仲 万美、三浦 香 インタビュー|Juliet aria『DustBunnySHOW』

【左】仲 万美 【右】三浦 香

2015年のマドンナのワールドツアー参加など、さまざまなアーティストのバックダンサーとして異彩を放ち、2019年のRock Opera『R&J』でヒロインを演じるなど、近年はアーティスト/女優として注目されている仲 万美。その仲が立ち上げたアートプロジェクト・Juliet ariaの第一弾作品となるのが、『DustBunnyShow』だ。
脚本・演出を手掛けるのは『最遊記歌劇伝』や『Club SLAZY』、ミュージカル『テニスの王子様』シリーズといった芝居と歌、ダンスを組み合わせたエンタメ性の高い作品に定評のある三浦 香。ポールダンスやバレエ、アクロバットといったジャンルの垣根を超えたパフォーマーに、アイドル、バイオリニストも加わった気鋭の女性キャストたちが参戦。豪華客船「DustBunny」を舞台に、美しくも悪夢のようなダークファンタジーショーを繰り広げる。
2021年4月に上演が予定されていたものの一度は緊急事態宣言の影響で延期という“荒波”に飲まれながら、この度再出航を果たす『DustBunnyShow』について、仲と三浦に聞いた。

 

――まず万美さんにうかがいたいのですが、Rock Opera『R&J』(ロミオとジュリエット)で演じたジュリエットというキャラクターにインスパイアを受けたことが、Juliet ariaの立ち上げのきっかけになったそうですね。

 自分の中でこれからお芝居や、何かを作り上げていくにあたって、『R&J』の世界観や、力強くて美しいジュリエットという人物の影響がかなり大きくて。それで今回、自分のプロジェクトを立ち上げるにあたって、ジュリエットの名前を“お借りした”というか、“背負った”感があります。初めての舞台が『R&J』でしたが、あの体験で全てが変わったと思いますし、表現することに対して俄然やる気が出ましたし、もっといろいろ知りたくなりました。

 

――Juliet ariaのメンバーは固定ではなく、毎回変わっていくスタイルなのでしょうか?

 そうですね。今回はダークファンタジーで中心メンバーはほぼ女性になりますが、毎回同じ形にこだわるわけではなくて、どんどん色々なものに挑戦していこうと思っています。今回は男性の日野陽仁さん(Mr.Black役)もいらっしゃるのですけど、宝塚作品だったり、女性キャラクターメインの『美少女戦士セーラームーン』のミュージカルだったりを除けば、女性だけの舞台ってなかなかないなと感じていて。“女だけでどこまで表現できるのか”をすごく知りたくなったという感じです。

 

――三浦さんとの顔合わせも面白いなと思ったのですが、コラボすることになった経緯というと?

 実は以前、香さんの演出作品を拝見する機会があって、それが『R&J』で共演した諸星翔希くん(7ORDER)が出ていた『Oh My Diner』なのですが。それで香さんにご挨拶したときに、ネルケプランニングさんからコラボの提案をしてくださって“それなら是非!”という流れでした。

 

――三浦さんのほうは万美さんと組んで、どういう作品をやろうとイメージされたのでしょうか?

三浦 万美さんを見ていて、勝手に“いつだって満足していないような、それでいて誰かの手を掴んで寂しさを強さに変えたいような人”という印象を持ちました。言葉ではうまく語れない部分もありますが、彼女と組んで女性の抱える虚しさや儚さを堂々と描きたいという風に考えていましたね。

 

――なるほど。万美さん演じる感情を失ったダンサー“バニー”がMr.Blackの手引きで豪華客船「DustBunny」に乗り込み、7人の女性パフォーマーに出会う形でストーリーが始まりますが、万美さんが最初に台本をいただいたときの印象は?

