ステージで歌い、踊り、世の女性たちに夢を与えるボーイバンド(男性ヴォーカルグループ)。その華やかなステージの裏側には、表現者としての苦悩や一人の人間としてのさまざまな葛藤が渦巻いている――。とある一組のボーイバンドを巡る人間ドラマを、歌やダンス、芝居を組み合わせノンストップで見せていく舞台「ボーイバンド」が、世界各国での上演を経てついに日本に上陸! 物語の主役であるボーイバンド「フリーダム」に扮するのは、平野良、大山真志、碓井将大、味方良介、藤田玲という、歌やダンスのスキルも含め若手の中では抜きん出た実力を発揮している5人。10月10日[土]の初日を前に、熱気を帯びた稽古場へとお邪魔した。
メインヴォーカルのソースケを演じる平野良は、通し稽古前から劇中歌の練習に余念がない様子。その歌に、近くでウォーミングアップをしている大山が自然にハモりを入れてくる。大山が演じる作詞作曲担当のリュウとソースケは、ストーリー中でグループの方向性などを巡って仲たがいをするのだが、現実の2人はコンビネーションも抜群のようだ。
この2人を中心に、オーディションで選ばれたサクヤ(碓井将大)、ゲン(味方良介)、カツミ(藤田玲)が加わった無名の新人グループ・フリーダムは、強引だがやり手のプロデューサー・リチャード入賀(新納慎也)、厳しくも温かく5人を見守る振付師・立花アンリ(蒼乃夕妃)、大人しいが実直に仕事をこなすマネージャー・織辺征人(伊礼彼方)らのバックアップもあり、瞬く間にスターダムにのし上がっていく。
作品の大きな見どころの一つは、5人による華やかな劇中曲のパフォーマンスだ。過去に出演したミュージカル作品などで歌い手としての実力は折り紙つきの平野がメインヴォーカルとして大いに活躍するのだが、それぞれ魅力的なシンガー&パフォーマーである他の4人も負けてはいない。力強い歌やダンスで全体を引っ張る大山、対照的に繊細でしなやかな動きで魅了する碓井、抜群の器用さでハモりやダンスを披露する味方、ややナルシスティックにキャラの世界観を作り上げる藤田。5人の個性あふれるステージングは見逃せない。
本作の演出は「ドリームジャンボ宝ぶね~けっしてお咎めくださいますな~」(2013年)など、若手俳優をフィーチャーした作品に定評のある板垣恭一が担当。若い5人はもちろん、リチャードと織辺といった“大人キャスト”同士のやり取りの中にも絶妙な笑いのエッセンスを盛り込んでくる辺りにはニヤリとさせられる。
そして1999年の初演以来、世界各国で上演されてきた本作のもっともユニークなポイントは“演奏される曲が決まっていない”こと。オリジナル曲や既存のスタンダード曲、各国のヒット曲など楽曲ラインナップはそれぞれの作り手に委ねられているのだが、今回の日本版では果たしてどんな曲が飛び出すのか? これは初日までのお楽しみではあるのだが、稽古場で確認した限りでは本作を観に来た誰もがあっと驚くような選曲であることは間違いないので、楽しみにしていただきたい。
さて、人気に火がついたフリーダムがクレイジーなファンと執拗なマスコミに追われるようになり、当初は気のいい兄貴のようだったリチャードは、いつしか5人のプライベートを厳しくコントロールしようとするように。上手くやっているかのように見えたメンバーの間でも、メインヴォーカルのソースケと作詞作曲を手がけるリュウの間に軋轢が生まれるなど、トラブルが続出…。2人がたびたびいさかいを起こすシーンなどにはかなり熱がこもっていて、稽古場にも緊迫した空気が漂う。
本作は華やかなショービジネスの世界を見せつつも、その裏にある人と人とのさまざまな絆を丁寧に描き出していくが、中盤以降でもつれにもつれていくドラマのさまざまな伏線が前半部分に張りめぐらされているのもポイント。5人がリチャードと契約するシーンに登場する「ペンはここ、ドアはあっち。サインをするなら今だ」というセリフが物語の重要な鍵となる本作、最初から最後まで気を抜かずに楽しんで欲しい。
最後に、フリーダムの5人を代表してソースケを演じる平野良、リュウを演じる大山真志に話を聞いた。
――すでに稽古も大詰めですが、台本を読んでの最初の感想はいかがでしたか?
