小林亮太 インタビュー|Musical「HOPE」

韓国で大ヒットとなったMusical「HOPE」の日本初演が10月1日より幕を上げる。本作は、著名作家の遺稿の所有権をめぐり、イスラエルで実際にあった裁判をモチーフに描く法廷劇で、原稿を託された女の娘・ホープの数奇な運命が描かれる。演出を務めるのは、本作が演出家デビューとなる新納慎也。そして、ミュージカル初主演となる高橋惠子がホープを演じ、原稿が擬人化された、もう一人の主人公「K」を、永田崇人と小林亮太がWキャストで演じる。「K」を演じる小林に話を聞いた。

 

――まずは出演が決まった時はどのようなお気持ちでしたか?

純粋に、嬉しかったです。もともと演出の新納慎也さんとは、先輩を通じてプライベートでお会いしたことがあったんです。そのあと、たまた別の稽古場でもお会いする機会があって…。ちょうどその時、今年の9月10月はスケジュールがあいていて、演劇をやりたい気持ちが強かったんですけど、その頃のタイミングだと、もうほとんどのお芝居のキャスティングは決まっているだろうし、アプローチも難しいかな、みたいな話をしていたところでした。やっぱり難しいかな、と思っていた矢先にばったりお会いして、「10月、何やってんの?」って聞いてくださって。「空いてます!」ってお返事したのがきっかけで、オーディションに呼んでいただきました。そのオーディションの場で、新納さんが演出されることも知ったんです。


――ちょうど、演劇がやりたいという気持ちが高まっているときに、「HOPE」のお話があったんですね。

「HOPE」は、もともと韓国で上演された作品で、歌も非常に難しい。普遍的なテーマがありながらも、人種問題や貧困の問題なども扱っています。すごくチャレンジしたい気持ちがある中で、オーディションの時から自分の中での課題も見つけました。出演が決まって、本当に嬉しい反面、稽古に入るまでにも自分ができることを精いっぱい取り組みたいと思っています。


――「HOPE」は新納慎也さんの演出家デビュー作になりますが、新納さんにはどのような印象をお持ちですか?

新納さんは、いつも本当に気さくに話しかけてくださって、演出家と役者という関係でも変わらずフランクに話してくださいますね。いろいろな舞台に出演されていたことももちろん知っていましたが、ご自身でも”関西のおばちゃん”とおっしゃられているように、本当にちゃんと相手を見ながらお話してくださるんですよね。初対面の時から、しっかり僕の話も聞いてくださって、本当にすごくあたたかい方だと思いました。「HOPE」には悲劇的な部分や悲しい部分がありますが、そこに新納さんの手が加わることによって、希望に繋がっていくんじゃないか、という気がしています。


――今回は主人公の女性が所有してきた原稿「K」が擬人化された役です。今の段階での役の印象はいかがですか?

擬人化されている役なので、人間ではないんだけれども、高橋惠子さんが演じる主人公・ホープに一番寄り添っていて、話を辿って行けば、ホープとホープの母親の近くにずっと居たという存在です。ある種、孤独な人にとっての家族、かけがえのないものだと感じました。モノではあるけれど、ホープに対して愛を持っているキャラクターです。でもモノではあるので、そのあたりは、稽古の中でバランスを見つけていきたいですね。擬人化されているキャラクターは、例えば「刀剣乱舞」ですとか最近増えてはいると思うんですけど、自分が演じたことは無かったので、ちょっと聞いてみたんです。「擬人化ってどうやって演じられてますか?」って(笑)。いま一緒にやっている本田礼生くんとか、「刀剣乱舞」に出ていた役者とかに聞いてみたんですね。そしたら「自分の持ち主が目の前にいる、っていう感覚はスゴイものだよ」って言われて…。本当に今までにない感覚だと思っていて、今日はビジュアル撮影だったんですが、その時間だけでもその感覚がありました。複雑でしたね。僕からの束縛感というか、Wキャストなので永田崇人くんが髙橋さんといるところを見ていたんですけど、自分じゃない「K」をホープが抱いている…と、自分の持ち主のはずなのに自分じゃない「K」を抱いていることに、違和感というか、嫉妬に近い感覚があって。本当に、今日のこの場から始まっているなと感じました。台本だけでは分からなかった感覚がありますね。


――モノだからこそ、所有されていることで満たされているような感覚もあるのかもしれないですね。

「K」は題名の無い原稿で、書いた人からは捨ててくれ、と言われたモノ。それを唯一所持していた存在が、ホープであり、その母親だったと思うんです。なので「K」としても、ホープに対して依存のような感覚も、人間だとしたら芽生えるんじゃないか。でも、モノではあるからそれをどの程度にしていくかは、これから突き詰めていきたいところですね。


――今回は永田崇人さんとのWキャストということですが、Wキャストという形も初めてだそうですね。

そうなんです。「ALTARBOYZ」という作品をやらせていただいた時に、同じ役を演じている人は居たんですが、3チームに分かれていましたし、年齢も結構離れていたので、まったく別モノだったんです。崇人くんも先輩で、いつかご一緒してみたいと思ってはいましたが、まさかのWキャスト。ご一緒するんだけど、同じ役なのでプレッシャーは感じています。比べられてしまうことへの恐怖はやっぱりありますね。これまでの姿を拝見していて、素晴らしい役者だと思っている分、余計にですよね。もちろん、比べるものではないし、違う人がやれば違うものになるし、ほかの方がやっているのを観るときもそう思っています。でも、同じ作品を作り上げる身として、また違う角度から「K」としての良さのようなものにたどり着けたらと思います。だから、稽古場での崇人くんも楽しみですね。


――主演の高橋惠子さんとはどのようなお話をされましたか?