 絵本を読んでいるような感覚になりました。もともと自分は、想像力が欠けているのかもわからないのですが、台本や小説を読んでいても情景が浮かばないということが多々ありまして……。ですけど、いただいた台本を初めて読んだ時に、まるで絵本を読んでいるかのように“絵”がはっきり浮かんできて「これは面白いぞ」「今回は舞台だけど、これを映画にしてもまた面白いんじゃないか?」と確信しましたし、すごくワクワクしたのを覚えています。あと、香さん自身も女だらけのカンパニーでずっとやってみたかったというので、その熱量がすごく詰まっているのかな?とも思いました。

 

――そんな三浦さんはこのストーリーやキャラクター設定を、どういうところから発想されたのでしょうか? 

三浦 今回はショー的な作品ということで各キャラクターがセリフを多く持てないので、たとえばachaさんの役名のCode:R(Red)など、それぞれの個性を色に例えました。色の三原色(C=シアン、M=マゼンダ、Y=イエロー)、光の三原色(R=レッド、G=グリーン、B=ブルー)からヒントを得て、黒や白になりうる色たちが最後に自分たちの色をどう決めるのか、または染まっていくのか?がストーリーの肝になります。万美さんの役名のバニーは、ダストバニー(ベッドの下などに溜まる埃)にちなんでいて、軽くてフワフワ飛んでいきそうなイメージです。それがほかのキャラクターたちとどう絡むのか、なぜバニーなのかは観てのお楽しみにしていただけたら。

 

――なるほど。個性豊かなキャストの方々の並びを見ていても、どんな舞台ができ上がってくるのかちょっと予想できなくて、ワクワクします。

 自分も最初は全く予想できなかったのですが、このメンバーがそろうことで、何か爆発するものがあるのではないかなと感じました。こじんまりとまとまったり、予想できるようなものではつまらないし「全然わからない」「何を見せてくれるんだろう」と不思議に思われたほうがいいなと思っていますし、自分たちでもワクワクしています。

 

――先ほどのストーリーもありつつ、各ジャンルのパフォーマーが集うということでダンス異種格闘技戦的な要素もあるのかな?と思いました。

三浦 その通りかと思います。ダンスだけではなく歌やバイオリンの見せ場もあるので、それぞれが持っている個性を放ちあうことが見どころです。でも感情の根底には共通したものを持っているので、そこも観て欲しいです。もちろん、演劇的な要素で潰しにかかろうとする日野陽仁さんの演技にも注目してほしいですが。

 パフォーマーの各パートは100%の表現ができるようそれぞれで振付をしていて、全体の振付やバランスの調整を(當間)里美さんが担当してくださっています。あと、自分はストーリー中でラップも披露します! 初めてでわからないことだらけですが、形にとらわれず、自分の気持ちをぶつけて勝負するしかないなと思っていて……。稽古ではいつも息遣いがわからなくなって迷子になってしまいますが(笑)。

 

――4月に上演予定だったものが状況を鑑みて一度延期になり、ここまでいろいろと苦労されたことも多かったのではないかと思います。

 4月の時にはカンパニーのモチベーションが一番高まっている最後の通し稽古のタイミングで延期の発表があったので、みんなショックを受けてしまって。状況を考えてなんとなく予想はしていたのに、自分が一番泣いてしまったんですよね。誰が悪いわけでもないし、誰かに気持ちをぶつけることもできないし、もう感情が爆発してしまって。
舞台やお芝居が初めてというメンバーが多いということもあって、上演に向けてみっちり稽古をしていたのが急に延期になったことで「みんなの気持ちがリセットされない形でうまく保てるだろうか?」という不安もあったので、常にコミュニケーションは取っていました。その度に「いつできるんだろうね」「早くやりたいね」という会話は必ずあって、みんな悔しい思いをしているというのはわかっていたので、再出航が決まった時には、すぐに連絡を取り合って「やったね!今度はもっと上を目指そうね」と。

 

――仕掛ける側の三浦さんのほうではこの期間、どんなことを考えていましたか?

三浦 早い段階でまず、予定していた劇場が変わるということを聞いていたので、4月までに作ってきたことを早く壊したい!と思っていました。新たなアイデアを考えようと建造物を見たり、光について研究したりと、作品背景の勉強もしていましたね。

 

――現在の稽古場の空気はいかがでしょうか?

三浦 とにかくみんな、明るくて元気です。ただ、キャピキャピしている女子感はなくて「みんなで筋トレすんぞ!!」という運動部的なノリです。かつ、休憩時間はサウナの話や卵の話をして盛り上がっています。美容とか恋の話は一切ありません(笑)。

 舞台が初めてのメンバーが多いからかもしれませんが、香さんはキャストと一緒になって考えたりとすごく寄り添ってくれますし、ふざける時は一緒にふざけてくれるし、一緒に筋トレに参加してくれるしで(笑)、とにかくみんなの士気を上げてくれます。同じ女性同士というのもあるので、色々と話し込むことも多いですよね。

 

――2回目の稽古ということで、初回と比べたカンパニーの変化は感じますか?

三浦 正直、最初はみんな話すことが苦手なのか、おとなしいイメージで遠慮がちでした。4月の最後の日に、悔しくて涙を流すみんなと再会を誓うとともに、全員がスキルアップすることを約束しました。その気合いが今回の稽古では、初日から見えたので嬉しいです。

 最初の稽古よりも高いところを目指そう!」とみんなで向き合ってはいるのですが、さっきお話したようにステージが変わってしまったことでまだ手探りの部分もあって、改めて組み立てたものを100%のところまで持って行こうとしている最中です。

 

――作品とは話がそれますが、個人的に万美さんといえば世界的に活躍されているダンサーというイメージがすごく強くて、でも現在は女優やモデルとしても活躍されていますよね。こういった表現活動の1つ1つに、ダンスで培った経験が結びついているのでしょうか?

 そうですね、つながっています!やはりダンスの経験があったからこそいろんな表現ができるといいますか……もちろん、ダンスをやっているだけでは知らなかった世界に触れることも多々ありますが、それでもダンスをやっていて良かったなと思う場面がたくさんありました。踊っている時もお芝居をしていると言えばそうなので……。踊っているときの自分は普段とも違って、“踊っている時の万美”としてのお芝居をしているという感覚がありますし。

 

――なるほど。では最後に『DustBunnyShow』の再出航にあたって、お客様にメッセージをいただけると嬉しいです。

三浦 “自分を曝け出す”ことの難しさに日々ぶつかっています。このご時世、一人でいることの意味や、一人でもいいのではないか……。はたまた、人がいるからできることの大切さ、温もり、多くのことを感じる世界情勢の中で私たちが今できることは、カッコつけることではなくて、情けなさをみなさんにお見せすることかなとも思っています。登場する女の子たちは、みんな強そうなんですけど……。泣いて笑って繊細でできない自分に毎日、悩んでいます。そんな姿をリアルに届けたいです。ただ虚しさを表現するのではなくてそれを女性らしい強さに変えて、どんな角度から見てもらっても楽しめるよう、全員で努力を続けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!!

 大ベテランの日野さんもいらっしゃいますが、女性がたくさん登場する舞台です。そしてその女性たちは得意なパフォーマンスもビジュアルもまったく異なっていて「誰がタイプですか?」と問えるくらい、それぞれが違う個性を持っています。そんな女性たちが集まって汗水流して繰り広げる舞台は、とても魅力的なものになるという自負があります。それに加えて、香さんが作ったワクワク、ゾクゾクするようなお芝居なので、見ているみなさんも最初は舞台を観に行くつもりが、いつの間にか舞台に巻き込まれていくような感覚になるんじゃないかと思います。ぜひみなさんもこの船に乗りこんで、楽しんでいただけたらと思います。

 

取材・文:古知屋ジュン