氷川きよし インタビュー|『氷川きよし特別公演』

撮影:岩村美佳

歌手の氷川きよしが座長を務める特別公演が、東京、大阪、福岡、名古屋の4大都市で幕を上げる。第一部は、病の母を看病しながらバイトに励む歌手志望の青年が、18世紀のフランスにタイムスリップしてしまうという、書き下ろし新作舞台「ケイト・シモンの舞踏会 ~時間旅行でボンジュール~」。第二部は往年の演歌ヒット曲から最新のロック&ポップスまで、特別セットリストでお届けするコンサートステージとなっている。座長の氷川に、公演にかける想いを聞いた。

――今回のお芝居では現代劇に挑戦されますね。

初めて、座長として劇場公演の舞台に立ったのが26歳の時。自分としては現代劇をやってみたい気持ちがあったんですが、お客様の層を考えたりすると、時代劇をやったほうがいいと勧めていただいて、時代劇をやってきました。でも当時はカツラをつけないでやりたい、など随分こだわりが強かったんですよ(笑)。どうやったら自分の持っているものや個性を出せるのか…どうしても個性を出したかったんですね。お芝居やステージに立つときに、自然で楽しくできるように、といつも考えていました。なので、現代劇はいつか表現としてやってみたいと思っていたんです。ようやく19年経って、こういう内容のお芝居をできるので、すごくワクワクしています。台本はまだ軽く読んだだけなんですけど、最初からグッとくるものがあって、そこからいろんな展開があって、とても面白そうです。

――ポスターなどを拝見していると、お芝居の衣装もすごく楽しみです

お衣装も、自分が着たいお洋服とかを着させていただいているので、すごく伸び伸びとできるんじゃないかと思っていて、自分自身に期待しているんです。どんな自分が、どこまで表現できるのかな、って。チラシには、まだシルエットになっている衣装も2つあるんですよ。お見せした方がいいんじゃない?とも思ったんですけど、みなさんの楽しみのひとつがなくなってしまいますからね。そのお衣装を着ているときが一番楽しかったんですよ。一番笑顔が多かったんじゃないかと思います。ほかの衣装はキリッとしないといけない感じだったので、その衣装の役どころはいろんな表現ができそうですごく楽しみにしています。自分の持っているものを生かせるものになればいいですね。たぶん、セリフ覚えも今までより早いんじゃないかな。時代劇では普段言いなれない言葉などもあって、いろいろな経験をさせていただきましたが、何というか素に近い部分でやれたらいいなと思っています。もともと役者ではないので、ナチュラルで自然な感じでやっていきたいです。

――フランスにタイムスリップしてしまうお話ですが、フランスという国のイメージや思い入れは?

コロナ禍の前は、年に1度、アメリカやヨーロッパに行くのがすごく楽しみだったんです。28歳の時から、1年に1回だけ、自分が精いっぱい頑張ったあとに行くようにしていました。最初はニューヨーク。1週間、いろいろなものを見たり、知り合いの伝手でお友達を増やしたりしました。その中で、日本はすごくいいところだけど、日本だけの価値観、固定概念やルールの中だけでやってきたんだと思って、それが海外でパンと外れた気がしました。もっと自由なんだ、って。アメリカの次はヨーロッパに興味が出て、スペインやイタリア、スウェーデンなどに行きましたね。いろいろな考え方がすごく変わって、気持ちがラクになりました。ひとつの世界に縛られる必要がないと思えるようになりましたね。それで、今度はフランスに行きたい、と思っているんですよ。フランスってすごく上品できれいなんだけど、どこか切なさがあるんですよね。ちょっと影があるというか、憂いを含んでいるというか。そういうところが、ちょっと自分で言うのも何なんですけど、似ているな、と思いまして(笑)。小さいころから、自分の悲しみを忘れるためにおふざけして笑いに持っていったりするようなところがあるんですよね。でも、笑っていてもどこかに切なさがある。感覚的に、フランスってそういうところなんじゃないかと思って、行ってみたいんです。

――フランスに行ったら、どんなところを見たいですか?

