活気を感じた。

松本 病気を扱うデリケートな内容にはなるんですけど、作品を観ているお客さんにも青春の1ページを思い出してもらうような、懐かしい感じが出したかったというのもあるんですよ。自分もこんな見てくれでいうのもなんですけどすごく恋愛ものが好きで(笑)、ベタなところでいうと“セカチュー”(「世界の中心で、愛をさけぶ」)みたいな世界観だとか、大好きなんですよね。そういうみずみずしい感じがこの作品で出るといいなって。

 

キャスト同士の軽妙な会話などもありつつ、全体のテーマとしては重く切ないというのは、桃太郎の物語をベースにしつつ、人間と鬼との結ばれない恋をも描いた「刀舞鬼 -KABUKI-」にも共通するものがある。

松本 そういうテーマが好きなんですよ、僕が(笑)。これまでいろんな舞台を観させてもらいましたし、明るくにぎやかな作品も楽しいけれど、自分にとって“刺さる”ものって、わりとそういうものだったりしますね。舞台は演出方法や構成を含めていろんな角度から作るものですけど、いずれ“MATSUのやる舞台といえばこれだよね”みたいな色付けになっていくのかなあと思います。

 

脚本は松本自らが選んだもので、これにはベーチェット病という難病を抱えながらEXILEでの活動を続けてきた自身の体験にも深くかかわっているという。

松本 今振り返ると、一番病状がひどかった頃に痛みだったり身体で感じる辛さよりも、精神的な辛さがこたえたんですよ。痛みなら我慢することもできますし、熱が40度くらいあるような日のライヴも何度も経験してきているんですけど、当時の周囲の優しさのほうが逆に辛かった。「まっちゃん、無理しなくていいから。大丈夫だから」って言われて、なんにも出来ない自分の不甲斐なさが辛かった時期があったんです。この脚本を読んだら、当時の感情がよみがえってきて、そういった表面的なものではない辛さや痛みが、この作品で表現できるといいなって。実際になった人でないとわからないこともありますし、そこに説得力だったり、自分が演出する意味が見つけられるのかなって思ったんです。ストレートプレイの作品は3~4年前からやりたいなと思っていて、そのときから最初にやるならこれだと思っていました。

 

主人公の神谷を演じる佐藤は10代でデビューし、これまで数多くの舞台作品に出演しているが、医者役は初めてとのこと。

松本 そろそろ生徒役が少なくなくなってきて、お父さんの役とか来そうな年代になってきたんじゃない?

佐藤 ええっ、来ますかね? そういう意味でも今回の役どころは研修医とはいえ大人の男の雰囲気があるので、挑戦しがいもありますね。…まあ、今やってるのは0歳の役(取材時は舞台「ママと僕たち」に出演中)なんですけど(笑)。役作り的にまだ勉強不足な部分がたくさんあるんですよね。一人前の医者ではない役なので未熟な部分があるという設定ではあるんですけど、それに甘えずしっかりやりたいなとは思います。高校時代のシーンもあったりするので、神谷が大人になって変わった部分だとか、丁寧に見せていきたいですし。僕自身が病気になった人の気持ちにはまだまだ思い至らない部分がありますけど、逆にそれを見守る立場として、自分にしか表現できないものがあると思うので、その見せ方を稽古でじっくり考えていきたいです。

 

神谷が長く恋心をくすぶらせ続けるヒロイン・夏生を演じるのが森岡。松本が森岡に声をかけた決め手は「病気をイメージさせない明るさ」だったという。

松本 明るくて、花でいうとひまわりみたいなイメージがあったんですよ。それがよかった。リピーターの方にも、「こんな元気な子がなんで?」って思ってもらえるほうがね。

森岡 お父さん(劇団STRAYDOGの主宰である演出・脚本家の森岡利行)の仕事の関係もあって、初舞台が3歳だったんですよ。なので舞台は本数は出ているんですけど、普通の学生役が多かったので。こういう、幸薄い感じの大人の女性の役は初めてですね。

 

そして、本作が初舞台となるのが宮田。キャストとして作品世界にも加わりつつ、主題歌の作曲や作詞も手がけるのだという。

松本 この「かげろう」に命を吹き込むような主題歌を、誰かにナマ歌で歌ってもらいたいなと思ったところから、宮田くんに声をかけさせてもらったんです。その主題歌、もう出来上がってきてるんですけどめちゃくちゃいいんですよ! EXILEのシングルで「Eternal…」(’03年発表)っていう親友と昔を振り返るような曲があって、そういう感じの曲だったらいいなあと思ってたんですけど、どんぴしゃで。

