ミュージカル「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられない~」稽古場レポート

異世界でのモノづくりの喜びを描いた、大人気ライトノベル『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(略称:本好きの下剋上)が初のミュージカル化。10月~11月に東京と大阪で上演される。現代の日本に暮らす本が大好きな大学生・本須麗乃が、念願の図書館への就職が決まった日に亡くなってしまう。もっとたくさんの本を読みたかったという未練を抱いた麗乃は、気がつくと異世界の幼女マインに転生。中世ヨーロッパを思わせる都市エーレンフェストを舞台に、転生前の麗乃の記憶を持つマインが、その記憶を頼りに本作りを目指していく物語は、多くのファンに愛されている。今作では、原作の第一部、平民の娘マインが幼馴染の少年ルッツと紙を作り、神官長フェルディナンドと出会い、神殿の巫女見習いになるまでが描かれる。どんなミュージカルになるのか、本番を目前に行われた通し稽古の模様をレポートします。

都内某所の稽古場――。主人公のマインをはじめ主要キャラクターを演じる子役たちがWキャストの今作。この日、通し稽古を行うのはBチーム。稽古場に入ると、返し稽古(ひとつのシーンや動き、台詞を何度も繰り返して稽古をすること)が念入りに行われていた。稽古場には、本番サイズの2階建てのステージセットが組まれている。

演出助手の「開始10分前ですので、しっかり準備してください!」の声かけで、稽古場の空気が引き締まる。俳優たちは、発声をしたり、台詞を言ったり、歌の確認をしたり…、各々がスタンバイ。子役たちがとにかく可愛い~。キャスト全員で円陣を組んで、マイン役の三浦あかりが可愛い声で「頑張るぞー!!」と気合の声を上げると、それに応えてみんなが一斉に「おー!!」。

Bチームの通し稽古がスタート。

プロローグが静かに始まる。
冒頭、マインに転生する前の麗乃の声(井口裕香)が流れる。「神様、わたし、生まれ変わっても本が読みたい!どうか、転生させてください!」という声と入れ替わりに、マインが現れる。続いて、マインの姉トゥーリ(生田志守葉)、父ギュンター(田中雄飛)、母エーファ(石橋佑果)が登場。転生後の世界に観る者を誘う。続いて、ステージの2階に天井人のように神官長フェルディナンド(辻憲斗)が現れて、マインと心の声で会話。麗乃がマインに転生してからの出来事を、フェルディナンドに見せるという形で物語が進行していくので、観客が原作を深く知らなくても迷わず舞台に集中できる工夫を感じた。

最初の歌は、透き通るようなマインの歌声とフェルディナンドのデュエット。いい感じだ。
戸惑いながらも転生した自分の状況を受け入れるマイン、転生した異世界に大好きな本が無いことを知ってショックを受けるマイン、本がないなら作ればいい!と決意するマイン…。
様々な感情を表情豊かに演じ歌う、子役の三浦あかりの演技に思わず引き込まれる。

マインの身に起こる出来事が、歌とダンスを織り交ぜてテンポよく展開していく。

本の材料を探しに森へ行く場面。姉のトゥーリや、本作りを手伝う幼なじみの少年ルッツ(伊奈聖嵐)ら、子供たちだけのシーンは可愛らしくて、つい笑顔になってしまう。
マインとルッツが歌うモノづくりのテーマ『作るぞ!紙』では、二人が乗った階段セットをアンサンブルが手動でたくみに動かす。舞台ならではの躍動感のある演出だ。体の弱いマインを傍で守ろうとする頼もしいルッツにキュン。
父ギュンターの同僚で門番の兵士オットー(穴沢裕介)の紹介で、ギルベルタ商会の主・ベンノ(矢野冬馬)に、マインが自分の発明品の製法などを売る交渉の場面では、大人っぽい話し方と子供らしい話し方のメリハリで、見た目は幼女で中身は大人という難しいキャラクターを見事に表現していた。

第一幕の後半。マインの中に別の誰かがいると気がついたルッツとマインの二人が対峙する大事な場面。台詞と歌での緊張感のあるやりとりに胸が熱くなった。
紙の試作品を商業ギルドに仮登録するためにベンノと共にギルド長(三浦浩一)を訪ねるマインとルッツ。そこで、マインと同じ病のギルド長の孫娘フリーダ(久住星空)と出会う。それが「身食いの熱」という病だと伝えるフリーダの素晴らしい歌声にも感動。

本は作れるのか? マインの病は治るのか? ドラマチックな歌と群舞で第一幕が終了。

15分の休憩中、子役の一人が自分のダンスの振りが間違っていなかったか、スタッフに確認していて、プロだなと感心した。

第二幕は、神官長フェルディナンドの歌でスタート。原作のイメージを裏切らない美しい姿にうっとり。

一時的に「身食いの熱」を回復させたマインだが、寿命は一年。貴族のものである魔術具を手に入れるために貴族のために働く契約をするか、家族と過ごすために朽ち果てるかーー。選択を迫られるマイン。
家族会議の場面。温かい家族愛と悲しみ。娘の病を嘆く父ギュンターと母エーファが歌う『どうしてマインが』は泣けてくる。
洗礼式で、神殿に図書館があることを知ったマイン。ここから、彼女が神殿の巫女見習いになるまでは、怒涛の展開。ギルベルタ商会の店主・ベンノの助けや、神官長フェルディナンドのアドバイス、素敵な大人たちがマインを導いていく。

クライマックスは神殿長ベーゼヴァンス(三浦浩一)と、マイン、父ギュンター、母エーファの対面。マインを守ろうとする両親を灰色神官たちに襲わせる神殿長。それに怒ったマインの魔力が発動して…。

感動のエンディングまで目が離せない、マインの諦めない強さや、家族の絆の素晴らしさが伝わる心温まるミュージカル。ぜひ、親子で見て欲しい作品だ。

約3時間、一度も止めることなくスムーズに通し稽古を終えた、子役たちの素晴らしい演技力には拍手を送りたい。

取材・文:井ノ口裕子