シアタークリエ10周年記念公演『TENTH』兵庫公演出演 赤坂泰彦インタビュー

 2007年に開場以来、海外ミュージカルの小品を数多く上演してきた東京・日比谷のアットホームな劇場、シアタークリエ。そのシアタークリエ10周年を記念した公演「TENTH」が、7月31日(火)、8月1日(水)に兵庫県立芸術文化センターで上演される。「TENTH」は今年1月にシアタークリエで幕を開け、全36公演が即日完売になった評判の作品だ。第1部はシアタークリエで2009年に初登場したオフ・ブロードウェイミュージカル「ニュー・ブレイン」のダイジェスト版、第2部は、「RENT」「GOLD」などの海外ミュージカルのナンバーを中心にしたガラコンサートで構成される。「ニュー・ブレイン」に出演する赤坂泰彦が、「TENTH」の魅力や、ミュージカルとの出会いなどについて語った。

 

―兵庫県立芸術文化センターでの公演がいよいよ目前に迫りました

赤坂「『TENTH』を兵庫県立芸術文化センターで上演できるのはキャスト一同、本当に楽しみにしていて、みんなが一つになれる素晴らしいチームワークの俳優が集まっているんです。『ニュー・ブレイン』の初演では、ニューヨークから演出家が来て、通訳を通して話をしていたんですが、こちらの気持ちが固まってくると、だんだん通訳を通さなくても相通じるような雰囲気になりました。物語の主人公のユダヤ人であるゴードンはゲイで、ゲイピープルである苦悩や喜び、恋愛観なども含めて見せたいという演出家の意図があった。ニューヨークのオフ・ブロードウェイで初演されたものを何とかして日本の観客に伝えなきゃいけないと、そのニュアンスを教え込みたいというのが2009年の初演だったと思うんです。僕はカエルの役なんですけど、『赤坂が持っている引き出しをすべて見せてほしい』と言われた稽古でした。でも、今年東京で再演して、キャスト皆が、『僕たちは〝ニュー・ブレイン〟の意味がやっと分かったね。やっと、僕たちの中で完成に近いものが出来たんではないだろうか』と。何度も何度も噛み砕いて、『TENTH』で上演したことが、日本のお客さんに一番分かりやすい形になった。僕もそれをすごく実感していて、自分がここにどんな意識でいるのか立ち位置が分かった。役者としてこうでありたいというより、客席からどう見えているのかが大事なんです。今回は、休憩なしのノンストップで一気に、『ニュー・ブレイン』の世界に皆さんを引き込みます。すごく整理されて、伝えやすい作品になったと思います。今年の東京公演での興奮は忘れられませんし、終わった後、キャスト全員、一週間ぐらい音が鳴っているんですよ。自分の歌よりも人が歌う歌のほうが鳴り響いている。そのぐらいハマってしまう作品で、やっていて楽しいんです」

―「ニュー・ブレイン」は、石丸さん演じるニューヨークに住む売れない音楽家のゴードンが、突然の頭痛とめまいに倒れ、検査の結果、脳手術を受けないと命が危ないと医者に宣告されます。今ではブロードウェイで活躍する音楽家・脚本家のウィリアム・フィンの実体験を基にした物語です。死を身近に感じる中、ゴードンの音楽家としての夢や、彼を取り巻く人々がユーモラスに描かれていますね。赤坂さんの役どころは何でしょうか。

赤坂「僕はニューヨークでテレビ番組を持っているプロデューサー兼、子ども番組の人気キャラクターのバンジーというカエルです(笑)。子どもの人気で食っていますが、内面はかなり厳しい男で、番組を守り抜かなければならない。ゴードンには、『とにかく子どもに受ける曲を書け、明日までに作ってこい』などと言う、かなりパワハラなヤツです。ゴードンの脳の中にいるカエルで、ゴードンはブロードウェイミュージカルの音楽を書いて上に上り詰めたいのに、バンジーに抑えつけられてしまう。ゴードンは食べるためにそのテレビの仕事をやっているんですね。『君は子ども用の曲を書けばいい。ブロードウェイの音楽家になれるわけがない、才能がないんだから』と周りに言われ続けている恐怖やストレスからバンジーが頭の中に出てきてしまう。お客さんは舞台でゴードンの頭の中をのぞくような感覚になります。そして、ゴードンが病気になり、バンジーは病室にも現れるようになる。ゴードンが死に直面するところまで付いてくるんです。この暑さの中で、カエルの衣装を着けるので、かなりキツイ役でもありますが(笑)、見事な衣装を作っていただいので、役に入り込みやすいですね」

