OFFICE SHIKA REBORN 『パレード旅団』 虚構の劇団『もうひとつの地球の歩き方』 鴻上尚史×菜月チョビ インタビュー

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「繰り返し上演することでもっと良いものになる。その面白さに気づいてほしい」(菜月)

「こういうもうひとつの地球があってもいいんじゃないのか?という可能性のひとつとしてやれればと」(鴻上)

 

日本を代表する劇作家のひとりで80年代の小劇場ブームの立役者となっていた鴻上尚史。彼が27歳の時に書いた「パレード旅団」が、気鋭の演出家・菜月チョビの手により復活。過去の名作を掘り起こすOFFICE SHIKA “REBORN”シリーズの第一弾として放たれる。そして、今なお精力的に活躍する鴻上は、虚構の劇団による2年ぶりの新作「もうひとつの地球の歩き方」に着手している。過去の名作を掘り起こす菜月と、新たな作品を形にしていく鴻上。このふたりは、どんな言葉を交わすのだろうか。

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生まれて初めて観た演劇が『パレード旅団』でした(菜月)

 

鴻上「最初に丸尾丸一郎さん(劇団鹿殺し)と出会って、ある時に『うちの座長が話をしたいと申しております』と電話を渡されて話をしてみると、『海外留学(文化庁の新進芸術家海外研修制度)に行きたいんですけど…』と言われて、なんと大胆な切り込み方をする奴なんだと」

菜月「ははは(笑)。どこの国に行くと良いですか?などの相談をさせていただいたのを覚えています。鴻上さんの留学記を愛読していたもので…。でも、その前に公演を観に来てくださったりしていませんでしたっけ? その時にお話ししてないのかな?」

鴻上「あぁ、観に行ったね。あの時、なんで鹿殺しを観に行ったんだろう? すっかり記憶の彼方だね」

菜月「2011年くらいでしたかね。それくらいの頃だと思います。初めての本多劇場だったので。なんだかすごく前のことのように思えます。その後何かにつけて、いつも相談してしまうんですよね(笑)」

鴻上「チョビとマルはダブルで来るからさ。どっちからの話なのか混同しちゃうんだよね(笑)。チョビは文化庁の海外留学から帰ってきてから、演出家として頑張ろうとしているのが見える気がするね。帰ってきて最初の舞台を観たけど、カナダで学んだことを使おうとしている感じがしたな」

菜月「実は、私が生まれて初めて観た演劇が『パレード旅団』でした。大学の学生サークルの無料の公演で観て、そしてそのサークルに入って初めて読んだ戯曲も『パレード旅団』でした。お芝居ってこういうものなんだ!という衝撃を受けたのがこの作品だったんです」

鴻上「実際、面白かったの?」

菜月「初めてだったから、なかなかついていけないんですけど。シーンが目まぐるしく変わっていることだけがどんどん頭の中に入ってくるんですね。それで、もうわからなくなるかも…というタイミングで、良いセリフがポンと入ってくる。前後がわからなくてもキュンとするようなセリフで、引き戻されるというか。今、良いシーンだぞ!というのがわかる。そういうところに演劇を観るタイミングや面白さのようなものを感じましたね」

 

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チョビと仲良くしているのは、野心に燃えた奴が好きだから(鴻上)

 

鴻上「僕は、チョビの名言をマルから聞いて携帯のメモに残したんだよ。今、機種変更しちゃって手元に残っていないんだけど(笑)。“野望が私を連れていく”っていうさ」

菜月「『野心が私を連れていく』ですね。詩集を読んだ中にあったフレーズで。確か『野心が私を連れていく。やっと私を連れていく』だったものを、『野心が私を連れていく。きっと私を連れていく』に自分で変えたんです。当時はまだ大学生で、野心というよりも、初めて演劇に出会って沸々と湧き上がるものが出てきたばかりの小さな存在だったので。オーディションなどで誰からも選んでもらえなくて、もうダメかも、と思った時にこの言葉を思い浮かべていました。この言葉を心に刻んでおけば、腐っている無駄な時間もなくなるかな、と(笑)」

鴻上「僕がチョビと仲良くしているのは、野心に燃えた奴が好きだからなんだよ。そういう人が減ってきているからね。若い奴からすれば、今は戦いやすい時代になっていると思うんだよ。僕らよりも上の団塊の世代なんて、野心しかなかった。1学年に20クラス30クラスあって、ひとクラスも50人くらいいて。上の世代は自己主張しないと忘れ去られてしまう世代だった。そういう部分で、相対的に野心は減ってきていると思う。だからこそ、野心のある奴とは付き合っていきたいんだよね」