街並みや作っているもの、デザインを見てみたいですね。バッグの製法がいいとか、世界に誇るものがあるじゃないですか。伝統を守りながらずっと作り続けて、今も一流のブランドとしてあるわけで、そこにはいろんな苦労や戦いがあったはず。憧れの場所です。あとは、フランスの川で苔をみてみたいです。日本の苔とは違うのかな、とか。実は苔が好きなんですよ。ジョギングしていても、古い建物に、すごく綺麗に苔が張っていることあるじゃないですか。苔って時間がかかるでしょ。植物は昔から好きなんですけど、苔は自然が作った絨毯。なので、苔をチェックしたいですね。この舞台で、どれだけフランスの雰囲気を表現できるか楽しみです。

――2幕の歌謡ショーのイメージもお聞かせください

これまでの自分を作ってきてくれた作品も大切なんですが、これからの自分を表現する曲もセットリストに入れられるんじゃないかと思っています。お芝居からの流れもありますから。これまでは、ある種カテゴライズされている中でやってきて、自分の中に型をつくってやってきましたが、そこを超えてすごくエンターテインメント的な内容にできたらいいなと思っています。公演が始まれば毎日のことになるので、自分も新鮮な気持ちで楽しみながらやっていきたいですね。ここ3~4年は演歌とはまた違った作品や自分が着たい衣装を着させていただくようになりました。衣装もどんどん変わるし、曲もどんどん変わる――そんな内容にしていきたいです。

撮影:岩村美佳

――今回は4か月にわたる長期公演になります。コンディション管理などで気を付けていることは?

みんな忘れがちになるんですけど、体を大切にすることはもちろん1番大切なんですが、メンタルを大切にすることも必要。日本人は特に我慢強いし、頑張り屋さんで育ってきているじゃないですか。心のほうに目を向けないところがあるんですよね。でもやっぱり心から体を壊してしまうことはあるので、気分転換とか息抜きを大切にしたいと思っています。仕事は仕事で集中できるよう、メリハリをつけて過ごしたいと思っています。

――今回は、東京、大阪、福岡、愛知と4大都市をめぐる公演となっています。それぞれの都市の印象は?

もう東京での生活のほうが長くなりました。福岡の故郷に帰って、また久しぶりに東京に戻ってきたりすると、ほっとするんですよ。福岡ももちろんほっとするんですけど、東京は自分が戦ってきた場所、必死に生き抜いてきた場所なので、お世話になっている劇場の方など知っている方を見ると安心しますし、やっぱり東京は第二のふるさとっていう感じです。

大阪は、1年の中でも一番多く行っている場所ではないでしょうか。もう、第二のふるさとですね(笑)。にぎやかなイメージで、関西魂というか、そういう力を感じる場所です。大阪に行くと、お客様からの拍手の厚みがすごくあるんですよ。本当にいつもたくさんのエネルギーをもらいます。

愛知と言えば…やっぱり、第二のふるさとです(笑)。デビュー当初、キャンペーンで行く頻度が多かったのが名古屋なんですね。よく行っていたからか、すごく近い場所のイメージです。道も覚えているので、迷子にならない安心感もあります。食べ物もおいしいですよね。ひつまぶしや、味噌煮込みうどんとか、大好きです。

そして福岡。昨年2日間4公演の演歌・歌謡曲のコンサートをやらせていただいたんですが、コロナ禍ではありましたが多くのお客様にお越しいただいて…みんな楽しみにしてくださっているんだと感じて、逆に感動させられてしまいました。ありがたいですね。ふるさとでの歌は、やっぱり涙が出ます。福岡から離れたくなくて、でも自分が東京にいって一旗揚げないと親のことも守れない。自分の夢というより、守りたいという気持ちがエネルギーでした。一人っ子なのでね。ふるさとの福岡は大切な原点の場所です。

――公演にむけての意気込みをお聞かせください

早く稽古が始まらないかな、と思っています。やっぱり早ければ早いほど、クオリティも上げられると思うので。あとはやっぱり、人とのつながりですよね。お芝居って、役者さんたちと意気投合しながらやれたら、本当に自然なお芝居になると思うんです。いいチームワーク感を感じられるような、そういうものにしたいですね。そして、命の大切さ、相手を尊重することの大切さ――そういう人間にとって大切なものことを伝えられるようなアーティストになりたいと思っているので、それを重くならないように、笑いや涙で表現しながら伝えられたらと思います。自分にしかできないことが絶対にあると信じて。エンターテインメントって心の栄養をもらえる場所。そういうものをみなさんにプレゼントして差し上げられるようにできればと思います。テーマパークに来るような、そんなワクワク感でお越しくださいね。

インタビュー・文/宮崎新之