韓国演劇界の巨匠・李康白が1990年代に発表した衝撃の舞台が、藤原竜也と山本裕典の舞台初共演で上演される。倉庫で働き、倉庫で暮らす2人の男。一人は職責を全うすることが自らの価値だと信じ、一人は退屈な日々を逃れる術を求めていた。そんな2人の倉庫に現れた、奔放な女と、その父親。少しずつ変化していく倉庫の日常は、どこに向かっていくのか。「いつか竜也くんと共演したいと思っていた」と話す山本裕典に、話を聞いた。
――今回上演になる「鱈々」への出演が決まったときの率直なお気持ちはいかがでしたか?
舞台「TAKE FIVE 2」をやっているときにこのお話しを聞いて、その時はまだ台本とかも見ていなかったんですが、まず藤原竜也くんと初めて共演できることが嬉しかったです。今まで、ずっと竜也くんの舞台を観てきて、賢く計算して、いろいろと細かいところまで考えてお芝居をする方だと思っていて。映画とかでの演技のイメージだと、内面や心情を前面に押し出して演じているようなイメージが強いと思うかも知れないですが、実はとても繊細。僕は気持ちとか勢いで演じるところがあるので、その繊細な部分に憧れを持っています。
――今回は4人芝居ということで、キャスト同士の密なやりとりが見どころになると思います。
4人しかいませんから、ひとりひとり個人の魅力が問われますよね。まだ稽古前でどのくらいの長さになるかはわかりませんが、芝居の時間をどう魅せていくかは役者に任せられた責任だと思います。(中村)ゆりさんとは、ドラマで一緒だったことがあって。そのときは、綺麗でおしとやかなマドンナみたいな役で、クールビューティでサラッとしている印象がありました。今回は奔放な全く違う役なので、どんなふうに演じられるのか楽しみです。木場(勝己)さんは舞台をよく観させていただいていて、よく通る声が印象的で本当に素敵なんですよ。今回の作品に入るぎりぎり前まで別の舞台に出演されているらしく、「俺、覚えらんねぇよ」なんて言っていましたけど(笑)。本当に見入っちゃいますし、惹かれてしまう役者さんです。
――物語は倉庫の中で暮らす倉庫番のジャーンとキームを中心に進んでいきます。山本さんは、単調な仕事に嫌気がさしているキームを演じられますが、キームはどんな男だと捉えていますか?
僕に近い人間なのかな、と思いました(笑)。僕も退屈な毎日は苦手なタイプです。だから、この仕事をしているんだと思います。僕は自動車会社の工場に就職が決まっていたんですけど、それを断ってこの仕事を始めたので。そういう刺激を求める心は、まさにキームと同じ。今日もこんなふうに、初めてお会いして、こうやってインタビューを受けて。その前には別の方にインタビューされて、写真も撮ってもらって。そういう変化が毎日たくさんある。毎日緊張感があるし、ドキドキしています。
――倉庫でひたすら役目をこなすだけのジャーンも、倉庫の外に自由を求めるキームも、どちらも正しいような、どちらもどこか違うような印象がしました。
今回の舞台って、そういう台本に描かれていない部分を、お客さんも一緒になって考えられる話なんだと思います。竜也くんとも話していたんですけど、そういう作品ってとても楽しく観劇できる。この瞬間どう考えていたんだろう、この先どうなるんだろうって。僕は今回、出演する側ですけど、観客側だったとしてもすごく観たくなるタイプの舞台で、すごく好きです。なので、僕が演じるキームが倉庫から出ていくのか、出ていかないのか。もしキームが出て行ってしまったらジャーンはどうなってしまうのか。いろいろな会話ややり取りをしていく中で、どうクライマックスに持っていくかを、ぜひ観てほしいですね。花札だったり、ご飯を食べたり、動きのあるシーンもあるので、そこも楽しめる部分じゃないかな。
――観客も一緒になって考える、客席も含めて“倉庫”になってしまうような舞台になりそうですね。今回は栗山民也さんの演出ですが、栗山さんの演出も初めてですか?
初めてです。いろいろな人たちから、いろんな話を聞くんです。すごく細かく指導されるよ、とか。栗山さんが入ってきたらピリピリするよ、とか。すごく素敵な方っていう人もいれば、とても怖かった!っていう人もいるし、いま僕の中にいろんな栗山さんがいて。どちらかというと僕は褒められて伸びるタイプなので、少し不安もあります(笑)
――山本さんは舞台以外にも映画やTVなどいろいろとご活躍されていますが、舞台ならではの魅力はどんなところにありますか?