 

―ゴードンとバンジーの関係はずっと同じなのですか。関係は変化していくのでしょうか。

赤坂「病に倒れた後、バンジーはゴードンに対してドンドンときつくなっていきますね。ゴードンが死に直面するので、よけいにそのストレスが強くなっていくのではないでしょうか。フィナーレに向けて、ゴードンとバンジーとの関係がどうなるのかは見どころでもあります」

 

―バンジーはストレスだったり、子ども番組の人気キャラクターだったり色んな面がありますが、赤坂さんの中ではどういう風にとらえられていますか。

赤坂「なるべく僕は漫画チックにやってみようと。唯一、僕だけが皆さんと違う役どころなので。イラつく、また、出てきたなアイツと思ってもらえるように演じたいです」

 

―楽曲がまた素晴らしいですね。

赤坂「『競馬の歌』や、『ゴードンの法則』など、ドゥーワップの曲もあります。『天使にラブソングを』のようなゴスペル、バラードもあります。とくにマルシア演じるホームレスが歌う悲しいバラードや、ゴードンの母親演じる初風諄さんが歌う、母親の立場のバラードなどさまざまなんです。また、樹里咲穂さんが歌うラップの高速回転のような楽曲も素敵ですし、伊礼彼方君が歌うイブ・モンタンみたいな曲もあります。セリフ劇ではなく、歌詞の中にセリフが入っている。曲を止めるのは僕の役ぐらいですかね。あとはずっと演奏が続いて物語が展開します。僕たちキャストはダイジェスト版とは思っていないんですよ。ギュッといいところが詰まっている、涙あり、笑いありのミュージカルです」

 

―物語の鍵は何でしょうか。

赤坂「『チェンジ』ですね。何かを変えたいけれどきっかけがほしい。きっかけは、もしかするとトラブルや不幸から訪れるかも知れないんですよね。でもその向こう側に『チェンジ』があるのかもしれない。お客さんがこの舞台を見たことで、何かのチェンジになれば、こんなにうれしいことはないですね」

 

―ディスクジョッキーで音楽に造詣の深い赤坂さんだからこそ、ミュージカルの楽曲はどういう風にとらえられていますか。

赤坂「基本的に音楽家は自分のやりたいことを聴かせるわけですよね。イントロがあって、一番、二番があって、歌詞があって、サビがあって、間奏でこんなギターのソロを聴かせたいというのがあると思うんです。ミュージカルでは聞かせたいより、お客さんが聴きやすいものを作りますよね。作曲者の欲求ではなく、お客さんの欲求を満たす。ここが大きな違いだと思います。余計なことはしない。歌い手だったら、『もうちょっとここでバラード歌わせてくれ』というシーンでも、お客さんからしたらトゥーマッチかもしれない。一曲単品で、余計な欲を感じないですね。ミュージカルの場合は」

―赤坂さんとミュージカルのそもそもの出会いは?

赤坂「僕はガキのころにバンドをやっていまして、20代のころにミスタースリムカンパニーという小劇団と出会ったんです。ロックンロールミュージカルをやる劇団だったんですけど、そこの劇団員とバンドで、ロックショーをやることになったんです。四谷にミスタースリムカンパニーの小屋があってそこで練習して10人ぐらいのバンドを作って公演をやりました。ロックコンサートの中に芝居を入れるような舞台でした。これが超満員で、完売になったんです。ミュージカルの舞台でコンサートをやって、曲と曲の寸劇みたいのを僕も書きましたし、若手連中とロックミュージカルもやりましたね。その近くに文化放送というラジオ局があって、僕はディスクジョッキーになりたかったので、『ラジオ局の人が見に来ないかな』とDJショーみたいなのも舞台でやっていたんです。セサミストリートのパロディも作りました。もともとはそういう場所にいたんですね。僕の大好きなウルフマン・ジャックというディスクジョッキーも役者をやっていて、『ラジオでしゃべる人間は声の中に演技力がなくてはいけない』と教わった。紹介した曲と演技力がミックスしたときは、一つのエンターテインメントになる。僕もそれをずっと目指していたので、舞台は好きだったんです。今から10年前にV6の坂本昌行君が主演の『NEVER GONNA DANCE』に出てみないかと言われ、そこから『フェーム』『グリース』『王女メディア』などに出させていただきました。今回のキャストの中で、歌を基本的にやっていないのは僕だけです。石丸さんなんて、一音の10分の2がずれても分かる人ですからね。僕は全く分からないですよ(笑)。でも、歌は、歌指導の人のおかげで、本当に歌いやすくしてもらったんです。『TENTH』は本当にもうけものみたいな作品ですよ。1部と2部で表情が違うし、2部のキャストも皆、しゃべりたがりばかりです(笑)。役者がお客さんと会話して歌を進めるという機会はなかなかないんですよね。色んなミュージカル作品に出た人が集まっていますから、舞台人たちの小さなワールドカップみたいなものです。ガラコンサートの曲目は〝兵庫スペシャルバージョン〟になる予定ですので、期待してください」

