舞台『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』2023│ゆきあつ役・井阪郁巳✕つるこ役・駒形友梨 インタビュー

撮影/多治見武昭

引きこもり気味の高校生・じんたんの前に小学校時代に不慮の事故で命を落とした友人・めんまが「お願いを叶えて欲しい」と現れる。戸惑いつつも頼みを叶えるため、じんたんは当時一緒に遊んでいた「超平和バスターズ」のメンバーたちと会うことに……。

2011年にアニメ放送され大ヒットし、小説、マンガ、ゲーム、ドラマ化もされた名作が、畑雅文の演出によって舞台化。注目のキャストにはじんたん役に河原田巧也、めんま役に市川美織、あなる役に桃月なしこ、ゆきあつ役に井阪郁巳、つるこ役に駒形友梨、ぽっぽ役に須賀裕紀が扮し、舞台版“あの花 2023”として新たな襷を紡ぐ。今回は演劇宣言! スペシャルインタビューとして、ゆきあつ役の井阪郁巳さんとつるこ役の駒形友梨さんに登場して頂き、初日を直前に控えた今の心境を話して貰った。

ーー8月9日の初日が近づいてきましたね

駒形 そう!もうあと何日ですか?あっという間に本番です。今はすごく良い雰囲気で稽古ができています。

井阪 雰囲気いいですよね。演出家の畑雅文さんがめちゃくちゃ明るい方で、「通し稽古前には、円陣を組んで意気込みを言い合いましょう」と盛り上げてくれるのでとても助けられています。

ーー『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以降、“あの花”)の舞台となる季節は夏なので、8月に上演されるのは作品的にピッタリですね

駒形 暑いなか稽古場に通う感じに青春感があって、“あの花”の世界観に入っている感じがします。

井阪 季節が合ってるのはありがたいですよね。お客さんもイメージしやすいんじゃないかと思います。

ーー出演が決まったときの心境は?

井阪 僕はアニメはちゃんと見たことがなくて、実写でやったドラマを見ていたくらいだったんですけど、出演が発表されたら、地元の同級生たちから「“あの花”に出るの? しかも“ゆきあつ”やるのかよ!」って連絡がたくさん来たんです。出演が決まった段階では、そこまで大きなことだという実感がなかったんですけど、これまで出たどんな作品よりもリアクションが大きくて、“あの花”がみなさんにどれだけ愛されているかを感じました。それと同時に、プレッシャーもやってきてドキドキしています。

駒形 わかります!お仕事の場所で、会う人、会う人から「つるこ役やるんでしょ?見に行くよ!」って声をかけて頂いて「ああ……なんか大変なことに……大変だ、大変だ」ってなってます。

ーー周囲のリアクションも大きかったんですね

駒形 私はこれまでストレートの舞台に出たことが一度もなく、「私にできるのかな?」ってところからの挑戦なので尚更びっくりしています。舞台初挑戦というハードルに加えて、注目度の高い舞台作品というふたつの要素が倍増して、よりプレッシャーが増えたという……。

ーー駒形さんは声優&歌手として、これまで多くのステージに立たれていますけど、やはり演劇の舞台となると勝手が違いますか?

駒形 ぜんぜん違いますね。声のお仕事の場合は、“どう動いたらどんなふうに(声が)聞こえるか”ということを考えながら身体を動かすんですけど、演劇の場合は“どう動いたらどう見えるか”ってことも考えるので、私の中にまだぜんぜん引き出しがなくて、稽古を重ねて徐々にって感じです。

ーー“あの花”は、これまでアニメや小説、マンガやドラマなど数多くの作品になっています。物語の魅力はどこだと思われますか?

井阪 アニメを見る前は、若者たちの青春がフレッシュな感じで進んでいくのかと思っていたんです。それが見始めたら「おや?これはちょっと……」って。小学校時代に大切な友だちを亡くした仲間たちが、それぞれ深い思いを抱えていて……その重さがなんというか……ネタバレになるので言えないですけど、とにかくラストシーンに向けての怒涛の展開が凄いです。今回、舞台でゆきあつ役をやれるというので演じがいがあるなと思っています。

駒形 最初、みんなが「泣けるよ」って勧めてくれたんですけど、私は「ホントに泣けるの?」って半信半疑で見始めたんですよね。それがもう最終回まで一晩で見ちゃうくらい夢中になって。しっかり私も泣いてしまいました。見終わって思ったのは、きっと見る人の生い立ちや通ってきた道によって、泣く場所が違うんだろうなということ。私は妹がいるので、めんまが弟に駆け寄るシーンで涙腺崩壊しましたけど、他の方はまた違うんだろうなと。それぞれのキャラクターに感情移入できるところが“あの花”の魅力ですね。

