第二次世界大戦中の動物園を舞台に繰り広げられる、笑えて泣けるハートウォーミングなストーリー「片想い」。戦局の悪化にともなう“猛獣処分”の指令をめぐって、名古屋・東山動物園で実際に繰り広げられた実話をベースにした舞台となるが、その字面から想像されるような悲壮感はこの作品には存在しない。その“理由”を、主演の三井戸高広大尉役の陳内将、飼育員・佐々岡一平役の戸谷公人、小学校教員・森本千代役の遠藤舞に語ってもらった。
―稽古場を拝見するにかなり和気あいあいとした雰囲気なんですが、3人はこれまで共演されたことは…?
陳内 それが、今回が初顔合わせなんです。
遠藤 まだ初めて会ってから、実質10日くらいなんですよ(笑)。
戸谷 自然と波長が合った感じで、全然“はじめまして感”がないんですよね。他のキャストの方だと僕は石倉(良信)さんや、初舞台の「天聖八剣伝」(’10年)でも西ノ園達大さんとは共演してるんですけど。
陳内 それで言うと、僕は三浦剛さんの在籍するキャラメルボックスさんとは何かと縁があって。D-BOYSの舞台にお招きしたり、僕がキャラメルさんの舞台に呼んでいただいたり。準劇団員化しています(笑)。
遠藤 私はみなさんと初めましてなんですけど、舞台に出るのも久々なので日々刺激の毎日ですね。
― 稽古も順調そうですね?
陳内 作・演出の方って、脚本を書いている間に自分の中で明確なビジョンが生まれていて、ここはこういうシーンでこういう音が聞こえて…といった“答え”をしっかり持っている方が多いんですけど、樫田(正剛)さんもそうで。僕らの様子を見ながらそれを口にしたり、あえて言わなかったり、という印象ですね。
遠藤 “ここでの森本先生にはこういう感情があって”だとか、いろいろアドバイスをいただくんですけど、稽古がかなりテンポよく進んでいるんで最初は着いていくのに必死でした。
戸谷 キャストが全体的に樫田さんとは初めましてだったこともあって、お互いに探り探りな部分があったんですけど、この10日で順応してきてすごくいい感じですね。もう本番さながらの稽古になってますよ。
―なるほど。「片想い」は動物園を舞台にしたお話だそうですが、それぞれの役柄について教えてもらえますか。
陳内 僕は「猛獣を処分しろ」という国からの命令を受けて動物園に派遣される陸軍大尉の役ですね。実は獣医学科にも通っていて動物が大好きなのに、国の命令で仕方なく任務に就いているという葛藤も抱えていて。立場的に人前では素の部分はあまり出せないんだけれども、自分一人だけのシーンで人間味や本来のキャラクターがいま見えるところがあったりするんです。そういうところを面白がりつつ演じられたらなって。
戸谷 そんな三井戸が本当は動物が好きなんだっていうのを、僕の演じる飼育員の一平は見抜いてるんですね。時代背景を考えると、とても飼育員が大尉に「助けてください」とは訴えられないと思うんですよ。でもそこを「僕らは動物が好きで殺したくない。だからあなたに助けてほしい」と、ぶつかっていくようなまっすぐさを持った若者です。ストーリーには一平が思いを寄せる女性も出てくるんですけど、好きな人にもとにかくまっすぐで。ただその女性が耳が聞こえなくて、当時の耳が聞こえないことって今よりもかなりヘビーな境遇ではあるので、そのニュアンスをどう表現するかが課題かなって思っています。
遠藤 私の演じる森本先生は小学校の先生で、気が強いというか…時代背景的にもこの時代の教育者ってそうあるべきだったんだと思うんですけど、さらにこだわりも強くてかなり頑固でっていう人なんですよ。でも辛い過去を背負っていたりするので、女性であり一人の人間としての脆さみたいな部分もにじみ出るシーンがあって。弱くて強い両極端な部分を持つ人間なので、そこを上手く表現できたらなって思います。こだわりの強い部分や、人に結構ズケズケものを言っちゃったりするところは、自分的にもちょっと親近感あるんですけど…。
戸谷 男勝りな感じは、ちょっと似てるかもね?
遠藤 例えばレコーディングのときとか、ピッチ(音程)がズレたらやり直したくなったりして、他の人より結構時間がかかるタイプみたいなんですよ。1曲で8時間レコーディングしてたりとか。
陳内 こだわるねえ(笑)。このお話って実話がベースなんですけど、各自の役のパーソナルな部分は、僕らキャストの性格をある程度あて書きにしてるんじゃないか?っていうポイントが多々見受けられるんですよ。(森山)栄治さんが演じる飼育員の加茂川の朗らかで若干天然なところだとか(笑)、園長役の岡森(諦)さんの懐の深い感じとか。
戸谷 石倉さんのマタギらしさとか!? (江崎)葉奈さん演じる飼育員のよしえの、笑顔の裏に隠されたちょっと不器用な部分だったりも、そうだね。
―タイトルを聞いて、若いみなさんの絵だけを見るとラブストーリーを想像しがちなんですけど、この「片想い」は単に恋愛模様を描いているのではなく、同じ思いを秘めた軍人と民間人の気持ちのすれ違いだったり、ダブル、トリプルの意味が込められているんですよね?
