【観劇レポート】カタルシツ「語る室」

カタルシツの新作「語る室」が先日、東京芸術劇場シアターイーストにて開幕した。

イキウメの主宰・前川知大による別ユニットである。

前回のカタルシツ公演(2015年2月)は、一人称で語られるドストエフスキー小説「地下室の手記」の舞台化。

主人公の膨大な語りを演劇的な傍白(内心を表す脇セリフ)に変換していく前川の作劇と、それを実践してしまう俳優・安井順平のタッグによる、興奮に満ちた一人芝居だった。

 

 

今回は前川の新作SFミステリー。

★No.1_カタルシツ「語る室」0747 左から中嶋朋子、安井順平

舞台は空き地なのか、公園なのか、交番前の広場で、バーベキューが行われているところから始まる。

集まっているのは、とある事件に巻き込まれた人たちだ。

5年前のある日、幼稚園バスの運転手と一人の園児が突如姿を消してしまい、いまだに行方がわからない。

消えた園児の母(中嶋朋子)、その弟の警官(安井順平)、バス運転手の兄(盛隆二)がそれぞれの思いを胸に、バーベキューを囲んでいる。

 

 

No.2_カタルシツ「語る室」0466 左から中嶋朋子、板垣雄亮、浜田信也

 

そこに登場する霊媒師(板垣雄亮)、未来から来たと話す男(大窪人衛)、父を亡くした兄と妹(浜田信也・木下あかり)たち。

彼らを廻る人間関係や、非日常的な出来事が語られていくことで、事件の全貌が現れる。

 

全編を通じ、登場人物たちは傍白を多用し、その分、物語の時間は圧縮され、膨大な情報量が表現されていく。

観ているこちらの想像力で参加していく分、点でしかなかったものが徐々につながり、線となる。

観客の想像力で事件の全貌が紡ぎ出されていく。

 

No.3_カタルシツ「語る室」0606 左から中嶋朋子、安井順平、盛隆二

 

物語の世界に参加していくと、日常の隣には異界が口を開けて待っており、静かな恐怖がそこにある、ということがわかる。

と同時に、そこには「ただ生きていくこと」への喜びと愛しさを見つけることが出来る。

 

「語り物」に着目した作劇と、それを縦横無尽に体現していく俳優たち。

熟練と瑞々しさが同居し、過不足のない絶妙なバランスでつくられた、果実のような本作。

演劇の醍醐味にあふれた「秋の舞台」である。

 

東京公演10/4まで、大阪公演10/9よりABCホール。

 

 

撮影 田中亜紀

文:ローチケ演劇部