国境を越え世代を越えて読み継がれ、広く愛されてきた世界的な名作であるオルコットの『若草物語』。
小説家になることを夢見る主人公・ジョーを中心に、その母親と四姉妹が慎ましくも力強く生きる姿が綴られたこの物語が、ミュージカルになった。何気ない小さな喜びも突然訪れる大きな悲しみも、すべてを分かち合う家族の愛と絆が、20曲余りの美しいミュージカルナンバーにのせて描かれていく。
活発で男勝りな次女・ジョーを朝夏まなと、貞淑で夢見がちな長女・メグを彩乃かなみ、心優しくピアノが得意な三女・ベスを井上小百合(乃木坂46)、おませでお洒落が大好きな四女・エイミーを下村実生(フェアリーズ)が演じる。
演出を手掛けるのは、独自の世界観に定評のある小林香。
1860年代後半のアメリカを舞台に繰り広げられる、微笑ましく、愛らしく、切なく、希望に満ちたこの家族の物語が、どう表現されるのか興味は尽きない。
稽古初日までまだ少し間がある7月上旬、ジョーとベスに挑む元宝塚宙組トップスターの朝夏と、乃木坂46の井上に作品への想い、お互いの印象などを語ってもらった。
――今日は、約3カ月ぶりの再会だそうですね。
朝夏「そうなんですよ。前回のビジュアル撮影の日が初対面だったんですけど、今日はもう私もすっかり、久しぶりに可愛い妹に会えた気持ちになっています(笑)」
井上「朝夏さんは初対面当日からとても気さくで、撮影をものすごく盛り上げてくださったんです。今日、早くもリラックスした感じでお会いできて私もうれしいです」
朝夏「撮影の日に、四人でいろいろなポーズで写真をたくさん撮りましたからね。特にチラシの裏面の、四人で顔を出しているショットなんて、これが意外とハードで」
井上「まるで組体操みたいな状態でした、みんなで協力しあいながら(笑)」
朝夏「アイデアを出しあってね。どうやったら四人の顔を上手にバランス良く出せるか、と(笑)。あれ、体勢としては小百合ちゃんがかなりしんどいポジションだったんじゃないかな」
――見えないところで苦労されていそうなポーズですよね(笑)。お二人は、この作品への出演のお話が来た時に、まずどんなことを思われましたか。
朝夏「とてもうれしかったですよ。『若草物語』は誰もが知っている有名なお話ですし、しかもそれにジョー役で出ることになったと話すと、ジョーに憧れていたとおっしゃる方がまわりにとても多くて。私自身は、昔原作を読んだ記憶はあったのですが、ミュージカルになっていることは知らなかったんです。それでどういう作品だったろうと思って、改めて台本を読み、映画を観てみたら、四人の姉妹愛や、お母さんとの絆といった愛情に溢れたとっても素敵な作品でした。音楽も、本当に素晴らしいです」
井上「私も、出演のお話を聞いてもちろんすごくうれしかったんですけど、自分がベス役だと知った時は「大丈夫かな?」と、まず思ってしまいました(笑)。ベスは病弱でおとなしくて、小鳥さんを可愛がっているような、とても愛に溢れた女の子で。ちょっと、私とは真逆のような気がしたんです(笑)」
――そうなんですか?(笑)
井上「これは四姉妹のお話ですけど、私は実は男ばかりの兄妹の四番目なんですよ」
朝夏「ええっ、そうなの!」
井上「そうなんです、意外にたくましく育ってきちゃったんですよね(笑)。だから「ベスのイメージにピッタリですね」なんて言われても「ホントかな~?」って思ったりもして(笑)。今は、稽古を重ねてだんだんと、ちょっとずつでもベスに近づけていけたらいいなと思っています」
朝夏「でも私、初対面の時からなんとなくそんな雰囲気は感じとっていましたよ。ベスのイメージにはピッタリだと思うし、めちゃめちゃ可愛いんですけど、意外と中身は男っぽいんじゃないかなって」
――気づいていましたか(笑)。
朝夏「はい(笑)。サバサバしていて、いいなあって思いました。そういうギャップがあるほうが、絶対にいいんですよ。役づくりをする時に、いろいろと想像ができるじゃない? 自分とは全然違う役のほうが、きっと新しい魅力が出るから」
井上「そうだったら、ありがたいです(笑)」
朝夏「そんな、ふだんの小百合ちゃんのサバサバ感を、これからの稽古でどんどん開拓していきたいです。姉妹としてね」
井上「アハハ、よろしくお願いします!」
――この四姉妹の中では、誰が一番実際の自分に近いですか。
井上「私はそれこそ、ジョーかな。ちょっと男勝りなところとか、特に(笑)。でも、これは私の想像上の話ですけど、たぶん、ジョーってぐいぐい引っ張っていくタイプの強気なだけの女性ではない気がするんです。サバサバしているけれど、裁縫ができたり、家庭的な一面があるようにも見えるので」
朝夏「なるほどね。私、今の自分はわからないですけど、子供の頃はまさにジョーみたいな子でした。まず弟を従え、近所の友達を従えて、思い立ったら即、行動!みたいなところがあったので。もう、過去にはいろいろな逸話が残されています……(笑)」
――お二人とも、男兄弟の中で育ったんですね。
朝夏「そうですね、私は二人姉弟ですけど。小百合ちゃんは、お兄ちゃんが三人いるってこと」
井上「そうです、三人います」
朝夏「下はいないの?」
井上「妹がいます」
朝夏「五人兄妹なんだ。すごーい、じゃ、四姉妹よりも」
井上「一匹、多いんです(笑)」
朝夏「一匹って(笑)」
――でも、女ばかりの四人姉妹という設定もなかなか面白そうですよね。
朝夏「また、性格がバラバラだしね」
井上「うんうん、そうなんです」
