製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
同名大人気コミックを原作にしたミュージカル『SPY×FAMILY』が3月8日(水)に東京・帝国劇場にて開幕、それに先がけ公開ゲネプロ(リハーサル)と初日会見が行われた。そのレポートをお届けする。(※公開ゲネプロのキャストは、ロイド:鈴木拡樹、ヨル:唯月ふうか、アーニャ:増田梨沙、ユーリ:瀧澤翼)
原作は「少年ジャンプ+」(集英社)にて連載中の遠藤達哉によるスパイアクション&ホームコメディ作品。「スパイ&超能力者&殺し屋が互いの秘密を抱えたまま仮初めの家族になる」というユニークな設定や、スタイリッシュでキュートなキャラクターたち、シリアスとコメディが絶妙にブレンドされた世界観、巧妙なセリフ回し、アクションとギャグを織り交ぜたストーリーテリングとさまざまな要素が織り成す作品は読者からの圧倒的な支持を得、現時点で累計発行部数2,900万部を突破する大人気作に。これが初のミュージカル化となり、脚本・作詞・演出はG2、作曲・編曲・音楽監督は かみむら周平が手がける。
登場人物は、“仮初めの家族”の父として精神科医ロイド・フォージャーに扮する凄腕スパイの〈黄昏〉を森崎ウィン/鈴木拡樹(Wキャスト)、母で殺し屋のヨル・フォージャー(コードネーム〈いばら姫〉)は唯月ふうか/佐々木美玲(日向坂46)(Wキャスト)、娘で人の心が読める超能力の持ち主アーニャ・フォージャーは池村碧彩/井澤美遥/福地美晴/増田梨沙(クワトロキャスト)が演じ、さらに、ヨルの弟で東国〈オスタニア〉の秘密警察ユーリ・ブライアを岡宮来夢/瀧澤翼(円神)(Wキャスト)、〈黄昏〉の後輩スパイであるフィオナ・フロスト(コードネーム〈夜帷〉)を山口乃々華、〈黄昏〉に協力する情報屋フランキー・フランクリンを木内健人、アーニャが入学を目指す名門イーデン校の教諭ヘンリー・ヘンダーソンを鈴木壮麻、〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官シルヴィア・シャーウッドを朝夏まなとが演じる。
※以下、ネタバレがあります
舞台は、銃の音、爆弾の音……戦争の音が降り注ぐ中、がれきに立ち尽くす少年・〈黄昏〉(たそがれ)という印象的なシーンで幕を開けた。物語の舞台となるのは、それから時が経ち、〈黄昏〉が大人になった世界。隣り合う東国〈オスタニア〉と西国〈ウェスタリス〉では十数年間にわたる“仮初め”の平和が保たれており、西国の情報局対東課〈WISE〉所属のスパイである〈黄昏〉は、その高い諜報能力を駆使して幾度も東西両国間の危機を回避させてきた。そんな彼がある日、極秘任務を命じられる。その名も「オペレーション〈梟(ストリクス)〉」。東西平和を脅かす危険人物、東国の国家統一党総裁ドノバン・デズモンドの動向を探るため、「一週間以内に家族を作り、デズモンドの息子が通う名門イーデン校の懇親会に潜入し、デズモンドに接触せよ」というものだ。そこで黄昏は、精神科医ロイド・フォージャーに扮し、家族を作るため《娘》と《妻》を探すことになる――。
今作で描かれるのはまさに「SPY×FAMILY」の幕開け、ロイドとアーニャ、そしてヨルが出会い、お互いに正体を隠しながらも共に暮らし、アーニャのイーデン校受験を乗り越え、仮初めの家族として歩み始めるまでの“フェイズ1”のストーリーだ。原作の世界観はコメディ部分も含め丁寧に再現されており、初めて作品に触れる人でもその魅力を味わうことができるだろう。それに加えて原作の台詞を散りばめた楽曲の数々やダンスはもちろん、スパイものならではの次々変わる場所の表現、漫画のコマを感じさせる映像の演出、そして目の前で生身の人間がキャラクターを演じていることなど、劇場でしか味わえないものが「SPY×FAMILY」の世界を瑞々しく動かし、この作品が描くものを体験することができるはずだ。
ゲネプロで〈黄昏〉を演じた鈴木拡樹は、近年、ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』や舞台『アルキメデスの大戦』など幅広い活躍を見せるが、長く2.5次元でトップを走り続ける俳優でもある。そのキャラクターの再現力の高さはもちろん本作でも活きており、スパイとしてのアクションシーンでは〈黄昏〉の腕の良さが一目でわかる俊敏で無駄のない動きを見せ、ロイドや“ちち(父)”としてのシーンではどこかズレた感覚でクスッと笑わせ、時折垣間見える〈黄昏〉の想いや戸惑いにはぐっと心を掴み、本作で描かれる「人はみな、誰にも見せぬ自分を持っている」を体現してみせる。