平野「結構難しい作品なのかな、っていうのが第一印象でした。というのが、演奏曲が決まっていなかったりある程度の自由が許されているからこそ、いろんなやり方が考えられるんですよね。この作品にはわかりやすい起承転結がなくて、あるボーイバンドのオンステージとオフステージを連続して見せていくので、そのどこで見せ場を作っていくのか?というのも、作り手に委ねられているんだと思うんです。そういう意味でどうやっていこうかな?っていう戸惑いはありました」
大山「僕は最初に台本を読んだときに『歌って踊るけどミュージカルじゃないんだ?』っていう驚きがありましたね。もちろん登場人物の気持ちとリンクしてる歌もあったりするんですけど、ちゃんとお芝居として登場人物同士の関係性を見せながら、ボーイバンドとしてのショーを織り込んでいく、っていう感じなので。その芝居作りに、僕は今結構悪戦苦闘してます(笑)」
――大山さん演じるリュウと平野さん演じるソースケは、物語の途中で犬猿の仲になったりもするんですよね?
大山「良さんの演じるソースケは、チームで動くことよりもトップに立つってことに執着しているんですよ。僕の演じるリュウは作詞作曲を担当しているので、クリエイターとしてもっと表現したいことがあるのにできない!っていうジレンマがあったりして、2人の歯車がだんだんかみ合わなくなるというか…。リュウは熱くて、ソースケは一見飄々としているように見えるんですけど仕事に対してはマジメでこだわりがあるので、この2人は実は似た者同士だと思うんですよ」
――なるほど。稽古に入ってみて、5人のバランスやコンビネーションはいかがですか?
平野「5人が5人とも個性がバラバラでかぶらないのがいいなあというのは最初から思ってたんですけど、お芝居でこうしようああしようって話し合わなくても、個々のキャラを開花させつつちゃんと1つのグループにまとまっているんですよね。器用でありつつ芝居が好きな人が集まってくれたんで、みんなで楽しんで作ってる感じがすごくあります」
大山「稽古でもあまり細かく決め込まずに『自由に芝居してみようか?』っていうノリで、ずっときているんですよ。かなり珍しいスタイルですね」
――歌やダンスの分量も多いですが、ご自身で考える課題は?
平野「普段からジャンル問わず音楽は聴くんですが、僕はライヴで歌うっていう経験がなかったので、いかに今回の劇場をコンサート会場のようにできるかっていうのがまず一つの課題ですよね」
大山「3曲くらい連続でパフォーマンスしたりするところもあって、物量的にそこが一番の難所なんですよ。5人の中でも良さんは、踊りながら歌うパートが圧倒的に多いから大変じゃない?」
平野「でも振付は難易度が高いというよりも、キャッチーさ重視だよね。衣装チェンジも多いので、客観的に観るとすごく華やかに仕上がっていると思います」
――最後に、「ボーイバンド」のどんなところが見どころになりそうでしょうか?
大山「ボーイバンドがライヴをやって、楽屋に戻って、また別のステージに立って…という流れをドキュメンタリーっぽく見せるところが新しいというか。お客さんはある意味、舞台裏を覗いてるような気分でドキドキできる作品かもしれないです」
平野「『ステージの裏側って本当はこうなのかな?』って思わせるような生々しさはすごくあると思います。歌やダンスはもちろんですけど、そういうリアルさにも注目していただきたいですね」
取材・文/古知屋ジュン
【プロフィール】
平野 良
■ヒラノ リョウ ’84年、神奈川県出身。’99年のドラマ「3年B組金八先生 第5シリーズ」等の映像作品に出演後、一度芸能界を離れる。’08年「ラフカット2008 愛のメモリー」で舞台デビュー。その後、ミュージカル「テニスの王子様」一氏ユウジ役(’08~’10年)などを経て、数々の舞台、映像作品に出演。12/11[金]~20[日]・12/23[祝]~27[日]の舞台「夜の姉妹」(東京・品川プリンスホテル クラブeX、大阪・近鉄アート館)などへの出演が決定している
大山真志
■オオヤマ マサシ ’89年、東京都出身。CMやアルゴ・ミュージカルなどに出演し、’09年のミュージカル「テニスの王子様」の千歳千里役で注目を集める。12/29[火]~31[木]・2016年1/16[土]上演の舞台『晦日明治座納め・る祭』(東京・明治座、大阪・梅田芸術劇場)に主演・阿弖流為役(三上真史とのW主演)で出演
【公演情報】
■志木公演(プレビュー)
公演日:2015年10月10日(土) 14:00開演 ※13:30開場
会場:志木市民会館パルシティ
■東京公演
公演日:2015年10月15日(木)~25日(日) ※開場は開演30分前
会場:よみうり大手町ホール
■大阪公演
公演日:2015年10月31日(土) 13:00/17:00開演 ※開場は開演30分前
会場:サンケイホールブリーゼ