宮田 ありがとうございます。演技はMVの中で少し演じたことがあるくらいなので、今はまだ緊張しまくっています。昔のストリートライヴなんかもお客さんとは距離感が近い感じだったけど、小劇場のお芝居だと多分緊張の度合いが全然違うと思うので。

松本 宮田くんが元々いたBREATHEの歌を聴かせてもらっていて、めちゃくちゃいい歌を歌うなあと思ってたんですけど、ソロになったっていうのを聞きまして。自分もEXILEのパフォーマーを抜けたばかりでなんとなく境遇が似てるなあと思ったし、2人ともちょうど新しいことでリスタートするタイミングだったので、舞台とか興味あるかな?と思って声をかけさせてもらったんです。

宮田 元々舞台やミュージカルを観るのは好きで、興味はあったんです。でも自分が舞台に立って演技するっていうのは、グループ時代はきっかけもなかったので。ソロになったこのタイミングで声をかけていただいたっていうのは、自分の今後のミュージシャン人生にとってもすごくプラスになることだと思って「是非!」と。チャンスをいただいたので、全力でやらせていただきます。

 

そんなキャストたちには松本の考える裏テーマとして、“自らの殻を破って、今まで見たことのない自分になってほしい”という思いがあるのだという。

松本 自分がもし演者として入るとしたら、結構辛い舞台だなって思うんですよ。テーマ的に重いし、これを毎日やるのかって。でもこういうテーマと向き合い続けることで今までに経験したことのない感情があふれてくるんじゃないかと思うし、それが結果的に自分の殻を破ることにつながって、役者としてまた違う世界が見れるようになるんじゃないかとも思うんですよね。そのレベルまで頑張って行ってもらえたら嬉しい。

宮田 さっきMATSUさんが言ってくれたように、「かげろう」って作品に僕の歌で命を吹き込むという意味、そこには自分の表現力がものすごく求められると思うんです。この公演が終わったときに自分の歌がより表情豊かになっていればいいなと思います。役者としては今回が初なので、これを体験して自分がどう感じるのかっていうのも気になるところではあります。

佐藤 “見たことのない感情を引き出せるように”って言っていただけるのは、役者として嬉しいですね。自分の得意なタイプの芝居だとかそういうことじゃなくて、神谷の役と向き合うことでこれまでの自分の限界を超えるような瞬間に出会えるとうれしいなと思います。そうなるためには全力でこの作品にぶつかっていかないといけないので、千秋楽まで全力で行きたい、そこに集中するのみですかね。自分は気持ちに嘘がつけないタイプなので、一生懸命やってそこにたどりつけたらいいなって。

松本 神谷と夏生と真鍋は、悩んで悩んで悩みつくしたほうがいいね。そこに何か見出せるものがあると思うから。悩んで“辛い辛い辛い…”と思っている先に、光が見えて来るんだと思う。

森岡 佐藤さんもそうですけど、私も全然経験したことのないような役なので。夏生は自分とはまったく境遇が違うから、どれだけ自分が想像力を働かせたり、周りの体験談を聞くかってことが大事だと思うんです。例えば木って、根っこがないと倒れちゃうじゃないですか? 夏生を木に例えるなら、その根っこにあたる部分、台本には書かれていない夏生がどう20何年間を生きてきたのか、にどれだけ思いをめぐらせられるかが重要というか。彼女の背負ってきた人生をどれだけ感じられるかで、役作りも全然変わってくると思うので。見えない部分をどれだけ表現できるかじっくり考えながら、私も殻を破っていけたらと思います。

 

余談だが、物語の中では“生きているうちに必ず叶えたい夢”がキーワードの一つとして描かれる。4人の叶えたい夢をそれぞれ1つだけ挙げるとすると…?

宮田 甲子園球場でライヴをやりたいです! TUBEさんが定期的に夏にライヴをやっているんですけど、自分も2年前に観にいって、土砂降りの日だったんですけどめっちゃテンション上がったんです。自分が昔プロ野球を目指して頑張ってた頃の感じも思い出して、いつかここでライヴできたらいいなって。

森岡 意外と出てこないんですよね…世界一周したいとか、空を飛びたいとか、思ったことがないんですよ(笑)。でも、10年後、20年後もこの仕事をしていたいなって思います。先々どんな仕事をしているかはわからないですけど、自分が好きなことを愛し続けて、将来も「この仕事が大好き」って言えたらいいなと思います。

佐藤 僕のは小さい夢なんですけど、いいですか? …最近財布を落としまして(笑)。すっごい大事にしてた財布だし、免許やカード類、領収証もまとめて入ってて、お金も結構入ってて中身がいい状態の財布だったんですけど。ポイントを集めるのが好きで、結構貯めたポイントカード類が全部なくなったのもショックで。なので、帰ってきてほしい!

