日本初演!ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』開幕までの道 第5弾!

キャスト12人+スタンバイキャスト4人が揃った稽古場にて、パワフルに2楽曲を初披露!<稽古場レポート>

3/7(木)の初日開幕に向け、順調に稽古が進んでいるミュージカル『カム フロム アウェイ』。2月中旬、都内の稽古場にてキャスト全員による2楽曲の歌唱シーンが披露された。その模様に加え、特別に見学が許されたその後の稽古の様子をレポートする。 稽古場に揃っていたのは、安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫という12人のキャストに加え、スタンバイキャストである上條駿、栗山絵美、湊陽奈、安福毅の4人。さらに演出補のダニエル・ゴールドスタインと振付補のジェーン・バンティングらスタッフ陣も準備万端、井川荃芬プロデューサーの司会進行のもと、この日披露する楽曲はM1『Welcome to the Rock ザ・ロックへようこそ』とM10 『Screech In ラム酒を飲め』の2曲であること、稽古場が公開された。曲のあとにはダニエルとジェーンからの“ノート”(いわゆるダメ出し)があることが明かされ、いよいよ早速歌唱シーンの披露……となるかと思いきや、吉原光夫らキャストたちから「その前にちょっとウォーミングアップで一回歌わせてほしい」とのリクエストが入り、動きやタイミングの確認として軽く歌ってみることに。軽く、と言いつつも後半は結構本気に歌い上げるキャストたち。かなり近い場所で聴くナマの歌声に、早くも胸が高鳴る。

仕切り直して、まずは演出補のダニエルから、今回公開する稽古シーンの説明も兼ねて作品を紹介(通訳:寺田ゆい)。 「私が2017年ブロードウェイのオープニングから関わっている、とても大事な作品であるこの『カム フロム アウェイ』は実際にあったお話がベースになっています。登場人物は全員実在する方々で、僕自身も会ったことがある人たちです。作家たちがニューファンドランド島に行って取材をし、仲良くなり、家に泊まらせていただいたりしてさまざまなストーリーを教えていただいたそうです。困難な時にこそ人に優しく、寛大に寛容に接するということを語っている物語で、昨今のアメリカ、カナダ、日本も共に大変な時にこそお互いに優しくするということはとても大事な時代になっています。僕たちはこの作品が大好きですし、みなさんにもぜひ大好きになっていただきたい。こんなに素晴らしいキャストとご一緒出来て本当に光栄ですが、そのミュージカル界のスーパースターのみなさんとこうやってアンサンブル作品でご一緒していただくというのも、この作品の素晴らしさがあるからこそだと思います。1時間40分ノンストップで上演される作品で、役者は様々な役を演じ、そしてそれぞれお客様に向かってこの物語を語っていきます。なのでもし役者の方と今回目が合ったら、本当にそういうことです、お客様と実際に繋がってこの物語を語ってくれという風に私たちも伝えていますので、そうなってもビックリしないでください(笑)。またミュージシャンもドラムの方以外は舞台上に立ち、役者とも交流しながら進行していきますので、日本で観たことがないようなミュージカルになるのではないかと思っています。 というわけで、まずはこの作品のオープニングナンバーである『Welcome to the Rock』をお楽しみください!」

そしてM1『Welcome to the Rock』の歌唱がスタート。 キャストたちの力強い足踏みから始まる、この曲。生のピアノ演奏に合わせ、12人全員でのコーラスがあるだけでなく、各自のソロパートがあり、そこで島民たちそれぞれの9.11の時の様子が歌われることでキャラクター紹介にもなっている。とてもパワフルで、ドラマティック。つい先程の、軽く合わせたウォーミングアップとまったく同じ曲なのに全然迫力が違う。思わず本気で拍手するマスコミ陣に、キャストも充実の笑顔で応えている。

1曲終えたところで「アメージング!」と、こちらも笑顔のダニエルが「みんな、きれいすぎる。素晴らしすぎる!」とまずは絶賛し、そこから“ノート”として気づいた点が各キャストに告げられていく。「最後の言葉にもう少し勢いを」「もうちょっと誇り高く」「動きの最後で目線を下に」「もっと怒っている感じで」などなど……と、細かく指示をした後で「みなさん、芝居がうますぎます!」と再び褒めると、間を空けずに森が「いい演出家のおかげだね!」とツッコむと全員が爆笑。 続いて、振付補のジェーン・バンティング氏からの“ノート”(通訳:鈴木なお)。 「いい仕事でした、今、みなさん的にはいい感じ? うまくいった? うまくいったと思っていただきたいです。3つだけ、細かい点を言いますね」と振付面で動きの確認をし、一部分の歌唱部分を繰り返して反復練習。すると、森と橋本が足を踏み鳴らすタイミングが一回ではうまく合わなかった様子で「年長組がちょっとついていけてません!」と自己申告し、またもや笑いを誘っていた。

