2017年3月24日、東京・明治記念館にて第4回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞の贈賞式が行なわれ、受賞作、世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007『キネマと恋人』の、台本・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)、妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえをはじめとするキャスト、スタッフ、関係者が一堂に会し、共に互いの労をねぎらい、祝い合った。
会場では、公益財団法人せたがや文化財団理事・永井多惠子氏より『キネマと恋人』の再演決定も発表された。選考委員の選評を受けKERAは、「〝批評欲をかき立てる一本″として選ばれたのは嬉しいです。そして作品に頂ける賞が一番嬉しいです。作品に関わった全員に頂ける賞です。この公演はインフルエンザで5公演中止になり、皆悔しい気持ちがあったので、再演が決まったのが何より嬉しいです。」と述べた。
ケラリーノ・サンドロヴィッチといえば、2015年第40回菊田一夫賞受賞を皮切りに、2016年第23回読売演劇大賞では脚本・演出を手掛けたKERA・MAP#006『グッドバイ』が、最優秀作品賞、最優秀女優賞(小池栄子)、優秀演出家賞受賞の3冠制覇、更に同作品の脚本・演出において第66回芸術選奨文部科学大臣賞受賞等、立て続けての受賞となった。が、彼の快進撃は留まるところを知らず、明けて2017年、第51回紀伊國屋演劇賞個人賞、第68回読売文学賞戯曲・シナリオ賞、第24回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第4回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、の4賞連続受賞の快挙を成し遂げた。2016年に彼が手掛けた作品の全てが各賞の受賞対象となっている。この異例の受賞ラッシュを受け、ケラリーノ・サンドロヴィッチから、各賞受賞についての所感コメントが届いた。
<第51回 紀伊國屋演劇賞 個人賞>
キューブ企画・製作『ヒトラー、最後の20000年〜ほとんど、何もない〜』
引地信彦 ©キューブ
●cube presents『ヒトラー、最後の20000年〜ほとんど、何もない〜』の作・演出に対して、
●世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007『キネマと恋人』の台本・演出に対して
紀伊國屋演劇賞には縁がないかなと思っていましたので、今回の受賞はちょっとびっくりしました。残念ながら授賞式に欠席し直接選評を伺えなかったのですが、『ヒトラー、最後の20000年』が対象作になったのは、意外であり嬉しかったです。
古田新太と企画した『犯さん哉』『奥様お尻をどうぞ』『ヒトラー〜』の三作は、”絶対に賞の取れない、ナンセンスに特化した作品”を古田と一緒に創っていくイメージでした。『ヒトラー〜』はその最終作ですが、ナンセンスしかない、教訓めいたことや感動めいた事、もっと言えば物語すら発信していない自負があるので、そういうものが評価して頂けたのはとても嬉しいことです。
本当は日本の演劇賞に、ブロードウェイにもあるような”コメディー賞”とか”ミュージカルコメディ部門”といったようなものが設けられると、そういったものを創る人たちの励みにもなり、活性化するのではないのか、と思うんですけれどもね。
受賞の報告は、『キネマと恋人』の地方千穐楽の日に受けました。まだ公演中に『キネマと恋人』のカンパニーとこの喜びを伝えられ分かち合えた事は良かったです。インフルエンザ休演など残念だった想いがあったので、そのしょんぼりとした気持ちに、花を添えられたのではと思います。
<第68回 読売文学賞 戯曲•シナリオ賞>
世田谷パブリックシアター+KERA・MAP『キネマと恋人』
御堂義乗 ©世田谷パブリックシアター
●世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007『キネマと恋人』の台本に対して
受賞はとても意外でした。舞台『陥没』の稽古中に受賞を伝えられたのですが、上演台本という特殊な形態のものにも”文学賞”が与えられる、一瞬何の事やら分からなかった。最終的には作品全体への評価を頂く事が一番嬉しいのですが、それとまた逆の、劇作家である純粋な個人に対して賞を頂いたことは光栄です。岸田戯曲賞を頂いた後は、”戯曲賞”や”文学賞”をという名を冠したような賞には一生縁が無いと思っていました。
授賞式で、他の受賞者の方々のスピーチを聞いてるうちに、これは物凄い賞なんだということを実感しました。十年がかりで作品を書いた話をお伺いしたり、僕は僕で大変でしたけれども、それどころじゃない一生を賭けて書いて、その人の人生を決めるような賞なんだと思いました。だからまだ「何で俺?」という気持ちがちょっとあります。
<第24回 読売演劇大賞 最優秀演出家賞>
シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ 2016『8月の家族たち August:Osage County』
宮川舞子 ©Bunkamura・キューブ
