©Tomoko Hidaki
60年以上にわたって第一線で活躍し続けている中尾ミエが、喜寿を祝うバースデーライブを2024年2月に有楽町にて開催する。2023年6月にも開催したバースデーライブをさらにブラッシュアップし、デビュー曲の「可愛いベイビー」をはじめとするさまざまな楽曲やゲストを招いてお届けするナンバーなど、彼女自身の人生の軌跡をたどり、パワフルで楽しいステージを繰り広げるという。どのような想いでステージに立つのか、話を聞いた。
――今年6月にバースデーライブを開催されましたが、来年2月に有楽町で、再びバースデーと冠したステージを開催されることとなりました。こちらはどんなステージになるのでしょうか
6月6日にバースデーライブをやったんですけど、それをベースにして、コメディミュージカル「ザ・デイサービス・ショウ」でご一緒した先輩たちをゲストに招いてまたステージをやらせていただきます。どうしても、もう1回やりたかったんですよ。だからやりたいことをドッキングさせてやることにしました。コロナ禍があって、ちょっと気持ちが途絶えていたようなところもあるんですよ。でも私たちくらいの年齢になってくると、数年後にまたやろう!と思っても、どうなるかわからないから。今なら皆さんまだまだお元気なので、とにかくみんなが元気なうちに、もう1度やりたかったんです。すっごく楽しみにしています。
――ゲストが加わって、さらにパワフルなステージになりそうですね
モト冬樹さん以外は、尾藤イサオさんも正司花江さんも光枝明彦さんも、みなさん私の先輩ですから。いろんな方が私のことを「とってもお元気ですね」って言ってくださるんですけど、もっともっとお元気な先輩方がいるんだということを、皆さんにも知っていただきたかったんです。6月のライブは1日だけでしたけど、来てくださった人たち…なかなかライブとかにも行けなかったご高齢の方々が、久しぶりにおしゃれをしてお出かけして、ショウを見る楽しさを感じてくれていたんですね。久しぶりにお化粧してお出かけして、終わったら友達とどこか寄って帰ろうか、とか。そうやってワクワクしてくれるような、そういう場を作りたいって、つくづく思いました。だから、高齢者の方にたくさん来ていただきたい。私たちが現役でやってられるのよ、というのを見せつけたいです。
――公演タイトルにある「No Time At All」は、ミュージカル「ピピン」で歌われた楽曲のタイトルですね。どのような想いでタイトルに入れられたのでしょうか
「ピピン」で歌ったときに、歌詞も等身大だし、やっぱりこの年だからこそ歌えるんだって感じたんです。そういう歌ってそんなにないじゃないですか。70代になってから新曲なんて、そうありえないことですけど、こういう曲に巡り合えたわけですから…歌い続けたいと思って、選びました。自分を大切にするような歌ですからね。
――「ピピン」で演じられたバーサは宙吊りなどのアクロバットもある役で、その役を演じられた方の中では中尾さんが最年長だったとお聞きしました。アクロバットへの挑戦はいかがでしたか
正直、自分でも2か月持つのかどうかわからなかったですよ。アクロバットなんてやったことが無かったし、自分自身でも保証はできない。
バーサは以前にも演じたことがあったから(2007・2008年)、同じ役ですね、わかりました、っていう感覚だったんですけど、蓋を開けてみたら全然違っていたから。昔のはあんなサーカスみたいじゃなかった。
――当初は気軽な気持ちで引き受けたんですね
そう。どこにも面影は無くて、全然違ってた。それで、やってみたら…あ、できた、って。もう、毎日がパワフルで充実していましたね。でも大げさじゃなく、みんな命がけでやっていたから。若い人も含めて、みんな初めての経験だったし、私だけが大変なわけじゃなかったからね。弱音なんて言ってられないもの。1日1日、無事に終わるように、って思いながら立っていました。
――エイジレスに新しいことへも挑戦されているのが、本当に素敵だと思います。最近はじめたことなどはありますか?
