左から 松平健・森新太郎・吉柳咲良
2020年で40周年を迎えるブロードウェイミュージカル「ピーターパン」が、今年の夏も上演される。主人公のピーターパンは昨年に引き続き、4年目となる吉柳咲良が務め、フック船長には松平健が新たにキャスティングされた。演出も一新され、今回から森新太郎が手掛けることになった。それぞれ、どのような想いで40年目の「ピーターパン」に挑むのか。話を聞いた。
――今回、演出をされるにあたって構想は浮かんでますか?
森「もちろん、いろいろありますよ。でも、うまく語れるかどうか…。バラしてしまうのが怖いくらいの、ワクワクするような構想はいろいろと用意しています。まずは、とにかく思いっきりアナログな方向に帰っていこうかなと。今の我々はCGなどに慣れてしまって、ファンタジーと言うとそういう映像表現の方に行きがちです。でもお芝居の世界というのは、もっと粗っぽいところが沢山あったほうがいいという気がするんですね。特に今回は子供の“ごっこ遊び”の延長だと思っているんです。そもそも原作者のバリ(*ジェームス・M・バリ)は、公演で子供たちと“ごっこ遊び”をして、その時に生まれたお話をとりいれてるんです。その感覚を我々も大事にしなくちゃいけないんじゃないかと。ネバーランドはどこにもない国っていう設定なので、ある意味なんでもありなんですけど、その“なんでも”の半分以上は劇場に来る子供たちの想像力で補えるように…こちらが全部を設けるんじゃなくてね。布一枚で森に見せられるか、海に見せられるか。そういう世界じゃないかと思っています。」
――いわゆる裏方の動きが見えてしまっても良い、ということでしょうか。
森「動物や妖精もたくさん出て来ますが、例えば、その人形を操っている黒子の姿が堂々と見えてしまって良いんです。ごっこ遊びの延長なので。子供は、最初はみんな“後ろに操っている人いるじゃん!”って思いながらも、そのうち勝手に想像力が働き出して本当に人形が生きているように見えてくる。そんな世界に戻りたいな、と。今やフライングを見たって“ワイヤーあるじゃん!”って驚かないもの。でも我々の熱量とアイディア次第で、ワイヤーが見えていても、本当に跳んでいるんじゃないか、と思わせられるはず。それが僕の野望ですね。」
――今回、フック船長役を松平健さんにお願いしたのは、その構想に松平さんが不可欠だったから?
森「フック船長って、思うに一番愛嬌がなくちゃダメな人。悪党なんだけど、チャーミング。自分の信念を一生懸命貫いていて、それが滑稽にみえちゃったりする。いちいちマナーを大事にしているところとか、すごく面白い人物だな、と。なので衣裳も、もっと貧乏!とプランナーさんにお願いして(笑)。頑張って貴族みたいになろうとしているという、ちょっと情けないくらいのほうがいいんじゃないかなと思っています。で、松平さんは盲点過ぎて。松平健とピーターパンって、あまり結びつかないですよね。でも、一度そう思ってしまったら、もう松平さん以外考えられなくなっちゃった(笑)。なにがなんでも実現させなくちゃと思い、直談判させていただきました。そしたら快く引き受けてくださり、ビジュアル撮影の時にも「青いシャドウを入れたらどうか」ってノリノリで提案してくださって。そんな芝居がかったフック船長、もう大賛成ですよ。松平さんとはかなり通じ合えるのではないかと、早くもそう確信しております。」
――ピーターパン役は、吉柳咲良さんが続投されますね。
森「吉柳は我々の大先輩ですから(笑)。でも、かなりしごくと思います。それも込みで、僕は吉柳とはやりたかった。彼女の初演から見ていますけど、年齢を重ねてからの方がもっとのびのびと少年を演じられるんじゃないかと。年齢が近いと、どうしても気恥ずかしくて拒否感がでてしまうと思う。今の方が、より客観的に“若さ”を演じられる気がするんですね。って言っても、まだまだ彼女は若いんですけどね(笑)。これまでとはまるで違うピーターパンを生み出せたらいいなと思っています。」
――そんな言葉を受けて、吉柳さんと松平さんはいかがですか?
吉柳「頑張ります。覚悟は出来ています。少年の役を3年演じてきたとはいえ、実年齢に近いからありのままでぶつかっていけば大丈夫だろうという保険をかけていたところもあったので。でも、年齢が近いと今の自分とほぼ変わらないから、普段やっていることと何が違うの?っていう感じもありましたね。お芝居として考えるのは難しかったです。そこから少し離れてきて、今回のピーターパンを演じるときには高校1年生になります。客観的にピーターパンのことを子どもとして見られるようになったので、13歳のときとは違う見方ができるようになりました。また1から作っていけたらいいなと思います。」
松平「みんなから愛されるような人物にできたらいいですね。真面目にやろうとしていることが、笑われてしまうような。話をもらった時、大人にも楽しんでいただけるものにしたいということだったんですね。我々もピーターパンを楽しめたらいいな、と思いました。家族や子供だけじゃなくて、大人がウキウキするようなね。衣裳もバッチリですよ。結構、昔の外国の俳優さんのプログラムなんかを思い返すと、けっこう青いアイシャドウを入れている人が多かったんですよ。それで、入れてみようかと。もう、大暴れしたいですね。」
森「本気でやられたら、大変ですよ。フック船長はみね打ちとかないからね(笑)」
――吉柳さんと松平さんは、今日が初対面とのことですが、お互いの印象は?