次の楽曲は、物語がそろそろ終盤に入ろうかというタイミングで歌われるM10 『Screech In ラム酒を飲め』。この曲が歌われる場面について、ダニエルの解説によると“スクリーチイン”とはニューファンランド産のラム酒の一種で、とても甘くてアルコール度数が高めのものなのだそう。そしてニューファンランド島では地元の人間ではない人たちのことを、つまり遠いところから来た人という意味で“カム フロム アウェイ”という名称で呼んでいること、またその人たちが名誉ニューファンランド市民になりたいという場合には“スクリーチイン”という儀式が行われることなどが説明された。9000人の住民が暮らす小さな町に、ある日突然世界各国から7000人がやってきたわけで、町民たちはその“カムフロムアウェイたち”のためにバーにみんなで集まり、酔っぱらって“スクリーチイン”をやろうと盛り上がることになる……という場面で歌われるのが、まさにこのM10なのだ。 儀式の進行をするのは橋本が演じる、町長のクロード。セレモニーとしてはかなりふざけていて、とても固いパンやヘンテコなソーセージを食べなければならなかったり、魚のタラとキスをしなければならなかったり。さらに注目ポイントは、安蘭と石川が演じるニックとダイアンというカップル、そして浦井と田代が演じるケビンTとケビンJというカップル、この二組の動向が気になる曲だということも事前に明かされた。加えて、スタンバイ中の森からは「舞台の転換もキャストたちがやっているんですよ!」と、見どころアピール。 そしてまさに説明通り、『Screech In』は見応え抜群の一曲となっていた。キャストたちはくるくるとスピーディーに立ち位置を入れ替えながら、ソロパートとコーラスとをテンポ良く変化させていき、ダンスも歌声も迫力満点! 特にこの日披露した2曲ともで大活躍の町長役だった橋本はいかにも全力を尽くした様子で歌唱披露直後、「終わった……!」とまるで放心状態に。ジェーンからは「素晴らしい仕事でした、やるたびにクリーンになり、具体的になっていて良くなっています」とコメントがあり、その上で振付で気になった部分のチェックもしっかり入れている。

楽曲披露の後は、改めてキャスト12名それぞれから簡単に挨拶があったので、各自の主なコメントもここでご紹介。

安蘭けい「ご覧いただいたようにとても楽しい稽古場で、毎日ヒイヒイ言いつつも笑いの絶えない現場でございます。今日の時点で、初日まであと3週間あるというのは結構長いなとも思っていましたが、きっとあっという間に過ぎていくでしょうし、これからどんどん良くなるはずだと思っております。以上、私は短い挨拶で終わります。というのも、そうしないときっとみんな長くなるので!(笑)みなさん、端的にお願いしますね!」

石川禅「これは歴史に残るミュージカルだ!と、私もしょっちゅう宣伝させていただいていますが。ご覧になったお客様にとっても歴史に残るミュージカルになるかもしれませんが、やっている私たちにとっても歴史に残るミュージカルになると思います。それぐらい、みんなで一致団結して大変なことをやらせていただいていますので、どうぞよろしくお願いします!」 

浦井健治「このカンパニーで稽古場にいると本当に毎日笑いが絶えません。このみなさんとこんなに仲良くやらせていただいていることを光栄に思っております。さらにスタンバイキャストのみんなも一緒になって、ここにいる全員で作っている舞台だという感覚があるので、お客様にもそれが伝わればいいなと思っております」

加藤和樹「確かにこのまま再演することはきっと難しいキャストが揃ったカンパニーで、みなさん本当に活躍されているばかりの中で自分もその一員として作品に関われることは光栄です。一つ一つのシーンは全員で力を合わせないとやれないものなので、自分のためというよりは人のために周りをしっかり見て一つ一つをクリアにしていき、最高に楽しい、そしてお客様に喜んでもらえる作品にしていきたいと思っています」

