G2(脚本・詞・演出)インタビュー|ミュージカル「スワンキング」

音楽と建築を愛するあまり破滅的な浪費を繰り返し、狂王と呼ばれたバイエルン国王ルートヴィヒ二世と、才能に恵まれながらも借金と女性問題に悩まされた天才音楽家ワーグナー。その関係に着想を得て長年企画を温めてきたG2が脚本、詞、演出を務めるミュージカル「スワンキング」が今年6月より上演される。狂王・ルートヴィヒ二世を橋本良亮(A.B.C.-Z)、天才・ワーグナーを別所哲也が演じるほか、梅田彩佳、渡辺大輔、今江大地、牧田哲也、夢咲ねねら、豪華キャストが出演。壮大なスケールでヨーロッパ音楽界における史上最悪のスキャンダルを描いていく。この物語を、G2はどのように組み上げていったのだろうか。話を聞いた。


――今回の作品の着想はどのようなところから得たんでしょうか。

昨年にミュージカル「GOYA ゴヤ」の脚本を書いてて、演出は鈴木裕美さんにお願いしていたので、本番よりもずいぶん前に手を離れた…いや、いろいろあったんですけど(笑)、早くに手を離れたつもりでいたんです。でも、こういう世界をもっと作ってみたいな、と思って。それに、ワーグナーとルートヴィヒ二世のことは前から気になっていたんですよ。それで試しにワーグナーの妻・コージマに関する本を読んだら、もうそのまま芝居にしたいくらい面白かった。でも、ワーグナーとルートヴィヒ二世にコージマを強烈に絡ませると、すごく面白くなると直感が働いて、そこから資料を集めてこういう形になりました。


――ワーグナーとルートヴィヒ二世の関係は以前から気になっていたということですが、そのきっかけや理由はどのようなものでしょうか。

あのね、2人とも自分に似てるんだよ。ダメなところが(笑)。ワーグナーみたいに大した作品も作って来てないし、ルートヴィヒほどピュアでもないんだけど、悪いところだけ似てるんだよね。例えば、お金もないくせに「北海道に行かなきゃ書けない!」とか言って、奥さんに怒られながら北海道の奥地に行って書いたりしちゃうんですよ。そうしないと書けないもん!って。狂王と呼ばれたルートヴィヒ二世ですが、この狂った争いを戦争ではなく文化で何とかしようとした人物だと思っているんです。ただ、それがあまりにも非現実的だっただけ。
ワーグナーも、ルートヴィヒに会うまではお金に困っていて自殺寸前まで追いやられていた男なんです。結局、彼を有名にした作品はルートヴィヒとの出会いの中で生まれているんですよね。それでルートヴィヒはワーグナーのためにバイロイトに劇場を作るんですが、そのために王座を追われることになる。自己犠牲の美しさであるとか、夢をその追い求めるピュアさっていうのは、そのダメなところを庇って余りあるんじゃないかと思うんですよ。そういうダメなところにスポットを当てたら、今までにないヨーロッパものの人間ドラマができるんじゃないかと思ったんですよね。
ダメな話が好きですけど、ものすごく美しいシーンも用意していますし、引くくらいドロドロした場面もあります。ただきれいなだけのミュージカルにはしたくないという思いはありました。最初は「キング・オブ・デイドリーマー」ってタイトルにしていたんですけど、長いんで「スワンキング」になりました。


――今回は音楽にも非常にこだわり、すばらしい楽曲がそろったとお聞きしました。

荻野清子さんにお願いしたんですが、彼女にはかなり無理を言いました。「ここは曲じゃなくてセリフじゃダメなの?」と言われたりしましたが、どうしても曲にしてほしい、とかね。今回、かなりセリフの少ないミュージカルにしたかったんです。なるべく音楽に語らせたい。そのためには、僕がまず役者に演出する前に、作曲家にその演出意図をわかってもらわないとダメなんです。その曲の通りに歌えば、演出を付ける必要がないくらいにね。そういうことは荻野さんもお得意なんですよ。以前、ストレートプレイの作品で、役者だけでやっていたときはどうもしっくり来なかったシーンが、荻野さんの伴奏が入っただけで芝居が勝手に良くなっていくこともありました。そういう芝居と音楽のリンクができる人ですね。


――荻野さんの音楽があってこそ成立するものがあったんですね。

当初、いい機会だから新しい人でもいいかな、といろいろ検討して、何人かにデモをもらったりしていたんですが、そことはちょっと違う線でやりたいなと悩んでいた時期に、ポロッとこういう話があるんだけど興味ある?って話をしたんですよね。そしたら、すっごく乗り気のメールが返信されてきまして。お願いすることになってからは、もう合宿したんじゃないかというくらいのやりとりをしました。このエピソードのどこが面白いのか、台本を書いたときの説明なんかを全曲、やりました。何か楽しいことがあるから楽しい曲で踊りましょうとか、悲しいことがあったから悲しい気持ちで歌いましょう、みたいな単純な曲はほとんどないんです。
僕が一番理不尽だろうなと思ったのは、劇場を建てるときのエピソード。劇場建設を応援してくれる人が現れて、最初はうまくいくんだけど、曲の途中でダメになってきて、結局ダメになってしまうんですが、それを1曲でやって、って(笑)。最初は楽しいのに、最後に絶望するまでを1曲でですよ? それが見事に出来上がってきたからね。

――それは期待が膨らみますね。ルートヴィヒ二世とワーグナーの物語を描いていく上で、関係性など重要視したところはどんな部分でしょうか?