吉柳「緊張します。迫力がすごいんですよ! 剣を向けるのが怖かったですね。でも、ピーターとしては負けられないので、震えながらも頑張りました。」
森「本当に、吉柳は頑張ってますよ。ビジュアル撮影でも、松平さんと目線をしっかり合わせてね。僕もまだ無理ですから(笑)」
松平「強そうに見えて、そんなに強くないんで(笑)。そんなに恐れることもないです。もう3年やられていて、ピーターパンの世界をよく知っているので、そこに新たな風を吹き込んでいけたら。それで、吉柳さんとお互いにどうやってやっていけるか、楽しみですね。」
――吉柳さんは、ミュージカル『デスノート THE MUSICAL」に出演して、ピーターパン以外のミュージカルを経験して何か変化を感じていらっしゃいますか?
吉柳「弥海砂(あまねみさ)という女の子を『デスノート』で演じたことで、声の幅や自分の出せる音域が分かって自信につながりました。是非そこはピーターパンに活かしたいです。」
――森さんがこれまで手掛けてこられた演劇と比べると大きくジャンルが違うような印象がありますが、今回の演出を引き受ける前から「ピーターパン」はご覧になってましたか?
森「もちろんです。僕ね、演出の依頼がなかったので、よく悔し紛れにうそぶいてたんですよ、“一度俺にピーターパンをやらせてみな”って。そしたら言い続けてみるもので、ある日「やりますか?」って本当に話が来て。いざやるとなると、あんまり大口叩けないんですけどね (笑)。でも意外と昔からこういうファンタジーって好きだったんですよ。母親によく人形劇とかに連れて行ってもらっていたので、その影響かな。人形劇なんて明らかに嘘っこの世界なんだけど、いつのまにか夢中になって入り込んでしまってね。今の子供たちにもそういう素朴な演劇体験を味あわせてあげたいなと思うんです。実は、原風景はこちら側にあって、抵抗はないですね。むしろ今ワクワクしています。ワクワクしかない。ピーターパン40年目の記念の年ですしね、遠慮なくやらせていただきます(笑)」
――ミュージカル作品としては「パレード」の演出もされていますが、そのご経験も引き受けた要因でしょうか。
森「『パレード』のおかげは大きいと思います。『パレード」をやっていなかったら、ミュージカルということでちょっと怖がっていたかも。『パレード』で1度経験させていただいたので、ある程度、現場の感覚は分かります。やっぱり、ストレートプレイとはまるで違いますよ。まず、素晴らしい歌や曲が常にあって、そこを信じ、頼れるのはすごく心強いですよね。ピーターパンなんかその宝庫ですし。でもミュージカルに対してなじめないところもあるのも事実です。発声なんかでも、僕は「もっと叫んで!」とか「喉から血を出すような音が欲しいんです!」とか言っちゃうタイプ。俳優さんは心の中で「喉を潰したらどうするんだ…」って文句タラタラだと思うんですけどね、まあ、今回も大変なことになるんじゃないかな(笑)。」
――長丁場ですからね(笑)
吉柳「頑張ります(笑)。ケアもきちんとしないとですね。」
森「発声もさることながら、吉柳にはとにかく動いてもらうことになると思います。こんな活きのいいハチャメチャな奴は見たことがないというぐらいの男の子を演じてもらわないと。等身大で演じられたのではは物足りない。指の先、髪の先まで、生気みなぎらせて、観るものすべての心をしびれさせてほしい。」
――フック船長にはどんなことを求めますか?
森「やっぱりこの島でパワフルな2人が対決するわけですから、当然エネルギーは必要とされますが…松平さんはすでに有り余るほどお持ちですからね(笑)。」
――松平さんの中では、フック船長はどんなキャラクターですか?
松平「ファンタジーの中ですし、悪い人とはいえ愛嬌がないとね。夢の中の人でいたいな、と思います。ピシッと決めてるんだけど、それが笑えるような。自分なりにカッコいいと思いながら、それを出していけたらと思っています。」
森「神輿に乗って登場するかもしれません。頭の悪い子分たちにワッショイワッショイ担がれて。日によって落っこちたりもして (笑)」
――客席の子供とフック船長の掛け合いも楽しみです(笑)。最後に意気込みを皆さんにお聞きしたいと思います!
森「伝統ある作品なので、これまでも何かと趣向を凝らされてきたと思うんですけど、私は私なりにいろいろ企んでおりますので、誰も見たことがないようなピーターパンになることは間違いないありません。、従来のファンの方も今まで「『ピーターパン』なんてファミリーミュージカルで、自分には馴染みが無い」と思っていた方も、是非今回のこれに足を運んでいただきたいです。喜びと切なさがあふれるファンタジーをお約束します。」
松平「お客さんに楽しんでいただける、夢のあるものに仕上げていきたいと思いますね。頑張ります。」
吉柳「3年間、ピーターパンを演じてきたとはいえ、全部新しくなるので、今までのことは一旦リセットしようと思います。ピーターパンというお話についてもう一回ちゃんと考えたいし、今までやってきた技術面は体が覚えていると信じて、頑張ります!」
――楽しみにしています! 本日はありがとうございました。
インタビュー・文/宮崎新之