咲妃みゆ「つい先日、すべてのシーンの動きが付いたところで私としては安心もしましたけれど、ようやくスタートラインに立ったなという気持ちでいます。一日一日、お稽古をこのみなさんと一緒に重ねていくうちに、私はこの作品への愛や理解がどんどん深まっていっているので、今は早くみなさまにお届けしたい!という気持ちでいっぱいです」

シルビア・グラブ「この濃いメンバーで、稽古場はもはや合宿みたいになっていますが、私もものすごく楽しんでいます。みんなで恥をかきながらお互い常に笑い合い、お互いの間違いを叱るのではなく、それを楽しみながらみんなで作り上げているところです。この稽古場が好きです。ぜひぜひみなさまも、客席から応援しに来てください」

田代万里生「初日まで4週間切ったあたりで通し稽古をやったんですよ。こんなことってなかなか他ではないことです、4週間も前に通し稽古ができるなんて。これからも引き続き何回も通しをしながら、どんどんブラッシュアップをしていきつつ、万全の体制で初日を迎えたいなと思っております。ぜひ、劇場でお会いしましょう!」 

橋本さとし「正直、今の2曲でかなり疲れました(笑)。でも、見られるってすごいねんなとも思いましたね、みなさんに目の前で見ていただけたことで、ものすごく気合いが入りました。役者の本能って言うんですかね。だけど今日のエネルギーを全部出し尽くした気分です(笑)。作品に出てくるキャラクターは、みんなとても愛しい一生懸命な人たちばかりですが、それを演じているみんなも僕にとっては愛しい仲間です。あと1ヶ月切っちゃいましたけども、残りの稽古をみんなで満喫しながら噛みしめながら本番を迎えたいと思います」

濱田めぐみ「最近はどんなカンパニーに参加しても年長組になることが多い私ですが、ここではこの私でさえ中堅どころです(笑)。素敵な愛すべきポンコツな先輩たちがいてくださり(笑)、和気藹々とした中で楽しくやらせていただいております。そしてこのとにかく高いレベル、エネルギーのまま突っ走って、素敵な初日を迎えたいと思っています」

森公美子「私は引退をかける覚悟でこの膝をしばきながら(笑)、がんばっております。まだ自分の歌さえもしっかり覚えられていないのに、今回は場面転換のために椅子の番号まで覚えろと言われていまして。一番苦労しているのが私とさとしさんです(笑)。だけど今回はなかなか面白いものが見られると思いますよ。なにしろこのメンバーですし、音楽も素晴らしく、踊りもケルト音楽に乗った振付で見応えのあるものになっています。ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います」

柚希礼音「100分間、全員がずっとステージ上に出ているようなミュージカルって、他にはないもので。お稽古にしても朝から晩までずっと私たちはこの舞台上にいる状態で、本当にクタクタになるまでやっています。人と人が支え合うというお話を作りながら、このカンパニーも本当にお互いを支え合って作っていて。支え合わないとできない作りになっているんですよ、このミュージカルは(笑)。さすがだなと思いますね。そうやって作られているので自然と絆が生まれていますし、それをお客様にもお届けできると思います。初日までにしっかりとお客様に楽しんでいただけるように一生懸命がんばります!」

吉原光夫「見ての通り、僕以外は非常に面倒臭いメンバーが揃いました!(と言った途端、周囲から口々に「え、面倒臭い?」「一番面倒臭いのはアナタだよ!」と鋭いツッコミが!)。いやいや(笑)、でも本当に嘘偽りなく和気藹々と稽古ができていて、それはダニエルがすごく寛容に僕らに対応してくれ、性格的にも僕らとすごくフィットしてゆっくりたっぷり稽古をやってくれているからですし、ジェーンも、ここには結構ポンコツが多いんですけど、そのできない僕らに対してもシビれを切らさずにいっぱい教えてくれるからで。この二人のおかげでここまで来れたのかなと思っています。さっきダニエルも言っていましたが、辛い状況の中でどれだけ人に愛を注げるか、人に優しくできるかが今作のテーマです。今、僕ら自身もどんどん辛い状況になっている中ではありますが、喧嘩はせずに(笑)、そして今世の中もかなり辛い状況ですが、自分が辛い時にも誰かに愛を注げるようにと思っていただけるよう、僕もさらに精進します。ということで、ぜひみなさん劇場に来て楽しんでください!」

