ONWARD presents 新感線☆RS『メタルマクベス』disc3 Produced by TBS 公開ゲネプロ&囲み取材レポート

2018.11.16

360度回転する客席。シェイクスピアの『マクベス』をモチーフに宮藤官九郎が描く、奇想天外なストーリー。disc1・disc2・disc3とキャストが異なるだけでなく、オリジナルの趣向を凝らし変化を楽しめるいのうえひでのりの演出。極めつけは生演奏で奏でるド迫力のメタルサウンド!劇団☆新感線らしい遊び心とライブ感の詰まった演出で話題を呼んでいるのが、東京・豊洲のIHIステージアラウンド東京にて上演されている舞台『メタルマクベス』だ。

今回は、シリーズのファイナルとなるdisc3の公開稽古のもようをレポート。まずは主人公のランダムスターとその夫人を演じる浦井健治と長澤まさみのフォトセッション&囲み取材が行われた。

 



撮影/山口真由子


――disc1から続いてきた『メタルマクベス』もこのdisc3でついにファイナルとなりますね。

浦井「disc1、disc2とみんなで作り上げてきた、この作品のバトンが受け渡された手ごたえを感じています。われわれのdisc3がいろんな意味でこの作品の集大成になるということを踏まえて稽古を重ねてきたつもりなので、その世界をお客様にしっかり届けていきたいと思います」

長澤「(IHIステージアラウンド東京は)本当に広い劇場なので、まずは舞台が無事に始まるといいなと願っているところですね」

 

――運動量がものすごい作品ですしね。

浦井「もう、運動会のように走り回っています。キャストの僕らだけではなく、スタッフさんもみんな、舞台裏でも走り回ってますね。体力勝負みたいなところはあります」

長澤「私自身は60公演という長い公演に挑戦するのも初めてなので、なんとか無事に最後まで走り切りたいという思いがあります。不安もありますが、たくさんのお客様が劇場に来てくださったら、また気持ちも変わってくるのかなと思っています」

――浦井さんは新感線作品に出演されるのが3度目ですが、いのうえさんの演出はいかがですか?

浦井「今回は主役なので、過去作品とは違ってめちゃめちゃ厳しいです。とくにランダムスターと夫人の2人だけのシーンは、千本ノックみたいにダメ出しが入りますね。『メタルマクベス』はランダムスターと夫人を中心にした物語なので、やはり2人のシーンについてはスパルタなイメージがあります。ダメ出しは怖いんですが、稽古中のいのうえさんの目がずっとキラキラしていて、すごく楽しんでいらっしゃるのが伝わります。こんなに「健治!健治!」と名前を呼んでもらえることもそうそうないと思って、いのうえさんの演出にはくらいついてきたつもりです。橋本じゅんさんをはじめ劇団員のみなさんとともに“このメンツならではのdisc3を作ろうぜ!”という勢いで頑張ってきました。稽古がうまくいかなくてちょっと凹んでるときには必ず、優しい夫人がクッキーをくれたりしていましたね(笑)」

 

――座組全体の雰囲気はいかがですか?

長澤「チームワーク、いいですね。見せ場がたくさんある作品なので、個々で頑張らなきゃいけない部分も多いんですが、キャスト全体で動き回ったり全員でお芝居をしている感覚も強いんです。これだけの人数ですしまとまりにくいのではと思っていましたが、作品を成功させるという目標は一緒なので、一丸となってこの作品を作り上げていこう!という気合いがみんなの中にある感じがします」

――芝居はもちろん、お二人が歌を披露するシーンも見どころですね。

長澤「私は人前で歌うのが2回目(ミュージカル『キャバレー』に続き)なので……」

浦井「長澤さん、めちゃめちゃ歌が上手いんですよ。かっこいいです」

長澤「いやいやいや!でもこのストーリーの中では歌も大事な意味を持っているので、セリフだけじゃなく歌も、観に来たお客様の心に届くように歌えたらと思っています」

 

――お二人とも衣裳がセクシーでお似合いです。

浦井「(鋲が付いているので)かなり重いんですが、通気性は抜群なんですよ。ただ走り回るので、いつも汗だくです。「このぐらいの重さ、男だったら大丈夫だろう!」というツンデレな趣向ですね」

長澤「私がよく言ってるんです、「そのぐらい耐えろ!」って。恐妻、悪女という役柄なもので、稽古中から浦井さんにはビシバシ言わせていただいてます(笑)」

――では、お二人が考えるdisc3の見どころとは?

