つかこうへい戦後80年に問う ミュージカル「新・幕末純情伝」|村山彩希 インタビュー

数々の名作を世に放ってきた劇作家・つかこうへいが、”新選組の沖田総司が実は女だった”という大胆な発想で著した物語を、史上初めてミュージカル化。革命ミュージカル「新・幕末純情伝」として、2025年8月に紀伊國屋ホールにて上演される。主演を務めるのはAKB48卒業後、初の舞台主演で、単独初主演となる村山彩希。彼女はどのような想いで、この物語に飛び込んでいくのか。話を聞いた。

――「新・幕末純情伝」の主演に決まって、まずはどのような心境でいらっしゃいますか?

まさか卒業して1発目にこんな大きなお仕事が待っていると思っていなかったので、ちょっと不安はあるんですけど、それよりも楽しみが勝っている感じです。舞台を観るのは好きですけど、自分が立つとなると、稽古期間もあるし大変なんだろうなと思っていたんです。なのに、まさか自分が主演になるとは、とても驚いています。座長、って言うんですよね。私が唯一、AKB48として活動していた時にやったことがある主演舞台「マジムリ学園-LOUDNESS-」(2021年)は、トリプル主演で座長が3人いたんです。そこで初めて座長を経験して、舞台に臨むにあたって座長の役目というものがちゃんとあるんだと、メンバーから教えてもらいました。でも、まだまだ学ばなきゃいけないことはたくさんあるし、その時の経験を少しでも活かしながらやっていければと思っています。

――作品はご存じでしたか?

菅井友香さんが出ていらっしゃるのをニュースで拝見したくらいですね。取材されているところや、有名なシーンを少し見たことはあったんですが、ちゃんと観たのは出演が決まってからです。もう、すごくカッコよくて、歌に乗せて殺陣をやっていたりして、思っていたよりも固すぎない印象でした。ただ、本当にセリフ量が多いんだな、と…。文字量が多いというか、私は映像で観たんですが、これを生で観るともっと熱量がすごいんだろうなと思いました。

多分、主演の方が変わるごとに、その子の個性を立てつつ、固めすぎずに強い女性を描いていく作品なんじゃないでしょうか。女の子って、か弱くて可愛らしいイメージがあるし、私もそう思っているんですけど、強い女性というふり幅を知ることができるいい機会にしたいです。やっぱり強い女性に一度はなってみたいし、強く生きてみたいですよね。

私自身、すごく子どもっぽい一面があるというか、見た目も子どもっぽいので、強い女性に憧れの気持ちがあるんです。なので、この役を演じられることがとても嬉しいですね。

――演じられる沖田総司という役についてはどのように捉えていらっしゃいますか?

今の自分とは真逆の性格をしている気がしています。怖いものなしで、それが当たり前のように男の子みたいに育て上げられていますよね。実は私も昔はそうだったんです。AKB48に入る前はすごく男勝りで、女の子扱いなんて全然されていませんでした。AKB48に入って、悪目立ちしないように、みんなに溶け込むようにと、女の子らしさを前にだすようになっていったんです。昔の感覚を思い出して、自信を持てるように堂々と立ちたいです。

――つかこうへい作品の印象やイメージはありますか?

メンバーや周りの人に、この作品に出ることを伝えたら「えっ!つかこうへいさんの作品に出るの!?」ってすごく驚かれるんですよ。やっぱり誰もが知っている作品なんだなって思いました。つかさんの作品に出たことのあるメンバーがいて、向井地美音(『新・熱海殺人事件』に出演)と山内瑞葵(『フラガール -dance for smile-』に出演)なんですけど、話を聞いてみたら「すごく大変だったよ」「難しかった」って言ってました。それを聞いたのが本当につい昨日一昨日の話なので、ちょっと背筋が凍りましたね(笑)。「でも自分の中でたくさんのことを試さないとわからないし、すぐにOKはもらえないよ。いろんな自分を出していかないとね」とアドバイスももらいました。2人はいろんな面を出すのが苦手なタイプだったので、なおさら難しかったのかな、と想像しました。私は卒業して最初の舞台なので、とにかくいろいろな自分を出していきたいです!

――これまで何度も上演されてきた作品ではありますが、今回は初めてミュージカルとして上演されます。ミュージカルというジャンルについてはどのような印象をお持ちですか?