ーー駒形さんが演じるつるこは、みんなを俯瞰で見守っているようでもあり、ゆきあつに振り回されているようでもあります

駒形 普段、声優で演じさせて頂く役もメガネをかけてって役が多いので、入り口としては難しくはなかったのですが、つるこは色々先回りしてみんなのことを見て、ああしよう、こうしようって感じなので、どこまでつるこはわかっているんだろうというのを感じ取るのが難しいです。ここのシーンは本当にびっくりしているけど、こっちのシーンは薄々感づいている空気で演じなきゃとか。そのへんの細かいところはこれからの稽古の課題だと思っています。

ーー井阪さん演じるゆきあつは顔が良くて、頭が良くて、女性にもモテるにも関わらず、抱えているものは大きいという難しい役です

井阪 僕、普段は無駄な動きが多いんですよ。なんか一個、余計なアクションを入れちゃったりするんですけど、今回はあえて何もしないでいようと。できる限り、素の井阪郁巳とは違う面を見せようと思っています。何もしないことでめんまへの気持ちやじんたんに対しての思いも伝わるのかなと。

駒形 ゆきあつは内に、内にって感じですよね。

井阪 本当にそう。ひとりでなんか抱えてる。その気持ちを爆発させるシーンはあるので、そこに向けて、できる限り何もしないということが今回の課題だと思っています。僕は「わお!」とかついつい言いたくなっちゃうので、何かアクションを入れたくなったら横にいるつるこの話を聞くようにしようかなと思っています(笑)。

駒形 フフ。そうですね。ゆきあつとは同じシーンが多いですからね。

井阪 身を任せています。その場にいるだけで会話が成立するので頼りにしていますね。

駒形 ええ?逆ですよ。逆。私は人見知りなので、今回も不安な気持ちで稽古場に来たんですけど、席が隣だった井阪さんがいろいろお話をしてくれたのでめちゃくちゃ助かっているんです。

井阪 人見知りだったんですか?全く見えてなかったです。

駒形 実は人見知りなんです……フフ。

井阪 僕は落ち着いている方が横にいてくださるので安心できるなと思っていました(笑)。なにしろ稽古初日から台本を見ずにだったのでドキドキしてたので。

ーー稽古初日から台本を読まずにってことは、それまでにセリフも覚えていないといけないし、大変じゃないですか?

井阪 ですけど、家でひとりで台本を読んでいても(身体に)入った気はしないんです。「完璧だ」ってなかなかならないんですけど、初日からみなさんと助け合いながらやれたので良かったですし、団結力が増しました。

ーー共演者のみなさんとの関係はいかがですか?

井阪 めんま役の市川美織さんはもう第一声を聞いただけで「!」ってなるくらいめんまなので、「ですよね~」って。

駒形 市川さんは普段もめんまみたいなので(笑)。すごくやりやすいです。

ーー発表されているビジュアルもみなさんアニメへのリスペクトを感じられてそっくりでした

駒形 私、ずっとショートカットだったんですけど、ここ1年髪の毛を伸ばしていたんです。偶然なんですけど、ウィッグなしでつるこさんを演じられるので、なんかこの為に伸ばしていたのかもと思えて縁を感じました。宣伝写真の撮影ではじめて衣装を着てメイクもしたんですけど、髪の毛の角度やポーズなど、細かくアドバイスを頂いての撮影で新鮮でした。

井阪 僕は2.5次元の作品をやらせて頂いているので、ビジュアルの大切さはわかっています。なので、ここから本番に向けて更にゆきあつに近づけるようにしていきたいと思っています。

駒形 ぽっぽ役の須賀裕紀さんは長かった髪を切られたんですよね?

井阪 そうそう。体重も今回の為に増やしたと言われていましたね。

ーーみなさんのビジュアルへのこだわりも見どころになりそうです。では最後に舞台版“あの花”を見るかどうか迷っている方に最後のひと押しをお願いします

井阪 この前、通し稽古をプロデューサーさんが見て、「この段階で私が涙を流したんだから、みんなは脚本を信じてこのまま自信を持って進んでください」って言ってくれました。その日がはじめての通し稽古で、まだまだ完成とは程遠い段階だったんですけど、そのタイミングでの感想はとても心強く、自分たちがやっている方向に自信を持てました。僕らは最高の準備をして“あの花 2023”をお届けしますので、記憶に残る夏にしてください。

駒形 「稽古の量がそのまま舞台の完成度に繋がります」とも言われていたので、みんなで積極的にコミュニーケーションを取って、同じ方向を見ながら本番に向かって稽古をしています。超平和バスターズの面々だけじゃなく、彼らの家族や周囲の人たちに感情移入できる物語なので、幅広い年代の人達に届くと思います。夏休みの予定がまだ決まっていない方は是非、劇場に足を運んでください。

ーーありがとうございます。公演を楽しみにしております

井阪 LAWSONにアイスを買いにいくついでにでもチケットをポチッと買ってくれたら後悔はさせません!あのときチケット買って良かったなと絶対に思えると思う舞台なので迷われている方がいらしたらよろしくお願いします。

インタビュー・文/高畠 正人
撮影/多治見武昭