陳内 僕ら2人が森本先生を取り合う、みたいな感じに見えちゃいますよね?
遠藤 これがね、全然取り合われないんですよ(笑)。
戸谷 それぞれがいろんな意味で片想いをしていて、その想いが一方通行なのが本当にもどかしくて! 本当はいろいろ言いたいんですけど…本番を見てのお楽しみな部分もあるので。
―戦時中の動物園をテーマにしたお話というと絵本の「かわいそうなぞう」なんかを思い出してしまうんですけど、全然切り口が違うんですよね。
陳内 戦時下の時代に希望を捨てずに生きようとする市民と、国の指令で仕方なく動物園にやってきた気の優しい軍人たちの物語なんですけど、この両者の想いのすれ違い方が実はすごくポジティブなものなんですよね。キャラクターみんなが前向きだから、お客さんも最後まで暗い気分にならないと思うし、きっと帰り道まで“楽しかった!”って思ってもらえる作品だと思います。
遠藤 そう、みんなにあったかい気持ちになって帰ってもらいたいです。空襲があったり死と隣り合わせの状況ではあるんですけど、その極限状態でも他人のことを思いやれる、その気持ちがすごく美しいんですよ…それは、みんなみんなが誰かへの恋心を持つがゆえかもしれないんですけど。観ていると元気が出てくるようなシーンがあちこちに散りばめられていると思うんで。
戸谷 例えると、最後におばあちゃんが出てきて“こういう話がありました”って、孫とかに読み聞かせているような雰囲気を持つお話でもあるんですよね。戦時中のお話が題材っていうとどうしても暗いイメージがあると思うんですけど、そんな中でもこんなに希望を持っていた人たちがいて、その希望がどれだけ明るいものだったかっていうメッセージが込められているのかなって。
遠藤 陸軍側の人々の気持ちにもスポットが当たっているから、彼らの人間味が伝わるっていう意味でもちょっと新しい見せ方なのかなって思います。
陳内 キャラクターそれぞれの生きる活力っていうのが第三者にあって、みんながみんな“誰かのために生きたい”“何かを生かしたい”っていう気持ちを持っているんですよね。独りよがりな人間っていうのがいなくて、自分の中の葛藤とも戦いつつ誰かのことを考えて…っていう強いエネルギーがそれぞれにあるんですよ。そこが見どころかなって思います。
―今回はキャストの方の年齢層もバラバラですし、各キャストのファンの方はもちろん、いろんな方が観に来られると思うんですよ。
遠藤 この作品は幅広い年代の方に観てもらいたいっていうのはありますね。10代の方にだって、80代の方にだって伝わるものがきっとあると思うし。親子でも来て欲しいです。
陳内 それで、動物園に行きたくなってほしい! 僕は正月休み中に台本読んでて「あ、動物園行きたい!」って思って実際に行ったんですけど、めちゃテンション上がりましたもん。それまで動物園の例えばちょっと地味なコーナーなんかを見ると“これのどこが面白いんだろう?”って正直思ってたんですけど(笑)、今は動物園の全部が純粋に楽しくって。もしかしたらお客さんもそういう気持ちになってくれるのかな?っていう期待感はありますね。
戸谷 確かに! 映画とかドラマもそうですけど、これは観たら条件反射で絶対動物園に行きたくなるような舞台なんじゃないかと思いますよ。
取材・文/古知屋ジュン
【プロフィール】
陳内 将
■ジンナイ ショウ ’88年、熊本県生まれ。俳優集団D-BOYSのメンバー。主な出演作として「特命戦隊ゴーバスターズ」(’12年)エンター役でもおなじみで、ドラマ「スイッチガール!!」(’12年~)、「刑事110キロ」(’13年~)、舞台「東海道四谷怪談」(’15年)、「TRUMP」(’15年)などに出演。今春には演劇集団キャラメルボックスのスプリングツアーにも出演する。
≫演劇宣言連載 <デキメン列伝 第3回 陳内 将> インタビューはこちら!
戸谷公人
■トタニ キミト ’90年、東京都生まれ。「仮面ライダーディケイド」(’09年)のディエンド役など、映像・舞台の人気作に多数出演。現在は映画「の・ようなもの のようなもの」が公開中。
遠藤 舞
■エンドウ マイ ’88年、東京都生まれ。アイドルグループ・アイドリング!!!を’14年に卒業。現在は、抜群の歌唱力を活かしソロアーティストとして活動する傍ら、ミュージカル「ホンク!」(’15年)などに出演。
【公演情報】
方南ぐみ企画公演『片想い』
脚本・演出:樫田正剛
出演:
陳内 将、戸谷公人、遠藤 舞
岡森 諦(扉座)、西ノ園達大、三浦 剛(キャラメルボックス)、森山英治(*pnish*)
鈴木健介、石倉良信、江崎葉奈
日程・会場:
2016年2月3日(水)~2月7日(日) 東京・俳優座劇場(六本木)
【チケット発売情報】
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