てがみ座 第13回公演「燦々」 長田育恵 インタビュー

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『燦々』は私にとって挑戦の作品です!

 

 文化庁芸術祭演劇部門新人賞、鶴屋南北戯曲賞と立て続けに権威ある賞を受賞し、その深い人間への眼差しに評価の高まる劇作家・長田育恵。自身の手がけるてがみ座の最新作『燦々』は、葛飾北斎の娘・お栄の青春を描いた物語だ。

長田「女性の劇作家として、女性の生き方や女性性そのものを主題にした作品をいつか書いてみたいと思っていました」

 

 そう長田は胸の内を明かす。しかし、その覚悟が決まるまでには、長い時間と葛藤を要した。

長田「もちろん自分をさらさなければいけないことへの恐怖や気恥ずかしさというものがありました。それに、てがみ座を旗揚げした直後は、女性劇作家は自分の性生活やプライベートを暴露したような作品じゃないと人気が出ないという視線があって。そこに反発を覚えたというか、私はそこでは勝負しないっていう気持ちがあったんです」

 

 そんな反骨心のもと、長田は旗揚げから7年間、評伝劇を強みに、愚直に自らの作風を信じ書き続けた。

長田「去年色んな賞をいただいて、やっと肩の力が抜けたというか。今なら女性をテーマに何か書けるんじゃないか、と。そう思って、自分なりの切り口を探しはじめました」

 

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 そして選んだヒロインが、偉大な父を持ちながら、自らも絵師としての道を突き進んだお栄だった。

長田「浮世絵師は枕絵や女性の裸も描かなければ稼げない。けれど、彼女の描く男女の営みや女性の裸は色気がないと指摘され続けていました。きっとそれは彼女自身が女性性そのものに対してドライになったり、心のどこかで防御本能があったから。そこを踏み越えて性の生々しさに飛びこむ覚悟を獲得する23歳の女性の姿を、私なりに描きたいと思います」

 

 そんなお栄の戸惑いは、劇作家としての長田の逡巡とも重なる。

長田「作品の中ではお栄の恋愛についても書くつもりです。私自身、恋に悩む女性を主題にすることが恐ろしくて、これまでほとんど書いてきませんでした。そこに真っ向から挑むのが今回の課題。私にとって挑戦の作品になると思います」

 

 そんな挑戦を共にするのが、お栄を演じる女優の三浦透子。オレンジジュースのCMで一世を風靡した「二代目なっちゃん」の女の子と言えば、ある世代以上なら膝を打つ者も多いだろう。

長田「初舞台と聞いていたので、実は最初は不安に感じていたんです。でも、直接お会いしたら、その不安は一気に吹き飛びました。何か新しい材料や指示を渡されると、どんどん吸収して変化していく余地があるし、何よりもいい意味でふてぶてしい。覚悟のある女優さんだと思います」

 

 長田の師は、故・井上ひさし。台詞術は「人生で一回しか言わないようなことを言わせなさい」と教えられた。

長田「すごい言葉ですよね。私もいつかは人間の内部と直結しているトラストのある言葉と、観る人を別の世界に連れて行く力強さのある言葉が書きたい。今はまだまだです。そのためにも、とにかく書き続けることが大事だと思っています」

 

取材/文・横川良明
Photo/斎藤豊
構成/月刊ローソンチケット編集部 9月15日号より転載
写真は本誌とは別バージョンです。

 

【プロフィール】

長田育恵
■オサダ イクエ 09年、てがみ座を旗揚げ。15年、『地を渡る舟』(再演)で第70回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、『蜜柑とユウウツ-茨木のり子異聞-』で第19回鶴屋南北戯曲賞を受賞。

 

【公演情報】

てがみ座 第13回公演「燦々」

日程:2016/11/3(木・祝)~10(木)
会場:東京・座・高円寺1

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!