撮影:岩田えり ©ミュージカル『アルジャーノンに花束を』実行委員会
今回で5回目の上演となるミュージカル「アルジャーノンに花束を」が、4月27日(木)より東京・日本青年館ホールにて開幕した。原作は米国の作家ダニエル・キイスの傑作小説。ミュージカル版は2006年に日本初演、その後も2014年、2017年、2020年と上演を重ねてきた人気作となっている。
パン屋で働くチャーリイ・ゴードンは、32歳になっても幼児程度の知能しかない。そんな彼に、大学の偉い先生が頭を良くしてくれるという話が舞い込んでくる。喜んでその申し出を引き受けた彼は、ひと足先に”頭が良くなった”白ネズミのアルジャーノンと競争しながら、検査を受ける日々を過ごすが…。
主人公のチャーリイを演じるのは、浦井健治。2006年の初演、2014年の再演以来、9年ぶりにチャーリイ役に臨むことになる。浦井は、初演時に菊田一夫演劇賞、再演時には読売演劇大賞最優秀男優賞に輝いており、彼にとっては代表作といえる役どころだ。そして、チャーリイの手術を執刀するストラウス博士を東山義久、チャーリイを導く先生・アリスを北翔海莉が演じている。
物語は、チャーリイとアリスの出会いからはじまる。たどたどしくアリスに”かしこくなりたい”と伝えるチャーリイは、実にピュアで愛らしい。歌声も幼さを含んだ無垢さが際立っており、浦井の表現力の豊かさが感じられた。
そんなチャーリイを優しく、温かく見守るアリス。いつも一生懸命なチャーリイを時に励まし、時に諭し、時に迷うことがあっても、いつでも彼の歩む道を照らしているように思えた。それは歌声にも表れており、柔らかなブランケットのような、光差す窓辺の陽だまりのような、包み込むようなおおらかさを北翔は見事に表現してみせていた。
東山はストラウス博士のほかにも、パン屋の主人ドナーやチャーリイの父親なども演じている。アリスとは違ったアプローチでの見守り方で、それぞれにチャーリイに寄り添っており、その深い歌声が心に染み入るように響いた。
物語が進むにつれ、チャーリイはどんどんと賢くなっていく。その賢さと引き換えに、これまでは気付かなかった自分に向けられている視線の意味、かけられた言葉の真意に気付いていき、誰よりも賢くなってしまったチャーリイからは笑顔が消えていく。
このチャーリイの目まぐるしい変化を、浦井はごく自然に魅せていく。天才としての振る舞いは時折ゾクッとするような鋭さを持ち、次に起こる変化を見逃さぬよう、彼から目を離せなくなっていた。チャーリイが変化していく上での戸惑いや葛藤なども、浦井のソロなどで歌声とダンスで表現。今回は演出・振付を上島雪夫が担っており、ショーアップやダンスでの表現がより際立っているように思えた。
ゲネプロを前に行われた囲み取材で、浦井は「初演からみんなで紡いできた気持ちを稽古場からたくさん感じて、感無量」と、20代で初主演を務めた役を再び演じられることに大きな喜びを感じていると語った。その一方で、今回は新たな演出、キャストでの上演となるため「初めましての役と向き合う感覚。今回バージョンのものをみんなで作るすばらしさを感じていた」と話した。
本作初参加となる東山と北翔は「これまで演じてこられた人たちと全くタイプが違うが、崩さず、自分なりのアプローチができたら(東山)」、「チャーリイのいろいろなところを正確にみる、ぶれない、裏切らない、無償の愛をテーマに演じたい(北翔)」と意気込む。そんな2人を、浦井は「2人とも目で包んでくれる」と強く信頼していると話した。
また、2014年公演で浦井とアルジャーノン役で共演していた故・森新吾は東山とともにDIAMOND☆DOGSで活動していたこともあり「(東山が)チャーリイやアルジャーノンを父性のように包む役で参加してくださることが、自分にとってはすごく大きい」と、浦井との共演に大きな意味を感じている様子。そして「お客さまの心にいろいろな色の花束としてメッセージが届くような作品。観終わった後に、元気になるような、希望あふれる作品にしたい」と、観客へ届けたい想いを言葉にした。
ミュージカル「アルジャーノンに花束を」は、5月7日(日)まで東京・日本青年館ホールにて上演中。5月13日(土)・14日(日)にCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。
取材・文/宮崎新之