箒で飛ぶフライングアクションや歌もたっぷり!
原作から飛び出したままのキャストが魅力的
魔女の血を引く女の子キキ。古くからの習わしによって13歳のある満月の夜、相棒の黒猫のジジと修行に旅立つ――。箒で空を飛ぶ魔法ファンタジーのみならず、少女キキや少年トンボの多感な成長を描いて大ヒットした本作は、児童文学(角野栄子作)を原作にジブリスタジオでアニメーション映画化(1989)、蜷川幸雄による舞台化(1993~96年)、実写版映画(2014年)、さらにはイギリス・ウェストエンドでの舞台化(2016年)と、時を経て世界中に愛される名作中の名作。日本での舞台は蜷川演出以来実に21年ぶりであり、今回は若手新進気鋭の制作チームによりミュージカル版で再誕生する。注目の主演キキ役は、キュートなビジュアルに加えて透明感ある歌声がイメージにぴったりの上白石萌歌、トンボ役は阿部顕嵐(ジャニーズJr.)、そして、元宝塚娘役トップの白羽ゆりがパン屋のおソノを演じる。ミュージカル化に合わせ原作者の角野栄子がスピンオフ作品も連動執筆するというニュースも満載の今回。上白石と白羽が役衣装のままでインタビューに応じてくれた。
上白石萌歌
13歳で独り立ちはわたしも同じ。だからキキとわかり合える!(上白石)
――今日初めて役衣装を着たそうですが、着心地はいかがですか?
上白石 大役をいただいて意気込みはできていたんですが、衣装を身に着け、本当にわたしがキキをやるんだ!という実感と覚悟が湧いた感じです。リボンがこんなに大きいとはびっくり(笑)。でも、これが着けられてすごくうれしいです。
――箒もまたいでみましたか?
上白石 はい!ギュッとしっかり挟むので内股に結構きます(苦笑)。昔ながらの素朴な竹ぼうきみたいで、重くて、これで本当に飛べるのかな?と。箒が浮くのか、わたし(キキ)自身の魔法で飛ぶのか、そこも研究して演じたいと思いました。
――魔女や魔法に憧れたことは?
上白石 ありますね。小学生のころ、学校の図書館で魔女や妖精の本をよく読んでいました。魔女と聞くと、鉤鼻が尖っていて、骨ばった手で壺をかき回して……みたいなイメージですが、キキは本当に可愛らしくて、同じ女の子だなと親近感があります。
――キキと似ているところはありますか? また、演じるにあたって吹き込みたい上白石さんらしさとは?
上白石 ちょっと人見知りなところは似ています(笑)。初めての街で人にすぐに馴染めない、そういうのがなんかわかる。緊張しちゃうよねって。多くの方に愛される作品なので、それぞれにキキちゃんのイメージはあると思います。でも、原作や映画の印象以上にもっと“人間らしさ”を吹き込んで、ちゃんとそこにキキが立っているようにしたいと思いました。本当にそこで生きているようにできれば、感情移入もしてもらえやすいんじゃないかと。キキは一人の女の子です、ただ、普通だけど普通じゃないです(魔女だから!)という風にしたいと思います。うん、なんか、わたしも飛べるような気がしてきました!
――空を飛びたいですか?
上白石 飛びたいです!箒は大変なのでもうちょっと楽をしたいけど(笑)。わたし、死ぬまでに一度でいいから気球に乗りたいと思っていて。それくらい飛びたい気持ちがずっとあるんです。夕暮れとか飛んだらきれいだろうな。
――舞台ではフライングアクションもありますか?
上白石 あると聞きました。フライングアクションに加え、映像など使ってキキの浮遊感をより出したり、街並みをきれいに映し出す演出効果がたくさんあるので、舞台に惹き込まれると思います。激しいダンスナンバーはないと思うんですが、箒にしっかりまたがるために体幹トレーニングをしておかないと!小学生のころとか、掃除時間にみんな一度は箒にまたがったことがあるんじゃないかな?(笑)結構、バランス感覚が必要ですよね。
――歌への意気込みはどうですか?
上白石 ミュージカルの歌は、歌いあげるばかりでなく、セリフのひとつとして言いまわす歌ですから、そこはすごく難しいだろうと思っています。歌を、歌で割り切るのではなく、お芝居の延長線上にあるものとして、ちゃんと感じて歌いたい。浮き沈みするキキの心情は、歌にすることでもっと伝えられそうとも思っています。
――キキは飛べなくなる壁を乗り越えていきます。ご自分と重なる感じも?
上白石 キキが巣立つのは13歳。わたしが地元の鹿児島から東京に出てきたのも13歳で一緒なんです。わたしもその時のことを思い出すだろうし、同じ寂しさや、覚悟を、キキと共有できるんじゃないかと思うので、この作品には運命を感じました。東京っていろいろなものがギュッとつまっていて、息できるかな?と思ったんです。でも、女優のお仕事に距離は近づくからがんばらなきゃと。新しい学校で友だちができるかな?とも心配しました。本当に、キキの不安、期待、心配。思春期は余計なことを考えたりするし、いろんな気持ちが絡み合う。同じ立場だから、キキとわかり合えると思います。わたしはいま17歳だから、ちょっと前を振り返りながらですね。ただ、見る方向、目指す方向は同じ。キキと一緒に前を向いて、独り立ちできたらいいなと思います。
――好きなシーンやセリフはありますか?