松本 それは、切実だよね(笑)。僕は、細かいことならごまんとあるんだけど…。よく、EXILEの会議を会議だけで言っちゃうと重苦しいから、僕らの中では“上手い飯を食うための会議”っていってるんですけど、この考え方ってすごく大事なことで。誰でも食べていくのは大変だし、旨い飯を食えてるってことは、たぶん家族だとか周りの人たちも幸せになっていて、自分もそれだけの器になっているっていうことじゃないかと思うんです。一見面白く聞こえちゃうかもしれないですけど、簡単そうで簡単じゃないことだから、そのために一生懸命頑張ろうよ、って昔からよく言ってきたんで。だから夢は“旨い飯を食うために頑張り続ける”ことですかね。ここだけ抜かれたらイヤですけど(笑)。

 

生まれてから数年を水の中で過ごし、成虫になるとわずか数日で儚い一生を終えるという虫の名前を冠した本作。最後に作品に込めたメッセージについて松本に語ってもらった。

松本 自分の中にあるネガティブなものをプラスの力に変えていく、そこにたどりつくためにはさまざまな人生の選択肢があると思うんです。そのいろんな道筋の中から、人生の主役である自分がどういう選択をするのか。この「かげろう」では神谷の選んだ人生の選択がメインに描かれているんですが、果たしてそれが正しい選択だったのか? もしあなただったらどの道を選びますか?という問いかけを残す形になっているんですよ。そこが見どころでもあると思うので、観た方がちょっとでも登場人物を自分に置き換えて考えたり、一緒に観た方と話し合ったりして“自分ならどうするのか?”を考えてもらえるような作品になったらいいなと思いますね。

 

取材・文/古知屋ジュン

 

【プロフィール】

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松本 利夫
■まつもと としお ’75年、神奈川県出身。’01年よりEXILEのパフォーマーとして活躍するかたわら、俳優としても劇団EXILE公演やひとり舞台である松本利夫ワンマンSHOW「MATSUぼっち」などに出演。2015年をもってEXILEのパフォーマーを引退し、2016年より自身が組長を務める劇団EXILE松組を始動。現在、初の冠番組「MATSUぼっち」(フジテレビ系)が放送中。

 

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佐藤 永典
■さとう ひさのり ’90年、埼玉県出身。’08年にミュージカル「テニスの王子様」でデビューし、「ライチ☆光クラブ」(’12年~’13年)など多数の人気作品に出演。このあと*pnish* vol.15「サムライモード」(9/24[土]~27[火]サンシャイン劇場、10/1[土]・2[日]新神戸オリエンタル劇場)、「戦国御伽絵巻『ソロリ』 ~妖刀村正の巻~」 (11/2[水]~6[日]シアターサンモール)と舞台出演が決定している。また、NHK教育「ビットワールド」に現在出演中。

 

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森岡 朋奈
■もりおか ともな ’94年、東京都出身。3歳で父の森岡利行が代表を務めるSTRAYDOG 「カノン」(’98年)で舞台デビュー。以降も多数のSTRAYDOG作品に出演。’06年の第11回全日本国民的美少女コンテスト 本選大会出場をきっかけに本格的な芸能活動を始め、モデルやグラビアアイドルとしても活躍している。

 

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宮田 悟志
■みやた さとし ’84年、神奈川県出身。高校、大学ではプロ野球選手を目指していたという異色の経歴の持ち主。’10年の「VOCAL BATTLE AUDITION 2」やストリートライヴ活動を経て、ボーカルデュオ・BREATHEとして’11年にシングル「合鍵 / White Lies」でメジャーデビュー。’16年4月のBREATHE活動終了後はソロアーティストとして活動中。

 

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【公演情報】

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舞台『かげろう』

≪あらすじ≫
とある新人医師が不治の病の「告知」をする相手。それはかつての初恋の相手だった。
医師、初恋の女性、その婚約者。
かつて親友同士だった3人は、それぞれが過去に「秘密」を抱えていた。
数年ぶりの再会を果たした3人だが、やがて運命の歯車はゆっくりと動き出す。
「今、愛する人のために出来ることは何なのか……」
余命わずかの時間の中で、それぞれが出した答えとは―――!?

日程:2016/8/10(水)~16(火)
会場:恵比寿エコー劇場

ゼネラルプロデューサー・演出:EXILE MATSU

企画:平沼紀久
脚本:江藤直樹

出演:佐藤永典、森岡朋奈、吉川純広、川久保拓司/宮田悟志、松本理沙/富田昌則

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!