菜月「鴻上さんは、著名な方と大きな劇場でお仕事されていたり、『虚構の劇団』で若いメンバーと劇団としてやっていたり、演出家としていろいろな切り広げ方をしている印象があって、そこに興味がありますね。どうやって人に興味をもって、モチベーションを保っているのか。稽古場を覗いてみたい(笑)」

鴻上「僕はどうしても教師的な目線になってしまうというか、この役者が育つためには、何が必要なんだろうということをどうしても考えてしまう。長く演出家をやっていると、その役者に何が必要か見えてしまうわけで、それをやらないことはもったいない気がしちゃうんだよね。もちろん、その公演だけのお付き合いの場合もあるし、余計なお世話でもあるわけだけど…。だから、良くないね(笑)」

菜月「良くないんですか(笑)」

鴻上「だから『虚構の劇団』については、この中から誰かひとりでもふたりでもいいから、将来の演劇界を背負うような存在が出てくれば幸せですね。あそこから始まったんだね、と言えるような。若い奴らと仕事するときは我慢しかないからね(笑)。『ベター・ハーフ』の初演の後に『虚構の劇団』でやったとき、やっぱり頭の中では風間俊介さんや片桐仁さんを求めてしまう。なんでここでこうできないんだ!って思うんだけど、いやいかんいかん無茶しちゃいけない、と思い直すんだよ。僕はチョビやマルと比べたら大人だから、我慢するね(笑)。やっぱり手練れの人とやった時は、楽しさは倍になるよね。こっちの予想を超えた球を投げてきて期待にちゃんと応えている。じゃあこっちはどう返そうか、という濃厚な楽しみだよね」

菜月「やっぱり我慢しているんですね(笑)。自分の劇団だから自由にできる部分もあるんでしょうけど、我慢も必要。私も、基本は我慢でしかない(笑)。我慢もあるけど、一番長いと16年一緒にやっているメンバーもいて、その人にしかわからないことがたくさんある。そこはどんなにお芝居が上手い方でも簡単には通じ合えない部分。ちょっとしたセンスや、言わなくても深いところまで通じ合えたりすると、続けてくれてありがとう、この劇団でよかったと思いますね。ここでしかできないことだと思います。それと、我慢するところで半々かな(笑)」

 

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私みたいなタイプが「助かった!」と思ってくれたら(菜月)

 

菜月「演出するときは、自分がお客さんとして観たときに『あぁ、助かった!』って思えるようなものをつくりたいと考えていますね。救われることをしたい。自分が観たいものをつくっているので、お客さんを救いたいとか、お客さんのためにというわけでもないんですけど。私が観たときにがっかりしたくない。それがすべての基準です。そしてお客さんの中の何%か、私みたいなタイプが『助かった!』って思ってくれれば」

鴻上「私みたいなタイプ、ってどんな?」

菜月「激情型ですね。今はそんなことないんですが、昔は遊びの約束を断られただけで、私のすべてを否定された気になってしまうような…。そのくせ、自分も当日に気分が乗らないこともあるんですけどね(笑)。だから何か涼しげな、ずっとクスクス笑っているような舞台よりも、ドカンと感情が動くようなものが好みですね」

鴻上「僕の場合は、自分の作品で元気になりたいんだよね。お客さんに元気を与えるというより、自分が元気になれることがすごく大事。元気をそぎ取るような芝居だけはつくりたくないね」

菜月「元気をそぎ取るのは嫌だ、という気持ちは私も同じ。その一番大事なところが同じだから、鴻上さんに懐いちゃうんですよね(笑)。表現することが一番で、アーティスティックなものを優先するために元気をそぎ取らない!そんなところが信頼できる先輩です」

 

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イジメ事件の裁判官の言葉に、ふざけんなと思ってさ(鴻上)

 

鴻上「『パレード旅団』を書いた27歳の時、どんな気持ちだったんだろう(笑)。イジメ編のほうは、当時イジメのことが気になっていて、それは今もあんまり変わっていないね。イジメでマットに包まれて亡くなった事件があって、裁判官の言葉にも衝撃を受けたんだよ。ふざけんな、と思ってさ。家族編のほうは、ちょっと親を客観的に見られるようになって、親もいろいろ思うところがあったんじゃないの?と。犬も飼っていたんだけど、何を思っていたんだろうね?ってね」

