ミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』『太陽王』『ロックオペラ モーツァルト』、宝塚歌劇花組公演『CASANOVA』など、数々のヒット作を生み出しているドーヴ・アチア氏が音楽・脚本・歌詞を手掛けるフレンチミュージカル『キングアーサー』の日本版が、2023年1月に上演される。イギリス・ケルトに伝わる騎士達の物語を、グルーヴ感溢れる多彩な音楽で描く本作。タイトルロールを演じる浦井健治に、作品の魅力や意気込みなどを聞いた。
※本インタビューは稽古開始前に実施
今の時代にも通じる、一筋縄ではいかない人間模様
――台本を読まれてみて、あらためて感じた作品の印象について教えてください。
幅広く知られているアーサー王物語を描いたミュージカルになりますが、世界各国で上演されている中で、日本初演のメンバーとして呼んでいただけたことをまず光栄に思います。演出のオ・ルピナさんをはじめ、豪華なメンバーが集まったこともすごく嬉しいですね。それぞれがやってきたことを持ち寄って集結したような、「どんな技術を持ってるんだ?」とワクワクしています。群像劇として、各々が自分の持っているものをキャラクターとして芽吹かせていく中で、人間のリアルな部分が垣間見え、演者一人ひとりの経験と重なって見える瞬間がきっとあると思います。
――今回、アクションシーンも多いそうですね。
そうですね、アクロバットもすごいですし、殺陣の場面もたくさんあります。(台本の)ト書きに、「死闘の末」「剣を交え」とか、さらっと書いてあるのを見ると「うわぁ~…!」って思いますよね(笑)。でも、そこにちゃんと立ち向かえるようなキャリアや経験を積んだ素晴らしいキャストが集結しているので、その中でアーサーを演じさせていただけるのは、本当に恵まれているなと感じます。
――物語の魅力はどんなところに感じていますか。
僕が演じるアーサーは「王」ですが、普通の一人の青年としても描かれています。王権の恐ろしさ、それに影響を受けてしまった人たちが崩壊していく様、人間の愚かさや集団というものの怖さ、恋愛をめぐる三角関係など、今の時代にも通じるものが描かれているので、共感できることも多々あるかもしれません。一方で、「人生は一筋縄ではいかない。だけど、人間はきっと……」と、思いを巡らすことができるようなファンタジーの要素は、ミュージカルの醍醐味でもあると思うので、お客さまにはキラキラしたところを楽しんでいただくと同時に、ドロドロとした人間模様を「歴史劇」として感じて観ていただけるように挑んでいきたいと思います。
――製作発表では、劇中のナンバーを披露されていましたが、実際に曲を歌われてみた感触はいかがですか。
まずとてもキーが高いですよね。日本語は異母音が多く、口を開けづらい状態で発声するので、それで「キーが高い」というのはなかなかハードルが高いですけど、シャウトも含めて、各々の技量や個性で乗り越えていけるキャストばかりですが、シングルキャストの自分としては、その中をいかにどう渡り歩くかが勝負だなと思っています。歌稽古をしていても、歌っていて楽しいですし、自分の声質的にもフレンチロックの音色は挑みやすく感じています。
――浦井さんは以前、同じくフランス発のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』にもご出演されています。フレンチミュージカルの楽曲に共通する魅力とは?