上白石 映画のコピーだったと思いますが、“いろいろあるけれどわたしは元気です(おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。)”わたし、ちゃんとがんばってるよと、ひたむきさが伝わってきて、シンプルだけど、ぐっときます。嫌なことも大変なこともあったけれど、ちょっと乗り越えたよって、そんなときに出る気持ち。すこしだけ大人になったキキの強さが感じられて好きです。
――上白石さんの壁の乗り越え方とは?
上白石 日記を書くことかな。中一から始めて4冊目。あ、ちょうど13歳かも!昔の日記を読み返すと、わー、こんなことで悩んでいたのかと思ったり、逆に、昔の自分に助けられたりもします。文字やインクの染みでその日の様子もわかるし、いろんなことを日記に吐き出している。記憶や記録を残す意味もあるんですが、日記って、気持ちの整理もできますよね。気持ちのアウトプットは大事。自分の成長の記録になったらいいなと思って続けています。
――阿部顕嵐さん、白羽ゆりさんの印象は?
上白石 阿部さんは衣装がすごく合っていて、パッと見てトンボくんだ!と思いました。おソノさんも本の中から出てきたよう。白羽さんは宝塚出身とお聞きしたので、お会いするまで緊張し身構えましたが、やわらかく素敵な方でした。おソノさんはキキにとって重要な人。同じように包み込んでくれそう。大先輩として、舞台の立ち方、稽古場でのあり方を教えてもらいたいです。
――日常のちょっとした魔法はありますか?
上白石 ちょうど春ですけど、わたし、花の中で桜が一番好きなので、疲れたなって思ったときに電車の窓から桜の花が見えると、ふわ~と一気に癒されるわ~。これ、魔法です(笑)。好きな曲を聞きながら桜を見るともっと癒されます。aikoさんの『桜の時』がぴったり。辛いこともぜんぶ吹き飛びます。
――最後に、お客様にメッセージをお願いします。
上白石 キキを演じるのではなく、キキとして一生懸命に生きたいです。ぜひ見に来てください!
白羽ゆり
舞台でこんな役は初めて!肝っ玉母さんでがんばります(白羽)
――役衣装を着てみてつかんだものはありましたか?
白羽 おソノさんは、いままで舞台でやったことがないような役です。これまではドレスものが多かったから。なので、この衣装を着こなせるかどうか実は心配しましたが……、着てみると、この作品の優しい雰囲気が出せそうで一安心です(笑)。パン屋さんっていいですよね。撮影には本物のパンも持たせてもらったんですよ。香りに癒されました。パンの力、偉大ですね!
――挑戦の役どころになるんですね。
白羽 おソノさんは地に足の着いた女性のイメージで、しかも妊婦さん。今回は本当に挑戦だと思います。年齢的に、お母さん役も似合うようになりたいし、役の幅を広げたい気持ちがずっとありました。頼れる存在になりたいですね。
――おソノは、町にやってきたキキを最初に受け入れる人物です。
白羽 イメージは、肝っ玉母さんです。それが一番おソノさんに近づけるんじゃないかと思っています。原作の小説から、器の大きさやたくましさを感じました。見た目が妊婦さんなのでどーんとしているのもあるけれど、性格もどーんとしている。それでいて、チャーミングさもある。とても魅力的な女性です。わたしもこんな人に会えたら安心すると思うし、小さな子どもが自然と寄って来るような雰囲気を作りたいですね。
――おソノらしさを感じる点は?
白羽 粉まみれの空き部屋(粉置き場)をそのまま貸しちゃうのも、おソノさんらしいと思いました。わたしだったら一応掃除しそう(笑)。でも、おソノさんは細かいことは気にしない。いくら小さくても魔女が来たら、わたしなら魔法をかけられるんじゃないかと恐れそうなのに、そうじゃなくどーんと受け入れるのはカッコイイと思います。妊婦さんでもあるし、母は強し!ですね。わたしは独身ですし、「お母さん」は憧れもあるんですよ。おソノさんは、わたしの憧れをいろいろ先取り体験できる役でもありますね。
――参考にされる人などはありますか?
白羽 宝塚に入るときに、東京の受験スクールに福島から通っていました。そのときの振付の先生が妊婦さんだったんです。結構産むギリギリまでバレエなども教えていて、結果、元気な男の子を出産されたからよかったけれど、わたしは心配だったんです。でも、あまりに先生がパワフルでカッコよく、言葉もサバサバしていた。その先生がわたしの中ではおソノさんのイメージに近いかも。カッコよさ、やさしさ、母であり働き続けているところと、おソノさんの力強さのイメージが重なりますね。
――上白石さんのキキの扮装は見てどうでしたか?