この2人って、実際に仲が良かったのってほんの最初だけで、あとはずっとケンカしているんですよ。でも2人とも、今の世の中にないものを生み出したいという思いが強かったんじゃないかな。それくらい強い思いがなければ、こうはならないよねっていう事実も残っているんですよ。例えば、ルートヴィヒとワーグナーがバトルした次の日に、めちゃくちゃ長いお詫びの手紙を書いていたこととかね。年齢も全然違うし、そういう描写は一切ないんだけど、ちょっと同性愛的なくらいに、男2人が憎んだり、愛したりと格闘している姿が僕はすごく好きで、そこをかなり抽出してやっています。
2人の関係の曲もね、荻野さんが最初に出してきた曲を全面的に変更してもらったんですよ。楽しすぎてダメ、って。最初に褒め合いソングあるんですが、僕はその中ですでに破滅の香りがしていてほしかった。どこかに危うさがあって、楽し気な雰囲気なんだけども、こいつらうまくいかないんだろうな、と。それを音楽に入れてほしいとお願いしました。そして、2人の大喧嘩ソングは絶対見ものになります。歌でケンカするんですけど、曲を聞いただけでもう、イメージが浮かびましたから。


――描いた理想のためには、お互いが絶対に必要、という結びつきは、恋愛的な結びつき以上に強いものだったのかもしれないですね。

ワーグナーは、今までにないオペラを作りたくて、例えばオーケストラピットを考案したのはワーグナーなんですよ。それまでは、役者が立っているところに並列に音楽家もいたんですね。ワーグナーは自身が音楽家にもかかわらず、音楽家なんか見せちゃだめだ、ってオケピに沈ませたんです。それがバイロイトの劇場ですね。劇場づくりのためにお金に困るんだけど、結局はルートヴィヒがほぼ自分の命と引き換えにそのお金を出すというのが、すごく夢があっていいですね。もし現代に2人が居たら、生きていられないと思いますよ。あっという間に消されちゃう(笑)


――そうやって遺したものが、今なお愛され続けているというのがすごいことですよね。今回、ルートヴィヒ二世を橋本良亮さん、ワーグナーを別所哲也さんが演じられますが彼らの印象は?

橋本くんは、今回が1回目ということにはなるんだけど、実は以前に朗読劇で何日か稽古だけはやっているんですよ。コロナ禍で中止になってしまいましたが。その稽古の時にはすでにこの企画もほぼ決まっていたので、実はルートヴィヒとしてどうかな、という目で見ていました。彼の目線をみていて…ルートヴィヒみたいな感受性が強すぎてあんまりオープンじゃない王様をやらせると、すごくいいんじゃないかと思いました。
ワーグナーの別所さんもかなりハマり役ですよね。先日、音楽の検討で1時間だけ別所さんが来てくださったんですよ。それで1曲だけ歌ってもらったら、もういきなりイメージ通り。憎たらしくてイヤな感じの男を演じさせると良いですよね。根はいい人なのに。素晴らしい情熱のエネルギーの魅力と、そのエネルギーがふっと消えてしまう滅びの美学まで、かなり表現できる人です。理解力がすごいですね。歴史のことにもかなり理解力があって、先日何かの番組でもナポレオンについて、何でここまで知っているの?っていうくらいお話ししていました。なので、ワーグナーについても、すでにかなり知識を入れておられるんだと思いますよ。


――演出面などで、今回ならではの部分や特徴的になりそうなところはありますか?

便宜上、台本では区切ってあるんですけど、曲の途中で場面が変わるようなこととかが平気であるんですよ。まぁ、自分がそう書いちゃったからね(笑)。だからしょうがないんですけど、どんどん変わっていってしまうので、それをうまく立体化していかないとな、と思います。観る側としては視覚的に飽きない、面白くてハッとするようなシーンがありつつも、ルートヴィヒ、ワーグナー、そしてコージマの3人の人間のぶつかり合いの面白さを一番見ていただきたいので、それが引き立つような美術展開にできればと思います。そして、芸術に生きた人の最期を美しく描きたい。そこをどれだけキレイに描けるかが、僕の挑戦でもあります。
心の気高さじゃないけれど、ワーグナーも貧乏な中でセコセコ書いててもしょうがないと思っているところがあるんですね。ルートヴィヒも理想がすごく高くて、革命とかが起きて争いなどが旺盛になっている時代の中で、音楽でひとつになれればドイツはひとつになれると思っている。青いと言えば青いですし、そういう理想を掲げたからこそ周囲とうまくいかない。その理想の高さが心の気高さですよね。まぁ逆に言うと、ちょっと潔癖症なところがあるのかもしれない。でもそこを彼の一番輝いていたところとして、彼のピュアさが全面に出るように描きたいと思います。


――最後に、このミュージカルにかける想いと目標をお聞かせください。

僕が目標としているのは、ゼロから作ったミュージカルだけれど「どこから輸入したの?」って言われるくらいの作品にすること。日本製だと思っていると痛い目に遭うぞ、というのを目標に頑張っています。演劇一般、特にミュージカルは輸入産業になってしまっているのが特に残念だと思っているので、それを変えていく一つの石になりたいですね。

 

取材・文/宮崎新之