ミュージカルの金字塔「ウエスト・サイド・ストーリー」の日本キャスト版が、アジア初の没入型エンターテインメント施設「IHIステージアラウンド東京」にて11月6日(水)より上演される。今年11月から2020年5月まで7カ月に及ぶロングラン公演のトップバッターを務める日本キャスト版Season1の製作発表が、現在来日版が上演中の本物のセットが建ち並ぶ劇場内で行われた。。主役のトニーをWキャストで演じる宮野真守と蒼井翔太、同じくWキャストでヒロイン・マリアを演じる北乃きいと笹本玲奈ら4名の出演者が登壇。劇中で歌われる代表曲『マリア』『トゥナイト』の熱唱に850人の観客が大歓声をあげた製作発表イベントの模様をレポートする。
■トニー演じる宮野&蒼井がサプライズで客席から登場!キャストと一緒に360°回転も体感
客席が360°回転する「IHIステージアラウンド東京」。1300人を収容する客席には、事前応募3000人以上から当選した850人の観覧者が詰めかけていた。製作発表の開始が告げられると目前の巨大スクリーンに「ウエスト・サイド・ストーリー」の概要とキャスト紹介の映像が流れ、続いて、ほんの少し開かれたスクリーンの隙間から、客席を囲む360°のステージに建てられた豪華なセットをチラ見せ。一気に“1950年代のアメリカ・ニューヨーク”の世界に入り込む。
と、そこへ、劇中歌の『マリア』が聴こえてきた。歌っているのは、日本キャスト版Season1で主役のトニーをWキャストで演じる宮野真守と蒼井翔太。スポットライトを浴びながら客席間の通路を降りてくると、中央通路でクロス。観覧者の歓声がピークに達する。
なんともロマンティックな登場シーン。壇上に上がった宮野と蒼井はともにスーツ姿ながら、それぞれに違う魅力を発する。「お客様の前で『マリア』を歌ったのは今日が初めて。すごく緊張しましたが、トニーを演じるんだという実感が湧きました」と宮野。「僕らはWキャストなので本来舞台で一緒に歌うことはないんですが、今日だけは2人のトニーの特別アレンジで歌えてうれしかったです」と蒼井。正面となる舞台は、ちょうどマリアが勤めるブライダルショップ。その2階のマリアの部屋に、北乃きいと笹本玲奈が白いワンピース姿で立っていた。「マリア、降りておいで」「階段に気を付けて」と下から声をかける宮野と蒼井。
4人が揃ったところでトークがスタート。「トニーが働くドクのドラッグストアに行きましょう。実は、物語の中でマリアは一度も行かない場所なので、せっかくの機会だから」という北乃のリクエストに応え、客席を包む360°の舞台を歩きだすキャストたち。彼らの歩みとともに客席も回転すると、「お客様がついてきてくれるっていうのが面白い!」(宮野)、「ほんと、テーマパークみたいですね」(笹本)と、「IHIステージアラウンド東京」ならではの楽しさをいち早く体感させてくれた。
宮野「僕は以前ここで回ったことがある人間で(『髑髏城の七人Season月《下弦の月》』)、その時から言っていますが、いままでの舞台経験のノウハウがぜんぜん通用しない舞台です。役者にとって、こんなに新たな体験ができるのかと、プラスのパワーを感じます。アドバイスはとくにないですが……、楽屋の場所は憶えておいたほうがいいかな。舞台上をぐるぐる回るので、いま自分がどの位置にいるのかわからないと、楽屋に戻れなくなっちゃうから(笑)」
蒼井「客席からステージ側を見たことはありましたが、今日初めてステージ側から客席を見ました。お客様がめちゃくちゃ近いですね。一番奥のお顔まで見えます」
宮野「役者の僕らも“没入”できるステージなんですよ。だから、客席のみなさんもニューヨークの人で、物語の登場人物に見えてくる。みなさんにもその気持ちで観にきてほしいです」
笹本「約60年前に映画化された時、わたしの両親はリアルタイムで見たそうです。とくに父は『トゥナイト』が好きで、小さいころからよく聞かされていました。今回のマリアのオーディションにちょっと躊躇もありましたが、両親や祖父母を喜ばせたい一心で受けました。合格してわたし以上に喜んでくれ、一番のプレゼントができた気持ちです」
北乃「オーディションの時、ドアを開けた瞬間に“マリアはわたしだ”と思ったって最初のコメントで言ってしまいましたけど……、そんなことを思ったのは初めてで、すみません」と、恥ずかしそうに顔を赤らめる北乃を、「大丈夫?」とすかさず気遣う宮野。
蒼井「時代ごとに人々に訴える作品だから、いまの時代だからこそ訴えられることを、みなさんと一緒に探していけたらと思っています」
ここで、事前にTwitter上で募集した一般の方々からの質問タイム!