白羽 今日初めてお会いしましたが、10代ってやっぱりリボンが似合う!とってもかわいいですね。きっと、自分が役作りを気にしすぎるより、彼女とのやり取りの中で見えてくるものがあるんじゃないかと思いました。ミュージカルだから、デュエットや、歌のやり取り、掛け合いもあるでしょうし、すごく楽しみですね。……そういえば、キキ、飛ぶのかな?
――飛ぶそうですよ。
白羽 わたしも『ピーター・パン』の舞台でフライングを経験しましたが、飛ぶのがすごく好きなんですよ(笑)。ハーネスを装着して飛ぶのは実際大変でもありますが、舞台上をキャストが飛んでいる場面は、本人も、お客様も、出演者として舞台上から見るのも、とても贅沢な風景です。本当に夢のある世界ですよね。あの世界観がまた見られるのは楽しみです。本当はわたしも飛びたいけど……、おソノさんは飛べないから残念(笑)。
――上白石さん、阿部(顕嵐)さんとの共演の楽しみは?
白羽 10代のキラキラがいっぱい!お仕事をされているからか、しっかりしているところもあり、顕嵐くんは頼もしくトンボ役にぴったり。萌歌ちゃんはとにかくリボンの似合うビジュアルが素敵ですよね。わたしも宝塚に入ったのは10代でしたが、こんな感じだったのかな?10代の2人の向かっていくエネルギーは本当に強いと思いますし、刺激されることも多いと思います。来年で芸歴20周年を迎えるので、私も初心を思い出し、新しい作品に向き合いたいと思っています。
――魔女や魔法に憧れはありますか?
白羽 怖いイメージです!悪い薬を作ってそうで。なので、憧れたことはないけど、会ってみたいとは思います。キキみたいな子がいいな、大人の魔女は怖いかも。わたし、すぐ魔法にかけられてしまいそう。ピッと動物にされちゃうとか(苦笑)。ただ、飛ぶのは好きだから、魔女の箒ではなく、鳥になって飛んでみたい願望はあります。羽を広げて優雅に――!やっぱり萌歌ちゃんが羨ましい(笑)。
――最後に、お客様のメッセージをお願いします。
白羽 キキは様々な困難に立ち向かい乗り越えようとしていきます。ぜひ、夢を持っている人たちに自分を重ねて見てほしいですし、おソノさんや、旦那さん、キキの両親など、大人たちのいろんな視点から見ても温かく応援したくなると思います。いろいろな共感があると思うので、ご家族で見ても楽しめると思います!
◆◇◆わたしのおすすめの一冊◆◇◆
上白石萌歌
『デッドエンドの思い出』よしもとばなな 著
独特の世界観をお持ちで、一番好きな作家さんです。『デッドエンドの思い出』は短編集で、あり得ないことを淡々と描くタッチや、美しい表現が大好き。一時期はカバンに入れて持ち歩いていました。カレーじゃないけど(笑)、時間を置いて繰り返し読むとどんどん美味しくなるし、状況が違えば読み方もまた違ってきます。表紙が落ち葉なので秋によく読みますね。季節に敏感なのかもしれません。
白羽ゆり
『LESS IS MORE 自由に生きるために、幸せについて考えてみた。』本田直之 著
これは、幸せとは何か?をいろんな角度から分析して書いてある本です。よりシンプルに、より少なく、だからこそより豊かに。いまの時代だからこそ、大事にしたい事は何かをきちんと見つけたい!と、本を読んで感じました。そうは見えないとよく言われますが、ビジネス本や心理の本が好きなんですよ。宝塚で団体生活をしてきたこと、三人姉妹の末娘であることなどで、リーダーシップに関すること、男性と女性の脳の違いなどに興味を持っていまして。演じる際の客観的な視点を持つ助けにもなっていますね。
取材・文/丸古玲子
【プロフィール】
上白石萌歌
■カミシライシ・モカ 2000年、鹿児島出身。2011年第7回東宝「シンデレラ」オーディションに当時史上最年少(10歳)でグランプリ。2012年ドラマデビュー。2016年ミュージカル『赤毛のアン』で主演を務めた。
白羽ゆり
■シラハネ ユリ 1978年、福島県出身。元宝塚歌劇団星組・雪組トップ娘役。2009年退団後は女優として舞台、ドラマ、映画などで活躍。主な出演作は『シェルブールの雨傘』『銀河英雄伝説』『Bonnie & Clyde』『ピーターパン』など。
【公演情報】
ミュージカル『魔女の宅急便』
原作・監修:角野栄子
脚本・演出・振付:岸本功喜
作曲・音楽監督:小島良太
出演:上白石萌歌 阿部顕嵐(ジャニーズJr.) 白羽ゆり他
日程・会場:
2017/6/1(木)~4(日) 新国立劇場・中劇場(東京)
2017/8/31(木)~9/3(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪)