『サンセット大通り』 安蘭けい インタビュー

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ロイド=ウェバーの美しい旋律で紡ぐ

元大女優の愛憎、そして悲哀

 

 2012に日本初演された「サンセット大通り」が、3年の時を経て再演されることになった。キャスティングの難しさやセットの壮大さゆえ、長い間、日本での上演は難しいとされた同作品。だが、主演として舞台を引っ張り、そのカリスマ性を余すことなく発揮していたのが、本公演での続投も決まった安蘭けいだった。当の本人も再演を心待ちにしていたようで……。

安蘭「再演したいという思いがあり、思いつづければかなうとも信じてきたので、再演が決まったときは『きたーっ!』と(笑)。振り返ると私、昨年の『アリス・イン・ワンダーランド』まで、再演の経験がほとんどなかったんです。でも『アリス~』では、(『サンセット~』と同じ演出の鈴木)裕美さんも、『初演で手が届かなかった部分があるぶん、再演の方が実は面白いんだよ』とおっしゃっていた。私自身もそれを実感したので、今は楽しみしかありません!」

 

 「サンセット~」といえば、アメリカの同名映画を「キャッツ」「オペラ座の怪人」などで知られるあのアンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化、1995年にはブロードウェイ版がトニー賞7部門にも輝いた名作。物語の始まりは、ハリウッドの邸宅で起こったある殺人事件。その真実の鍵を握るのが、かつては一世を風靡したものの、今では業界からも世間からも忘れ去られている大女優・ノーマ、そして売れない若き脚本家・ジョーとの愛と欲望が渦巻く日々だ。

安蘭「誰から見ても落ちぶれているのに、ノーマ自身は今も女優としてトップの座にいると思い込んでいる。最初に映画を観たときは、それがエスカレートし、ラストシーンで見せるノーマの狂気に満ちた表情がとにかく印象的でした。そんなちょっと気が触れているような、年齢設定も違うノーマをどう演じるかのか。初演では想像を巡らせつつ、自分にとても正直に生きている痛々しいほどの人間らしさを糸口に、役づくりをしていった気がします。ジョーへの愛にしても、初恋に近いくらいの純粋な気持ちは確かにあると思います。ただ、彼女の場合、いちばん愛しているのは彼ではなく、あくまで自分自身。そこを踏みにじられたショック、若い女性への嫉妬、そのほかいろいろな思いが絡んで、最後にはあのような悲劇が起こるんですけど」

 

 話を聞くにつれ、ストレートプレイの役づくりに近いように感じられる。

安蘭「そうなんです。初演の稽古場で、裕美さんは、歌よりまず物語や役の解釈、つじつまを合わせることに時間をかけてくださった。ミュージカルって、どうしても歌ありきの芝居になるというか、歌で強引に物語を進めてしまうことがあるんですよ。でも、裕美さんはそれを絶対に許さず、カンパニーの共通認識を緻密に積み上げてくれた。そうした初演での経験は、以降のミュージカルに取り組むうえでも、とても大きな財産になっていますね」

 

 ロイド=ウェバーの楽曲について尋ねると、その魅力と同時に、再演に向けての具体的な課題、意気込みも返ってきた。

安蘭「ロイド=ウェバーの楽曲は、メロディが独特で歌うのはとても難しいけれど、その音楽があればセリフで語らなくてもいいくらいの名曲ばかり。でも今回は、ノーマがどのような気持ちで歌っているのかを、さらに突き詰めていきたいです。今回は(濱田)めぐみちゃんとのダブルキャストですが、彼女のノーマを見ることでも、自分の役づくりについて新たな発見があるはず。そうして、初演よりもずっと深いノーマを演じられたらと思っています」

 

インタビュー・文/大高由子

構成/月刊ローソンチケット編集部

 

【プロフィール】

■安蘭けい(アラン ケイ)

‘91年、宝塚歌劇団に首席で入団。’06年星組男役トップに就任。退団後も数々の舞台作品に出演し、「サンセット大通り」「アリス・イン・ワンダーランド」の演技で第38回菊田一夫演劇賞を受賞。