質問① ここ注目してほしいポイントはどのシーンですか?
宮野「バルコニーのシーンです。この劇場だからこそできる見せ方をします。その世界に飛んで行ってしまう感じ。マリアとトニーの2人だけの世界を注目してほしいです」
蒼井「楽曲とともにパフォーマンスも見てほしいですね。本当に素晴らしい圧巻のパフォーマンスがたくさんあります」
北乃「トニーとマリアの出会いのシーンが個人的には好きです。直接言葉にはしないけれど、抽象的に描かれていて、とても素敵でロマンティック。日本の作品ではあまりないシチュエーションだと思います」
笹本「マニアック目線で言いますと、このセットのどこかに川が流れています。本当に水が流れる川なんです。どこにあるかお楽しみに。重要なシーンにも使われます」
質問② 長丁場の公演、これがあれば乗り越えられる、という食べ物やアイテムは?
宮野「食べるのが好きなのは……、この2人ですね」
蒼井・笹本「はい(笑)」
蒼井「公演終わりの楽屋に、1ピースでもいいのでケーキを置いておいてほしいです」
宮野「先日の稽古で、蒼井くんのシャツの胸ポケットが膨らんでいると思ったら、大量のお菓子が詰まっていたんですよ!」
蒼井「常備しないと頭が働かくなるので……」
笹本「わたしも甘いものが大好きですけど、マリアは太ったら困るので気を付けます」
質問③ 稽古中の共演者を見て、この人のここがすごい!とおもうエピソードを教えて。
北乃「笹本さんは、きっと人見知りですよね、わたしも結構人見知りなので、察してすごく話しかけてくださるし、ミュージカルのことをサポートしてくださり、とても優しいんです。でも、お芝居のスイッチが入ると目が変わる。蒼井さんは、かわいらしい方(年上なのにすみません)。とくにチョコレートケーキがお好きと、うれしそうにおっしゃって、現場を和やかにする才能があります。蒼井さんの一言でみんなが朗らかになるんです。宮野さんは、すごく面白いです」
宮野「え、一言!?」
北乃「稽古場で一番お話する方です。ネガティブなことも必ずポジティブに変換してお話されるので、すごいと思いました。あと、わたしが言いきれないことも説明してくれます」
笹本「宮野さんはみんなを引っ張るトニーで、基本ツッコミ役。蒼井さんは、トニーが持っているちょっと夢見がちで宙に浮いているようなところがあって。それぞれ個性豊かですが、ちゃんとまとまる、間違いなく世界一のカンパニーです」
和やかで軽快なトークに、観覧客の歓声がときおり混ざる、楽しい会見となった。最後に、「みなさんに見てきていただいて完成する舞台です。僕ら自体が初体験をして目がキラキラしている状態ですから、そのキラキラを観に来てほしいです」(宮野)、「観に来てくださる方も一出演者、一住民として、一緒に作り上げていけたらと思います」(蒼井)、「素晴らしいキャストとスタッフで素晴らしい作品を作ります、ぜひいらしてください」(北乃)、「いつの時代に見ても、絶対的に心をわしづかみにするテーマやメッセージがあります。10年20年100年先まで続く作品になるよう、わたしたちも真心をこめ、一回一回の舞台を務めます」(笹本)とメッセージ。そして、蒼井が「最近のお気に入り」として先輩の宮野にクレープの差し入れをお願いし、めでたく会見は終了した。
チームワーク抜群のカンパニー、アメリカから輸送された豪華で緻密なセット、アジア初・客席360°回転の没入型ステージと、期待値の高い要素がぎっしり。出演者の一人になれる本作にぜひ足を運んでほしい。
取材・文/丸古玲子
写真/ローチケ演劇部