最近はDIYを始めました。古くなったソファーを手放したものだから、ベンチを作ったりしてね。あと、外壁も塗り替えたんです、自分で。初めてやってみて、つい昨日に塗り終わりましたけど、楽しかったですよ。最初は塗り替えるつもりもなかったんだけど、やってみたら楽しいし、なるべくお金だって使いたくないじゃない。だから自分でできることは自分でやろうと思って。自分でやったら、多少垂れてようがそれも味でしょ。
――新しいことも、どんどん楽しんでいらっしゃるんですね。今回のステージでは「ザ・デイサービス・ショウ」の面々も揃いますが、その時の思い出もお聞かせください
正司さんは昔ギターを弾いていらっしゃったけど、エレキギターはまた違うみたいで。光枝さんも初めて楽器を持ったから1から始めているし、みんなで毎日練習をしててね。正司さんは「冬樹さんに負けたくない、悔しい」なんて言いながら1人でも練習していました。だから、稽古場にもみんな楽しみに来るのよ。それを見たときに、本当にこういうデイサービスがあればって思った。そういう環境なら楽しいのに、って。やっぱり、何か目標を作らないとね。発表会でもなんでもいいの。自分の成果を見てもらうことって励みになるから、目標をちゃんと作ってあげることって大事だと思う。私はロックバンドを作りましたけど、それに限らず、フラダンスでもチアリーディングでも、楽しくってそこに行きたいっていう環境をつくらないとね。
――それだけいろいろなことをパワフルに続けられている体力は、どのようにキープされているんでしょうか
それもやっぱり日々の努力。でも特別なことって続かないから、毎日動かしていることが大事よね。簡単なことでも毎日続けていれば、筋肉だってついてくるし、体が動くようになればいろんなことがもっともっとできるようになる。いくつになっても体は変わるって、私自身が経験していますから。「ピピン」ではやむなく始めましたけど(笑)、それでも体は本当に変わりました。私にしてみれば、この年齢になって初めて人生で1番体が出来ていると思いますよ。
――今回のステージはバースデーライブということですので、これまでを振り返っていただきたいと思います。これまでの人生で大きなターニングポイントになったのは、どんなタイミングでしたか
最初のタイミングは30歳になった時かな。それこそ、バースデーコンサートをやるってなって、まだ若いと自分では思っているから付け焼刃で6本くらいのダンスナンバーを入れたんですよ。1週間くらい、毎日6時間くらい練習していたら、本番の前日に足を痛めてしまって…。膝がガクンと落ちて、動かなくなって。もう付け焼刃ができない年齢になったんだ、こういうことはしちゃいけないんだって痛感しました。トレーニングをやるようになったのはそこから。踊りを習ったりして、それが今も続いているんです。
もう1つは60歳になった時かな。還暦になって、人生1周したんだなと思うと、これまで経験してきたものを今度は掘り下げてみようと思ったの。ちょっとだけやってみたこと、苦手だったことにももう1回トライしてみようかな、って。それでやってみると、こんなこともできるんだ、これがいけるってことは、もっと別のこんなこともやってみた方がいいかな…って分かってくるんですね。できないと思っていたことも、出来るようになる。
――それは具体的にどんなことにトライされたんですか
例えば、ちょっとお習字をやってみるとか。若いときは分からない、できないで許されるけど、年齢を重ねたらそうもいかないでしょ。ある程度のことはできないとね。あとはお料理なんかも、全然やらなかったけど、やればできるかな。意外と近所の人が助けてくれたりして、「今度は魚の煮物をやりましょ、教えてあげるから」って教えてくれるんですよ。じゃあお願いします、ってね。楽しいですよ、知らないことを学べるって言うのは。
――そういう好奇心っていつまでも大切かもしれないですね
あとね、自分で楽しいと思うことを身に着けておかないと。ただ年だけ取って、面倒見てくださいっていうだけじゃ、なんかイヤじゃない?自分が楽しいと思っていれば、周りも楽しんでくれるんじゃないかと思うし、一緒に居て楽しいなって思ってほしいじゃない。そのためにも、自分が楽しいと思えるものを知っておかないとね。それに、こうやって取材してても、同じことばっかり話してたら「前にも聞いたわよ」ってなるでしょ。1年に1回くらい、新しいネタも提供しなきゃね。
――どんどんトピックが出てくるのは、取材する側にはとってもありがたいです(笑)
ステージもそうなの。同じことをやっていたんじゃ、自分も飽きるし。新しいことに挑戦したら、絶対に楽しいから観に来て!って自信をもって言えるじゃないですか。
――そのポジティブなパワー、笑顔の源になっているものってなんでしょう
そりゃもう、人生あと何年って見えてるから。今やっておかないと、もう間に合わないのよね。健康なうちに、体が動くうちに、どん欲に楽しまないとね。後悔もしたくないから。DIYだって、元気なうちに家をきれいにしておこう、とかそういう感じ。終活として、1つ片付いたな、って感じがしますよ。人生、最後の最後まで楽しみたいから。ずっと志を持っていたい。
よく、故人を見送るときに「志半ばで、本当に残念だったね」って言うでしょ。最近、私は志半ばで旅立てるのって幸せだなって思うようになったのよね。最後の最後まで、志を持って生きていたい。もしその志をクリアできたら、また次の何かを考えるし、その志半ばで旅立つことになっても、それは残念なことじゃないのよ。そうやって生きているほうが、私は幸せだって思うわね。そう思えるようになったのは、やっぱり人生のゴールを感じ始めたころからかしら。無駄なく生きていかないとね。
――最後に、ステージを楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします!
楽しみっていうのは自分で見つけるしかないから。自分が何をやりたいのか、何をやっているときが幸せなのかを自分で見つけるしかないし、もし見つかったら今すぐに始めて、時間を無駄にしないでほしい。可愛がられる年寄りになりたいですね。楽しい人、明るい人だったら、みんなも迷惑に感じないでしょ?だから今回のステージは、若い人っていうよりも同世代の年齢を重ねている人たちにたくさん見てほしいの。そう、高齢者に特化したステージ。元気になってもらいたいし、頑張ればできるっていうことを証明したいと思っているので、ぜひ楽しんでくださいね。
インタビュー・文/宮崎新之
撮影/ヒダキトモコ