いばら姫を演じた唯月は、最近でもミュージカル『東京ラブストーリー』赤名リカ役から音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』ニータ役まで務めるなど、幅広い役柄を演じられる俳優で、本作でも、〈いばら姫〉という人物が持つギャップを豊かに表現していた。中でも大切な弟ユーリの存在を軸にした想いは丁寧に紡がれており、殺し屋という一面を持つ彼女の芯を描く。そんな〈いばら姫〉も、ロイドと出会ってからは、その一生懸命さや不器用さが表出。ヨルとしてロイドに見せる顔、アーニャに見せる顔、ユーリに見せる顔の違いも印象的だ。
そして増田が演じたアーニャ。アーニャは「SPY×FAMILY」でも特に人気の高いキャラクターだが、その人気の理由を一発で理解させるものを増田が体現していた。それはただ単にかわいいだけではない、過去のトラウマもしっかりと重ねた役づくりがされているからこそのもので、アーニャがかわいらしい姿を見せれば見せるほど、その奥にある経験を想わずにいられなかった。とはいえ登場するシーンはほぼかわいいので、客席では声が漏れないようにご注意を。ロイドを手助けしようと、ちょっとした棒芝居を打つアーニャは思考が奪われるほどのかわいさでした。
ヨルの弟ユーリを演じた瀧澤は、姉を溺愛するほほえましい(?)弟と、スパイ狩りや市民の監視を任務とする東国の秘密警察という対極の姿を演じた。彼の秘密警察としての仕事は恐ろしければ恐ろしいほど東国と西国の真の関係を示してしまうものであり、だからこそ姉への態度との振れ幅の大きさが印象的であった。さらに、〈黄昏〉の後輩スパイ・フィオナを演じる山口は〈黄昏〉への恋心とやきもちをコメディチックに表現し、木内演じる〈黄昏〉に協力する情報屋フランキーは登場するとホッとする存在を示し、アーニャが入学を目指す名門イーデン校の教諭ヘンリー・ヘンダーソンを演じる鈴木壮麻は威厳の隙間に鈴木壮麻ならではのお茶目な姿を見せ、〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ黄昏の上官シルヴィア・シャーウッドを演じる朝夏は、朝夏自身が役や作品を楽しんでいるのだろうと感じさせるようなのびのびとした芝居を見せてくれた。
原作のおもしろさとミュージカルの魅力が掛け合わさって生まれた本作は、観終わった後には「早く続きが観たい」という気持ちに。ぜひ劇場でしか味わえない「SPY×FAMILY」を堪能してほしい。
ゲネプロ後には、フォージャー家のキャスト8名による初日会見も実施。森崎ウィンと井澤美遥が、鈴木拡樹と福地美晴が、唯月ふうかと池村碧彩が、佐々木美玲と増田梨沙が、それぞれ手を繋いで登場した。
初日を迎える気持ちを色に例えると?という質問に、森崎の答えは「白」。「お客様と一緒につくる舞台ですので、これからこの“白”がどんな色に染まっていくのかを僕自身も楽しみです」。鈴木の答えは「春色」。「今の季節も春ですし、今作はアーニャも入学するというお話なので。そういう意味でもこの時期にぴったりな作品になっているのかなと思います」。唯月は「赤茶」。「この作品の楽曲のジャジーな感じは(色に例えると)私は茶色っぽいなと思っていて。そこにヨルさんのカラーである赤を混ぜました」。佐々木は「虹色」。「初日を迎え、毎日やっていく中でいろんな色になって、パッと明るくなれればいいなと思うので。がんばります」とそれぞれコメント。一人一人の回答にアーニャ役の4人が「すばらしい!」とほめたたえ、ほのぼのとした雰囲気が漂う。
次はアーニャ役の4人が回答することに。池村は「水色」。「今ここに青いライトがあるから。あと、たくさんの人が元気になれるから、がんばろうって気持ちになれるから、いいなと思いました」、井澤は「虹色」。「毎日アーニャをがんばろうと思って。みんなニコニコになれるように虹色にしました!」。福地は「私も虹色です」。「オーケストラの人たちと、舞台の上にいるみんながキラキラしているから、早くお客さんに観てほしいなと思って虹色です」。増田は「黄色」。「なぜかと言うと、ワクワクな気持ちとアーニャの元気な感じがあるかなと思いました」と答えた。
その後も衣裳への質問や、お互いの呼び方、稽古場エピソードなどをワイワイと答え、最後に森崎と鈴木から「今日この初日を迎えられていることに改めて感謝しています。この素晴らしい原作を日本オリジナルでつくったミュージカルは、世界に向けたものだと僕は思っています。カンパニー一同、大千穐楽まで全速力で突っ走ってまいります。どうか最後まで応援よろしくお願いします」(森崎)「挑戦する舞台だと思っています。アニメ文化は、日本が誇る世界に通用するコンテンツなので、海外まで声が届く作品になることを願っています。多くの方に届く作品になればいいなと思います。みなさんどうぞよろしくお願いします」(鈴木)と挨拶。終始にぎやかに会見は終了した。
上演時間は約2時間55分(途中20分の休憩あり)。東京、兵庫、福岡にて5月21日(日)まで巡演される。
取材・文:中川實穗