フォトセッションにはスタンバイキャスト、ダニエル、ジェーンらも加わり全員が揃ったところで、サプライズ的にスタンバイキャストの栗山の誕生日が祝われ、『ハッピーバースデー』の歌声と共に拍手、拍手。栗山は涙、涙の泣き笑いで写真を撮られることになり、なんだかほっこりと稽古場全体が幸せな空気に包まれた。

ここでダニエルから、お客様へ改めてメッセージとして「私たちは日生劇場でお客様とご一緒できるのをとても楽しみにしています。日生劇場は今まで見たことがないようなくらい美しい劇場ですし、キャストたちは本当に謙虚にがんばってくれています。ぜひお客様にはこの作品を一度と言わず何度でも観に来ていただきたい。すごくディテールの多い作品なので、きっと何度見てもそのたびにいろいろな発見があるはずです。キャストが横のほうでやっている小さなお芝居にも気づけると思いますし、今回のこのカンパニーだからこそできるお芝居もたくさんあると思います。劇場でみなさんにお会いできること、そしてニューファンドランドの人たちがいかにカムフロムアウェイたちと交流したかの物語をお届け出来ることを、本当に楽しみに思っております」

そして、前回レポートしたカナダ大使館でのイベントと同じように、今回も締めくくりを任されたのは町長役の橋本。「そんなの進行台本に載ってなかったよね?」とすかさずボヤいてカンパニー全員の笑いをとっているところからも、役と同様にムードメーカー的な存在として慕われているのが伝わってくる。先程の2曲目の楽曲の一部にあたる「ワン、ツー、スリー、スクリーチ!」と力強く全員で叫んで、稽古場会見は終了。この物語に登場するガンダーの人々が持つフレンドリーな空気感が、早くもこの空間にはできあがっていることを確信した。

さらにこの合同取材後も、引き続き少しだけ稽古の様子を見学させてもらうことができた。「昨日の続きからです!」ということで前の場面からの流れなのか、舞台袖でこっそりと革ジャンを着こんでいた加藤が舞台上を無言ながらも奇妙な空気感を出しつつ、しれーっと歩いて横切ると全員が爆笑している。それをきっかけにして、物語の中盤にあたる<第二十場>の稽古が始まった。

白い帽子をかぶった田代が、ケビンJの時とは違う声色、雰囲気をまとってアリというイスラム系の男性役として出てくる。ここでは柚希演じるビューラと“コッド・オー・グラタン”というタラとチーズを使った地元の料理をめぐって、会話が交わされるシーンだ。またこの場には咲妃や橋本も各自のメインの役とは違うキャラクターで、そして濱田と加藤と吉原はメインのビバリーやボブやオズの役で登場。それぞれの会話を少し進めては立ち位置を細かくチェックし、セリフのニュアンスを「もっとビックリしながら」とか「もっとシメシメという感じで」などと指示していくダニエル。少し戻っては進めて、また戻って……と繰り返しながら、少しずつ物語は進行していく。 途中でシルビアが「ここはフリーズしているようにしたほうがいい?」と意見を言うとダニエルが「いい意見ですね!」とにっこり。さらに「みなさん、良くなっています!」と言いながらも、各自に「もっと自信たっぷりに」や「ここでは疑心暗鬼に」、「そのセリフの時は止まらずにゆっくり歩いて」と丁寧に細やかに提案を続けている。

次の<第二十一場>は、ケビンTの浦井とケビンJの田代、そしてニックの石川とダイアンの安蘭という二組のカップルが登場するシーン。早速ダニエルは「では始めましょう、ワクワクするね!」となんだか嬉しそうにスタートの合図を送る。少しズレのあるお互いの会話が面白く、二組の関係が少しずつ変化していく様子が繊細に伝わってくる。「グッド!」「もう一回!」「一つ一つ新たなピースが発見され、追加されていますね!」「良くなっています、では先に行きましょう!」といったダニエルによる前向きな言葉にキャストたちも笑い声をはさみつつ、稽古は粛々と進行されていく。

何役ものキャラクターを演じ分けながらも、場面転換では椅子や机を移動させたりもしながら奮闘中のキャストたち。その一丸となったチームワークの良さもこの名舞台の見どころのひとつとなるはずだ。開幕までいよいよあとわずか、どうぞご期待のほど!

取材・文:田中里津子