荘厳さがありながらも、ギターサウンドが絡んだりと現代的な音色で、いわゆるグランドミュージカルの曲という感じではないかもしれませんが、耳馴染みのあるサウンドで目の前でアクロバットや殺陣が繰り広げられて、老若男女が楽しめるミュージカルになると思います。
ショーアップだけでなく、リアリズムを追及し芝居で魅せる作品に
――演出は韓国ミュージカル界で活躍されているオ・ルピナさんです。言葉の壁などもあるかと思いますが、ルピナさんとはどのように作っていきたいと考えていますか。
『デスノート THE MUSICAL』(夜神月役で出演)の初演・再演の時に、栗山(民也)さんが演出して作っていく過程をルピナさんも稽古場で見ていらっしゃったんです。その時にルピナさんが、「あなたの二面性のある演技が好き」って言ってくださって。ある意味で、「浦井健治」のイメージをすでにお持ちだと思うので、それをいい意味で裏切って超えていきたいですね。あと、きっとルピナさんはめげない方なんじゃないかな、って思っています。
――めげない。
めげないというか、逃げない強さがある印象ですね。ご自身の意向をしっかりお持ちですし、リアリズムを徹底されているので、ビジュアル撮影の時にもウィッグを使いませんでしたし、群像劇として一人ひとりの生き様を表して立っているような、(メインキャスト一同が)横並びになるショットもなかなか見たことがない攻めたものになっていますし。それは、人間同士が互いに影響を受け合って、どう変化していくのか、という部分を大事に描きたいと思われているのかな、と感じています。今回、歌やダンスといったアクションのシーンが多いので、“エンタメ”として、絶対おもしろいものになると思うんです。ルピナさんはエンタメとしてのショーアップだけではなく、お芝居で魅せていく、というのをおそらく目指していると思うので、余白の部分、(台本に)書かれている裏側で起きていることを、徹底的に落とし込んでくるような気がしますね。
――浦井さんは、共演者の方からのお話を伺っていても、他者と打ち解ける能力がとても高い方、という印象があります。浦井さん流の“コミュニケーションの秘訣”があれば教えてください。
特別に意識していることはないんですが……
「ヘ~~イ!」みたいなフランクなノリは、相手が心地よく過ごせるために、自分が道化としてというか、「まあ、なんとかなるよ」って気張ってない感じを出すためにやっていることはあるかもしれません。それが相手にとって心地よい、優しいという風に映るのかもしれないですね。口角あげて笑顔でいる人って、とっつきやすさがないですか?
――やっぱり最初の印象が大事になってくるんですね。
こちらがフランクでいることで、相手も本来の自分のパワーが発揮できると思いますし。萎縮して良いことは何もないので。
コロナ禍三年目で感じる“変化”
――そろそろ年末の足音も近づいてきましたが、浦井さんにとって2022年はどんな一年でしたか。
もうそういう時期になりましたね。こういうご時世ではありますが、ありがたいことに今年もたくさんの出会いがありました。関わらせていただいた作品で、いろんな方々の姿勢やエンターテイメントを信じる眼差しといったものを見てきて、あらためていい一年だったなと感じています。
コロナ禍に入ってから三年目になりますが、今まで以上に、刹那的ではないですけれど、「やりたいことは今やる」、というエネルギーが現場に生まれている気がしますね。あと、いろんな意味で、お客さまが変わってきたと感じています。
――たしかに、観客側の意識の変化も感じますよね。
(舞台を)すごく熱望している方々がいる一方で、観劇から遠のいていく方々や、配信視聴がきっかけで舞台に魅了されて劇場へ足を運ぶようになった方もいる一方、配信があるから劇場に行かなくてもいいかな、と感じる方もいると思います。そこはもうお客さまの自由であり、そういう、両方の面を実感することが増えましたね。
――それでは、来年に向けて、新たに始めてみたいことなどはありますか。
そうですね、最近だと声優のお仕事に興味があります。声優さんと一緒になる現場も多くて、いろいろお話しを伺うと、彼らのポテンシャルの高さには毎回驚かされるんです。自分も声を使うお仕事をやらせてもらう事もありますが、やっていることは全く違うということにも気付かされて。そういった別の技術も含めて吸収していきたいですね。お仕事、待ってます!(笑)
――声優としての浦井さんの活動も期待しています!最後に、読者の皆さま、公演をたのしみにしているお客さまへメッセージをお願いします。
2023年の幕明けにふさわしい、華やかでアクロバティックなエンターテイメントのショーになると思います。各々のやってきたことをぶつかり合わせ、剣を交じえる中で、その一振り一振りに自己を表現していけるようなパフォーマーが集まっているので、そんな素晴らしいメンバーと一緒に新年をスタートできることを光栄に感じています。お客さまに、改めて本来の「人間らしさ」も感じてもらえて、そして観終わったあとには「明日も頑張ろう!」と思っていただけるような、満足感を味わっていただける作品に仕上げていけるように頑張ります。
取材・文/古内かほ
スタイリスト/吉田ナオキ
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