先ほど、お会いしたばかりなんですけど、もう緊張するじゃないですか! 大・大・大先輩であり、本当にお美しい方なので…。「今、何をやっているの?」って聞いてくださって、「鬼滅の刃」という作品をやらせていただいています、とお答えしたら「観に行かせてくださいね」って言ってくださって。そんな…と、本当に恐れ多いですが、すごく嬉しかったですし、お時間があれば見に来ていただきたいですね。ビジュアル撮影の間も、佇まいから、僕が脚本で感じていたホープが居て…どこか物悲しそうで、その姿にビジュアル撮影からもう、心が動きました。そんなのは初めてです。やっぱり、ビジュアル撮影って役を探りながらというか、現場によっては脚本も読まない段階で撮影したりもするものなので、なんとなく掴みながらになることが多いんです。でも、この現場はぜんぜん違いました。髙橋さんとご一緒するのに恥じないような役者にならないとな、と引き締まりました。


――戦時中という生きるだけでも大変な中、原稿を守り続けたという物語ですが、小林さんは、何をおいても守りたいものや譲れないものはありますか?

言ってみれば執着になるわけじゃないですか。台本を読んでいて、思いがけず涙した部分もあって、本当にいい作品だと思ったんですけど、僕自身はモノに対する執着ってあまりないんです。でも、人に対しては…執着って言葉はあまり良くないんですけど(笑)、こだわってしまう部分はありますね。気持ちをどう伝えていいのか、相手を傷つけてしまわないかとか、少し考えすぎてしまうところがあるんです。そういう感覚は、少し近いところがあるのかな、と思っています。僕は15歳からひとり暮らしをしていますが、一人っ子だからか今でも母親とも仲が良くて。けっこう電話をかけてよく話をするんです。家族だけじゃなくて、共演する役者だったり、大切な人だったり、マネージャーだったり…自分と関わってくれる人をすごく大事にしたい思いが強いんですね。その感覚に似ているのかな、と思っています。台本の中で、ホープの母親が「K」を守るために周りを犠牲にしてしまうところがあるんですけど、自分だったら、周りが犠牲になるくらいなら自分が犠牲になればいいやと思ってしまうタイプ。でも裏返しということは、そこに近い感覚があるとも思うんです。うまく言えないんですが、その場面を読んだときに、裏返しというか、遠いんだけど、どこかで一周回って繋がっちゃうんじゃないか、みたいな感覚になりました。台本を読んで涙したことも初めてだったので、自分とは違うけれど、自分が生きてきた道と何かが繋がったのかも知れないな、と思っています。今までも、素晴らしい作品に出演させていただいて、スゴイなと思ったり、その感情分かる!って共感したりしたことはあったんですが、今回みたいに”繋がった”ような感覚になったのは初めてでしたね。


――これから稽古も始まりますが、楽しみにしていることは?

歌がすごく難しくて、楽譜をいただいてから頑張らないとな、と思っているところなんですけど、ピアノの旋律がものすごくキレイなんです。僕、けっこう音フェチなんですよ。デモで送られてくるピアノだけの演奏が、実は個人的には一番好きだったりするんですね。今回の作品には、ミュージカルの大きな作品とかとはまた違った良さが、そのピアノで聞いた美しい旋律にあると思っていて、この作品のもつ悲観的な部分や悲痛さが出ている気がしました。あと、今回は、自分じゃない「K」がいるので、客観してみることができる部分もあると思うんです。客観視した時に見えてきた部分も反映できたらと思いますね。


――稽古や公演期間中、大変なことも多々あるかと思いますが、オフの時間で気力の源になるのはなんでしょうか?

圧倒的に、ご飯を食べる時間です。やっぱり体とか、みなさん疲れるじゃないですか。舞台をやっているとアクションとかもあって、疲れも溜まりますけど、ご飯を食って寝とけばなんとかなるか!って思うんですよ(笑)。だから、ご飯を食べることが大好きですね。中でも、ハンバーガーが本当に好きで…今日も、撮影の後にこの近くのお店で買って帰りたいなと思っています(笑)


――美味しいものは活力になりますよね! 最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

なかなかキャスト同士で一緒にご飯とかに行ける状況じゃないんですが、稽古場での時間も大切にしつつ、みんなで頑張りたいなと思います。本当に物語が素晴らしい作品です。新納さんの初演出を僕自身も楽しみにしつつ、キャストの方々と作り上げる作品を皆さんも楽しみにしていただけたらと思います!

 

インタビュー・文/宮崎新之