菜月「犬も飼っていたんですね(笑)」

鴻上「そう(笑)。このふたつをひとつの舞台にした面白みは、劇団をやっていると楽しく稽古しているときに制作から『話があります』なんて言われて。何だよ、と聞いてみると『誰々が次は出ないと言っています』とか、『誰々が辞めるそうです』とか、そういう話なんだよね。その空間から、またドアを開けてニコッと笑いながら稽古場に戻っていくときに、ものすごく気持ちが軋むんだよ。だから、役者にはイジメと家族の話を行き来するときに、きれいに切り替えなくていいと言ったんだ。そんなパンと切り替えられないはずなんだよ。必ず気持ちが軋むし、そこがドラマチックなはず。だから、稽古をすることでロボットみたいに切り替えなくていいと伝えていたね。チョビがどう演出するかはまた別だけど、こうやってまた復活させてくれるのはありがたいね」

菜月「復活なんて余計なお世話だよ、って言われたらどうしようと思ってました(笑)。最初は、時代設定を現代に寄せるかどうか悩んだんですけど。何度も読んでいるうちに、『今はLINEいじめなんかが大きな問題だけど、結局いつの時代も変わらずイジメがあることのほうが衝撃があるんじゃないか』と思えてきて。だから敢えて時代はそのままで行きたいなと考えています」

鴻上「出てくるギャグとか、お菓子の名前とか、今の子にはわからないものもたくさんあるから、好きなようにしていいからね」

菜月「ありがとうございます。おばあちゃんのセリフで『今日は家族がしゃべれるね、今日はテレビがありませんもの』というような言葉があって。この当時は娯楽がテレビだけだったんだな、と。今ならケータイとか、目の前の人じゃなくて、他所を向く理由がもっといっぱいあるけど、根本的なことは変わらずだな、と。シンプルだった時代でも、こういう状況ってあったんだなって」

 

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絶望から始まるものでも、どこかに希望がほしい(菜月)

 

鴻上「僕の新作は、どこまで話していいものか自分の中でも決めていなくて(笑)。記憶と、シンギュラリティと、天草四郎の物語。となっているんだけどね」

菜月「シンギュラリティって何ですか?」

鴻上「シンギュラリティっていうのは、技術的特異点っていうんだけど」

菜月「訳しても難しかった(笑)」

鴻上「コンピュータが進化して爆発的に人間の能力を超える瞬間をシンギュラリティって言うんだけど、それが 2045年に来るんじゃないかと言われていて。特定分野だと、囲碁や将棋なんかはもう人間を超えていたりするんだよ。今は小説を書いたり、作曲もやり始めている。でも、人間の能力全体を問うとまだまだ。それが2045年には人間を超えると言われているんだよね。まぁ、そのシンギュラリティも出てくるし、天草四郎も出てくるよ、という話です(笑)」

菜月「鴻上さんはコンピュータとかインターネットとか、そういうものをずっと追っていらっしゃいますよね。やっぱり気になるからなんですか?」

鴻上「僕たちはどこから来てどこへ向かっていて、未来はどうなるのだろうっていうのはすごく気になるね。チョビが溢れてくる熱い気持ちが気になるように、僕は未来の僕らのことが気になる。でも、僕はバーチャルリアリティのことも扱ったけど、それやシンギュラリティを学問的に追求してもつまらないわけで。じゃあ僕らの生活にどう関わってくるのか?というところにもっていきたいんだよね」

菜月「もう、それを聞いて最初に出てくる感想は、頭いい!ですね(笑)」

鴻上「あと天草四郎だけど、彼のしたことって言わばクリスチャンの反乱なので、海外に向けたヒーローとしていけるんじゃないかと。でも、キリスト教の人たちは天草四郎を聖人としていないんだよね。日本人でも踏み絵を踏まずに磔になった人が20人くらい聖人とされているんだけど、天草四郎はされていない。武器を持って戦ったからなのか、理由はわからないけど。それで、いまこの地球しかないから僕らもいろいろと煮詰まるんだけど。今生きている人生の中でこういう形になれば…もうひとつの地球があってもいいんじゃないのか?という、可能性のひとつとしてやれればと思ってます」

菜月「未来を描くときに、絶望から始まることもあるけどどこかに希望がほしいですよね」

鴻上「そう!未来はこんなに酷いだろう、みたいなところで幕が下りると、ちょっと待てー!と叫びたくなる(笑)」

菜月「注釈を先にいれておいてほしいですよね。観ないようにするから(笑)。そこは鴻上さんの作品は安心して観られます」

 

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新作偏重主義は、演劇界をすごく貧しくする(鴻上)

 

