珠玉の名曲と楽しいおしゃべりを、たっぷりの愛とともに 『美輪明宏の世界~愛の話とシャンソンと~』 美輪明宏 インタビュー

「シャンソンは人生を生き抜くヒントであふれています」

美輪明宏さん恒例、秋のコンサートが開催される。今年のサブタイトルは「愛の話とシャンソンと」。どんな内容になるのか、昨今感じることなど、思いを聞いた。

 

――今、どんな構成をお考えですか。

今回は一部、二部ともシャンソンづくし。それもオーソドックスな昔ながらのシャンソンにしたいと考えています。「バラ色の人生」と「枯葉」はフランス語で、他は日本語訳。シャンソンのほとんどは恋愛がテーマで、悪い男や女が騙されたり騙したり、同棲生活に別れを告げたり。そのあたりを手垢がついた所帯くさい感じにならないように仕立てて、楽しいおしゃべりとともに、さりげなくお伝えできたらいいなと思っています。

――それは楽しみです。美輪さんバージョンの「愛の讃歌」も歌われますか。

もちろん! NHKの朝ドラ『花子とアン』の主人公が駆け落ちする場面で、私の「愛の讃歌」が台詞なしで6分ちょっと、フルコーラスで流れたことがありました。するとツイッターがいい意味で炎上して、歴史に残る名シーンだと話題になったのです。そのご縁で2014年の大晦日には紅白歌合戦で歌いました。一般的には越路吹雪さんが歌う岩谷時子さんが作った歌詞が知られていますが、私のバージョンは原曲に忠実な訳詞で歌詞が全然違います。それで皆さんがビックリなさって、大変な騒ぎになりました。猫やハツカネズミがじっと聴いていた、ハクビシンが一緒に歌って騒いでいたとか、いろんな反響がありました(笑)。

――動物も魅せられたんでしょうね。シャンソンはドラマ性が高く、シーンが目に浮かぶような曲が多いですが、最近ではそういう曲が少ない気がします。

今の曲はリズムのほとんどがロック。音に強弱や叙情性がなくて、ひたすら叫んでいる感じです。歌詞もツイッターみたいな歌詞が多いから、私は“ツイッターソング”と呼んでいます(笑)。かつては三木露風や北原白秋など明治、大正、昭和初期の文人たちが、短く簡潔で詩情あふれる歌詞を書いていました。そのあたり、若い人たちの多くはご存知ないでしょう。でも、中には人工的な音が嫌で、情報量の多いLPやSPを買い集める若者たちも出てきたようです。新宿あたりの電気屋さんに行くと、レコードとCD、テープが聴ける洒落たプレイヤーが売られていて嬉しくなります。年配の人が買うのかと店員さんに聞いたら、若い人が買っていくそうですよ。

――興味深い現象ですね。美輪さんが銀巴里で歌っていらした当時、お客さんはシャンソンをどのように受け止めていたのですか。

戦争前、あらゆる文化が軍によって禁じられる前は、フランス映画やドイツ映画が主流で、『巴里の屋根の下』『巴里祭』『会議は踊る』が人気でした。日本では小津安二郎や成瀬巳喜男などが素敵な映画を撮っていました。女優ではリリアン・ハーヴェイやルイズ・ブルックスが人気でした。ブルゾンちえみのボブカットが有名だけど、元はコリン・ムーアやルイズ・ブルックスの髪型ですから。
終戦により戦時中に禁じられていた文化が復活したことで、音楽では「枯葉」や「バラ色の人生」などが日本にどっと入ってきて、皆さん、懐かしくて飛びつきました。銀巴里には寺山修司、三島由紀夫、川端康成、安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作、川上宗薫、野坂昭如などの文人や、三國連太郎、西村晃などの名優たちが集まりました。パリでジャン・コクトーやボーヴォワール、サルトルらがカフェを拠点に文化の話をしていた、銀巴里はその日本版みたいになったんです。

――ということは、もともと日本にはシャンソンを理解する土壌があったと言うことですね。今の日本の芸能界でも叙情的な歌に興味がある歌い手がいると良いのですが。

福山雅治くんはその素地を持っています。とても良い声の持ち主で、特に高音はきれいなビブラートが効いていて素敵ですね。以前、福山くんに誘われて、斎藤工くん、二階堂ふみちゃんたちと食事に行ったんです。そこでギターを用意して、隣で私たちのために何曲か歌ってくれたことがありました。

――素敵ですね。

確かに。

――美輪さんのコンサートはシャンソン初心者が行っても大丈夫ですか?

もちろん。私のライブでは曲にちなんだおしゃべりをするんです。それなら入りやすいから。劇場に足を踏み入れると雰囲気のある非日常の世界に入っていただくために趣向を凝らしています。幕が開くと小綺麗でほっとするような舞台空間が現れる…。そのひと時はパソコンやスマホを忘れて、ドラマチックなシャンソンの世界に浸っていただけたら。
私は人の暮らしを楽しむ方法をお伝えしたいんです。例えば失恋でつらい思いをしてらっしゃる方もいるかもしれない。けれども悲劇の主人公になったと思えば、それはそれでロマンでしょ?シャンソンには尽くして尽くして裏切られると言うストーリーが結構多いのですが、その歌を聴けばお仲間がいると思えるはずですし。

――励まされますね。自分だけじゃないのだと。

自分はブスだ、モテない、彼氏がいないとか、僻んだり妬んだりする女性が多いけど、それはお互い様ですよ。男性にもそういう人が、たくさんいると思います。
遊郭にある不細工な女の子がいて、彼女はすごくモテてお客さんに困ることがなかったんです。ある意味、彼女は与えっぱなしで、何も欲しがらない。普通の女みたいに着物や帯を買ってとねだることが一切ないのね。で、お客が好きなお菓子やお酒を覚えていて、自前でそれを用意したり。一方、上海帰りでロシア語や英語が喋れる、綺麗で小生意気な女は全然モテない。女将さんから「お前はそんなにきれいなのに、どうして口がかからない?努力が足りない」とよく怒られていて。結局、女も男も容姿や年齢は関係がないのだと、私は小さい頃に悟りました。これはよく「ミロール」を歌う時にする話ですが、こんなエピソードを入れるとより曲が伝わりやすいと思います。

――そうですね。歌詞をきちんと聴きたくなります。

私のコンサートを観ると、映画を何本も観たような気持ちになるとよく言われます。生きるということは、生の体感を含めてのことだと思います。アナログな部分が欠落してデジタルばかりになると、人間は本当におかしくなってしまいます。音楽や文学、スポーツなどを絡めながら情操教育をすれば、荒れた世の中も落ち着くでしょう。ぜひ私のシャンソンを聴いて、生きるヒントを持って帰っていただきたいです。

 

撮影/御堂義乘
インタビュー・文/三浦真紀