玉田企画「地図にない」│玉田真也 インタビュー

故郷の銭湯の悲喜こもごもと人間関係を描く新作

平田オリザらが切り拓いた現代口語演劇を発展的に継承しているのが、玉田企画主宰で脚本・演出を手掛ける玉田真也。人間関係の機微にスポットを当て、ぎこちない空気や気まずい沈黙を巧みに描いてきた。玉田は新作『地図にない』の執筆にあたり、故郷である石川県に赴いて取材をおこなったという。

「これまでは、自分の身の回りにいる人や共感しやすいコミュニティのメンバーをヒントに脚本を書いていたんです。でも、その書き方に限界を感じていて。こういう仕事をしていたらこういう人に会うっていう、自分の行動パターンも限られてくるじゃないですか。なので今回は、震災もあった実家に戻ってそこから得た物で何かを発想して作りたいなと思いました。つい先日行ってきたばかりで、あと何回か行こうと思っています」

震災を題材にするのではなく、あくまでも興味があるのは人間関係だという。被災地の近くにある銭湯での悲喜こもごもに、玉田の視線は向けられている。

「普通の銭湯だからボランティアや解体業者の人の他に、地元のお客さんとかも来る場所で、演劇で言うところの出ハケがあるんです。いろいろな人が出たり入ったりとどまったりする。平田オリザさんが言うところのセミパブリックな場所ですね。ボランティアの人は一週間ぐらいで入れ替わるんですけど、そこにある人間関係の細かい部分を突き詰めて書いていきたい」

もう一つ重要なトピックは、岸田戯曲賞候補にも挙がったコンプソンズ共同主宰の金子鈴幸や、劇団普通主宰の石黒麻衣が俳優として出演することだろう。

「自分自身が演出だけじゃなくて俳優もやるので、そういうタイプの人が好きなんです。書くし、作るし、出るし、みたいな。金子君に限らず、俳優は、過剰なくらい癖があるほうがいいですね。上手いか下手かってことは実はもしかしたらそんなに重要ではないかもしれなくて。この人の癖を拡大してみたら面白いみたいなふうに思える何かがあるほうがいいです」

『地図にない』というタイトルは、地元を車で周っているときに浮かんだという。

「震災以前と以降で景色が変わっていて、建物が更地になっていたりしている。だからそこに慣れている人でも“あれ、ここどこだっけ?”とか“ここ曲がるんだっけ? ”という風に戸惑う。地図やカーナビが意味をなさなくなるくらい景色が刻々と変化しているんです。そういう、自分がいる地点が曖昧になっていくことや、それが希望なのか希望ではないのか分からないという意味を込めたタイトルですね」

インタビュー&文/土佐有明
Photo/阿部卓功

【プチ質問】Q:手土産を選ぶポイントは?
A:絶妙に選ばれなそうなものを選びます。定番ではないものです。たとえばカツサンドを手土産に持っていくにしても、まい泉ではないカツサンドを持っていくみたいな感じです。定番ではなくて美味しいものだったらもらった人も嬉しいと思うので。

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】

玉田真也
■タマダ シンヤ
劇団「玉田企画」主宰。劇作家、脚本家、演出家、映画監督、俳優と幅広く活躍する。