浦井「すべてですね。すべてのシーンにいのうえさんの演出が行き届いていますし、川崎悦子先生の振付も、田尻茂一さん・川原正嗣さんの殺陣も隙がない、万全の態勢です。スタッフさんたちもこの劇場の機構をフル活用しているので、まさにここでしか体験することのできないアトラクションのような体感型の舞台になります。すごく面白い経験をしていただけるんじゃないかと思います」

長澤「この劇場で新感線の作品を見れるのは最後になりますし、浦井さんがおっしゃったようにアトラクションのようでもあり、今までにどなたも体験したことがないような空間になっているので、それを楽しみに来ていただけたら。舞台を観慣れていない方でも楽しめる演目、劇場なので」

 

――最後に、このdisc3が『髑髏城の七人』から約2年続いた新感線作品のオーラスとなりますが、今の意気込みを聞かせてください。

浦井「この一連の作品をしっかり締めくくれるようdisc3のカラーをふんだんに散りばめていただいていますし、いのうえさんが千秋楽までダメ出しを続けてくださると思うので、それにくらいついて、みんなでいいものを作り上げていきます。僕は夫人の尻に敷かれつつ、しっかりランダムスター/マクベス浦井として頑張っていきたいと思います」

長澤「演じれば演じるほどすばらしい脚本だと思うんです。ある意味、宮藤官九郎さんとシェイクスピアの共作といえる作品ですし。この劇場で観られるのは最後ですし、これまでに観たことのないようなエンターテイメントになっていると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいなと思います」

そしてここから、いよいよdisc第一幕の公開稽古がスタート。舞台となるのは西暦2218年。フェンダー国とギブソン国、新興勢力のESP国が激しい争いを繰り広げる時代に、かしましい3人の魔女(峯村リエ、右近健一、中谷さとみ)が予言めいたある歌を歌い始める……。本作の初演は2006年だが、おそらくそれを観た人はもちろん、ロック好きな人もきっとこの冒頭のシーンから「やられた!!!」と感じることだろう。詳しくは本番を観ていただきたいが、この作品が12年経って新たな形で再生された意味が、こういった些細なポイントにも散りばめられているように感じた。
そこに登場するのが、自国に戻る途中だったESP国の無敵の将軍・ランダムスター(浦井)と、盟友エクスプローラー(橋本じゅん)だ。disc1の橋本さとしは圧倒的な貫禄、disc2の尾上松也はギラリとした凄みがあったが、“浦井ランダムスター”はたたずまいや歌声が凛々しく、2人とはまた違った魅力を放っている。橋本はdisc1にも出演しているが、disc1とはまた違ったアプローチで浦井ら他のキャストをしっかり支えている印象だ。
彼らの主君であるレスポール王(ラサール石井)の城には、2人の盟友であるグレコ(柳下 大)やレスポールJr.(高杉真宙)の姿が。disc1の松下優也、disc2の原嘉孝(宇宙Six/ジャニーズJr.)と、ダンス畑出身の役者が演じてきたレスポールJr.だが、“高杉レスポールJr.”も2人に負けず劣らずかなりクセのある設定だ。“柳下グレコ”は、バンド・メタルマクベスのマクダフ柳下として活動を続けるうちに、驚異的な(?)変貌を遂げるのも見どころ。
キャストの中で唯一の現役メタルミュージシャンである冠くん(冠徹弥)のシャウトがさえわたるナンバー「炎の報告」では、ライブ会場さながらに盛り上がる鋼鉄城と、ランダムスターたちのスリリングな殺陣が炸裂する戦場という2つのステージが客席前方に出現。キャストがバイクで走り回るシーンなどもそうだが、目がいくつあっても足りない構成は何度観ても斬新だ。
ランダムスターとエクスプローラーは、魔女たちの「あなた(ランダムスター)はいずれマホガニーの領主となり、いずれは王になる」という言葉や、彼女たちに渡された80年代のメタルバンド・メタルマクベスのCDのジャケットに自分たちとそっくりなマクベス浦井、バンクォー橋本、さらに盟友グレコ似のマクダフ柳下(柳下大)を見つけて驚くのだが……。 マホガニー領主の失脚により国のNo.2に昇格したランダムスターに対し、レスポール王を暗殺して“王の座を奪い、あなたがNo.1になるのよ”とたきつけるのが、長澤演じるランダムスター夫人。こちらもdisc1の濱田めぐみ、disc2の大原櫻子が演じた夫人とは異なるタイプの野心家で、セリフ回しや低音もしっかり聴かせる歌声などは香りたつように艶めかしい。2回目のミュージカル出演だが、彼女の舞台度胸とステージでの存在感は驚きに値する。
ランダムスターの精神的な混乱をきっかけに、バンド・メタルマクベスの物語とランダムスターたちの物語が、この特殊な劇場の機構もフル活用して2つの時代を行き来する本作。ランダムスター夫人がメタルマクベスのCDを聴くくだりでは、マクダフ柳下をボーカルに据え、メタルナンバーを生演奏で熱唱するという注目シーンも。
そして物語がダイナミックな盛り上がりを見せる一幕後半では、何も知らないレスポール王を追い詰めようとするランダムスター&ランダムスター夫人のスリリングなやり取りが見ものだ。生来の気の弱さから王の暗殺をためらう夫に夫人が放つ一言一言には、どんな人の心にも巣くう闇を垣間見るようで、思わず手に汗を握ってしまう。物語後半、あまりに生き急ぎすぎた2人を待ち受ける結末とは……?
豪華キャストがステージ上で熱くしのぎを削る本作は、アトラクション気分で楽しむもよし、ライブ気分で盛り上がるもよし。IHIステージアラウンド東京でのフィナーレを飾る『メタルマクベス』をお見逃しなく。

取材・文/古知屋ジュン
舞台写真/村上宗一郎