鴻上「チョビが今回やってくれるから言うわけじゃないけど、日本って異様に新作偏重主義なんだよね。新作をすると取材が来るんだけど、再演だと…ね(笑)。演劇を育てる意識が薄いんだよね。再演したら間違いなく良くなるんだよ。初演で不十分だったものを変えられる。新作偏重は、演劇界をすごく貧しくすると思うんだよね」

菜月「まさに、それを訴えたくてつくったのがREBORNシリーズなんです。私自身も、再演、再演が続くとそろそろ新作をやったほうがいいのかな?と世間に気を使って新作をつくらなきゃと思ってしまったり(笑)。世間の意識がそうなんですよね。でも繰り返しやっていくことで、もっと良いものになるし、その面白さに気づいてほしいんですよ」

鴻上「映画は昔のフィルムを上映しても同じだけど、舞台は変われる。まったく同じ演出で、まったく同じ登場人物であっても、やっぱり変わるんですよ。再演することの面白さが、お客さんにも伝わればいいね」

菜月「このシリーズを発表した時に、演劇初心者の方から『こういうのが観たかった』っていう声をたくさんいただいて。やっぱそうだよね、って思いました。お芝居を観慣れている方は、あの作家さんは次何を書くんだろうっていう楽しみ方になるんだろうけど、ただ面白いものを観たいと思っている人には、確実に面白いものをお届けできる。過去のものを遡って調べるのは大変だけど、こうやって形にできれば舞台で今観ることができる」

鴻上「それが、また観客を育てていくことにつながるからね」

菜月「出会いの間口を広げていきたいですね」

鴻上「と、これだけ言っておいて私は新作なんですが(笑)。新作は新作として、楽しみに観に来ていただければなと思います」

菜月「REBORNシリーズは、その時代にその作品に出会うことができなかった方にも面白い演劇を届けることができたらと思って始めたもの。演劇に詳しくない方にいい出会いをつくれたらと思っています。『パレード旅団』は、いろんな演劇のルールを教えてもらえる素敵な作品なので、演劇デビューの方にも観ていただけたら嬉しいですね」

 

インタビュー・文/宮崎新之

 

【プロフィール】

鴻上尚史

■コウカミショウジ 1981年に劇団第三舞台を結成。以降、作・演出を手掛ける。『朝日のような夕日をつれて』(’87年)で紀伊國屋演劇賞、『天使は瞳を閉じて』(’92年)でゴールデンアロー賞、『スナフキンの手紙』(’94年)で岸田國士戯曲賞、戯曲集『グローブ・ジャングル』で読売文学賞を受賞する。現在はKOKAMI@networkと、2008年に若手俳優を集めて旗揚げした虚構の劇団での作・演出を中心としている。舞台公演の他にも、映画監督、小説家、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、脚本家、などとしても幅広く活動。日本劇作家協会会長。

 

菜月チョビ

■ナツキチョビ 2000年に劇団鹿殺しを旗揚げ。以降、全作品に演出・出演。客演として、劇団☆新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號『IZO』(’08年。歌唱参加)、G2プロデュース『A Midsummer Night’s Dream』(’08年)、キャラメルボックス『ジャングル・ジャンクション』(’13年)などに出演。’13年、文化庁新進芸術家海外派遣制度により1年間カナダに留学。帰国後、舞台「曇天に笑う」(’16年)演出を務める。舞台公演の他、ラジオ番組のMCやコラムの執筆など幅広く活動。

 

【公演情報】

OFFICE SHIKA REBORN CHOBI MEETS『パレード旅団』

 

作:鴻上尚史

演出:菜月チョビ(劇団鹿殺し)

音楽:オレノグラフィティ

アートワーク:入交星士

出演:

蕨野友也 松浦司 橘輝 鷺沼恵美子 椙山さと美 メガマスミ 葉丸あすか(柿喰う客) 伊藤今人(梅棒/ゲキバカ) 菜月チョビ

 

日程・会場:

2017/12/7(木)~17(日) シアターサンモール(東京都)

2017/12/21(木)~24(日) ABCホール(大阪府)

 

詳細ページ

 

虚構の劇団 第13回公演

『もうひとつの地球の歩き方~How to walk on another Earth.~』

 

作・演出:鴻上尚史

出演:

秋元龍太朗/小沢道成 小野川晶 三上陽永 森田ひかり 池之上真菜 梅津瑞樹 溝畑藍/橘花梨 一色洋平 ほか

 

日程・会場:

2018/1/19(金)~1/28(日) 座・高円寺1(東京都)

2018/2/2(金)~2/4(日) ABCホール(大阪府)

2018/2/15(木)~2/18(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

 

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