大好きです!子役をやらせていただいていた時に観に行ったこともありますし、ミュージカルのオーディションを受けたこともたくさんあります。自分が落ちたミュージカルを観に行くことも多かったので…。AKB48として、アイドルとして、歌って踊ることが常だったので、それを活かせるんじゃないかと思うと楽しみです。ファンの方も、私がミュージカルに出ているところを見てみたい、っておっしゃってくださっていたので、こんなにすぐに叶うとは思いませんでしたね。ファンの方もびっくりしていると思います。

私は、日常的に歌って踊ってきたので、歌とダンスがあるとちょっと安心するんです。歌とダンスで表現することのほうが得意だと思っているし、逆に演技だけで何かを表現していくことに関してはまだまだ学びが少ないので、ミュージカルという形であることがすごく嬉しいです。歌とダンスに助けてもらえる気がしています。

――まだ他キャストは発表されていませんが、いろいろな方との共演になるかと思います。共演への意気込みはいかがでしょうか?

きっと素晴らしい役者さんがいらっしゃると思うので、ちょっと考えただけで緊張します。まだわからないですけど、年上の方が多いのかな?もともと先輩にはすごく人見知りしてしまうんです。でもまずはコミュニケーションを取ってチームを作っていくことから始めないと、と思っているので頑張りたいです。きっとみなさんそれぞれに、違うものをお持ちだと思うので、学びたいと感じたことがあればその方にお声掛けしていきたいです。

――AKB48からの卒業も近づいてきました。卒業後はどんな自分になりたいですか?

もっと自分に自信を持ちたいです。AKB48で14年位活動させていただいたんですけど、たくさんの女の子に囲まれて生活していると、どうしても自分と比べてしまって自信を無くしてしまうこともあって。今、私が一番上の先輩になるんですけど、申し訳ないな、っていう気持ちになってしまっていました。それにアイドルもかなり増えてきていて、広く見たときに、ないものねだりを感じてしまったりもします。AKB48では、自分ができないところを補い合いながら、支え合いながら活動してきましたが、卒業したら自分でどうにかしていかなければなりません。そこがこれからの課題ですね。でも、卒業してもAKB48との関係はずっと続いていくと思うし、OGとしてカッコいい背中を見せていきたい。だからこそ、1発目のこのお仕事を本当に大事に演じていきたいです。そして、ネガティブで自信のない私だからこそ、どんどんいろんな挑戦をして、自信をつけていきたいと思っています。

――卒業してやってみたいことやチャレンジしたいことは?

お仕事とか関係なく、免許がとりたいなとか、バク転ができるようになりたいな、とか?あと、楽器をやってみたいし、作詞作曲もできるようになりたい!今、いろいろ好奇心はすごくあります。でも、向き不向きはあると思うし、それがお仕事につながるかどうかはわからないですけど、とにかくいろんな挑戦をしてみたいです。

――具体的にやってみたい楽器は浮かんでますか?

私、謎にベースがすごく気になるんです。そうやってずっと言っていたら、ベースをプレゼントしていただいたので、これから時間ができたらベースに挑戦したいですね。

きっかけは多分、沖縄にお仕事で行ったときに、アクターズスクールの子どもたちがバンドを組んで演奏していたことに、本当にすごくビックリして。子どもたちから勇気をもらって、背中を押されました。その時の演奏で、なぜかベースの音が気になったんです。いつか、仲のいいメンバーとセッションみたいなことができるといいな。あと、最近は洋楽にハマっていて、音楽にも興味が高まっていたことも影響している気がします。

――お芝居で挑戦したい役はありますか?

私は、お芝居に苦手意識があって…。映像と舞台でも全然違うし、どっちもなかなか掴めないなって感じています。以前にヤンキー役をやった時には、すごくいい評判をいただいたんですが、私としてはその役だったから入り込めたんじゃないかと思っていて、演技ができるようになった、とは正直思えないんですね。まだ克服できていないんです。

でも、あの時の感じで入り込める役ならやってみたいな、という気持ちはあります。だからヤンキー役もまたやってみたいし、サイコパスみたいな過激な役が好きですね。逆に、おしとやかな役とかのほうが難しいかもしれないです。

――これから稽古などに臨むにあたって、どんなことが自分に必要だと思いますか?

とりあえず稽古場に行くことですよね。考えすぎて胃が痛くなってしまうタイプなので、あんまり考えすぎずに行こうと思います。そうやって思っていても、考えちゃうんですけど…。稽古場に立って、向き合っていくことが私の課題です!

――最後に公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします

きっと14年間、私のことを見ていてくださった方からすると、もう私のことを知り尽くしているような気がしていると思います。でも多分、AKB48という、アイドルという肩書きが外れて、私自身も変わるような気がしています。新しい私を見ていただいて、またこの先も応援したいと思っていただけるように、真摯に頑張っていきます!楽しみにしていてください!

インタビュー・文/宮崎新之
写真/篠塚ようこ