写真左から)木下半太、中尾暢樹
会話劇の名手・木下半太による戯曲『クレイジーレイン』が、ワタナベエンターテインメント主催の舞台として来年3月に上演される。出演は中尾暢樹、池岡亮介、納谷健、中山翔貴(Wキャスト)、真弓(Wキャスト)。張り込み中に次々と明かされる刑事たちの“秘密”。いったい“秘密”の暴露はどこまで続くのか?少人数の会話劇を堪能できる舞台だ。
ドラマ版に引き続き、本作にも出演する中尾暢樹と脚本・演出の木下半太に『クレイジーレイン』の楽しみ方を聞いた。
ーー『クレイジーレイン』は殺人事件が起きたライブハウスで張り込みをする4人の刑事たちが、事件を解決するかと思いきや、そこには一切触れず、次々と自身の“秘密”を暴露しはじめる会話劇です。中尾さんはドラマ版(2020年にテレビ朝日系で放送)に引き続きの出演です
中尾 今回はドラマとは違う役で出演します。まあ……登場人物が全員クズなんで……この作品、ぶっ飛んでますよね(笑)。
ーーとても刑事たちが主役とは思えないです
中尾 初めて脚本を読ませて頂いたとき、いろんな秘密がどんどん出てきて、「え?お前も?」、「お前、そんな奴だったのかよ!」って目まぐるしく展開していくのが面白かったです。
ーー少人数の会話劇は木下さんの真骨頂ですが、ここまでクズがたくさん出てくると笑ってしまいます
木下 ドラマをやったときに、SNSでの感想で「推しをクズにしてくれてありがとうございます」ってコメントが多かったですよ。
ーー普通は推しがクズになったら嫌じゃないんですか?
木下 普段は王子様のような役が多いなかで、違う一面を引き出してくれてありがとうって意味でしょうね(笑)。
中尾 (今回の宣伝フライヤーの自身の顔を見ながら)オレ、この写真いつ撮られたか覚えてない(笑)。かなりクズっぽい表情してますよね。
原点はライブハウススタート
ーー出演者全員のクズっぽい感じがとても良く出ています。木下さんは『クレイジーレイン』をどのようにして書かれたんですか?
木下 僕には地方の子たちと一緒にやってる演劇プロジェクト(渋谷ニコルソンズ、なにわニコルソンズ、天神ニコルソンズ)がありまして、その上演用に何本か書いたうちの一本が『クレイジーレイン』です。ただ、自主制作でやっている演劇人はどうしても動員人数の為に、出演者の人数を増やして上演せざるを得ないという壁にぶつかってしまうんですよね。
ーー会場のキャパや運営上の観点からたくさんの出演者を出す必要があるということですね
木下 はい。ですがそうすると出演者ひとりひとりの出番はどうしても減ってしまう。役者はやっぱり3人とか4人だけの芝居を経験したほうがいいと思うので、それができる戯曲として『クレイジーレイン』を書きました。
中尾 そんな経緯があったんですね。知らなかったです。
木下 ただ、やっぱり4人芝居では動員力という肝心の問題点は改善されない。そこで考えたのが芝居小屋での上演というスタイルを捨てて、ライブハウスでお芝居をやってみようというアイデアでした。
中尾 だからライブハウスが舞台?
木下 そう。ライブハウスを舞台にすればセットを作らなくていいし、照明もすでにあるし、なによりライブハウスは全国どこにでもある。ツアーのように回ればいいんじゃないかというのが『クレイジーレイン』の原点です。
中尾 おおっ。面白いですね。
木下 演劇ってお客さんが入るかどうかわからないリスクを抱えながら、稽古を一ヶ月やって劇場を押さえるわけだけど、かなりリスクが高い。だけど、ライブハウスツアーだと俳優さんさえいれば劇場を押さえたり、セットを組むリスクがない。なので、最初にライブハウスで演った『クレイジーレイン』は、前半は地元のミュージシャンに演奏して貰って、ライブが終わったらお芝居をやるという構成でした。そのあと出演したミュージシャンと一緒にアフタートークをするというパッケージで上演したんです。
ーー舞台版を経て、ドラマ版にという流れですか?
木下 それを数回やったところでコロナになってしまって数回しかできなかった。残念がっていたところに、コロナ禍でもできる台本を探しているという話があって、ドラマ版に繋がりました。ロケをしなくてもいいですしね。
中尾 そこから僕が出演することに。
木下 ドラマはコロナ禍の制作だったので、マスクしていたり消毒のくだりをいれたりと、最初の舞台版からは、いろいろ変更しました。
ーードラマ版で印象に残っていることは?
中尾 事務所のみんなと会う機会がなかった時期でもあったので、先輩たちとご一緒にできたことが嬉しかったです。
舞台版ともドラマ版とも違う新たな『クレイジーレイン』を
ーー舞台版を経て、ドラマ版を作り、再び舞台版を演出するわけですが、変化はありますか?
木下 ドラマ版ではコロナ禍ならではの要素を入れましたけど、今回は女性キャストもいるので、コンプラ要素を入れようかなと思っています。いちいち上司に対して「それ、パワハラです」とか「セクハラですよ」とか、行き過ぎたコンプラを皮肉った内容を入れようかなとは思っています。
中尾 半太さんはちょっと世間に切り込む視線が入りますよね。
木下 男性刑事と平等に扱うために「お前」って言ってるのに、「その呼び方、やめてもらえませんか?」とか。飲みに誘って断られるとか。そういうのをいれると一般の方も共感して貰えるかなとか。変化はどんどん足していこうと思います。
ーーけっこう本番までに台本は変わっていく?
