日本上演40周年!新たに生まれ変わる『ピーターパン』稽古場レポート

左より)フック船長役:小西遼生、ピーターパン役:吉柳咲良

今年も『ピーターパン』の夏がやってくる!
昨年はコロナ禍の影響により上演中止となっただけに、「待ちにまっていた!」というミュージカルファンは多いのでは。ホリプロミュージカルの原点である本作は、今年で日本上演40周年を迎える。
世界的に見ても、一つの作品がこれだけ長きにわたって毎年上演され続け、世代性別を超えて人々に愛され続けている例はないだろう。この40年間、数々の気鋭演出家が手がけきたことも『ピーターパン』の特色であり、魅力だ。
今回の上演にあたっては、新たに森新太郎が演出を、潤色・訳詞をフジノサツコが担当。美術も大きくリニューアルしたバージョンになるという。
さてどんな舞台になるのか?それを探るべく、いざ稽古場へーー。
すでに演劇業界では常識となった、入り口での検温、手のアルコール消毒を終えて稽古場に足を踏み入れると、第2幕「夜の海賊船」のシーンの稽古が行われていた。

フック船長役:小西遼生

「この世でいちばん悪いやつは」と自らの威厳を誇示して叫ぶのは、小西遼生演じるフック船長だ。
それに対して海賊の子分たちが「フック船長!フック船長!」と応えると、どんどん気分がよくなっていくフック。船長をさらに盛り立てるように、海賊たちが「ラッタッター♪」とワルツを踊り出す、という場面だ。

演出を手掛ける森新太郎

振付を担当する新海とともに、演出の森は自ら動いてみながら、よりシーンにふさわしい動作を見つけていく。
ここで歌われる「フックのワルツ」は、あらためて聴くとメロディーが美しく歌詞も愉快。屈強な海賊たちが重厚なハーモニーを奏でながら、軽やかなステップを踏むという、ミスマッチに笑いが込みあげるシーンでもある。
小西のフックは声色から色気が漂い、立ち姿はかっこよく、と同時に弱さとかわいらしさが垣間見えて目が離せない。

続いて、稽古は物語の後半、ピーターパンとフック船長たちとの対決に至る前の重要なシーンへ。
ピーターパンはウェンディと迷子たちが海賊たちに捕らえられたと知り、タイガー・リリーらと救出へと向かうが…。

中央左より)ウェンディ役:美山加恋、タイガー・リリー役:宮澤佐江

一方、宿敵・ピーターパンをやっつけるまであと一歩だと思っているフック船長は、ウェンディと迷子たちを連れてくるよう、海賊たちに指令を下す。
このシーンで最初、迷子たちは全員、手首を縄で縛られていたが、「それ、外してみようか」と森が提案。縄を外された迷子たちを、海賊たちがまるで”もの”のように投げ渡していく動作が加えられた。
すると海賊たちの残虐さ、迷子たちの恐怖がより鮮明に。海賊の立ち方ひとつにも「それだと海賊にみえない。むやみな緊張感を与えないと!」と細かにアドバイスを加えていく森。
その間、ウェンディは甲板の上に連れられていき、絶体絶命の危機が!?

ピーターパン役:吉柳咲良

しかし、この危機を黙って眺めているピーターパンではない。
こっそり海賊たちの様子を伺い、みんなを助けるタイミングを図っている場面では、森から吉柳に「ひょっこり、という感じで出てきて欲しい」と指示が入る。瞬時にそれを受け取って表現する吉柳のピーターパンは、機敏な動きから少年そのもの。

ピーターパンが手に持っているのは、フックが恐れる「チクタク」と響く時計だ。
その音を聞いて、自分の手を食べたワニの到来と勘違いしたフックは、まるで幼な子のようにおびえはじめる。このギャップが、悪役でありながらフックを誰もが愛してやまない理由だろう。

左より)ピーターパン役:吉柳咲良、フック船長役:小西遼生

そんな船長の姿に怖がりはじめる海賊たち。この間、ピーターはウェンディたちの救出作戦を敢行。
フックに「ピーターパン!」と名乗りを上げるシーンでは、吉柳は声色、表情からやんちゃな少年を表現。大人から見てもかっこいい、子どもが見れば憧れる、応援したくなるピーターパンがそこにいた。

稽古ピアノが奏でる「ネヴァーランド」をはじめ楽曲を聴いただけで胸踊るのは、やはり名作ミュージカルだからこそ。何より今回稽古場を訪れて感じたのは、森による緻密な芝居づくりだ。
稽古の手応えを吉柳と小西に聞いた。

 

――吉柳さんは4回目のピーターパン役ですね。稽古はいかがですか?

吉柳 演出が変わったこともあり、新たな発見がたくさんあります。
森さんは何事も明確に言葉で伝えてくださって、「もっと重心を低くして」「ここはジャンプして!」と身体の表現を求められるので、筋肉がついてきましたね(笑)。
最初は新演出で、40周年記念公演ということで正直、プレッシャーをすごく感じていました。でもだからこそ、自分の殻を破らないと前進できないなと思っていたのですが、森さんとの稽古を通して、割と早い段階で殻を破れたような気がします。
今回は「ピーターパンはこうでないと」と固めずにトライしていきたいなと。まずは自分の精一杯をぶつけて体当たりして演じた時に、私のピーターパンがどんなふうに皆さんの目に映るかが楽しみです。

 

▼これまでの『ピーターパン』上演の舞台映像

 

――小西さんは『ピーターパン』初参加ですね。

小西 舞台は拝見したことがありましたが、その時はファンタジー作品の印象が強かったんです。でもその中に、影のある人間ドラマが描かれていて、ちょっとシリアスなテーマがあったような感じがしていました。
今回、フック船長とダーリング氏を演じさせていただくことになり、原作を読みました。あまりに面白くて虜になりましたよね。
まだ、稽古全体を見られるほどの余裕はないですが、森さんは原作の戯曲の面白さをすごくしっかり読み解いて作られていて、原作に忠実に作られている気がします。原作にはそれぞれのキャラクターの心情が細かく描かれていますが、今回の上演台本はそれをちゃんと失わずに書かれていて。
それをもとに、森さんが人間ドラマの緻密な流れを細かく、しかもテンポよく作られているので、かなりいい作品になっている感じがします。
僕自身、フックを演じていてすごく楽しいですね。

 

清々しい表情でそう語る二人は、稽古の手応えを十分感じている様子。
稽古場には興味をそそられる新たなセットも用意されていた。果たしてどんな『ピーターパン』が誕生するのか、期待は膨らむばかりだ。

 

文:宇田夏苗/撮影:渡部孝弘