●シアターコクーン・オンレパートリー+キューブ 2016『8月の家族たち August:Osage County』の演出に対して
この作品を上演した経緯に想いを巡らせます。この戯曲を演出するに至るまで、ひたすら色々な戯曲や、戯曲が原作の映画を見て、脚本を取り寄せ読み、また探す、ということが繰り返され、思いのほか大変なこと始めてしまったと思いました。この作品との出会いは、たまたま映画館でやっているものを観たという運命的なものでした。結果が残せたのは、作品選びが大変だった分報われてよかったなという感じです。
演出家賞は上演作品を観た上で頂く賞ですから、上演の印象が良かったというのは、本当にキャストのお陰だと思います。そして、そのキャストに至ったのはプロデューサーサイドとの話し合いを経てなので、僕一人だったら『8月の家族たち〜』を、このキャストでの上演するには到底至らなかったと思います。
期せずして麻実さんにああいう役を演じて頂いたのは、本当に作品の大きな印象になりました。
何度も一緒にやっている秋山菜津子や犬山イヌコとはまた違って、麻実さんが僕と組んだ時にどう演じられるか未知でしたが、結果、ダイナミックにはまったという感じでしょうか。
麻実さんは謙虚さが素敵です。僕はやっぱり謙虚な俳優さんが好きです。役的にはでしゃばった役でも、作品全体を考え、自分がどう得をするかではなくて、作品のなかでどう生きるかを考える。僕の作品は、そういう方が多く集まってくれていると思います。
だからこの演出家賞の中には、やはりみんなの、キャストやスタッフの力が大きく入っていると思います。
演出に関しては特別なことをやった意識は全く無く、強いて言えば舞台上であの盆(舞台の下手から上手に移動しながら回転する回り舞台)を回したことくらいですけれども、それは単純に、あの大家族が食卓を囲む姿を、不自然でなく、まんべんなく見せられるように、ということからで、割と当たり前の事だったとは思います。
<第4回 ハヤカワ「悲劇喜劇」賞>
©公益財団法人早川清文学振興財団
●世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#007『キネマと恋人』
やはり「作品賞」が一番嬉しいです。そしてこの作品で頂けたということが、何の疑問もなく、然るべきという感じがします。『キネマと恋人』は他の作品に増して、”総合的”な作品だと思っています。
ステージングの小野寺(修二)君や、映像の上田(大樹)君、音楽の鈴木(光介)君、皆本当に均等に、作品に力を寄与していて、正に総合芸術としての演劇作品だったと思います。
このタイミングでできたことも運命だと思いますし、カンパニーの一人でも別の方向を向いてる人がいたら、上手くいかなかったんじゃないかと思います。劇中映画の映像では、時代劇を撮影し、映像設備などハード面でもリスキーな部分もありましたし、普通だったら考え直しませんか、となりうる話ですが、「ちょっと待ってください」という声が出なかったのは本当に素晴らしいと思いました。
この作品はずっと頭の片隅にはあって「いつかやるんだろうな」と思いながら、やるとなったら大変だ、となかなか手が出なかった作品でした。
「悲劇喜劇」賞は年間で一作しか選ばれない賞ですが、その名の通り、「悲劇」と「喜劇」、その背中合わせである『キネマと恋人』という作品にはぴったりな賞ではないかと思います。
上演の機会を与えてくださった世田谷パブリックシアターに、そしてシアタートラムという空間にも大きな感謝をしています。
※4月7日発売「悲劇喜劇」(早川書房) 5月号 “第4回 ハヤカワ悲劇喜劇賞”特集号にて、『キネマと恋人』戯曲掲載
<4賞連続受賞についての所感>
自分の中では、様々な賞を頂戴したことによって自分自身は変化をしたくないという気持ちが大きいですが、世間的な認識は大きく変化してほしいです笑。僕の場合、出自がバンドだったこともあり、ミュージシャンが何かへんてこりんな演劇を創ってるらしい、というような、観ず嫌い、食わず嫌いのような人も多くいましたので、そういった人たちが、偏見なく観てくれるきっかけになるといいなと思います。
あと創作において、もちろん傍若無人が良いとは思いませんが、不必要な謙虚さを持ってしまうとやっぱり面白いものなんかできなくなってしまう。無理かもしれなくても、やりたいと思うことは、言っていかないと面白くならないと思います。箔とかそういったことは大切だとは思いませんし、創作の本質にはあまり関係のないことなのかなとは思いますけれども、やりたい事を言いやすくなる環境ができることで、作品もより良くなる強度を増す、そういった相乗効果が生まれるのならば、大切な事かもしれないと思います。
2017年、『陥没』が終わり、これから『ワーニャ伯父さん』とナイロン100℃の公演が控えています。『ワーニャ伯父さん』は今まで上演したチェーホフ作品の中でもコメディのセンスを入れ辛い、苦い印象の作品。ナイロンも別役実的な不条理路線にしたいと思っていますので、今年の作品は、シリアス目のものが続くと思います。
今まで一作一作、ピンボールゲームのように、一つ作品を創ったら今度は反動で真逆の方向の作品を創る、といったようなスタイルでしたが、これからは、一つの作品ですぐ跳ね返すのではなく、1年2年かけて少し掘り下げていくような、もう少しブレスを長く取るようなやり方になるんじゃないかなと思っています。
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