今、自分の芝居がお客さんに受け入れてもらえてるか、もしくはそうでないか、演じているとわかるんですよ。最後の拍手も全然違いますし。1回1回が本気の真っ向勝負で、役者としてはやりがいがある。うまく演じられたときはすごく気持ちいいですし、できなかったらすごく悔しい。僕、千秋楽までずっと緊張しているんですよ。特に、苦手なセリフや芝居をするときは、足がカタカタ震えることも(笑)。何十公演やってきていても、ダメなんです。慣れない。コミカルでテンションの高い作品だったり、役だったとしても、そうなります。でも、そこに中毒性みたいなものを感じますね。
――観客は舞台の役者を観ていますけど、役者も観客を見ているんですね。
僕はモニターとか舞台袖とかからも見ちゃいます(笑)。客席の反応は気になりますね。今回は東京だけじゃなくて、長野、静岡、福岡、大阪、鹿児島と回るので、それも楽しみ。東京と大阪でも、お客さんの反応って違いますから。普段は行けない場所のお客さんがどんなふうに観てくれるのか、ちょっと楽しみにしています。
――山本さんは今年で芸能活動10周年になります。ご自身のキャリアの中で、今回の舞台はどのようなものになりそうですか。
ターニングポイントなのかな。つらいことも、楽しいことも、いろんなことがあった10年でしたが、勢いだけで10年間やって来た気がします。今ここで役者として、演劇人として踏ん張れたなら、今後また新たなステージが見えてくると思うんです。この作品でひとつ、自信をつけたい。実は今回の舞台のような、日常生活を切り取ったようなナチュラルなお芝居って、あまり経験がないんです。経験がない分、頑張らなきゃなと思っています。だから、いかに僕のズボラなところが浮き彫りにならないか。実は、そこも見どころなんじゃないかと(笑)。そして、この舞台を乗り越えたら何か見えてくるんじゃないかと思っています。
――10年の節目を超えて、今後はどのように活動していきたいですか
僕、野望がなくて。本当に、ただこの仕事で10年後も20年後も30年後もメシが食えればいいな、と。まさに今、木場さんが休みなく舞台に立っているように、僕もそうなれたら……羨ましいですよね。理想です。「ブレイクしてやろう」とか、本当はそう思わないといけないのかもしれないけど(笑)。「いいじゃん」って思ってもらえるように役者としての幅を広げながら、くさらずに続けていく。そのことに意味があると思っています。
――キャリアの節目として、「鱈々」では山本さんの新しい一面が観られそうですね。客さんにはどんなふうに観劇してほしいですか?
お客さんにも一緒になって考えてもらいたい作品ですし、僕自身としては、竜也くんと一緒に、ゆりさんや木場さんと4人芝居ができることはやりがいがあります。本番始まったら堂々とやりますけど、その中で僕がもがいていて、何か一皮むけた姿を感じてもらいたい。「山本裕典ってこういうこともするんだ」って思ってもらえる舞台だと思います。変わった自分、変わりかけている自分、変わろうとしている自分を、一緒に感じてもらえたら。あと僕、銀河劇場が好きなんですよ。地方にも行きますが、天王洲は素敵なところなので、観劇のついでにカフェでゆっくりしたり、お散歩してみたりして、リバーサイドを満喫してもらえたらと思います。
取材・文:宮﨑新之
ヘアメイク:佐々木麻里子
スタイリスト:中村剛
衣装:カットソー DETAILS ¥8,800、パンツ Johnbull ¥14,000
アクセサリー amp japan ¥12,000
撮影協力:SLOW HOUSE(東京都品川区東品川2-1-3/TEL 03-5495-9471)
丁寧な暮らしを提案するライフスタイルストアの旗艦店。リゾートを思わせる天王洲のウォーターフロントに面し、ジビエ料理などが楽しめるレストランも併設されている。
http://www.slow-house.com/
【公演情報】
「鱈々」
日程・会場:
2016/10/7(金)~30(日) 東京・銀河劇場
※11月にツアーあり。長野、静岡、大阪、福岡、鹿児島