 

―とても贅沢な公演ですよね。

赤坂「石丸さんが引っ張ってくれています。ほかのキャストもすごくて、マルシアは初演のときに、一回、倒れていますからね。彼女は毎回120%でやる人ですから、舞台の袖で僕が受け止めたことがあるんです。今回も抜群の歌唱力ですよ。歌手は歌い続けるから歌の伸びがドンドン変わりますよね。誰も楽屋に戻らなくて、皆、舞台袖でキャストの歌を聴いているんです。出番がないのに、勝手に袖でコーラスやっていますね(笑)。また、伊礼君は声がよくて顔もかっこよくて憎たらしいぐらいです(笑)」

―「ニュー・ブレイン」は1998年にオフ・ブロードウェイで初演を迎えました。ゴードンがゲイだという恋人との関係性もこのころは、今ほどオープンではなかった時代ですね。

赤坂「ゲイのことを押し付けるような話ではないので、あまり難しく見えることはないと思います。初演は大変だったんですよ。オフ・ブロードウェイではゴードンと恋人がバスタオル一枚で抱き合ったりするシーンがあって、日本版はそこまでないんですが、キスシーンがありました。ある日、秘密の特訓があって、キャスト全員が締め出されて、演出家と石丸さんとゴードンの恋人役の畠中洋さんだけになったことがあって。そこから二人の演技がガラッと変わりましたね。いまだにどんなレクチャーがあったのか教えてもらえないんです(笑)。今回終わったら教えてもらえるかな(笑)。石丸さんにとっては劇団四季を退団して初のミュージカル公演で、それもあったのか、今年のシアタークリエでの千秋楽『TENTH』の最後のシーンで、涙で歌が詰まっていましたからね。石丸さんのそんな姿を初めて見ました。次が僕のシーンだから『俺、間違えたのかな』と思いましたよ(笑)。僕らも石丸さんの姿にはグッときましたね」

 

―石丸さんにとっても思い入れが深い舞台なのでしょうね。

赤坂「本番前の発声練習も石丸さんがイニシアチブを取って、全員でやるんです。また、『エスプレッソ飲む人?』と言って、コーヒーまで入れてくれますからね。石丸さん主導でキャスト全員のLINEのグループも作ってくれて、グッと結束しました。こんないい主演はいないですよ(笑)。石丸さんは1部の『ニュー・ブレイン』が終わったら、2部のガラコンサートにも出るんですから、スーパーマンみたいな人です」

 

―兵庫での公演が楽しみです。

赤坂「自分の趣味は人が認めてくれたらうれしいですよね。『この曲いいね、誰の?』と言われるだけでもうれしい。だから、ご両親でも、告白したい人でも誰でも誘って来てもらえれば。特別なリサーチはいらないですし、コンサートとしてもミュージカルとしても楽しめて、それは見る方の自由です。気になる女性がいるんだったら、男性はこういう場所にちょっとLINEして誘えるぐらいの腕が欲しいですね(笑)。そうすれば、31日か1日はデートできるぞと。昼から一緒にいてもいいじゃないですか。見終わった後のディスカッションも人柄がでますし、すごく楽しいですよね。舞台は見ると最後はスカッとするものです。キャスト一同、皆さんをスカッとさせますので、ぜひ、来ていただきたいですね」

取材・文/米満ゆうこ