朝夏「みんな、それぞれの役に本当にピッタリよね」
――そんな印象ですか。
朝夏「現時点では、見た目の印象ですけど…ベスもピッタリですよ」
井上「ふふふ、うれしいです、そう言っていただけて」
朝夏「お姉さんのメグもめちゃくちゃ優しいし」
井上「母性溢れる方だなと思いました」
朝夏「エイミーちゃんはやんちゃ感もあってね」
井上「すごく可愛らしいですよね」
朝夏「撮影の日も、あっという間に打ち解けちゃった」
井上「そうですよね、すごく楽しい撮影でした」
――演出の小林香さんとは、この作品についての話はもうされていますか。
朝夏「詳しい話は、稽古が本格的に始まってからになると思いますけど。私は先日までやっていた自分のコンサートの演出を、小林さんにしていただいていたんです。小林さんの演出は、まずオシャレですし、女性ならではの感覚なのか、衣裳も照明もとても素敵でした。それと、常に冷静に見てくださいます。こちらのことを深く知ろうとしてくださるし、一緒に盛り上がってもくださるので、すごくバランスがいいんですよね。前回は歌とダンス中心のコンサートでしたが、今回は初めてお芝居を一緒に作らせていただくので、今回はどんな現場になるんだろうと、今は大変ワクワクしております」
井上「私は、まだそんなに直接お話ができていないので、これから稽古が始まったら、いろいろとうかがってみようと思っています。女性の演出家の方と組むのは私、実は今回が初めてなんです。だから小林さんがどんな稽古をされるのか、すごく楽しみにしています」
――それぞれジョーとベスを、現時点ではどう演じたいとお考えですか?
朝夏「ジョーを演じるのに一番必要なのは、情熱ですね。作家になりたいとか、自分が家族を守りたいとか。現代女性に通じるところも、たくさんあると思います。仕事を持っている女性というのは、この物語の時代ではとても先進的だったと思うのですが、現代の視点で見るとやっと時代がジョーに追いついた!みたいなところがあるので(笑)、きっと共感もしやすいと思いますね」
――ジョーみたいな人、今はとても増えていると思います。
朝夏「そうですよね。戦う女性というか、単に男には屈しないぞ!みたいな(笑)。女性の内に秘めたる情熱と、意志の強さ。そういうものは本人が100%、強く思っていないと表には出てこないと思います。嘘があったらもっと出てこない。それから、この作品は、楽曲がとにかく素晴らしいですね。歌の持つ力がすごくある作品だと思います。姉妹で一緒に歌うだけではなく、周りの方ともいろいろな組み合わせで歌います。ベスとジョーの二人にも、劇中にすごく素敵なデュエットがあるんですよ。セリフも大事ですが、歌の力はミュージカルには不可欠です。歌があるからこそ感情がより人の心に届くということもあるので一曲一曲を大事に歌って、しっかりとお客様にお伝えしたいなと思っています」
井上「ベスは、表面的にはとてもおとなしくて病弱ではあるんですが、実は内に熱いものを秘めていると思うんです。だから、ベスを、決して可哀想な子に思われたくなくて。彼女の中ではいろいろな葛藤がありながら、きっとこの姉妹で過ごす時間はすごくキラキラして楽しかったはずなんですよね。そこをうまく表現できたらいいなと思っています。楽曲に関しては、観ていて気分が上がるような曲も多いです。今、必死にボイトレに励んでいますので、本番では歌で表情が伝わるようなパフォーマンスを披露できたらなと思っています」
――特にこれからの稽古、本番に向けて一番楽しみなことというと?
井上「私、本当にずっとお兄ちゃんにくっついて遊んでいることが多かったので、姉妹という関係に昔から憧れていたんです。自分の妹とはちょっと年齢が離れていましたし、いとこが三姉妹だったこともあって、それが羨ましくて仕方がなくて。クリスマスプレゼントのリクエストに「おねえちゃんがほしい」って毎年書いていたくらいなんです」
朝夏「うわ、それ、カワイイ~!(笑)」
井上「女のきょうだいが、もっといっぱいほしかったんですよね。だから今回、役の上だとしても四姉妹を体験できるのがすごくうれしくて。それから、今回は東京公演だけでなく、愛知と福岡にも行けるというのも楽しみです。これまで私、コンサート以外の舞台では大阪での公演しか経験がなかったので、今まで行ったことのない地でお芝居ができるのは、自分にとってすごく勉強になりそうですし。なかなか東京までは遠くて観に行けないよという方も多かったので、そういう方々にお芝居を観ていただけるのは本当にうれしい機会だなと思っています」
朝夏「今回は家族のお話ですから、その家族感が稽古を重ねることで徐々にできあがっていくのが、今から楽しみです。それぞれの役、キャラクターとしての絆もどんどんできていくでしょうし。それから、マーチ家の家族として遊びにも行きたいんですよね」
――みんなで稽古終わりに、とか?
朝夏「はい。家族団らんの疑似体験ワークショップとか、やってみたい!(笑)」
井上「ふふふ、それ、私もぜひやりたいです!!」
朝夏「みんな、演じるキャラのままで会話をしながらごはんを食べよう、みたいなね。そういう家族ごっこみたいなことをやってみたいです(笑)。それと私、ハーモニーというものが大好きなんですよ。ひとりで歌うのもいいんですけど、今回は特にみんなと一緒に歌う楽曲が多いので。姉妹で四重唱とか、(隣家の息子でもある)ローリー(林翔太)を入れて五重唱とか。みんなの声を合わせることが、今からとても楽しみです!」
取材・文/田中里津子