木下 めちゃくちゃ変えます。せっかく俳優さんとやるんだから、その方に合ったセリフや状況にしたほうが絶対面白いですからね。だから当て書きに近いです。ベースの台本はすでにあるので、そこから稽古で俳優さんたちと一緒に考えていくスタイルです。それを知らない人とやると「いったいいつ脚本上がるんですか?」って言われたりもしますが(笑)。
中尾 台本がどんどん変わっていくと不安にはなりますね。
木下 生の舞台だからね。ギリギリ初日まで模索して、初日の反応でAパターン、Bパターン、Cパターンと変えていこうかなと。
中尾 えーヤダヤダヤダ(笑)。
木下 内容は変わらないよ(笑)。セリフのニュアンスね。
中尾 あ、そういうことなら全然OKです。むしろお客さんのリアクションでどんどん変えていって欲しいです。演じているこっち側も、ここは受けるだろうなってところで反応が薄いと「あれ?」って思うので、そこを変えていけるとやりやすくなりますね。
ーー今回の『クレイジーレイン』では、中尾さんがドラマ版と違う役を演じるというのも見どころです
木下 前回、中尾くんはいちばん後輩の刑事役だったけど、今回は先輩刑事役をお願いしています。
中尾 一緒にやるキャストが変わるので新しい作品だと思って稽古に臨みたいと思っています。
ーー中尾さんが演じる渡辺は、前回の清田とはまた違うタイプのクズ刑事ですが……
中尾 役作りの為にお酒を飲んで稽古場に行きますか(笑)。
木下 稽古中に競馬をその場でバンバン買うとかね(笑)。
ーークズ度は高くなりそうですけど、いろんな噂が出そうですね(笑)。キャストについてはいかがですか?
中尾 馴染み深い人ばかりで楽しみです。池岡(亮介)くん、納谷(健)くんとは舞台版ライブ・スペクタクル『NARUTOー-ナルト-ー』シリーズでずっと一緒だったので信頼しています。今回、中山翔貴くんと真弓さんははじめましてですけど、事務所の仲間ということで安心しています。
木下 中山くんと真弓さんは今回が初舞台なので、中尾くんたちの仲に新鮮さが入ることで、イレギュラーな化学反応が起きて面白くなるんじゃないかなと期待しています。
ワンシチュエーション、暗転なし、緊張感ある会話劇
ーー改めて舞台版『クレイジーレイン』の見どころは?
木下 三谷幸喜さんが仰っていたんですけど、ワンシチュエーションで暗転を入れない舞台がいちばん面白いらしいです。役者の会話だけでやりきるコメディがいちばんだと。だけど、その会話が滑ったときはいちばんつまらなくなるって。
中尾 天国か地獄かなんですね。
木下 そしてこの『クレイジーレイン』は出演者4人中3人はずっと出ずっぱりです。1時間30分ずっとステージに居続けるわけです。それって観る側のお客さんにとっても貴重なのではないかなと思います。ドラマはカットで編集されているし、お笑いも15分くらいのステージ。商業演劇は人数が多いので出捌けも多い。この舞台は少人数がずっとステージの上にいて会話をしているから、お客さん自身がライブハウスの犯罪現場にいるような空気感になれば勝ちかなと思います。
中尾 僕は出ずっぱりのほうが好きですね。出たらすぐに終わるし。
木下 僕自身、俳優もやっていますけど、捌けると一回リセットされるのはわかります。楽屋まで戻る時間があるのかとか、袖にいたほうがいいのかとか。着替えがあるのかないのかとか。
中尾 めっちゃわかります。
木下 これも三谷幸喜さんのエピソードですけど、三谷さんの劇団が新宿シアタートップスでやっていて、楽屋が狭いって苦情が演者から出たとき、だったら全員、最初から最後までステージに出っぱなしにする戯曲を作ろうということで、書いたのが『ラヂオの時間』だったそうです。
中尾 そうなんですね。
木下 今回、その新宿シアタートップスで上演できるのも楽しみです。お客さんとの距離が近いので、より濃密な演劇体験ができるんじゃないかなと。大劇場で観るお芝居も魅力的ですけど、演者の唾が飛んでくるような距離で観るお芝居も実は今の時代ではレアな体験になると思います。
中尾 楽しみですね。
ーー新宿シアタートップスということで何か趣向が?
木下 せっかくなので舞台を新宿に設定してもいいし、歌舞伎町が近いので登場人物たちのセリフに「トー横」とかリアルな地名が入っていてもいいなと思っています。お客さんからするとよりリアルな体験ができるんじゃないかなと。
ーー『クレイジーレイン』に興味を持った方にコメントをお願いします
木下 とにかく会話劇を楽しんで欲しい。会話のなかでいろんな秘密が暴露されたり、どんでん返しが来ます。何気ない会話に布石やヒントが散りばめられているので、1回目より2回目、2回目より3回目が面白いと思います。
中尾 何度も見ると気づくことがありますね。そもそもこの舞台はドラマですでにやっているので、観ようと思えばすぐに見られるんです。ストーリーを知ったうえで観るのも面白いと思いますし、はじめて観てももちろん大歓迎です。
ーーワンシチュエーションで暗転なし、ほぼ役者が出ずっぱりって改めて凄いですね
木下 あまりないですね。なので中尾くんがさっき言った「すぐに終わる」ってのが答えです。役者もお客さんも「もう終わったん?」って思える舞台がいちばん面白い舞台だと思います。
中尾 お尻も痛くならないですしね。
木下 とにかくギュッと濃密な時間を提供できたらと思います。
インタビュー・文/高畠正人
撮影/ローチケ演劇部